2018年7月27日更新

ネタバレ!『バケモノの子』で九太が読んでいた小説『白鯨』を解説!

白鯨 上 (岩波文庫)

日本アニメ界を牽引する細田守監督の最新作『バケモノの子』は、2015年7月に公開されて以来全国で根強い人気を誇っています。前作『おおかみこどもの雨と雪』では母親と子の絆が描かれ、今回は父と子の物語となっています。そして今作に一貫して現れるのが名作『白鯨』です。『白鯨』が映画にどのような影響を与えているのか検証します。

『バケモノの子』では小説『白鯨』に着目するべし【ネタバレ含む解説】

『時をかける少女』や『サマーウォーズ』などで人気を博す細田守監督。2015年には新たな作品『バケモノの子』を生み出しました。細田守が監督・脚本・原作を担った本作は、前作『おおかみこどもの雨と雪』と対照的に“父と子”の物語が描かれています。 今回は、本作に度々登場してくる小説『白鯨』についてネタバレを交えながら解説していきます!

『バケモノの子』のあらすじをおさらい

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ひとりぼっちの少年・蓮(宮﨑あおい)はある夜、渋谷でバケモノの熊徹(役所広司)に出会います。「強くなりたい」その一心で熊徹の後を追った蓮がたどり着いたのは、バケモノばかりが暮らす街“渋天街”でした。 熊徹の弟子となり、九太という名前を与えられた蓮は、渋天街で修行の毎日を過ごします。最初はいがみ合っていた九太と熊徹でしたが、月日が経つにつれ、二人の間には父子のような絆が芽生えていきました。 そして、逞しい青年に成長したある日、九太(染谷将太)は偶然にも渋谷に戻ってしまいます。 そこで出会ったのは高校生の少女・楓(広瀬すず)。勉強熱心で感性の鋭い楓と触れ合ううち、九太は自分が本当にいるべき場所はどこなのかという迷いを抱くようになります。そんな折、人間界とバケモノの世界を巻き込んだ大事件が勃発します。 世界を守るため、仲間を守るため、九太や熊徹、そして楓が下した決断とは......。

九太が図書館で手にした小説『白鯨』って?

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成長し渋谷に戻った九太は図書館である本を手にします。その本の題名はメルヴィル著『白鯨』。 この『白鯨』こそ、映画『バケモノの子』の骨格を成す重要な役割を担っています。

小説『白鯨』のあらすじ

主人公である船乗りのイシュメールは、捕鯨船ピークォード号に乗り込みました。そこで片脚を失った船長エイハブと出会うのでした。そのエイハブ船長は、自分の片脚を奪った巨大なマッコウクジラ“モビー・ディック”への復讐にとらわれていました。そして、その復讐心からいろんな人を巻き込んでいき.......。 様々な人種で構成された船乗りたちの冒険を、途方もないスケールで描き出した傑作海洋巨編です。

著者はハーマン・メルヴィル

著者のハーマン・メルヴィルは1819年、アメリカのニューヨークに生まれた作家です。銀行事務員、小学校の代用教員、捕鯨船乗組員など様々な職業を経て、1851年に『白鯨』を完成させました。 難解な作風で悲観性溢れた小説だったため存命中はほとんど評価されず、ようやく日の目を見始めたのは没後しばらく経ってからのことです。

『白鯨』が象徴するものとは?【ネタバレあり】

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題名でもある“白鯨”とは、エイハブ船長の片脚を奪った巨大なマッコウクジラ“モビー・ディック”のことです。エイハブ船長とクジラの対立は、一見すると善と悪の対比に思えます。自分の片脚を奪った憎き相手への復讐劇というのが、表面に見える物語の姿です。 しかし、『バケモノの子』ではさらにうがった解釈をしています。作中で楓は、『白鯨』におけるクジラについて「白鯨は自分を映す鏡で、心の闇の象徴」なのだと語っています。 死闘の末、白鯨もろとも海底に沈んでしまうエイハブ船長は、自らの闇に引きずり込まれてしまったということになるのかもしれません。

『バケモノの子』における『白鯨』の役割とは

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なぜ映画に『白鯨』が出てきたのか。その理由が、先ほどの楓の台詞に表れています。 映画内では「人間の心に巣食う闇」が終始語られています。バケモノになくて人間だけが持っているもの=心の闇の象徴として『白鯨』が下敷きとなり物語が出来上がっているのです。 実際に、物語の終盤では心の闇が巨大なクジラとなって九太たちに襲いかかります。これは楓の台詞、ひいては細田守監督の『白鯨』に対する解釈を体現したものでした。

小説『悟浄出世』もベースになっている?

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『バケモノの子』のベースとなった作品は実はそれだけではありません! エンドクレジットに表記されていたのは『山月記』で有名な中島敦の『悟浄出世』。この作品もまた、映画の肉付けとして参考にされています。

『山月記』で有名な中島敦が著者

端正・格調高い文章を味わう 中島敦 (別冊宝島1625 カルチャー&スポーツ)

夭折の作家・中島敦が『西遊記』を題材として書いた『悟浄出世』は、普段は主人公になることのない沙悟浄の視点から紡いだ物語。 流沙河に住む妖怪(ばけもの)のなかでもとりわけ弱気な沙悟浄が、「自分は何者なのか」を徹底的に問い続けます。『悟浄嘆異』と並び、自我問題を掘り下げた作品です。

ストーリーを語るのは多々良と百秋坊

映画は二人の人物による語りで始まります。その二人とは、熊徹の悪友・多々良(大泉洋)と僧侶・百秋坊(リリー・フランキー)。冒頭のシーンからもわかるように、『バケモノの子』は実は多々良と百秋坊の視点で語られているのです。この点は、沙悟浄を主役にした『悟浄出世』と重なります。 多々良と百秋坊。この二人の視点で語られているからこそ、主役の九太と熊徹の成長具合がよりはっきりと、窺えるようになっています。

「強さとは何か」を探す旅が描かれている

【チラシ2種付映画パンフレット】 『バケモノの子』 監督-細田守.出演(声):宮崎あおい.染谷将太.広瀬すず

映画の中盤では、九太と熊徹、多々良、百秋坊が「強さとは何か」を求め、各地の宗師を訪ねる旅へと出ます。このシーンはまさに、天竺を目指す三蔵法師一行を描いた『西遊記』そのものです。 また、今作において「強さ」を求めることは「本当の自分」を求めることと同義になっています。それは腕力ばかりが取り柄の熊徹や、熊徹に武術を習う九太の姿を見ても明らかです。 『悟浄出世』で中島敦が問いかけた自我問題に、細田守監督は『バケモノの子』でひとつの答えを出したと言えます。

小説『白鯨』は『バケモノの子』の軸になっている!

「白鯨」がキーポイントとなっている映画『バケモノの子』。この記事で本作の背景が見えてきたのではないでしょうか。 小説を読んでから映画を鑑賞すると2倍楽しめるかもしれませんね。