ファントム・スレッド

ファントム・スレッド

Phantom Thread
2017年製作 アメリカ 130分 2018年5月26日上映
rating 3.5 3.5
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『ファントム・スレッド』のスタッフ・キャスト

『ファントム・スレッド』の感想・評価・ネタバレ

  • s_p_n_minaco
    s_p_n_minaco 0 2018年8月17日

    映像美とか演出とか贅沢に堪能できるけど、華麗なファッションの世界でなく、意外にもキッチンシンク・ドラマだった。舞台はレイノルズのアトリエ中心、許された者だけが招かれて螺旋階段を上り、彼自身も密室に閉じ籠るかのように仕事している城の中。そこへスカウトされた新たなミューズ、アルマ。だが、田舎の小娘がみるみる洗練されていくピグマリオン的展開にはならず。含みを持つ姉との愛憎三角関係かと思えばそうとも言えず。後半は舞台劇のような、お屋敷ホラーのような、笑っちゃうほどすっかりサイコスリラーだ。 レイノルズの芸術作品=ドレスはどれもゴワゴワとして、着心地が良さそうじゃない。女性のためのドレスではなく、ドレスのために女性がいる。やがて、ドレスに選ばれしアルマはその型を自分に合わせて仕立て直していく。ウェディンドレスへ執着を見せるレイノルズだが、アルマは挙式でウェディンドレスを着ない。権力者と従属者、支配と被支配、勝者と敗者。弱々しく倒れる敗者からプライドを奪うゲームの快楽。恐ろしや。アイガー旅行では『氷壁の女』を彷彿、あの時「こいつ死ねばいいのに」って思ってたのよくわかる。でもこの2人、実は似た者同士(共犯関係)だからこそ。そして、もはやオートクチュールの時代は終わりつつあり、その意味でも彼は死にゆく敗者だ。 ダニエル・デイ=ルイス最後の作品になるけど、『眺めの良い部屋』とか『エイジ・オブ・イノセンス』とか、何だか若い頃の出演作を思い出して懐かしくなってしまった。孤高のエレガンスと同時に、それが脆く崩れ落ちる不憫さというか、虐げれば虐げるほどエロい。しかも今作のか細さときたら。冒頭で見る脚の細さ!もちろん、彼と渡り合うヴィッキー・クリープスは如何にも大器って感じで、圧倒的な迫力。アルマはちょっと『サロメ』を思わせる。 但し、いくつか気になった点が。ドレスを剥ぎ取られちゃう夫人、あの扱いはどうかと思う。まあ、それほど2人が非人間的な訳だけど。それと、食事とかの「音」が重要なのに特に前半は音楽が煩かった。あと、ダニエル・デイ=ルイスは鉄瓶愛用してるけど、お湯沸かすんじゃなくてそのままお茶淹れて飲んじゃう??って気になってしょうがなかったよ。

  • southpumpkin
    southpumpkin 4 2018年7月1日

    繊細な感性で活躍する天才仕立て屋の男は別荘付近のレストランで完璧なルックスの女性と出会う。彼はすぐさま女のために服を仕立てて同居を始める。 女は自分の服を着るだけでなく創作意欲を掻き立てる大切な存在であり、男にとっての恋愛は仕事という目的に対して手段でしかない。女にとっての恋愛の方が広く一般的であり、恋愛そのものを目的としている。この両者の大きな価値観の違いが会話、目配せなどで繊細に描かれていきます。初めは圧倒的なまでの男性優位で展開した恋愛が徐々に女性優位となっていく。男性にとってはこの映画は地獄。まるで『ミザリー』のよう。しかしこの男、これまで女性に対して相当酷い態度を取ってきたことは序盤の展開でわかります。つまり恋愛難易度最上級クラスの男性を、ある一人のどこにでもいそうなウェイトレスがクリアしてしまうという風にも見える。どちらの視点で見るかによって映画の特性が180度変わってしまう、それこそがむしろこの映画の特性なのかもしれません。この映画がハッピーエンドなのかバッドエンドなのかで自分が男性視点で観ていたのか女性視点で観ていたのかわかります。似た映画に『ゴーン・ガール』などはありますが、その点で言えば本作の方が数段上。性差が薄くなってきた昨今、男と女とが決定的に異なることを描き出した大傑作です。男と女は違う、だから認め合わなければならないのかもしれません。ポール・トーマス・アンダーソンは神。ありがとうダニエル・デイ=ルイス。

  • Kozai Szatosi
    Kozai Szatosi 4 2018年6月22日

    PTA映画にしてはやや地味な印象。撮影がいつものロバート・エルスウィットやミハイ・マライメア・Jrではないからか、映像に棘がないのは少し残念(今回の映画にはDirector of photographyのクレジットがないため、PTA自身が撮影をしたと言われているが、実際はLighting Cameramanとしてクレジットされているマイケル・バウマンが撮影監督だと考えられる。Lighting Cameramanは英国において撮影監督を表す古典的なクレジット)。 しかし、PTAが「ザ・マスター」でも扱った二人の人間の愛憎半ばした依存関係が男女関係として昇華されている点を無視できるわけもない。 予告ではいわゆる「官能絵巻」が展開されるかと思われたが、実際のところ、性愛の要素はほとんど皆無だ。男が女を文字通り私物化し、支配する関係が、やがて女による静かな独占欲によって変化してゆく様は、神経質なその映像的・音響的感性もあって、掴みどころのないロマンスとして開花している。ラストの総てをさとったかのような親密なやり取りと夢想には戦慄を禁じ得ない。 ヒロインのヴィッキー・クリープスの決して美人ではないながらも脆い狂気を秘めた面立ち、姉役・レスリー・マンヴィルの母親的な厭さ、デイ=ルイスの神経質な魅力など、画面には何かと神経に来る容貌ばかりが揃う。

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