黒い眼のオペラ

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「黒い眼のオペラ」の感想・評価・ネタバレ

  • changpian
    changpian 4 2013年5月7日

     台湾製DVDで鑑賞、だが、最後のチャプター(ラストのロング・テイクとエンディングロール)のみなぜか再生できず、その部分は日本製DVDで鑑賞。  ずっと台湾で活動していた蔡明亮が初めて故郷マレーシアで撮った2006年の映画。基本的には、これまでの蔡明亮ワールドが展開される。セリフが少なく長回し。主人公たちは満たされることなくさまよい続ける。だが、ここには明らかにマレーシアの政治状況のメタファも存在する。主人公たちが運ぶマットレスは1998年のアヌアル副首相更迭事件のメタファである。中国系とインド系住民にも融和的な路線を目指したアヌアル副首相は解任され、イスラム国では許されない同性愛者として非難された。そして、その証拠物件として精液の付着したマットレスが提出されたのだという。また、目の周りに青いあざができたアヌアル副首相の写真もその頃報道された。したがって、原題『黒眼圏』とは、この青いあざを意味しているのである(野澤喜美子「病と不自由な身体―自由を渇望する映画人・蔡明亮」『地域研究』13-2)。それほど積極的に政治的な発言をしない蔡明亮であるが、今回のマレーシア総選挙に際しては、youTubeを通じてコメントを発表していた。マレーシア社会における少数派民族であると同時に、性的マイノリティであることも公言している蔡明亮。この映画の中には彼の政治的なメッセージが忍び込んでいるのである(外国籍労働者の問題への着目も無視できない)。  興味深いのは映画中で使われる音楽。モーツアルトの「魔笛」(この映画はそもそもモーツァルト生誕250周年記念プロジェクトの一環として制作された)、マレー人の歌う西洋風の歌、粤劇(広東オペラ)、インドの映画音楽、そして李香蘭の歌う流行歌。これらは、マレーシアの持つ多文化的性格を表しているし、また華人文化のなかの多様性をも表している。李香蘭の「恨不相見未嫁時」は監督が最も好きな曲だそうだが、この曲がラジオから流れる際、作詞の陳歌辛と李香蘭とのロマンスについてDJが語るのも興味深い。ことの真偽はともかく、このような懐メロはいまだにマレーシアの華人たちが愛好し話題にするものなのだ。そして蔡明亮自身、これまで葛蘭、姚莉、白光らの香港の国語歌謡を映画の中で用いてきた。そして、主人公たちの心の放浪の果てのラストシーン。ここで我々は、李香蘭の歌声に全てを癒されることになる。  このフィルムの音楽については、小沼純一『映画に耳を』でも取り上げられている。が、「桃花江」が中国流行歌のごく初期の楽曲であり、なおかつここで同曲を歌う凌雲・櫻花がマレー半島(シンガポール)の出身であることなど、興味深い点はまだまだあるように思われる。この映画の音楽については、陳歌辛と李香蘭の関係も含め、機会があればまた改めて取り上げてみたい。

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