2019年4月25日更新

『ダークナイト』が未だに最高のヒーロー映画である理由を解説 伝説のジョーカーはどのように誕生したのか

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ヒース・レジャー、クリスチャン・ベール『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

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史上最高のヒーロー映画『ダークナイト』を徹底解説【ネタバレ注意】

DCヒーローとして抜群の知名度を誇り、それまでにも数々の映像作品が製作されてきたバットマン。 そんなバットマンを描いた数々の映画の中でも一線を画す存在として知られるのが、クリストファー・ノーラン監督による『ダークナイト』(2008)です。『バットマン・ビギンズ』(2005)の続編として製作され、世界中で大ヒットを記録した本作。興行面での成功はもちろん、批評面でも高い評価を受け、アカデミー賞をはじめとする数々の賞を獲得しました。 この記事では『ダークナイト』が「史上最高のヒーロー映画」と言われる理由を徹底解説していきます! *記事内には『ダークナイト』に関するネタバレが含まれているためご注意ください。

映画『ダークナイト』とは

あらすじ

ダークナイト,ジョーカー
©WARNER BROS

バットマンとしてゴッサム・シティを影から守る青年実業家ブルース・ウェインは、ゴッサム市警のジェームズ・ゴードン警部補、地方検事のハービー・デントとともに組織犯罪を無くすために活動していました。ブルースはハービーの理想に感銘を受け、彼こそが正々堂々と悪と戦うヒーローであると考えるようになります。そして、彼をサポートしながらバットマンを引退することを考えていました。 一方ゴッサムのマフィアたちはバットマン対策のため会議をしていましたが、そこにピエロのようなメイクをしたジョーカーを名乗る男が現れ、マフィアのボスを殺害。ジョーカーは組織のトップとなり、ギャングを率いてバットマン暗殺を企てます。

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『ダークナイト』の世界的な評価は?

『ダークナイト』は前作『バットマン・ビギンズ』を上回る大ヒットとなり、世界で10億ドルを超える興行収入を記録しています。また観客の評価も高く、米映画レビューサイトRotten Tomatoesでは94%の支持を獲得しました。 第81回アカデミー賞では撮影賞、編集賞、視覚効果賞など7部門にノミネートしたうち、助演男優賞と音響効果賞を受賞。作品賞へのノミネートこそなりませんでしたが、それまで「ヒーロー映画を毛嫌いしている」と言われていたアカデミー賞においては快挙といえる受賞でした。 また、SF・ホラー・ファンタジーを専門とするスクリーム賞では作品賞、監督賞、スーパーヒーロー賞、悪役賞など主要6部門を独占。ピープルズ・チョイス・アワードやゴールデングローブ賞、英国アカデミー賞などでも数多くの賞を獲得しました。 このなかでもっとも多く受賞したのは助演男優賞(ヒース・レジャー)であったことはいうまでもありません。

『ダークナイト』のスゴさを解説

原作コミックとの適度な距離感

コミックが原作である作品を映画化する際、どれだけ原作に沿うべきなのかは作品の評価を大きく左右します。 あまり原作の知名度が高くないヒーローなら、この点はさほど大きな問題にはなりません。例えば『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のピーター・クイルやドラックスの描かれ方が「正しい」かどうかが取り上げられることはあまりありませんね。 しかしこれがバットマンとなると、映画の善し悪し以前に“キャラクターが私たちが長年親しみ馴染んでいる姿に合っているか”が問題になります。そのため、自由の利かない退屈な映画になってしまう危険性があるのです。 『ダークナイト』はこのデリケートな問題に直面しながらも、それを見事に解決した良作と言えます。 『ダークナイト』の各キャラクターは必要不可欠な部分はおさえながらも、映画独自のゴッサム・シティの世界観にうまく合うように調整されています。バットマンもジョーカーも私たちの知る姿からかけ離れてはいませんが、同時に今までに見たことのない斬新な一面も持っているのです。

