2018年10月26日更新

『もののけ姫』、作品に隠された宮崎駿の想いを徹底考察【理解を深めたいあなたへ】

©Miramax Films/Photofest

スタジオジブリによる傑作アニメーション『もののけ姫』。数々の都市伝説が生まれるほどの影響力を持つ本作には、宮崎駿の想いが隠されていました。この記事では、本作を通して伝えたかった宮崎駿のメッセージについて考察していきます。

『もののけ姫』を通じて宮崎駿は何を伝えたかったのか?

宮崎駿の代表作の一つ『もののけ姫』は、構想に16年、制作3年を費やし、結果的に興行収入193億円を記録した大ヒットアニメ。 壮大なテーマが織り交ぜてある本作には、一体どのような意図が込められているのか。今回は、本作を通じて伝えたかった宮崎駿の想いについて考察していきます。

映画のあらすじをおさらい

舞台は中世の日本。エミシの村で暮らすアシタカは、村を襲ったタタリ神を退治した際、死の呪いをかけられてしまう。 呪いを受けたアシタカは、村を追い出されるような形で西の地へと旅立つ。そして、タタリ神が生まれた要因を作ったエボシの元へたどり着くことに。 自然環境を破壊し尽くすエボシだが、タタラ場に住む村人への貢献は厚く、自然との対立は深まるばかりであった。そんな中、アシタカは山犬に育てられた少女・サンと出会う。サンは森を壊す人間社会を恨んでおり、エボシを殺そうと奮起しているのだった。 対するエボシはシシ神殺しを企て、ついには人間と森に住む生き物たちとの大戦争にまで発展していく……。

『もののけ姫』のネタバレ付きストーリー、キャラクター紹介はこちら!

『もののけ姫』はここが異質?【その1:子供向けアニメーションらしくない】

『もののけ姫』を公開するまでの宮崎駿作品といえば、『となりのトトロ』や『魔女の宅急便』、『天空の城ラピュタ』など、子供たちにワクワク感や元気を与える作品がほとんどでした。 しかし、過去作から一転し、『もののけ姫』は子供にとって非常に残酷と思われるシーンが盛り沢山な作品となりました。 冒頭のタタリ神の退治シーンをはじめ、戦闘中に人間の両腕が吹き飛ぶ描写、さらにはシシ神さまの首を打つシーンも……。両腕が吹き飛ぶ瞬間に至っては骨までしっかりと描写されており、子供にとってはトラウマになるほど怖いシーンです。 また、ハンセン病を思わせる人々も登場します。彼らは身体中を包帯でぐるぐるに巻かれ、隔離された部屋で労働に勤しむのです。活気あふれるタタラ場なだけに、どこか深い陰を感じるシーンとなっています。

『もののけ姫』はここが異質?【その2:同じテーマを扱う『風の谷のナウシカ』との違い】

もののけ姫 (ゼータ)
©Miramax Films/Photofest

「自然と人間」という『もののけ姫』と同じような対立構造が取られている『風の谷のナウシカ』。1984年に発表されたこの作品の結末は、ナウシカが伝説の「青き衣の者」なのだということが判明し、王蟲たちが森へ帰っていく……というもの。『風の谷のナウシカ』は、あくまでも「自然崇拝」というスタンスを取っています。つまり、理想郷の構築を最終着地点として描かれているのです。 一方、『もののけ姫』では、対立関係の決着が付けられることなく物語が完結します。サンは「アシタカは好きだ。でも、人間を許すことはできない。」と共生を拒む姿勢に変化はなく、エボシは新しい村を作ると決意。アシタカだけが唯一、人間と自然との共存実現に奮闘することになるのでしょう。 自然が勝つわけでもなく、人間が勝つわけでもないということ。『もののけ姫』は、根本的な問題が解決されることのない様を私たちにみせているのです。

本作は現代社会への問題提起だった?

子ども達への想い

『もののけ姫』を通じて、宮崎駿は何を伝えたかったのでしょうか。その答えは、「荒川強啓 デイ・キャッチ!」というラジオ番組において彼が答えたインタビューで読み解くことができます。 「(今まで子供たちに)エールを送るための映画を作ってきたんです。しかし、実際の子供たちが出会っている現実は、そんなエールだけでは済まされない。多くの問題を子供たちは全部知っているんですね、本能的に。」 「人類がやっていることは本当に正しいのか……という根源的な疑問に真正面から答えないと、元気に希望を持って生きろと言いながら、本当は子供たちの一番聞きたいことに答えていないことになる。エンターテインメントの道を踏み外すけど、この映画を作らないと私たちはその先仕事をすることはできないだろうと思いつめたんです。」 グロテスクなシーンやハンセン病を思わせる描写、そして終わりのない課題で溢れたストーリーを、あえて子供たちに見せた宮崎駿。そこには、世界の本質をみせる機会を奪ってきたエンターテインメント作品への問題意識が現れています。

「生きる」ということを考える

また舞台挨拶にて、彼は「損得ではなくて、生きるということ自体にどういう意味があるのかってことを問わなければならない時代がきた。」と語っています。 「生きる」という行為が以前より安易に捉えられ、いかに得して生きていくかが重視されるようになった現代社会。生きることそのものの尊さや複雑さ、そして不完全さを私たち1人1人は見つめ直さなければならない……そう訴えかけているのではないでしょうか。 つまり『もののけ姫』は、数々の社会問題に全員が当事者として立ち向かい、あるべき世界とは何なのか、という問いを投げかけているのです。そしてもちろん、その当事者には子供たちも含まれているのでしょう。

宮崎駿監督のメッセージが詰まった『もののけ姫』

宮崎駿は『もののけ姫』を通じて、従来の作品への課題感、そして社会的事象への問題意識を真っ直ぐ観客にぶつけています。「生きる」意味や目指すべき社会像を私たち1人1人に考えてもらいたい……そんな願いを込めてこの作品は出来上がったのです。 単なるエンターテインメント作品としてではなく、一種の問題提起作品として観てみると、より一層『もののけ姫』への理解が深まることでしょう。