2018年11月5日更新

謎多き欲望のスキャンダル。映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』【鑑賞後レビュー】

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ビリオネア・ボーイズ・クラブ
(C)2017, BB Club, LLC. All rights reserved.

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欲望渦巻くスキャンダル映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』

時は1980年代、アメリカ。人々の夢と欲望が混ざり合う渾沌の地のロサンゼルスでは、ある社交クラブが結成され、投資家たちからの熱視線を浴びていた。ビリオネア・ボーイズ・クラブ、通称BBCを率いていたのは、頭脳明晰な金融マンのジョー・ハントと、広いコネクションと持ち前の処世術で社交界を渡り歩くプロテニスプレイヤーのディーン・カーニーという、ふたりの若者だった。 高校時代の同級生であり、その頃からかすかなシンパシーを感じ合っていたふたりは、卒業後に再会すると同時に瞬く間に意気投合。互いのスキルと得意分野を生かした大胆な儲け話を思い付き、やがてその計画は思いがけない方向へと広がりを見せ、ついにはロサンゼルスを震撼させる前代未聞の大スキャンダルへと変貌を遂げてゆく。 未だ未解決の部分を残す謎深き事件を題材とし、『ベイビー・ドライバー』のアンセル・エルゴ―トと『キングスマン』のタロン・エガートンという注目の若手俳優ふたりの共演を実現させた映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』。鑑賞後のレビューを本記事ではいち早く紹介するとともに、本作が含有する人間特有の思考や価値観の危うさについて言及していきたい。 また、本記事ではネタバレ要素も含むのでご注意を。

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その価値に「真実」はあるのか?

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作中でジョーとディーンは、金市場の下落で損失を出しているにも関わらず、小切手を書き換えるなどして偽りの利益を生み出していく。そしてそれを投資家たちは何の疑いもなく信じ切り、さらに架空の大金へと膨れ上がっていくのだが、実態の見えないものに執着し本質を見失うことの恐ろしさがその光景からひしひしと伝わってくる。 何を物事の価値とするかは個人の自由であり、確固たる真実などこの世にはないのかもしれないが、漠然と思い込んできた事柄に対し、あるときふと立ち止まって疑念を抱いてみるのも大切なことなのかもしれない。人間は熱狂の中に立たされたとき、周囲の流れとその温度の高さに身を任せ、我を失ってしまいがちだが、そんな社会に警鐘を鳴らす存在はいつの時代も必要であると考えられる。 まさに本作は、資本主義に憑りつかれた現代の鏡となるべくものであり、物事の価値観や多様性に大きな変化を迎えている今日の社会に取り上げられるべき題材であることを、本作は示唆している。

人間を結ぶものは何か

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ジョーとディーン、そしてその他のBBCのメンバーは、いわば金で繋がる仲間たちである。そこにあるのは純粋な友情なのか、それとも完全なる損得で割り切られた絆だったのか、この答えは本作の結末に隠されている。 なお実際の事件では、ジョーの行動が詐欺から殺人にまで発展し彼がモンスターと化していくのを見ていられず、自ら罪を告白したというディーンの供述と、ディーンに罪を単独で着せられ裏切られたというジョーの見解が記録されている。事件については関係者が皆異なる主張を展開しているため、事件発覚までのふたりの真意はいまだに明らかになっていない。

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本作では、ジョーとディーンは名門高校を卒業しながらも、他の生徒とは違いふたりとも一般家庭で育ち、そのことについて少なからずコンプレックスを抱いていた。そして周囲との価値観のずれや格差からくる劣等感、富や名声への執着がふたりの共通点であり、それがふたりを結び付けていった。 幸福な感情よりも負の感情が人間の仲を深めるという現象が存在するように、ジョーとディーンもある歪んだ感情を共有することで仲間意識を高め、その関係を強化していった。しかしそれは裏を返せば極めて脆く危ういものであり、ほつれやすいものでもあったとも考えられる。

ビリオネア・ボーイズ・クラブ
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本作で大きなテーマのひとつとなっているのが、人間同士のつながりの真価だ。金と地位への羨望を共通項として惹かれ合ったジョーとディーンは、いとも簡単にそのつながりを裏切ることとなったのだが、どんなきっかけであれ絆であったことは間違いない。 そこで問われるのが、絆の本質にあるものだ。物質的な欲望と劣等感を繋いだのは偽りの関係だったが、ジョーとディーンの間に全くの友情がなかったとは思えない。なぜなら同胞意識とともに同じ感情を分け合っているからだ。その一方で微笑みかけてくれた隣人が、いつ牙を剥くかはわからない。人間ほど猜疑心に囚われる生き物は他にいないだろう。

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泥沼の人間模様を注目俳優のタッグで描く

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メインキャストふたりの共演が話題となり、日本公開前から大きな注目を集めている映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』。実在の出来事を題材としているため、随所にドキュメンタリー調の解説が加わるなどの一定のトーンを保ちながらも、迫力のある展開とキャスト陣の熱演からクライム映画としての側面も光る、硬派かつエンターテインメント性も優れた作品となっている。 過去にも実写映画化するなど、今もなお人々に衝撃を残す欲望まみれのスキャンダルを、ぜひ目撃してほしい。 映画『ビリオネア・ボーイズ・クラブ』は、2018年11月10日から公開。