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脚本の「本気度」が違う

年々人気の増しているヒーロー映画に対してよく向けられる批判に、「悪役の行動の動機が良く分からない」というものがあります。また、メインの登場人物以外のキャラクターに全く深みがなく、ただ単に話を進めるための道具としてしか使われていない、ということも残念ながら見受けられます。 『ダークナイト』は違います。秩序とカオス、法に沿った警察と自警、そして正義と復讐といった二項対立が『ダークナイト』のテーマの根本なのです。ジョーカーは明確に「善」の面が向けられたコインをひっくり返し、混乱をもたらす存在として行動します。

ジョーカーは判事を殺し、バットマンの「人を殺さない」というルールを崩壊させ、そして正義を追求するハービー・デントを血なまぐさい復讐の谷へと突き落とすのです。 そして後に「トゥーフェイス」となるハービー・デントの物語は、単純なサイドストーリーとしてではなく、見る者の感情を揺さぶる『ダークナイト』の欠かせない要素として繊細に描かれています。 ゴードンやルーシャス・フォックスにも重要なパートが与えられており、さらにはレイチェル・ドーズが救われることなく本当に亡くなってしまうことから、『ダークナイト』の脚本は数あるヒーロー映画の中でも「本気度」のレベルが違うと言えるでしょう。

ヒーロー映画としてのジャンルを超越

ヒース・レジャー、クリスチャン・ベール『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

『ダークナイト』はその考え抜かれた脚本のおかげで「ヒーローもの」というジャンルを超越しています。アメコミヒーローものに普段は興味がないのに『ダークナイト』は観てしまったという方も意外と多いのではないでしょうか? ヒーロー映画にはいくつか「決まり事」があるものです。地球破滅の危機が訪れたり、戦いのシーンは危険性が少なく血がほとんどでなかったり、ストーリーは若い鑑賞者にも簡単に受け入れられるよう非常にシンプルなものであったり。 そんなパターンに従わなくても良質のヒーロー映画は作れる、ということを証明したのが本作です。『ダークナイト』におけるコスチュームなどのコミック的な要素は世界観に合うように洗練されて使われていますし、またストーリーも複雑で全体的に大人向けの映画になっていると言えます。 『ダークナイト』はヒーローものでありながらしっかりとしたクライム・サスペンスでもあり、スリラーでもあり、アクション映画でもあるのです。また、数年経っても忘れられないシーンの数々は作品に深いドラマ性とユーモアまでをも与えています。 「バットマンについての名作」というよりは「バットマンが出てくる名作」と言った方が適切かもしれませんね。

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前後作を気にせず、一本の映画として楽しめる

ダークナイトライジング,バットマン,ベイン
©WARNER BROS

近年続々と公開されているコミック原作のヒーロー映画のほとんどは、観客が前に作られた他の映画を見ていることが前提とされており、また次作に向けてストーリーを組み立てることが、メインの話の流れを少々止めてしまう、ということもよくあります。 すべての映画を追っていないと、新作を見た時に何が起こっているのか良く分からず混乱してしまうこともしばしば。そうなると、一作一作の映画としての面白みもちょっと減ってしまうような気がしますね。 その点『ダークナイト』は一本の完結として高いクオリティを誇ります。また、他の映画で弱点を隠すこともできなくなるので、映画は新鮮味を帯び、脚本は完全で最高のものを目指すことができたのです。 ちなみに、『ダークナイト』製作当時は続編『ダークナイト ライジング』(2012)を作る予定はありませんでした。

