父を探して

O MENINO E O MUNDO / THE BOY AND THE WORLD
2013年 ブラジル 80分
rating 4.6 4.6
4 6

「父を探して」のあらすじ

親子三人で幸せな生活を送っていた少年とその両親。しかし、父親は出稼ぎにでるため、ある日突然、列車に乗ってどこかに旅立ってしまった。少年は決意する。「お父さんを見つけて、家に連れて帰るのだ」と。未知の世界へと旅立つ少年を待ち受けるのは、過酷な労働が強いられる農村や、きらびやかだが虚飾に満ちた暮らしがはびこり、独裁政権が戦争を画策する国際都市。  それでも、少年は旅先で出会う様々な人々との交流と、かつて父親がフルートで奏でた楽しいメロディの記憶を頼りに、前へ前へと進んで行くーーー。

「父を探して」のスタッフ・キャスト

「父を探して」の感想・評価・ネタバレ

  • HMworldtraveller
    HMworldtraveller 4 1月23日

    どの地点でもいい。大人になってこれまで歩んできた人生を振り返る時、過去ゆえに俯瞰的に見ることができたりする。今の目線とその時見ていた目線。子供の頃きらびやかに見えていたものが ちっとも美しくなかったり、つまらないと思っていたことが どうしようもないほど愛おしく感じられたり。今いる場所は目指していた場所なのか、これから自分が目指すべき場所はどこなのか。ラストまで観ると、そんな瞑想に身を委ねて、思いを巡らしてしまう。 ブラジル発の長編アニメーション映画。セリフもテロップも無く描かれるのは、出稼ぎに出た父親を探して旅する少年。ほのぼのとしたビジュアルのキャラに、クレヨン画や色鉛筆のようなタッチ、押し寄せる色彩の洪水。それはまるで動く絵本のよう。けれど、物語はその第一印象とは裏腹な風刺的、哀愁的、包容的メッセージを放っていた。セリフの無い映画が如何に饒舌かを思い知らされた映画でもあった。 家畜が草をはむ平原の小さな家から外界へ出た少年の目に映るのは厳しい現実。スモッグに満ち、車や無機質なビルに囲まれた味気ない風景。真面目に働いている人間でも住めるのはスラム街の狭い部屋。そして 合理性を追求する社会の摂理であるかのように年老いた者は追われ、人手でやっていた仕事は機械に置き換えられてゆく。近代化の中で人が歯車のように扱われるブラジル社会。 父が吹いてくれた思い出の笛の音は、そんな世知辛く厳しい世の中で沈みがちな少年の心をいつも励ましてくれたことだろう。たびたび出てくる このメロディーは何気なくて のほほんとしているのに、映像の鮮やかな色調効果もあってか 不思議な力強さと温かさがある。少年がメロディーに耳をすますたび、音楽が流れるたびに 苦しい時に支えてくれるのは 日常のなんでもない幸せなんだなと思えて日々を大切にしたい気持ちが募った。 しかし、私が一番唖然としたのはラストの展開だ。待ち受けていたかのような事実に 軽い衝撃を受け、ノスタルジックな切なさと誰かに抱きしめられたような安堵感とが入り混じって一気に押し寄せてきた。厳しい社会に揉まれ、時には波に浮かぶ木の葉のように流され、社会に特に何の影響も及ぼさない平凡な人生。そんな密やかな人生でもその人生なりに意味があると言わんかのような優しさを感じるラストだった。

  • inazumababy
    inazumababy 4.5 2016年5月30日
  • mazda620
    mazda620 5 2016年5月19日

    出稼ぎにでた父を探しに旅にでた小さな男の子が、いろんな人に出逢いながら社会の現実を目の当たりにするブラジルのアニメーション映画。 2016年良かったアニメーションは間違いなくズートピアだと確信していたのだけどそれよりずっと私の中で響いた大好きな映画になった。すごく良かったけど、何がどう良かったっていうのはとても言葉にできる映画ではないと思う。説明のできない鳥肌と説明のできない涙が流れてた。 ストーリーももちろん良かったけど何よりよかったのはこの映画を見ている時の感覚。子供の頃の記憶をみてるみたいにすごくノスタルジックなきもちになる、やさしくて、あたたかくて子供の感覚を思い出すような不思議な感覚を得た。 クレヨンや色鉛筆の絵本みたいな独特の色合いと頭から離れない笛の音、お祭りの唄。セリフというセリフはなく、大人の会話は何語かわからない言葉で、男の子と同じように何を話しているんだろうって視点でこの世界をみる。 正直もうこれだけで素晴らしいんだけど、そのなかにまじる社会の現実に、すごくチクチクしたきもちが交わってくる。子供の頃のただただ純粋なきもちと、見たくない現実と向き合う大人のきもち、両方がわかるからこそすごく複雑な感情になる。大人の絵本。 戦争や自然破壊、機械の発展、仕事を失くす人々、悲しい顔をする大人、これでもかと描かれる苦しい現実を、なにも知らない男の子はその純粋な目でどんどん吸収していく。世界の事実に直面する。 そんな簡単に苦しい世界は変わらない、男の子は父が家族のために苦しい現実にぶつかっていくことをまだわかる歳じゃない。それでもこの世界に流れる不穏な空気には気づいてるはず。なんでこの人悲しい顔しているのかな、なんで楽しくないのかな、好奇心が働くからこそ、世界中のたくさん苦しいことに気づいて彼は大人になってく。 それでも男の子はこの苦しい世界と一緒に交じる楽しいことに気づける。世界は苦しくて悲しいことばかりではないこと、お祭りみたいに色鮮やかで楽しい音色が彼はどこにいたって聞こえてくる、必ずハッピーになる要素はどこにでもある。この旅で気づいたことは男の子の人生にとって大きな道筋になるんだろう。 うねうねに曲がる道が大きな波に変わっていくシーンがすごく好き。社会の波にのまれそうになりながらも、彼は進み続ける。どこにいても、大人になっても子供の頃のあの時の感覚はずっと忘れない。 この映画を観てたくさんの大人が忘れちゃいけないことを思いだす。見たくない現実を見ても私たちが純粋なことに変わりはない。それは大人になっても一緒だよ。すごく素晴らしかった。

「父を探して」に関連する作品