2019年12月26日更新

映画『ファーゴ』は実話なの?コーエン兄弟の名作ブラック・コメディを徹底解説

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ファーゴ
© Gramercy Pictures

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『ファーゴ』を徹底解説 コーエン兄弟の名作ブラック・コメディの秘話を紹介

1996年に公開され、世界中で話題となったコーエン兄弟の出世作『ファーゴ』。バイオレンスな内容と、オープニングで流れる「これは実話である……」という文言から観客を騒然とさせた本作は、公開から20年以上経っても、根強い人気を誇っています。 今回はそんな『ファーゴ』について徹底解説!“実話”の真相やトリビア、テレビシリーズとの比較を紹介! ※この記事には映画『ファーゴ』のネタバレが含まれます。本編を未鑑賞の方はご注意ください。

『ファーゴ』のあらすじをネタバレなしで紹介

ファーゴ
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ミネアポリスに住むカー・ディーラーのランディ・ガードは、借金返済のために自分の妻の狂言誘拐を計画します。会社のオーナーである義父から身代金をせしめようと考えた彼は、知り合いから紹介されたチンピラ2人組、カールとゲアに実行を依頼。しかし予想外の事態が頻発し、誘拐計画は思わぬ方向へと転がっていき……。

『ファーゴ』徹底解説!実話とされたフィクションの真相とは?【ネタバレ注意!】

『ファーゴ』では狂言誘拐が連続殺人事件へと発展

ミネソタ州ミネアポリスに住むカー・ディーラー、ジェリー・ランディガードは多額の借金を抱えていました。苦境を脱するため、彼は自分の妻の狂言誘拐を計画します。自身が勤める自動車販売店のオーナーである義父から身代金として大金をせしめるつもりでした。 実行犯であるカールとゲアは、ジェリーの妻を誘拐して逃走中、彼らの呼び止めた警官を射殺してしまいます。さらにその様子を目撃していた若者2人も殺害。狂言誘拐は思いがけず連続殺人事件へと発展してしまいました。 当初の計画が狂ったことで、カールはジェリーに山分けにする予定だった身代金8万ドル全額を要求。ジェリーは誘拐犯との窓口として、身代金に100万ドルを要求されたと義父に伝えます。しかし義父はジェリーを信用せず、自ら身代金の受け渡しへ。その姿を見たカールは約束が違うと激怒し、彼を射殺。身代金が入ったブリーフケースを持ち去りますが、そこに大金が入っていたことに驚きます。 カールは100万ドルを独り占めしようと、約束の8万ドルだけを抜き取り、残りは雪道に埋めました。しかし、犯行に使った車をどちらがもらうかでゲアと口論になり、殺害されてしまいます。 ゲアはカールの死体を木材粉砕機に入れて処分しようとします。しかし、事件を追っていた警察署長マージ・ガンダーソンに発見され、あえなく逮捕。ジェリーも逃走先のモーテルで逮捕されました。

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「これは実話である」はウソ

本作のオープニングでは、「この物語は実話である。」と示されます。しかし、この注意書きにかかれている「1987年にミネソタ州で起こった」特定の事件というのは存在しません。また、エンドロールをよく見てみると、小さく「本作はフィクションである」とも書かれています。 後にイーサン・コーエンは、彼らは“実話ベース”というジャンルの映画を作りたかったと明かしています。そして「“実話ベース”の映画を作るのに、必ずしも実話は必要ない」とも語りました。

実際に起こった2つの事件をもとにしている

2016年、イーサン・コーエンは、米HaffPostに『ファーゴ』のストーリーは、実際に起こった2つの小さな事件を組み合わせて創作されたものであると語りました。 モチーフになっている事件のひとつ、1988年にコネチカットで起こった殺人事件はアメリカでは広く知られているようです。この事件は、自分の妻を殺害した男が、その死体を木材粉砕機に入れたというもの。これはゲアがカールの死体を処分しようとしたショッキングなシーンのもとになっています。 もうひとつ、ストーリーのもとになった事件は、あまり知られていません。イーサン・コーエンによると、それは60年代か70年代に起こった事件で、ゼネラル・モーターズ・ファイナンス・コーポレーションの社員が、車のシリアルナンバーが役に立たないようにして詐欺をはたらいたというもの。この事件では誘拐も殺人も起こっていませんが、ウィリアム・H・メイシーが演じたジェリーのインスピレーション源になったそうです。