オープニングは映画史に残る名シーン

長い映画の歴史の中で、最初の5分間で観客を引きつけて離さない、力強く衝撃的なオープニングを誇る映画はそう多くありません。しかし『ダークナイト』のオープニングは明らかにその一つです。 ピエロの仮面をかぶった集団による銀行強盗のシーンは緊迫感にあふれ、また仲間内でお互いを殺しあう描写から、映画全体の重さが早々に伝わってきます。 また、ジョーカーが待ってましたとばかりに仮面を取り、その不気味な顔を露にする瞬間は、コミック史上最も人気のある悪役にふさわしい登場シーンであり、この映画におけるジョーカーの存在感を際立たせています。 映画史に残る名オープニングシーンといっても過言ではないでしょう。

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ただの背景ではないサウンドトラック

先にも述べたようにヒーロー映画は前後作の繋がりが強いので、使用される音楽もまた似通ったものになります。しかし『ダークナイト』のサウンドトラックは本作のためだけに作られたものであり、他のコミック映画とは一線を画すサウンドになっています。音楽のためだけにもう一度映画を見たくなるほど強い印象を残しているのです。 『ダークナイト』において、ハンス・ジマーとジェームズ・ニュートン=ハワードの二人の作曲家は、見事にサウンドで登場人物の性格を描き出すことに成功しました。ジョーカーの生々しく、カミソリのように鋭い、身の毛もよだつような音。対してバットマンの迫力のある、轟くようなドラム。二人の対立は音楽の面でも明らかです。 この二項対立は映画のメインテーマでもありますが、そのテーマが脚本、キャラクター、さらには音楽の面にまで一貫して現れているところに『ダークナイト』の凄さがあります。

監督クリストファー・ノーランのこだわりその①:IMAX編

伝統の殻を破る撮影方法

クリストファー・ノーラン
©︎Lia Toby/WENN.com

今日ではIMAXカメラの使用はもはや珍しいものではありませんが、実は『ダークナイト』は長編劇映画で初めてIMAXで撮影した作品なのです。 IMAX使用を決断したことで『ダークナイト』には一石二鳥の効果がありました。公開当時世界第4位の興行収入を記録し歴史に名を残しただけでなく、映画の中でキーとなるシーンを際立たせ、強い印象を残したのです。 オープニングシーンではジョーカーの登場を可能な限り大きなスケールで描く必要がありましたし、レイチェルの手紙のシーンは詳細である必要がありました。IMAXカメラのおかげで私たちは、ハービー・デントの傷から流れる血の一滴、また手紙を読み上げるアルフレッドに浮かぶごく微妙な痛みの表情まで見分けることができたのです。

アクションシーンの撮影もまた、伝統に反旗を翻した方法で行われました。当時ハリウッド映画におけるアクションシーンは素早く短いカットと揺れるカメラの動きを組み合わせた方法が一般的になっていました。 このような撮影はコストを抑えることができるので今日でも愛用されていますが、鑑賞している側からすると、起こっているアクション全体の流れを掴むことが難しく、何が起きているのか把握するのが困難となります。 そこで『ダークナイト』撮影担当のウォーリー・フィスターは異なる方法での撮影を決断しました。各ショットにおいてカメラを固定し、2〜3秒間はそのまま映し続けるようにしたのです。 こうすることで観客は派手な爆発や戦闘の最中でも、登場人物の顔に浮かぶ痛みや苛立ち、怒りを見失うことなく、またアクションシーンの全体像を掴むことができました。

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IMAXカメラを犠牲にしても良い映像を

当時IMAXカメラは、世界で4台しかありませんでした。そのうちの1台を使い撮影された映画『ダークナイト』。その貴重な1台がジョーカーとSWATの追跡シーンを撮影中、壊れてしまったのです。当時IMAXカメラはなんと1台250万ドル。日本円にして、およそ2億5千万円したそうです。

監督クリストファー・ノーランのこだわりその②:演出・リアリティ編

本物の警察官や市民をも巻き込んだ撮影

クリスチャン・ベール『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

本作では、非番の警察官がエキストラで警官を演じています。警察官は、撮影現場だったイリノイ州からはもちろん、隣のインディアナ州からも駆けつけるほどの熱の入りようでした。現場があまりにもリアルだっため、市民からの通報が絶えなかったといいます。その現場の緊迫感は尋常ではなかったのでしょう。

