
『十字架』のあらすじ
中2の秋。藤井俊介(フジシュン)が命を絶った。「みなさんのいけにえになりました」という遺書を残して。「永遠に許さない」といういじめグループに対する叫びとともに、遺書には二名の名前があった。 ひとりは彼と同じクラスの真田祐(ユウ)。「親友になってくれてありがとう。ユウちゃんの幸せな人生を祈っています」。 そしてもうひとりは、別のクラスでテニス部の中川小百合(サユ)。「迷惑をおかけしてごめんなさい。誕生日おめでとうございます。幸せになってください」 フジシュンの死は、大きく報道され、中学校の名は全国に知れ渡った。フジシュンの父親は、“いじめ”を知りながら何もしなかった者たちを決して許そうとはしない。遺書によって「親友」にされてしまったユウは、告別式でフジシュンの父親から「親友だったら何で助けなかった」と激しい怒りをぶつけられる。マスコミにも追いかけられた。でもユウには、親友と呼ばれる覚えはない。確かに幼なじみだったが、中学になってからはあまり話をすることもなくなり、その上、ユウは、酷いいじめを知りながら、黙って見ていただけの生徒のひとりだったのだ。 一方、自分の誕生日がフジシュンの命日になってしまった中川小百合(サユ)は、ショックで学校を数日休んだ。フジシュンからの誕生日プレゼントが、亡くなった後に宅急便で届いたのだという。 フジシュンの母親は、亡き息子の思い出にすがって命をつなぐ。息子の「親友」だったユウに感謝し、息子が片思いしたサユに心を許した。ユウとサユを家に招き、フジシュンの思い出を笑顔で語る。ユウには母親の気持ちに応えるべき思い出はない。だが「親友じゃない」と言ってこれ以上絶望させることなど、できるはずもなかった。 中学の卒業式の日。終了間際に、フジシュンの父親が式場に入って来た。そしてフジシュンの遺影を高々と頭上にかかげ、無言で皆に対峙した。先生たちにうながされても動かず、息子を奪ったものへの怒りを全身から放ちながら。「忘れるな」と皆の心に刻みつけるかのように。 そして、ユウとサユは高校生になった。二人は、互いが背負った十字架の重さを思いながら、寄り添い、付き合うようになっていく。「この町を出よう」。その思いから、ユウとサユは、東京の大学を受験し、合格した。 だがフジシュンの母親から高校卒業のお祝いに招かれた日、それぞれが必死に抑えていたものが露わになる・・・。 フジシュンは、何もしなかった自分のことを、なぜ「親友」と呼んでくれたのか? 残された家族はいつか赦してくれるのだろうか? その思いに苦悩しながら、大人になっていくユウ。フジシュンを忘れないことを自分に強いながら、未来に踏み出そうとするサユ。憔悴し、息子の思い出にすがる母親。そして、信頼していたゆえに息子の真情に気づこうとしなかった自身を責めながら、息子を見殺しにした者たちへの怒りを支えに生きる父親。 背負ってしまったそれぞれの十字架の重みに葛藤し、互いに思いを交差させながら、彼らは人生を歩いていく。果たして赦しはあるのか? 希望の光は射すのだろうか? そして十字架を背負った20年の人生を経て、彼らがたどりついたところとは?
『十字架』のスタッフ・キャスト
『十字架』の感想・評価・ネタバレ
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2016.12.20
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