顔のないヒトラーたち
顔のないヒトラーたち
Im Labyrinth des Schweigens
2014年製作 ドイツ 123分 2015年10月3日上映
rating 4 4
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『顔のないヒトラーたち』のHM world-travellerの感想・評価・ネタバレ

HM world-traveller
HM world-traveller 4 2016年3月6日

「無知は罪なり、知は空虚なり、英知持つもの英雄なり」とはソクラテスの言葉だが、この映画を観てこの言葉を思い出した。知らないということが これほど罪深いと思ったことは今までになかったかもしれない。 ドイツ人がドイツ自身を裁き、ドイツの歴史認識を変え大きなターニングポイントとなった1963年のアウシュヴィッツ裁判。裁判に持ち込むまでの苦闘を取り上げた、実話に基づいた映画。 戦後、アメリカの手による再教育で ドイツが行ったむごい戦争犯罪が明らかにされ、一般国民も自国の残虐行為や大量殺戮を知り、自分たちが犯罪者に手を貸していたという認識も生まれたと言われている。が、戦後10数年が経った1950年代後半から60年代前半当時は、若い世代を中心に 大量殺戮どころかアウシュビッツの名前さえ知らない人々が大半を占めていたという事実に驚く。 ヒトラーと同じ『ドイツ人』の名を背負わなければならないことの恥辱、生きるために他に選択肢がなかったにせよ 親世代がナチの党員であったことへの苦悩、「もう終わったことだから忘れたい」というシニア世代の意識。様々な思いや主張が渦巻く中で、臭い物に蓋をせず事実に目を背けず 裁判に持ち込んだ当時の関係者の信念と勇気と努力。本作のおかげで、時代の違う遠く離れた日本にいても その一端を知ることができた。 知恵・知識が何か行動を起こし社会の役に立つ第一歩だとすると、「知らなくていい」とするスタンスはやっぱり罪だと思う。「知は空虚」というのは、ただ知っているだけでは何の役にも立たないということだろう。本作でもアウシュビッツで行われたことを知りながらもそのことに目をつぶるばかりか協力を拒み握り潰そうとする人々の存在が描かれる。「英知」は行動に結びつけられた知のことだ。実践して始めて大きな意味をなす。 劇中、奇跡的に生き残ったアウシュビッツ収容者だった男性が殺された娘達のことを吐露するシーンは激しく心を揺さぶられた。負の歴史に向き合うことはとてつもなく苦しいことだと思うけれど、それを実践したドイツ国民、とりわけ当時の関係者の功績は大きい。戦争経験国として私達日本人も見るべきだと思った。