無駄のない、リアルなアクションシーン

ダークナイト,バットマン
©Warner Bros. Entertainment Inc./Photofest/ZetaImage

多くのヒーロー映画では、ヒーローが実際に危険に陥っている、という感覚を抱くことはあまりありません。しかし『ダークナイト』のアクションシーンは、心の底からバットマンの身を案じてしまうほどに危険でリアルなものになっています。 その理由の一つがCGの利用が少ないということ。コミック映画では平均して1000〜2000のCGのシーンが使われるといいますが『ダークナイト』における視覚効果の数はなんと約650。トラックが宙返りするシーン、病院が爆発するシーン、これらは実際に撮影されたもの。さらにバットモービルとバットサイクルも実際に運転可能な本物なのです! 実際のものが周りにあると役者もやはりパフォーマンスが上がります。そして実写のアクションシーンが醸し出す緊張感はCGでは再現できません。 爆発、殴り合い、戦闘などのアクションシーンはヒーロー映画になくてはならないものです。しかし、しばしば「アクションのためのアクション」と化してしまい、あまり意味を持たない無駄なアクションが数多く挿入されます。 『ダークナイト』にはそれがありません。この映画で描かれる全てのアクションシーンは使い捨てされずにきちんと尊重され、意味を持っています。だから見ていて気持ちがいいのかもしれません。バットマンのガジェットを見せつけるためだけの余計なアクションはないのです。 さらに終盤では2つもの巨大な船を爆破させることを意図的に回避しています。最高のスペクタクルを見せられる可能性を捨てることで、シーンにより重みを出すことに成功しました。

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遊び心溢れる細かな演出

作品内に出てくる車のナンバープレートは、撮影現場であったイリノイ州のものだと思われていました。しかし実際は、架空の街ゴッサム・シティーのナンバープレートを映画スタッフが作っていたのです。それは、シカゴでの撮影中に予期せず画面に映り込んでしまうことを考慮したからだと言われています。

あのアクション映画を参考にしていた

ノーランは2007年のIGNのインタビューで、『ダークナイト』はアル・パチーノとロバート・デ・ニーロがダブル主演を務めたアクション映画『ヒート』(1995)を参考にしたと語っています。 銀行強盗を最後に堅気の生活に戻ろうと考えているニール・マッコリー(デ・ニーロ)と、その犯行を阻止しようとするロス市警のヴィンセント・ハナ(パチーノ)が現場で激しい銃撃戦を繰り広げる『ヒート』は、確かに『ダークナイト』序盤のジョーカーの銀行強盗シーンと重なるところがありますね。 『ヒート』はノーランのお気に入りの作品らしく、他の作品でもその影響を垣間見ることができます。また、同作でマネーロンダリングの専門家を演じたウィリアム・フィクナーは『ダークナイト』にカメオ出演しており、強盗に襲われる銀行の支店長を演じています。

ヒース・レジャーのジョーカーはなぜ伝説となったのか?

いまや伝説となった俳優ヒース・レジャー

ヒース・レジャー
© LFI/Photoshot

『ダークナイト』のジョーカー役で強烈な印象を残したヒース・レジャー。それ以前には『ブロークバック・マウンテン』(2006)に出演し、26歳でアカデミー賞主演男優賞にノミネートするなど若手実力派俳優として注目を集めていました。 しかし、本作撮影終了後の2008年、映画の公開を待たずして彼はこの世を去ってしまいます。その後、レジャーは本作での演技が評価されアカデミー賞助演男優賞を受賞。死後アカデミー賞を受賞した俳優は史上2人目であり、28歳での受賞は史上4番目の若さでした。

