恋愛映画のマエストロ!エリック・ロメール監督とは
1920年フランス・コレーズ県チュール出身
元々は高等学校の教職やフリーランスの記者職に就いていたというエリック・ロメールは、1950年に自身が主宰するシネクラブ向けの映画批判誌『ラ・ガゼット・デュ・シネマ』を創刊したことから映画人としての本格的な活動をスタートさせました。 明くる1951年からは、のちにヌーヴェル・ヴァーグの中心的人物となる面々が寄稿していたことで知られる映画批判誌『カイエ・デュ・シネマ』で執筆活動に従事。そして1959年に長編映画『獅子座』で映画監督としてのデビューを飾りました。 その後『コレクションする女』や『海辺のポーリーヌ』でベルリン国際映画祭に入賞を果たし、『O侯爵夫人』ではカンヌ国際映画祭に、『緑の光線』ではヴェネツィア国際映画祭に入賞するなどフランス映画史に多大な功績を残しました。 さて、本記事ではエリック・ロメール監督が発表した作品のなかから国際的な高評価を得た5作品をピックアップ。ネタバレを除外し、各作品の基本情報をあらすじと併せてご紹介いたします。
『コレクションする女』
ロメール監督が放つ「六つの教訓物語」と呼ばれるシリーズの第4作目を成す『コレクションする女』は、真夏の南仏コート・ダジュールのリゾート地サントロペを舞台に、画廊のオーナーのアドリアン(パトリック・ボーショー)と恋多き奔放な少女アイデ(エデ・ポリトフ)の恋愛模様を描きます。 これぞ南フランスの王道バカンスといった情景のなか、小悪魔的魅力を存分に湛えた少女に振り回される男たちの様子を綴った本作品はロメール監督の最高傑作との呼び声も高く、ベルリン国際映画祭では銀熊・審査員特別賞を受賞しました。
『クレールの膝』
「六つの教訓物語」シリーズの第5作目を成す『クレールの膝』は、オート=サヴォワ県の避暑地アヌシー湖畔に建つ別荘を舞台に、うら若き姉妹の虜になる中年の外交官ジェローム(ジャン=クロード・ブリアリ)の心情を描いた物語です。 婚約者を持つ身ながら10代の少女ローラに魅了されるジェローム。やがて彼はローラの姉クレールの美しい「膝」にただならぬ執着心と欲望を抱くようになり......。 中年男性の独身最後の情慾に濃厚なフェティシズムを織り込んだこの作品は、2010年のロメール監督の逝去に際し、監督と旧縁のパリのシネマテーク・フランセーズで特別上映されました。
『O侯爵夫人』
続いてご紹介するのは、1979年のカンヌ国際映画祭で審査員特別グランプリを受賞した『O侯爵夫人』。ドイツの作家、ハインリヒ・フォン・クライストが1808年に発表した同名小説の映像化作品です。 舞台となったのは1799年、ロシア軍に陥落した直後のイタリア北部の都市。戦後の混乱のなか、貞淑な未亡人のO侯爵夫人(エディット・クレヴェール)はロシア軍の伯爵(ブルーノ・ガンツ)の保護を受けることに。ほどなくして実家に戻ったO侯爵夫人でしたが、そんな彼女に身に覚えのない妊娠が発覚します。 家族からも不貞の烙印を押され困惑したO侯爵夫人は、子供の父親に名乗り出て欲しいという新聞広告を出します。名乗り出てきた男性と再婚に踏み切る覚悟のO侯爵夫人ですが、果たして彼女の運命はいかに......?
『海辺のポーリーヌ』
ロメール監督の「喜劇と格言劇」シリーズの第3作目を飾る『海辺のポーリーヌ』は、フランス北西部に位置するノルマンディー地方の海辺の別荘を舞台に、15歳の少女ポーリーヌ(アマンダ・ラングレ)と従姉妹のマリオンが経験する一夏の短い恋を描いた作品です。ベルリン国際映画祭では銀熊・最優秀監督賞に輝きました。 ロケーション主義を掲げるヌーヴェル・ヴァーグの精神を色濃く反映した本作品では、波の音や鳥の声といった「自然の音楽」を背景に少女たちの恋愛論が語られます。 ロメール作品ではおなじみのカメラマン、ネストール・アルメンドロスによる自然光をたくみに利用した絵画さながらの色彩表現も美しく、瑞々しい紫陽花の庭や夏の太陽光を浴びて繊細な煌めきを放つ少女の髪は映画ファンのみならずとも必見と言えるでしょう。
『緑の光線』
「喜劇と格言劇」シリーズ第5作目の『緑の光線』の主人公は、孤独な20代の秘書デルフィーヌ(マリー・リヴィエール)です。パリのオフィスに勤務する彼女は特定の恋人がいるわけでもなく、唯一楽しみにしていた女友達とのギリシャでのバカンスもドタキャンされてしまいます。 シェルブールやアルプス、そしてビアリッツなどフランス各地へと旅に出るものの煮え切らずに孤独感に苛まれるデルフィーヌでしたが、ある日彼女はジュール・ヴェルヌの小説『緑の光線』の話を耳にします。 目撃すれば幸せになれるという日没直前の太陽が放つ緑の閃光。彼女に奇跡は訪れるのでしょうか。ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞受賞作品です。
まだまだある!ロメール監督のおすすめ作品
さて、このたびの記事ではエリック・ロメール監督の代表作を厳選してご紹介いたしましたが、エキゾチックなバカンス模様を気軽に眺めたいという方にはうってつけとも言える作品の揃い踏みとなりました。 しかし、スクリーンに映る風光明媚な景色を見流しているはずが、ふと気が付けば自分の恋愛観や休日の身の振り方について熟考させられていた、という状況に誘い込む作品も多いのも事実。 まさに多角的な味わい方が可能なロメール監督作品ですが、今回ご紹介した作品以外にもパスカルの哲学やキリスト教神学を追求する『モード家の一夜』(1969)や「四季の物語」シリーズなど珠玉の名作が数多く存在します。未視聴の方はこの機会にぜひご覧ください。