2017年7月6日更新

なぜヒッチコックは偉大なのか。その所以をわかりやすく解説

「サスペンスの神様」と呼ばれる巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督。『サイコ』や『めまい』など数多くの作品を手がけたばかりでなく、彼の抜群のアイデアと演出は後世の監督たちに多大な影響を与えました。彼の偉大な業績、影響力をご紹介します。

ヒッチコックを知っていますか?

アルフレッド・ヒッチコックは1899年イギリス生まれの映画監督です。1920年にロンドンの映画会社に勤務し始め、1925年『快楽の園』で監督デビューします。その後1938年に公開した『バルカン超特急』が大ヒットし、アメリカに招かれたヒッチコックは翌年の1939年に妻子と共に移住しました。 その後、ヒッチコックは1940年の『レベッカ』を革切りに多くの作品を発表します。コメディからサスペンスまで幅広いジャンルを手がけたヒッチコックですが、彼の本領が発揮されたのはやはりサスペンス作品です。彼の撮影技法は今も多くの映画監督に影響を与え続けています。

TV界にも早くから進出し、1955年には『ヒッチコック劇場』という30分のミステリー番組を放送していました。ヒッチコックも作品解説として登場したり、一部の作品を監督するなど冠番組に深くかかわりました。日本でも放送され、ヒッチコックの吹き替えは『ゲゲゲの鬼太郎』の主題歌でも有名な熊倉一雄が担当した事でも知られています。 サスペンス映画の名作を世に送り出し、影響力の強いヒッチコックですが、なんとアカデミー賞ノミネートは5回されたにも関わらず、アカデミー監督賞は一回も受賞していません。しかし、むしろそれが「無冠の帝王」として多くの人にリスペクトされている所以となっているのです。

ヌーヴェルヴァーグの神様としてのヒッチコック

ヒッチコックは「ヌーヴェルヴァーグの神様」と言われ、彼らに多大な影響を与えたことでも知られています。ヌーヴェルヴァーグ(Nouvelle Vague)は、1950年代にフランスで起こった映画運動で「新しい波」という意味です。 ジャン=リュック・ゴダールをはじめとしフランソワ・トリュフォー、ジャック・リヴェットら現在でも非常に高く評価されている監督たちがヌーヴェルヴァーグを牽引していました。彼らは、スタジオではなくロケの撮影を中心にして即興の演出を行うなど、これまでの映画の概念を壊す作品を次々に発表しました。

ヒッチコックがヌーヴェルヴァーグの監督たちに尊敬されたのは、彼が常に新しい手法や演出、映画のあり方に「挑戦する姿勢」を崩さなかったからです。彼はサスペンス作品にこだわり、サスペンスというジャンルを追求しましたが、当時サスペンスは「二流」と見られ、それがアカデミー賞を取れなかった理由の一つと言われています。 しかし、失敗を恐れないヒッチコックはゴダールやクロード・シャブロルから崇拝され、トリュフォーは彼の影響を受けたサスペンス映画『黒衣の花嫁』を制作。トリュフォーはその後ヒッチコック本人にロングインタビューも行い、それをまとめた『映画術』は世界中で翻訳されてベストセラーとなりました。

ヒッチコックの効果的な演出方法

ヒッチコックは撮影技法の発展にも貢献した偉大な監督です。例えば『めまい』で使われた「めまいショット」は、別名ドリーショットと言われ、カメラをズームアウトさせながら機体自体は前方へ動かす方法。画面に歪みが生まれてめまいのように見える手法で、その後多くの映画に使用されています。 その他にも様々な手法に挑戦しています。1954年製作、『裏窓』は、脚を骨折して車いす生活を余儀なくされたカメラマンが主人公です。そのため、動けない主人公の緊迫感を表現するために、移動とズームの撮影を同時に行いました。1941年製作の『断崖』では白を強調するためにミルクの中に電球を入れるなど、視覚的効果を上手く使用した撮影技法が多く見られます。

ヒッチコックのセンスの良さは、緊迫感のある演出だけではなく、キスシーンの演出やカメオ出演などのお遊びにも見られます。『汚名』では当時の「キスシーンは3秒まで」という映画の製作ルールを逆手に取り、3秒以内のキスを繰り返す2分半のシーンを撮影。検閲を通ったばかりでなく、名キスシーンとして映画史に残りました。 本人のカメオ出演はヒッチコック作品のお約束です。これは『下宿人』撮影時にエキストラ不足で行った事ですが、長身で恰幅のいい彼のルックスから大うけしました。その後サービス精神の強いヒッチコックは、観客が映画に集中するために物語の導入部分である冒頭にカメオ出演をするようになり、ファンの楽しみになりました。

これだけは観ておけ!時代を創り出した、ヒッチコックの映画

ヒッチコックはかなり精力的に映画を製作し、多数の作品を世に送り出しています。何から観ればいいかわからないという方も多いかもしれません。ですのでここでは、「これだけは観ておけ!」というエポックメイキングなヒッチコックの作品を超厳選してご紹介します。

『めまい』【1958年】

フランスのミステリー作家ボワロー=ナルスジャックの『死者の中から』を原作にし、「めまいショット」が初めて使われたサスペンス作品。主演のジェームズ・ステュアートは本作の他に『ロープ』『裏窓』『知りすぎていた男』など、全部で4作品に出演するほどヒッチコックのお気に入り俳優でした。 犯人を追跡中に同僚を死なせてしまったジョン(ジェームズ・ステュアート)。その時に高所恐怖症になり、同僚の死の罪悪感からも刑事を退職します。ある日、旧友のエルスター( トム・ヘルモア)から、妻のマデリン(キム・ノヴァク)を助けて欲しいと依頼されますが・・・。