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映画『ファーゴ』の製作秘話や都市伝説を紹介

妊婦で警察官として働くたくましさ

『ファーゴ』フランシス・マクドーマンド、ジョン・キャロル・リンチ
© POLYGRAMzetaimage

この奇妙な誘拐事件を捜査する女性署長マージを演じたフランシス・マクドーマンド。彼女は撮影が始まる少し前に養子をとり母親となりました。 マージは妊娠中という設定もあり、マクドーマンドは実際に妊娠している女性警官に会ったのだそう。妊娠7ヶ月目まで現場に出ていたその警官を見て驚きを隠せなかったと話しています。

脇役は嫌だと言い張った俳優の最終手段

妻を誘拐させ、義理の父親から身代金をとろうと企むジェリーは当初の予定では脇役でした。しかしジェリーを演じたウィリアム・H・メイシーは、この役を主役にして欲しいとNYのオーディションでコーエン兄弟に詰め寄ったのだそう。最終的に自分をキャスティングしないと弟イーサンの飼い犬を撃つと脅して役を得ました。

スウェーデンの放送禁止用語

ゲアが車から降りたときに発した一言、「Jävla fitta(ヤブラッ フィッタ)!」。これはスウェーデン語で誰かを罵倒するときに使う言葉です。スウェーデンに行ったら絶対にこの言葉は使わないようにしましょう。

実在するTV番組

ジェリーの妻、ジーンが誘拐される直前に見ていたバラエティ番組『Minnesota afternoon talk show』。これは実在するTV番組で、80年代から90年代初頭にかけて放送されていました。

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日本人女性が隠された身代金を探していた?

2001年、一人の日本人女性がデトロイト湖の近くで遺体となって発見されました。その女性タカコ・コニシは『ファーゴ』を実話と思い込み、劇中で行方不明になった身代金を探していたという都市伝説がささやかれるようになります。 しかしその真相は、彼女はミネアポリスに住む元恋人を訪れた後で自殺を図ったというものでした。 このエピソードについては、ドキュメンタリー映画『This Is a True Story(原題)』(2004年)で真相が明かされています。しかし、2014年には都市伝説をもとにした映画『トレジャーハンター・クミコ』も公開されました。

ドラマ版『ファーゴ』は映画とどう違う?

『ファーゴ』マーティン・フリーマン
©Supplied by LMK/zetaimage

2014年から、コーエン兄弟が製作総指揮を務めるドラマ版『ファーゴ』の放送が開始されました。これは、映画版から着想を得てはいますが、時代や舞台、物語、登場人物もシーズンごとに異なるアンソロジー・シリーズとなっています。 シーズン1では、気弱な保険のセールスマン(マーティン・フリーマン)が殺し屋マルヴォ(ビリー・ボブ・ソーントン)にそそのかされて殺人を繰り返し、転落していくストーリー。シーズン2(2015年)ではキルスティン・ダンストが主演を務め、シーズン3(2017年)ではユアン・マクレガーが一人二役に挑戦するなど、常に注目を集めるシリーズです。 映画とドラマ、そしてドラマもシーズンごとにストーリーは違いますが、ミネソタ州やノースダコタ州、サウスダコタ州、カンザス州とミズーリ州にまたがるカンザスシティなど、冬は氷点下を超える寒さになる地域が舞台になっているのが共通点。 また、登場人物の予期しない方向に事態が悪化していく展開も映画と似ています。

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バイオレンスとブラックユーモア満載の『ファーゴ』

コーエン兄弟の名を一躍世界中に知らしめた『ファーゴ』。強烈なバイオレンスとブラックユーモアで、観る人を選ぶ作品ではありますが、その人気は衰え知らずです。 2014年から放送が開始されたテレビシリーズも、映画の精神を受け継ぎながら、思わぬ方向に転がっていく展開が見どころ。映画とドラマ、両方合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。