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映画『エンジェル、見えない恋人』のあらすじ
愛する人を失った悲しみから心を病み、精神科の施設で暮らすルイーズ。やがて彼女は「誰の目からも見えない」男の子エンジェルを出産します。そして母となったルイーズは、辛いことばかりの世の中から息子を守りたい一心で、ある言い付けを発することに。 「あなたの存在を誰かに知られてはならない……」 母の言い付けを守り、施設でひっそりと暮らしていたエンジェルでしたが、ある日窓越しに見かけた盲目の少女マドレーヌに惹かれ、ついに外の世界へと踏み出します。 互いに恋心を募らせてゆくエンジェルとマドレーヌ。しかし、マドレーヌが視力回復手術を受けることになり、ふたりの関係に変化の兆しが訪れて……。
映画の見どころ 透明人間の心情に追随する芸術的カメラワークに注目
『エンジェル、見えない恋人』では、エンジェルの目線でファインダーを覗く構図のショットを幾つも採用。時に朧げに、時に揺れ動くカメラワークで、透明な少年が内包する普遍的な恋愛心理をスクリーンに活写しています。 この主観性を帯びた映像表現により、誰の目からも見えないはずの少年の存在はより生動感を増し、「透明人間の恋」という幻想的な設定が現実化されたかのような錯覚すら誘います。 監督のハリー・クレフェンが語るところによれば、観客には透明な少年の主観から恋物語を体験してほしいというねらいがあり、一部のベルギー映画や絵画にも見られるマジックリアリズム的表現にも影響を受けたとのこと。 マジックリアリズムを用いたベルギーの画家といえば、ルネ・マグリットでしょうか。美術史に思いを巡らせながら本作品を鑑賞するのもまた一興と言えるのかもしれません。
撮影が行われた首都ブリュッセル、そしてワロン地域とは
本作品の撮影は、ベルギー王国の首都ブリュッセルおよび南部のワロン地域にて7週間かけて行われました。 ブリュッセルはEUの諸機関やNATOの本部が置かれており、欧州政治における最重要拠点のひとつ。また、権威あるエリザベート王妃国際音楽コンクールや世界初のアール・ヌーヴォー式建築のタッセル邸を擁するなど芸術面でも高い影響力を保持する都市です。フランス語とフラマン語(オランダ語)が併用されています。 一方、南部に位置するワロン地域は、鉄や石炭などの天然資源を利用した工業地区として早くから発展を遂げた歴史を誇ります。カンヌ国際映画祭で複数回に及ぶ受賞歴を持つ映画監督、ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟の出身地はここ。公用語はフランス語とドイツ語です。
『エンジェル、見えない恋人』でベルギーのフランス語を聴く
日本の九州ほどの国土に約1100万の人々が暮らすベルギー王国ですが、前述の通り国民が使用する言語は多種多様です。 『エンジェル、見えない恋人』ではフランス語が使用されており、出演者は概して内緒事を吐露するかのような密めいた声を用いての演技を披露。スピーカーを介した耳打ちさながらの音響効果により、映画の登場人物と観客との心理的な距離感がより密接したものへと移ろいます。
マドレーヌ役に3名の新人女優をキャスティング
主人公のひとり、マドレーヌ役には3名の新人女優が起用されました。物語上の時間経過に伴い、幼少期はハンナ・ブードロー、10代はマヤ・ドリー、成長後はフルール・ジフリエがマドレーヌを演じています。 1986年、フランス・パリ出身のフルール・ジフリエは、本作品に続いてポール・バーホーベン監督作品の『エル ELLE』(2016)に出演。着実にキャリアを重ねています。
エンジェルの母、ルイーズ役にはエリナ・レーヴェンソン
ルイーズを演じたのは1966年、ルーマニア・ブカレスト出身のエリナ・レーヴェンソンです。『シンプルメン』(1992)や『愛・アマチュア』(1994)などのハル・ハートリー監督作品のほか『シンドラーのリスト』(1993)や『クロコダイルの涙』(1998)、『ルルドの泉で』(2009)といった作品への出演経験を持ち、国際的に活躍しています。
『エンジェル、見えない恋人』の製作総指揮はジャコ・ヴァン・ドルマル
1957年、ベルギー・ブリュッセル首都圏地域イクセル出身
ジャコ・ヴァン・ドルマル監督は、1991年に発表した自身初の長編映画『トト・ザ・ヒーロー』でカンヌ国際映画祭カメラ・ドールのほか複数の映画賞を受賞し、ニューヨーク・タイムズ紙がその才能に賞賛を送るなど国際的な脚光を浴びました。 長編映画第2作目を飾った『八日目』(1996)では、主演のダニエル・オートゥイユとパスカル・デュケンヌがカンヌ国際映画祭主演男優賞を受賞。その後もジャレッド・レトを主演に迎えた『ミスター・ノーバディ』(2009)や『神様メール』(2015)で好意的な評価を獲得し続けています。
監督はハリー・クレフェン
1956年、ベルギー・ワロン地域リエージュ出身
本作品で監督を務めたハリー・クレフェンは、1984年ごろからフランスやベルギーの映画界で俳優としてキャリアをスタートし、ジャコ・ヴァン・ドルマル監督作品の『ミスター・ノーバディ』や『神様メール』などに端役で出演しました。 1993年に『Abracadabra(原題)』で長編映画の監督としてのデビューを果たしてからは、テレビ映画と長編映画を8作品ほど監督。『エンジェル、見えない恋人』で新たな代表作の誕生に期待が持たれています。
撮影監督はジュリエット・ヴァン・ドルマル
なお『エンジェル、見えない恋人』の撮影監督は、ジャコ・ヴァン・ドルマルの愛娘ジュリエットが担当し、ポーランドのカメリマージュ映画祭で新人撮影監督賞を受賞しました。
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