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ヒース・レジャーの怪演こそが『ダークナイト』の見どころ

レジャーの演じるジョーカーがいなければ『ダークナイト』がここまでの名作として語り継がれることはなかったでしょう。 ジョーカーのキャラクターは映画のメインテーマを語る上でとても重要になるもの。そんなジョーカーにヒース・レジャーがキャスティングされた時、多くの批判の声があったのをご存知ですか?初めて写真が公開された時も「ジョーカーはこんな髪型じゃない」と不満の声が上がったそうです。 しかしそんな批判も不安もヒース・レジャーは完全に跳ね返し、伝説となるジョーカー像を作り上げたのです。彼の演じるジョーカーは、私たちのよく知るジョーカーでありながら、クリストファー・ノーラン監督が作り上げたバットマンのリアルな世界にこれでもかというほど見事にはまっています。 彼の登場する数々の場面—取り調べのシーン、あの名台詞”Why so serious?”はもはや映画の枠組を変えて人々の記憶に残り、レジャーの若すぎる死後も語り継がれているのです。

口裂けメイクはヒース・レジャー自身が考案

ヒース・レジャー『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

実はジョーカーのあの印象的な口裂けメイクは、ヒース・レジャー自身が考案したものでした。ある日、レジャーはメイク道具をドラッグストアで購入し、自分自身でメイクを始めました。 それを見たクリストファー・ノーラン監督は、その姿に一目ぼれしてしまいます。そして、メイク担当者に彼がしたものと同じようにメイクするよう注文したそうです。

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ジョーカーになるためのストイックな役作り

ヒース・レジャーは撮影前、ジョーカーになりきるため、6週間もモーテルに缶詰め状態になりました。それだけでなく、“ジョーカー日記”というものがあり、ジョーカーの情報を書き綴っていたのです。それは、ジョーカーと同じ思考になるために効果的だったのではないでしょうか。 さらに彼は、ジョーカーの最大の特徴である脳天をつんざく笑い声と、地から響くような声と話し方をも手に入れました。このストイックとも言える役づくりが強烈なジョーカー像を生み出し、観客の記憶に残ったのでしょう。

『ダークナイト』のジョーカーにはパンクの要素あり

マルコム・マクダウェル『時計仕掛けのオレンジ』
© 1971 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

ノーラン監督とヒース・レジャーは、ティム・バートン監督の『バットマン』(1989)でジャック・ニコルソンが演じたジョーカーに、パンクの要素を加えた新たなジョーカーを考えていました。 そのモデルとして挙げられたのが、『時計仕掛けのオレンジ』(1971)でマルコム・マクダウェルが演じたアレックス・デラージだと言われています。 また、コスチュームデザイナーのリンディ・ヘミングがWizardUniverse.comのインタビューに答えたところによると、ジョーカーの衣装はイギリスのパンクバンド、セックス・ピストルズに衣装を提供したヴィヴィアン・ウェストウッドをイメージしたとか。 他にもイギー・ポップやピート・ドハーティ、アレクサンダー・マックイーンなどを参考に、レジャーの年齢にふさわしい若くトレンドを取り入れた衣装を作り上げました。

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ジャック・ニコルソンのジョーカー VS ヒース・レジャーのジョーカー

ジャック・ニコルソン
WENN

バットマン/ブルース・ウェインの執事を演じたマイケル・ケインは、ThoughtCo.のインタビューでヒース・レジャーのジョーカーはジャック・ニコルソン演じるジョーカーを超えたと断言しています。 ケインの目には、レジャーのジョーカーが今までの同じキャラクターとは全く違って映ったようです。「普段はとても人が良いのだが、ジョーカーになると“地獄の使い”に変貌する」とケインは語っています。その姿は、まさしくサイコパスだと恐怖をあらわにしました。ケインは初めてジョーカーを見た時、恐怖で凍りつきセリフが言えなかったのだとか。 ジャック・ニコルソンのジョーカーも根強い人気がありますが、レジャーのジョーカーはまた違った魅力を持っているのです。

