死にゆく女性と、死を知らぬアンドロイド。原発により荒廃した”日本”の、静かで美しい最期の物語

2017年7月6日更新

11月21日に公開される映画『さようなら』。原発によって荒廃した日本の終末を描き、アンドロイドと人間の共演という新境地を見せています。『残穢【ざんえ】‐住んではいけない部屋‐』『FOUJITA』と共に、2015年10月に開催される東京国際映画祭のコンペティション部門にも選ばれた、話題の本作の見所をご紹介します。

汚染された世界で生きる一人と一体。死を見つめて、生を想う

原発事故によって放射能に侵された近未来の日本。住めなくなってしまった土地を想いながらも国民は海外を目指す。汚染された日本人の受け入れに対して慎重な諸外国のため、国民に優先順位を付けて避難を進めることとなった。

病弱な女性・ターニャ(ブライアリー・ロング)とアンドロイドのレオナ(ジェミノイドF)は郊外にぽつんと残った一軒家で、死んでゆく世界を生きていた。レオナに様々な詩を聞かせてもらいながら、避難の順番を待つ日々。静かに流れていく時間は、平和を錯覚させる。

『さようなら』3

出典: natalie.mu
「さようなら」 (c)2015『さようなら』製作委員会

数十年、数百年に一回、いっせいに花を咲かすという竹の花。父からその話を聞いていたターニャはどうしても見てみたいと願う。死にゆく世界で、美しいものは既に失われてしまっているのだろうか。

人間と本物のアンドロイドの共演。科学と芸術の融合

『さようなら』2

ジェミノイドFとは、2010年に大阪大学教授の石黒浩氏によって生み出された遠隔操作型アンドロイドであり、女優として活躍する世界初の“アンドロイド女優”です。本作の原作でもある平田オリザ氏の演劇『さようなら』や、『三人姉妹』に出演しています。

そんな“彼女”が本作『さようなら』において、世界初の人間との共演を成し遂げています。撮影は、ジェミノイドFの声を演じている井上三奈子さんに実際に演技をしてもらい、それをプログラムに反映するという形で行われたそうです。

ジェミノイドF in 『さようなら』

出典: sp.natalie.mu
「さようなら」 (c)2015『さようなら』製作委員会

劇中で彼女は自律的に動き、聞く限りネイティブと遜色ない発音とイントネーションで数ヵ国語を話します。実際のアンドロイドが演技をし映画に出演するということは、「人間とは何か」という本質的な意味を考えさせられることにもなるのです。

洗練された映像美。映画史上最も美しく、切ない長回し

『さようなら』5

出典: sp.natalie.mu
「さようなら」 (c)2015『さようなら』製作委員会

絶望感にまみれた終末世界たる日本を舞台とする本作では、ゆったりと残酷に流れる時間を表現するような長回しのシーンが多くあります。荒廃していながらもどこか静かで美しい世界が、全編にわたって広がっているのです。

オープニングからいきなりの大胆な長回しで惹きつけられ、徐々に観る者の体内時計すらゆっくりになっていくような気がします。112分というコンパクトさながら重厚で、死の臭いに満ちた世界“日本”をこれまでかと見せつけられるでしょう。

反原発ではない。最も身近で現実的な破滅の物語

原子力発電所

本作は平田オリザ氏のアンドロイド演劇『さようなら』の実写映画化作品ですが、原作には「原発」という要素は無く、メガホンを取った深田晃司監督による脚色なのです。

深田晃司監督

出典: www.cinra.net

深田監督は本作について、こう語ります。

「世界そのものが死に向かっているという設定を導入したいと考えました。では、世界そのものが死や破滅に向かっている、それはどういうシチュエーションだろうかと考えたとき、原子力発電所がテロか何かで爆発でもしたんだろうなと。」

「この映画は特に反原発の内容ではありませんが、原発への反対、賛成関係なく、今の社会においてもっとも身近で現実的な破滅を描こうとすると自然と原子力発電所の存在に行き着いてしまう、そのこと自体が重要な社会批評になりうると思っています。」

「さようなら」 (c)2015『さようなら』製作委員会

本当の危機に瀕した時に、国民に順位が付けられ、本質的な差別構造が浮かび上がってくる。静かに音を立てず忍び寄る限りなくリアルな終末を描くことにより、私たちの中の「生と死」の概念すらをも変えてしまうような、最高に綺麗ながら絶対に迎えたくない未来を教えてくれるようです。

2015年11月、日本映画の歴史がまたひとつ塗り替わる

『さようなら』4

出典: sp.natalie.mu
「さようなら」 (c)2015『さようなら』製作委員会

本物のアンドロイドと人間の共演という映画史を塗り替える実験的・先進的な面と、現在の日本の状況を風刺し欠如している危機感に一石を投じるような社会派な面の両方を兼ね備えている本作。『残穢【ざんえ】‐住んではいけない部屋‐』『FOUJITA』と共に、2015年10月に開催される東京国際映画祭のコンペティション部門にも選ばれました。

深田晃司監督(『ほとりの朔子』)の新作であり、ブライアリー・ロング、ジェミノイドFに加え、新井浩文村上虹郎、村田牧子など演技派俳優陣をキャストに迎えた映画『さようなら』は2015年11月21日より、新宿武蔵野館ほか全国で公開されます。