『サイコ』【1960年】

シャワールームの殺害シーンがあまりにも有名なサスペンス映画の金字塔。ヒッチコックは「観客を楽しませたい」という理由で、市場に出回っていた同名原作を買い占めたり、映画の途中入場や観た後のネタばれを禁止しました。予告編の女優もジャネット・リーではなく別の女優を使う徹底ぶりです。 経済的に苦しい恋人との結婚を夢見て、会社に支払われた現金4万ドルを横領したマリオン(ジャネット・リー)。彼女は車で逃走中に豪雨に遭い、やむなく寂れたモーテルに泊まることにしました。経営者の青年ノーマン・ベイツ(アンソニー・パーキンス)は、マリオンを客として快く迎えますが・・・。

『鳥』【1963年】

ヒッチコックが1963年に発表した動物パニック・サスペンス。大群となって人間に襲いかかる鳥たちの恐怖を描いています。鳥の攻撃シーンはディズニースタジオで合成撮影されました。動物が人間を襲うというシチュエーションのパニックホラーの先駆け的作品です。 サンフランシスコの小鳥屋へ出かけたメラニー(ティッピ・ヘドレン)は、そこで弁護士のミッチ(ロッド・テイラー)と出会います。妹の誕生日につがいのラブバードを探しているミッチですが、残念ながらその店にはありません。彼に興味を持ったメラニーは、ラブバードを持って彼の家へ伺いますが・・・。

ヒッチコックは多くの監督に影響を与えていた

前述したように、フランスの映画監督たちに多大な影響を与えていたヒッチコック。しかし、彼の偉業はそれだけではありません。2017年現在も映画界の第一線で活躍している監督は、ほぼ彼の影響を受けていると言っても過言ではないのです。ここでは、ヒッチコックに影響を受けた主な監督をご紹介します。

フランシス・コッポラ

ハリウッドを代表する巨匠フランシス・コッポラ監督。『ゴッドファーザー』3部作や『地獄の黙示録』など、重厚な人間ドラマを得意とします。実は下積み時代が長かったコッポラ監督。初監督作品となった『ディメンシャ13』のプロットは『サイコ』を参考にしていると言われています。 『ゴッドファーザー』が成功した後に公開された映画『カンバセーション・・・盗聴・・・』は、彼がずっと企画を温めていたサスペンス作品で、スリリングな展開が高く評価されました。この作品以降彼はサスペンスを撮っていませんが、駆け出しの頃にヒッチコックから受けた影響はその後も生かされました。

ブライアン・デ・パルマ

トム・クルーズ主演の『ミッション・インポッシブル』第一作目や『アンタッチャブル』など、スタイリッシュな映像が魅力のブライアン・デ・パルマ監督。実はデ・パルマ監督はコロンビア大学在学中に『めまい』を観て衝撃を受け、映画監督を志したほどのヒッチコックファンなのです。 代表作である『殺しのドレス』は1980年に公開され、高く評価されたサスペンス映画。被害者の殺害シーンや、犯人の描写が『サイコ』の影響を強く受けていると言われています。「ヒッチコックのコピー」と揶揄する声もありますが、受けた影響を自分の作品に昇華させる手腕は見事だと言えるでしょう。

スティーブン・スピルバーグ

ディズニーや黒澤明など多くの監督に影響を受けたと公言しているスティーブン・スピルバーグ監督。ヒッチコックのようなサスペンス映画より、SF作品を多く撮影しているイメージのスピルバーグ監督ですが、ヒッチコックの「観客を楽しませたい」という姿勢に共鳴し、撮影技法を多く参考にしました。 彼がヒッチコックの最も撮影技法を生かしていると言われているのが、1975年に公開された『ジョーズ』です。巨大ザメが海水浴をしている人々を襲うショッキングな映画ですが、このサメが現れるシーンは『鳥』に大きな影響を受け、「めまいショット」も効果的に使用されました。

ジョージ・ルーカス

『インディ・ジョーンズ』や『スターウォーズ』など、多くのエンターテイメント作品を作り、世界的に多くのファンを持っているジョージ・ルーカス監督。彼もやはりヒッチコックの影響を多く受けている監督の一人です。 例えば、『インディ・ジョーンズ』シリーズが成功したのは「ルーカスはマクガフィンの設定が上手かったから」という意見があります。「マクガフィン」とはヒッチコックの造語で、物語のきっかけになる要素のこと。『インディ・ジョーンズ』では秘宝が「マクガフィン」として上手く活用されました。

黒沢清

『スウィートホーム』や『岸辺の旅』など多くの作品を発表し、2017年9月には最新作『散歩する侵略者』が公開予定の黒沢清監督。彼は2016年にケント・ジョーンズ監督のドキュメンタリー映画『ヒッチコック/トリュフォー』に出演し、ヒッチコックについて語っています。 黒沢監督も前述した『映画術』を読み、ヒッチコック作品には多く触れているとの事。特にお気に入りの作品はイングリット・バーグマン出演の『汚名』ですが、同時にヒッチコックの技法を「うっかり真似すると大変な事になる」と、その応用の難しさも感じているようです。

まとめ

いかがでしたか? 現在はCGの技術も発達し、ヒッチコックの作品は今観ると「古い」と感じる方もいるかもしれません。しかし、『サイコ』の圧倒的なカメラワーク、状況を視覚で魅せる演出に加え、ロマンチックで少しとぼけたユーモアのセンスはまさに唯一無二の偉大な監督だと感じます。 今回紹介した代表作の他に、影響を受けた監督たちの作品も併せてご覧ください。彼の存在がどれだけ偉大なのか、他の監督の代表作を通して確認できること間違いなしです!