一度はジョーカー役を逃したヒース・レジャー

ノーラン監督とヒース・レジャーは『バットマン・ビギンズ』のキャスティングの際にすでに出会っていました。その頃からノーラン監督は、ジョーカー役にはヒースしかいないと心に決めていたと語っています。しかし他のスタッフから反対され、その場は断念しなければいけませんでした。 その後、ノーラン監督はジョーカー役のオーディションをしましたが、ジャック・ニコルソンのジョーカー役を超える俳優に出会うことはできなかったのです。 そんな折、レジャーと再会したノーランは、やはりジョーカー役にはヒースしかいないと再確信したのです。なぜなら彼は怖いもの知らずで、それが演技を際立たせると思ったからです。

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ヒース・レジャーが自ら撮影、監督したシーンが存在した

『ダークナイト』でジョーカーは、ホームビデオのカメラで殺人予告の警告ビデオを撮影し、ゴッサム市のテレビ局に送り付けていました。 実はこの警告ビデオのシーンは、レジャーが自らハンディーカメラで撮影し、監督までこなしていたのです。本作の撮影クルーだったウォーリー・フィスターは、ライトやマイクなどのセットをして「後は任せた」と言って彼に撮影を託したそうです。それほど、ヒース・レジャーに才能と信頼があったということでしょう。 その結果はノーランも大満足の仕上がりでした。特に、ニュースリポーターのマイク・エンゲルを逆さまに吊るしたシーンは、自分が不在でもレジャーになら監督を任せられると絶賛したそうです。 実はヒース・レジャーは、ゆくゆくは監督としてデビューしたいと考えていたのだとか。そういった面でも彼の若すぎる死は残念でなりませんね。

バットマン/ブルース・ウェインだって負けてない!

バット・スーツは進化している

クリスチャン・ベール『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

バットマンスーツの改良を一番喜んでいたのは、バットマン役のクリスチャン・ベールだったのかもしれません。なぜなら、『バットマン・ビギンズ』で着ていたバットスーツは、固く動きにくかったからです。 それだけではありません。その固いスーツのせいで、彼は酷い頭痛や閉所恐怖症にまで悩まされていました。そんな経緯もあり、バットスーツは、柔軟性のあるファイバーを使用し、動きやすく進化したのです。見た目にも美しく、生まれ変わっています。

前作とは違うアプローチのクリスチャン・ベールの役作り

肉体改造の鬼として知られるクリスチャン・ベールですが、『ダークナイト』では前作『バットマン・ビギンズ』のときほど体を大きくしないように心がけたそうです。 それは、前述した新たなバットスーツが前作のものよりも動きやすく細身だったことも理由のひとつだとか。

不評だったバットマンの声はクリスチャン・ベールの責任ではない!?

「ダークナイト・トリロジー」を通して、クリスチャン・ベールはブルース・ウェインであるときと、バットマンであるときの声色を変えて演じ分けています。しかし、『ダークナイト』のバットマンの声は前作よりもざらざらした質感があり、微妙に高いこともあってあまり評判がよくありませんでした。 しかしそれはクリスチャン・ベールの責任ではありません。実は彼の声は編集段階で調整されていたのです。実際に演じたときはもっと低い声だったとか。飛んだとばっちりですね。

理想に燃える地方検事ハービー・デントとは

ハービー・デント/トゥーフェイスを演じたアーロン・エッカート

アーロン・エッカート『ダークナイト』
©︎Warner Bros Pictures/LMK

本作で地方検事のハービー・デント/トゥーフェイスを演じたアーロン・エッカートは2002年公開の『エリン・ブロコビッチ』で主演のジュリア・ロバーツの恋人役を務め、注目を集めるようになりました。 その後も活躍をつづけ、2006年に主演した『サンキュー、スモーキング』では、ゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネート。本作のハービー・デント/トゥーフェイス役でも高い評価を受けました。

“ホワイト・ナイト(白い騎士)”を演じるのにエッカートが参考にしたのは?

