2018年3月20日更新

山戸結希、「青春の一瞬の光」を描く注目若手監督について知る。

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注目の若手監督 山戸結希

1989年生まれの山戸結希監督。上智大在学中の2012年、初監督作『あの娘が海辺で踊ってる』が東京学生映画祭で審査員特別賞を受賞。同作は自主上映で異例のヒットを飛ばしました。 一貫して思春期の少女の内面をスクリーンに焼き付けてきた彼女。女子高生の群像劇『5つ数えれば君の夢』の上映時には、映画館の前に山戸に声をかけようと涙ぐんだ少女たちの長蛇の列ができたと言います。 「少女」の生き方を拡張する新時代の希望。そんな山戸作品の魅力を探ります。

山戸結希の魅力とは

『溺れるナイフ』に出演した志磨遼平(ドレスコーズ)は「狼みたいに」「稲妻みたいに」と演技を付ける山戸を「言葉の人」と評します。 「どうしようと思った時には心はいつもどうしようもなく……」。独白で始まる『おとぎ話』をはじめ、山戸作品は少女の言葉で溢れています。 しかし彼女は言葉を妄信してはいません。職人的な男性監督が青春映画を上手く撮るように、男性の目線を内在化されて語られがちな「少女」の内面を描くのに、男性が作ったとも言われる「言語」で突き詰めていくのは違うと感じたといいます。 寺岡裕治・編『映画はどこにある インディペンデント映画の新しい波』の中で、山戸はそんな時期に映画に惹かれたと振り返っています。言葉に熱を傾けつつ言葉では放ちきれないものがあると知っている点に、山戸映画の強さがあるのかもしれません。

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「思春期の女の子」を描く

『溺れるナイフ』の試写会で山戸は、映画館でいつも、自分のための映画がないと感じるのだと集まった「少女」たちに語りました。彼女の映画は全てそんな少女のための映画です。 『おとぎ話みたい』では教師に恋する少女の熱を言葉とダンスで表現。『カルテット』などの脚本家・坂元裕司に「天才」と言わしめました。 山戸作品で印象的に登場するのが「水」のシーンでの長回し。海、池、学校のプール――。『溺れるナイフ』で恋の相手と海に落ちるヒロインや『5つ数えれば君の夢』でプールを歩く女子高生など、言葉に満ちた世界の中で、水に包まれた時は沈黙が少女を包みます。

『溺れるナイフ』では監督に抜擢

『溺れるナイフ』はジョージ朝倉による少女漫画の映画版。モデルの少女・夏芽と金髪の少年・コウの青春を切り取った物語です。山戸は最も好きな漫画だと公言しています。 夏芽は他の山戸作品のヒロインほど多弁ではありません。また同世代の男女の恋愛やキスシーンも山戸映画で初の描写でした。 山戸はキスシーンについて、男女の顔と顔の間のスリルが重要との仮説を立てます。キネマ旬報のインタビューで、その距離の変化で間合いの空気がどう揺らぐかを意識して撮ったと振り返っています。

これからの活動について

女性が鏡のようにカメラを「まなざす」時代だと山戸が指摘する現代。彼女は『溺れるナイフ』の観客が次の創り手として現れるのを待っているといいます。 そして自身は年齢を重ねていく過程で、今後も「少女」を拡張する想いで「少女映画」を撮るのではないかと話しています。少女期の「地獄」は思春期が終わっても追いかけてくるものだから。 2017年に発表した短編『玉城ティナは夢想する』では19歳の内面を描きました。少女期を過ぎた「少女」たちの物語を紡ぐ時、彼女のさらなる進化が観られるかもしれません。