2018年7月2日更新

『ウォッチメン』のヴィラン、オジマンディアスを徹底紹介!

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オジマンディアス、『ウォッチメン』で正義の限界を暴いた男

1986年から約1年にわたり、DCコミックスより出版されたグラフィック・ノベル『ウォッチメン』。 「コミック界のアカデミー賞」ともいわれるアイズナー賞と優れたSF文学に送られるヒューゴ賞の両方を受賞した本作は、アメコミ史上最高傑作としての呼び名も高く、今なお高い人気を誇っています。2009年にはザック・スナイダー監督の手によって映画化されました。 『ウォッチメン』は80年代のアメリカを舞台に、ヒーローたちで結成された自警団と核戦争の危機をめぐる物語。今回は、この物語の悪役、オジマンディアスをご紹介! なお、原作と映画には多少違いがありますが、この記事ではマシュー・グッドが演じていた映画版オジマンディアスに焦点を当ててみます。

オジマンディアスってどんなヴィラン?

オジマンディアスの本名はエイドリアン・ヴェイド。容姿端麗な彼は超人的な頭脳の持ち主です。驚くほど賢いために、幼少期には親や教師に怪しまれないよう、わざと平均的な生徒を演じていたのだとか。さらに武道も習得していて、頭脳と肉体のどちらにおいても秀でているのが特徴です。 彼がヒーローになる決意をしたのはアレクサンドリアを訪れたとき。ハッシシの影響で悟りを得て、悪を制することに目覚めました。古代エジプトのファラオに憧憬の念を抱くようになり、オジマンディアス(ギリシャ語のラムセス2世)と名乗って活動を開始、やがてウォッチメンとなります。 キーン条例によりウォッチメンが解体されると、いち早く正体を明かし、実業家として注目を集めるようになりました。

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ヒーローの存在意義を皮肉った

米ソの緊張状態が続き、地球は再び核戦争の危機に。それを知った彼は、核戦争を防ぐためには手段を選ぶ必要はないと思い至ります。 彼の選んだ手段は、大量虐殺。計画を成功させるために躊躇なくかつての仲間を裏切り、殺しました。 重要なのは、驚くべき達眼の持ち主である彼が大量虐殺という手段を選んだということ。いってしまえば酷くシンプルで安直に思える計画を、誰よりも聡明な男が「平和」のために本気で練り上げたということなのです。 そして皮肉にも、彼の計画は成功、思惑通り核戦争の危機が遠のきます。これまで命をかけて悪に挑んだヒーローたちは何だったのか、平和を守るのが正義のヒーローなら正義とは何なのか。 許しがたい方法で平和という目的を達成してしまったオジマンディアスは、ヒーローの存在意義を根底から揺さぶったのです。

手の届かない場所に人類共通の敵を作る

大虐殺に踏み切った彼が最もこだわったのは「誰が殺したことにするか」ということでした。 目をつけたのはDr.マンハッタン。彼はじっくりと時間をかけてDr.マンハッタンを孤立させ、世界がDr.マンハッタンに向ける不信感や危機感を煽りました。用意周到に手順を踏んで、数百万の命を奪った爆発も彼の仕業だと見せかけたのです。そうして遂に、Dr.マンハッタンは地球に居場所を失います。 オジマンディアスの真の目論みは、人間の手の届かないところ、つまり地球の遥か彼方に人類共通の敵を作ることだったのでしょう。そうすれば人類はひとまず結束し、決して捕まえられない敵を追いかけ続ける、裏返せば人類はそうでもしないと助け合えないのです。その聡明さゆえに、認めたくない事実を平然と暴いてみせる、そこが彼の憎たらしさなように思います。

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【映画のラスト】大きな平和と小さな平和

映画のラストは事件から数年後、ローリーとダニエルの仲睦まじい様子が描かれます。直接語られはしませんが、このとき虐殺の被害者たちはどうしているのでしょう。 膨大な数の人々が家族や財産を失い、身近な平和を奪われたはず。 彼らは、自分たちが核戦争回避という大きな平和の礎になったとも思わず、怒りや悲しみを募らせているかもしれません。 そうした負の感情は、やがて芽吹いて再び平和の脅威になるのです。想像の範囲とはいえ、オジマンディアスの計画がじわじわと世界を蝕んでいくのは、彼のしたことがいかに厄介かを表しています。

偉大なヴィランは倒れる姿にも意味を持つ?ロールシャッハの手帳と新聞。

道端で喧嘩をふっかけてくるような悪役と偉大な悪役の違いは何か。たくさんあると思いますが、その1つは如何にして倒されるかのような気がします。 劇中、最終的にオジマンディアスが倒されることはありません。しかし、クライマックスで彼の計画が破綻させるかもしれないものが出てきます。 それは、新聞社に届いたロールシャッハの手帳。特別な能力を持たずとも誰より強固な信念を持っていたロールシャッハ。もし彼が遺した手帳によってオジマンディアスが倒されるなら……。それは平和を築く難しさと共に、ほんの少しの希望を示してくれるのだと思います。

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『ウォッチメン』のオジマンディアスの「悪」

『ウォッチメン』の悪役オジマンディアス、彼のどこに深みがあるのかを考察しましたが、いかがでしたでしょうか。 元ヒーローである彼の「悪」な部分は、立派な大義や明晰な頭脳に支えられているだけに非常に複雑、だからこそ味わい深い悪役なのだと思います。 もちろん、キャラクターのどこに深みや魅力を感じるか、感じないかは人それぞれ。まだ作品をみていない方は、ぜひ彼の壮大な計画とその結末を目の当たりにしてみてはどうでしょう。