ハービー・デントを演じるにあたってアーロン・エッカートが強く意識したのは、このキャラクターがバットマンの対になる存在だということです。そもそも正体を隠し“闇の騎士(ダークナイト)”としゴッサムを守ろうとしていたバットマンに対し、ハービー・デントは地方検事として表舞台で堂々と正義を行う役割を期待されていました。 エッカートが役作りのために注意深く観察したのは、他ならぬバットマンとの共通点と相違点だったのです。また、“トゥーフェイス”となってしまったデントを演じるためには、解離性人格障害(多重人格)の勉強もしたのだとか。

もったいない!?出番の少なかったトゥーフェイス

ジョーカーの策略によって恋人のレイチェルを失い、自分も顔の半分に火傷を負ってしまったハービー・デントは、その復讐心からヴィランの“トゥーフェイス”になってしまいます。 デントがゴッサム・シティの希望だと感じていたブルース・ウェインは絶望し、激闘の末トゥーフェイスが命を落とした後には、彼の罪を被りました。 コミックやこれまでの映画で知られるトゥーフェイスはバットマンの宿敵の1人であり、ジョーカーと同じく長くバットマンを苦しめる存在です。しかし『ダークナイト』ではジョーカーの影に隠れてしまい、あっさり死亡してしまったため「もったいない」と感じたファンも少なくなかったのではないでしょうか。

その他のキャスト・キャラに関するトリビア

レイチェル・ドーズ役の華麗な候補者たち

マギー・ギレンホール
WENN.com

前作でレイチェル役を務めたケイティ・ホームズの降板により、同役の候補に挙がっていた女優は非常に豪華な面々でした。 そのなかには『華麗なるギャッツビー』のアイラ・フィッシャーをはじめ、『ラストサマー』のサラ・ミシェル・ゲラー、『プラダを着た悪魔』のエミリー・ブラント、『君に読む物語』のレイチェル・マクアダムスなどが名を連ねていました。 最終的にレイチェル役を射止めたマギー・ギレンホールは、『セクレタリー』(2002)や『ワールド・トレード・センター』(2006)などへの出演でも知られています。

執事アルフレッド役のマイケル・ケインは前シリーズのキャストと数多く共演

マイケル・ケイン
Daniel Deme/WENN.com

「ダークナイト」三部作でブルース・ウェインの執事アルフレッド・ペニーワースを演じたマイケル・ケインは、これまでにもバットマンに関連する役を演じた俳優たちと数多く共演しています。 1996年の『ブラッド&ワイン』ではティム・バートン版『バットマン』(1989)でジョーカーを演じたジャック・ニコルソンと、同作でバットマン/ブルース・ウェインを演じたマイケル・キートンとは2003年の『逃亡者』で共演しました。 また、1987年の『第四の核』で共演したマイケル・ガフは、ティム・バートン版からジョエル・シュマッカー版を通して同じくアルフレッド役を演じていました。

「ダークナイト」三部作に出演できたことは幸運と語るゲイリー・オールドマン

ゲイリー・オールドマン
WENN.com

「ダークナイト」三部作でバットマンの理解者となるゴッサム市警のジェームズ・ゴードン刑事(のちに警部補、市警本部長)。彼を演じたゲイリー・オールドマンは、2018年に公開から10年が経過してなお「ダークナイト」三部作がバットマン映画の決定版だと考えていると米Too Fabのインタビューで語っています。 オールドマンは監督を務めたノーランの才能を讃え、バットマン/ブルース・ウェインを演じたクリスチャン・ベールの演技が死に体だったバットマンのフランチャイズに命を吹き込んだと語り、「(ゴードン役を)7年間、3本の映画を継続的にやれて僕は幸運でした。あれこそバットマン・ストーリーの決定版だと思います」と発言しています。

