蕩婦心

蕩婦心
香港
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「蕩婦心」の感想・評価・ネタバレ

  • changpian
    changpian 4 2012年11月28日

     1949・香港。中華人民共和国成立直前の同年7月10日から香港で上映された映画である。状態の悪い秘蔵ビデオで鑑賞。岳楓監督、脚本は陶秦、主演は白光と厳俊という、日本支配下の上海で活躍した人々が作った映画。やはり上海(の梅花歌舞団)出身で後の香港映画では母親役を多く演じる龔秋霞が、ここでは白光の恋敵役。同時期に作られ、同じ監督・脚本、ほぼ同じキャストでとられた『血染海棠紅』については以前レビューしたが、そこでは白光の悪女ぶりが目立っていた。が、この『蕩婦心』では、意外と清楚で不幸な白光の姿を見ることができる(市販のソフトでは動く白光の姿はなかなか見られないのでうれしい)。  ストーリーは、トルストイの『復活』を下敷きにしていることは一見して明らか。香港映画界は後に李香蘭=山口淑子を招いて、やはり『復活』を下敷きにした『一夜風流』を1958年に制作しており、李=山口は「三年」という人口に膾炙した楽曲を残している。この『蕩婦心』のストーリーに話を戻すと、以下のようなものである。地主宅で侍女として働く白光が、若旦那と恋仲になり一夜の契りを結ぶも、若旦那は彼女を残して戦争に行ってしまい、彼女は奉公先から、年寄りの嫁として売り飛ばされそうになる。逃げ出した彼女は身ごもっていた若旦那の子を産むが、生活のため、娼婦に身をやつし、子連れで情夫と暮らすようになる。息子を情夫に売れ飛ばされた彼女は、悲観のあまり、殺害された情夫の下手人は自分だと認めるが…。  この映画は、戦後の上海や香港で撮られた、戦争を経て男女が別離と再会を経験する、『一江春水向東流』や『長相思』などの映画と同じ系譜に入れて考えることもできるだろう。だが、この映画では戦争は直接的にはほとんど描かれない。また、若旦那と侍女の恋愛といえば、巴金『家』も思い出される。左派に改組される前の長城影業公司ではあるが、すでに左翼思想の影響も感じられ、末尾は来るべき社会主義社会への希望が見え隠れしていると捉えられなくもない。  上海で活躍した(このあとも上海で活躍し、批判されて死に至る)作曲家・陳歌辛や上海出身で香港で活躍する李厚襄も作曲に関わっている。もう一人、『血染海棠紅』では「東山一把青」を作曲した黎平という人がここでも「嘆十聲」を作曲しているが、この作曲者の詳細は不明。ちなみに、『蕩婦心』で白光が「嘆十聲」を歌うシーンはネット上にも上げられている。http://v.youku.com/v_show/id_XMTkwOTMxNjQ4.html  「東山一把青」も「嘆十聲」も、白先勇『台北人』の中に登場するので興味が有る方は見て頂ければと思う。そういえば、「嘆十聲」は明らかに『馬路天使』(1937)の「天涯歌女」をふまえているが、どちらも売春婦に身をやつす話である(また、どちらの映画にも銭千里が出演している)。  過ぎ去ったばかりの戦争と男女、というテーマの映画、この時期、意外と多そう。それを整理するだけでも面白そうだと思った。  <追記>そうそう、これにはなんと秦沛が(厳昌の名前で)白光の息子役として出演している。当時まだ3歳。彼の姿は先日『桃さんのしあわせ』で見たばかりだが、1949年から現在まで映画に出演し続けているとは!

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