2018年3月20日更新

キラ・ヤマト、『機動戦士ガンダムSEED』の迷える主人公を徹底解説

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キラ・ヤマト、ガンダム史上もっとも「話題性」に富んだ主人公とは

「平成のファーストガンダム」というキャッチフレーズで2002年から放送されたのが、『機動戦士ガンダムSEED』。2シーズン全100話というスケールの大きな宇宙叙事詩の中で、キラ・ヤマトは主人公のひとりとして活躍しました。 遺伝子操作された彼は、モビルスーツ・パイロットとしても天才的な能力を発揮し、仲間たちとともに激戦を生き抜いていきます。一方で非情な戦いの中で苦悩し葛藤する姿は、ファンの間でさまざまな話題を呼び、議論をまきおこしました。 時には「クズ」とまで呼ばれるなど批判の声も少なくないキラ・ヤマトとは、果たしてどんな主人公だったのでしょうか。さまざまな名言とともに、良きにつけ悪しきにつけガンダム史上もっとも話題性に富んだ迷えるヒーローとして、その戦いぶりと生き様を検証してみたいと思います。

殺さない決意が生んだ「キラ・ヤマト批判」

スペースコロニーであるヘリオポリスで平和に暮らしていたキラは、宇宙に住む人々が作り出した国家・プラントの軍事組織・ザフトと、地球連合軍との熾烈な戦いに、運命的に巻き込まれていきます。彼がやむなく敵を殺す理由は、仲間たちの命を守るために他なりませんでした。 数々の死線をくぐり抜けながらも、キラは人を殺すことを忌み嫌い続けます。第1期後半、新たにフリーダムガンダムに乗り込んだ時にはついに、人を殺すことなく戦い抜くことを決心し実行しました。 キラは天才的な戦闘センスによって、直接的にはパイロットを殺すことなく敵モビルスーツたちを無力化していきます。それでもあらゆる状況で、彼の「不殺」の信念が貫き通せるはずもありません。そんな矛盾が時に中途半端な平和主義者として、あるいは偽善者的なふるまいとして、ファンから非難されているようです。

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さりげなく上から目線な名言「やめてよね」

主人公にキャッチーな名セリフは不可欠。もちろんキラにも数々の「名言」が存在しています。 中でも常にトップの人気を誇っているのが、PHASE-17の「やめてよね。本気で喧嘩したら、サイが僕に敵うはずないだろ」です。ヘリオポリス時代からキラが密かに想いを寄せていた美少女フレイ・アルスターをめぐって、親友のサイと対立した時に口をついて出たキツい言葉でした。 印象的には、遺伝子操作によって人類を超越したコーディネイターとしての「上から目線」の奢りを感じさせます。一方で戦いに疲れ果てている時に男女の感情のもつれに巻き込まれたことで、投げやりになっているようにも思えます。人としての未熟さが、強く感じられる一言です。

クズと言われても純愛?フレイとの「間違えた」関係

「SEED」に登場する主要なキャラクターたちは、少年少女であれ軍属であれ戦争という現実を通してさまざまな形で成長していきます。けれど、自らの心の呪縛から最後まで抜け出し切れなかったように思えるのが、フレイでした。 彼女の絶対的な価値観は、プライドを守りながら生きのびること。ですから、サイと付き合っているのに自らを守る存在として、文字どおり身体を張ってキラを籠絡しようとします。キラもまた戦闘の中で疲弊しきった心と身体を、一時でも癒してくれるフレイに依存してしまいます。 戦争という異常な状況下での恋愛関係としては、むしろごく自然でピュアな打算の交錯、と言えるかもしれません。もちろん歪んでいることは確かですが。 ロボットアニメとは思えないヘビーな男女関係は、のちにキラの「僕たちは間違えたんだ」という言葉とともに終焉を迎えます。その清算の仕方もまた、キラが時にクズ扱いされる理由のひとつになっているようです。

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カガリの登場で明らかになる、本当の親子関係。

コーディネイターとして養父母に優しく育てられたキラですが、謎めいた少女カガリ・ユラ・アスハとの出会いによって、自らの本当の出自を知ることになります。実はふたりは、双子の兄弟。コーディネイターを研究していたユーレン・ヒビキ博士とその妻、ヴィア・ヒビキの間に生を受けました。 ただしふたりは、生まれるまでの経緯が違います。受精卵の状態からカガリはヴィアの胎内で育てられ、キラは父親の手で人工子宮に移されて成長しました。その結果カガリはナチュラルとして、キラはコーディネイターとして生まれ育つことになったワケです。 誕生してからすぐにキラは叔母にあたるカリダ・ヤマト夫妻に、カガリは地球の有力国家オーブの代表であるウズミ・ナラ・アスハに、それぞれ引き取られました。本来なら二度と出会うハズのないふたりは、第1話から運命的な出逢いを果たします。やがてそれが、戦争の行方まで左右することになるのでした。

ラクス・クラインはいろいろな意味で運命の女性だった

カガリとともにキラの運命に大きな影響を与えた美少女が、ラクス・クラインです。プラント評議長の娘であり、国家的なアイドルとして活躍している彼女と、キラはPHASE-8で初めて出会います。地球側とプラント側、立場は違っても同じコーディネイターであることで、ふたりは静かに心を交わし始めます。 1度は離れ離れになったのち、キラはアスランとの戦いで重傷を負ったところをラクスに助けられます。そしてふたりは、戦争を終わらせるという同じ目的のもと、ともに戦場へと赴くのでした。このときラクスが、反逆者となることを覚悟の上で奪取しキラに託したのが、ザフトの最新型モビルスーツ・フリーダムガンダムです。 少なくともキラは、出会った時から彼女に惹かれていたようです。やがて命がけの戦いの中で、ふたりは確かな信頼関係と愛の絆を作り上げていきます。キラにとってラクスは同志であり恋人であり、「導いてくれる人」。命をかけて守るべき、かけがえのない女性です。 もっともそこにはまたひとつ、キラの「クズ」エピソードが。というのも、ラクスはアスランの許嫁だったのです。フレイの件を含めれば、キラは2度に渡って友達の恋愛対象と交際することになってしまいました。

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キラがザフトの「白服」に?大団円のその後を占う

第2期にあたる『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』では、キラとラクスの「戦いを終わらせるための戦い」がさらに激化していきます。そして数々の悲劇を乗り込えて、ついに地球とプラントの間に和平の道が開けます。 「スペシャルエディション FINAL PLUS」のエンディングでは、キラがザフトでアスランがオーブという、それぞれに敵対していた相手の軍装に身を包んで登場。ファンは騒然となりました。なぜキラがザフトへ?そんな疑問の声もありました。 けれどキラの想いはおそらく、ブレていません。守りたい人がいる場所こそが、彼がいるべき場所。白い制服には「ラクスを守り通す」というキラの、強い決意の表れと言えるでしょう。

キラ・ヤマトという等身大の主人公を通して感じる強いメッセージ

『機動戦士ガンダムSEED』シリーズには、一貫して「非戦」がテーマとして貫かれています。戦争というものの非情さと無意味さを描いた壮大な物語の中で、キラはいろいろなカタチで迷い戸惑い続けてきました。 そんな彼の姿は、ある意味リアルな若者の姿と言えそうです。時に右往左往しながら経験を積み、失敗から学び、それでもなお再び迷い戸惑い続ける……。キラ・ヤマトという等身大の主人公の姿を生き生きと描いた「SEED」は、ガンダムシリーズの中でもとくに強いメッセージ性を感じさせる作品なのです。