知ってる?『ダークナイト』の意外なトリビア

良く見ると色が変わっているシーン

銀行にバスが激突する場面で、ジョーカーの髪の色が変わっています。バスが通り過ぎる前はジョーカーの髪の色は茶色だったのに、通り過ぎた後は緑色に変わったのです。 それだけではありません、その後、ジョーカーが銀行内へ侵入した後も警備員のシャツの色が変わります。最初は、警備員は白シャツを着ていましたが、画面が変わると、警備員のシャツの色が青色に変わっています。何度観ても楽しめるように、監督が仕込んだものでしょうか。

上院議員がゲスト出演

バーモント州選出の上院議員、パトリック・リーヒーは、筋金入りのバットマンファンだといいます。どれだけのファンかと言うと、まず、アメリカの漫画家、フランク・ミラーの「ダークナイト・ストライクス・アゲイン」の裏表紙にコメントを書いたことがあったくらいです。 さらに、アニメーション版『バットマン』と『バットマン&ロビン』では、声の出演を果たしました。そして、『ダークナイト』のカクテルパーティーのシーンで、ジョーカーに脅される役でゲスト出演をも果たしました。

バットマン市からの告訴

トルコには、バットマンという地名が実在します。当時のバットマン市長フセイン・カルカンは、ワーナー・ブラザーズとクリストファー・ノーランを相手に訴訟を起こしました。 市長は「バットマンは世界に1つしか存在しない」と強気で、「アメリカのプロデューサー達は、我々に無断で名前を使った」と主張したのです。さらに、バットマン市の犯罪率が上がったのは、映画のせいだと非難しました。ですがその後、この件は不起訴となったとのことです。

娘の名前がユニフォームに

ジョーカーが、病院で看護師の制服を着ていたシーンを覚えているでしょうか。 よく見ると、ナース服の名札には“マティルダ”の文字があります。この名前は、ヒース・レジャーの実の娘からとったのだとか。いわゆるイースターエッグのひとつですね。

ノーラン監督作品で珍しくカットされたシーン

他の監督とは違い、ノーランはカットシーンをDVD特典には入れません。一番の理由として彼は『ダークナイト』の脚本に関しては、細部に渡って綿密に作っていたからです。 ですから、作品内のどのシーンも、セリフ一語一句も不要なところはないはず。そんな完璧な脚本を書いたノーラン監督でも、たった1シーンだけカットしました。そのシーンは、ブルースのパーティーに乱入した後、ジョーカーが車で追跡されるシーンでした。 ただ、そのシーンは台本には書いてあるのですが、そのシーンが何故カットされたかの説明はどこにもありません。有力な見解として、そのシーンを最初から撮影していなかったのではないかと言われています。どちらにしろ、ノーランの”汚点”とも言えるカットシーンは、公にはしたくなかったのでしょう。

やっぱり『ダークナイト』は最高のヒーロー映画だ!

脚本から音楽、撮影、衣装に至るまでさまざまなことが計算し尽くされ、そこに名優たちの名演・熱演・怪演が加わった『ダークナイト』。本作はなるべくして傑作となったヒーロー映画です。 監督のクリストファー・ノーランをはじめ優秀なスタッフ陣、そして魅力的かつ実力のあるキャスト全員が本気で作り上げた本作は、公開から年月が経った今でも「最高のヒーロー映画」と称賛されるにふさわしい作品であることは、疑いようもありません。 本作出演後、惜しまれつつもこの世を去ったヒース・レジャー。彼のジョーカーは、これまで多くの名優が演じてきたなかでも際立った存在感を持ち、色褪せないキャラクターとなりました。 多くの観客の記憶にジョーカーといえばヒース・レジャー、バットマンといえばクリスチャン・ベール、そしてクリストファー・ノーランといえば『ダークナイト』の印象を残した本作は、やはり史上最高のヒーロー映画といえるでしょう。