【ネタバレ】映画『歩いても歩いても』「ブルーライトヨコハマ」や名言に込められた意味を考察
2008年に公開された是枝裕和監督の長編映画6作目『歩いても 歩いても』。 この記事では、本作のあらすじをネタバレありで紹介し、挿入歌「ブルーライトヨコハマ」の意味や作品のテーマ、ラストシーンの意味を考察していきます。さらには、ロケ地やホラーとも言われるほど怖い理由なども解説していきます。
【基本概要】是枝監督映画『歩いても歩いても』
| タイトル | 『歩いても 歩いても』 |
|---|---|
| 公開年 | 2008年6月28日 |
| 上映時間 | 104分 |
| 監督・脚本 | 是枝裕和 |
| 主要キャスト | 阿部寛 , 夏川結衣 , YOU , 樹木希林 , 原田芳雄 |
『歩いても 歩いても』は、マル・デル・プラタ国際映画祭(アルゼンチン)の最優秀作品賞やサン・セバスティアン国際映画祭(スペイン)の脚本家協会賞など、海外で高評価を得ています。またブルーリボン賞をはじめ高崎映画祭や報知映画賞など、多くの国内映画賞を受賞しています。特に是枝裕和監督の演出・脚本と、母親役を演じた樹木希林の演技が高く評価されました。
【あらすじ】映画『歩いても歩いても』どんな話?
元開業医の横山恭平(原田芳雄)と妻とし子(樹木希林)のもとに、長女のちなみ(YOU)と夫の信夫(高橋和也)の片岡家、そして次男の良多(阿部寛)と妻のゆかり(夏川結衣)の一家が訪れます。その日は長男・順平の命日であり、毎年家族が集って思い出を語り合っていました。 ゆかりは夫と死別しており、息子のあつしを連れて良多と再婚しています。ちなみは娘と息子を連れてきており、年老いた両親を心配して一緒に住むことを計画中。良多は父親と不仲であり、それはいまだに亡き兄と比べられることがコンプレックスになっていたからでした。
【ネタバレ】映画『歩いても歩いても』結末まであらすじ解説
長男の命日に集まる家族
横山良多は妻のゆかりと息子のあつしとともに、久しぶりに実家に帰省します。良多は絵画修復士ですが、現在は失業中。町の開業医を長年務めてきた父親の恭平とは折り合いが悪く、気が重いまま実家の門をくぐりました。 この日は良多の兄・順平の命日で、毎年家族が集まって冥福を祈り、思い出を語り合う日になっています。順平は15年前に見ず知らずの少年を助けようとして水死していました。姉のちなみも夫の信夫と2人の子どもとともに帰省しており、母のとし子と一緒に手料理を作っています。 豪華な料理を囲んで久しぶりの一家団欒が始まりますが、会話が進むにつれて家族の間に潜むそれぞれの複雑な感情が露わになってくるのでした。
隠しきれない本音
優秀だった兄と事あるごとに比較されるのがコンプレックスな良多、医院を継いでほしかった長男の喪失をいまだ受け入れられない恭平、この2人の気まずさが度々一家団欒に水を差してしまいます。 ちなみは年老いた両親を心配して一家で実家に移り住もうと考えていますが、恭平は自分の居場所である診察室を潰されるのが嫌な様子。そんな夫の気持ちを察しているとし子は「今さら他人と住むのは……」と言ってやんわりと断っていました。 ゆかりは夫と死別して良多と再婚していますが、そのことに何気なく触れる恭平やとし子の言葉に内心傷ついています。あつしは周りの様子をうかがえる賢い子ですが、父の喪失に向き合っている途中で、少し心のバランスを崩しているようです。 そしてちなみたち片岡家が日帰りで帰って行った後、良多たちと鰻丼を晩餐に楽しみながら、とし子は唐突に好きだったというレコードをかけてくれと頼みます。それはいしだあゆみの「ブルーライトヨコハマ」で、恭平との思い出の曲だと言いますが、恭平はぴんと来ていないよう。 風呂に入っている恭平にタオルを持ってきたとし子は曲を口ずさみながら、「良多をおぶってあの女の家に行ったときにかかっていた曲」だと言います。知られていないと思っていた過去の浮気を、とし子は知っていたのでした。
間に合わなかった言葉
とし子は意外な本音を、昼間に順平が助けた少年が線香をあげに訪ねてきた時にも話していました。少年は25歳になっていますが定職に就いておらず、大汗かいた巨体を持て余している、どうみても冴えない大人になりつつあります。 そんな彼の様子を見て良多は「来年から彼は呼ばなくてもいいのでは?」と言いますが、とし子は「15年やそこらでは許せない」とあえて苦痛を与えるために彼を招き続けていると語りました。 笑顔の裏にある嫌味や小さな嘘、コンプレックスが交錯する中で夜が更けていき、翌朝良多たちは東京へ戻っていきます。帰る前に恭平とサッカー観戦の約束をした良多でしたが、結局父との距離が縮まることもないまま、その3年後に恭平は亡くなり、とし子も後を追うように亡くなりました。 ゆかりとの間に娘ができ、海の見える墓地に4人家族で参った良多。かつてとし子がしていた蝶の話を同じように娘にしながら、墓地を後にするのでした。
【考察】「ブルーライトヨコハマ」は浮気をした恭平への当てつけ
この物語の登場人物の中で、一番本音を隠してきたと思われる母のとし子。その彼女があえて一家団欒の食卓で「思い出の曲」として家族に聴かせた「ブルーライトヨコハマ」は、明らかに浮気をした恭平への当てつけであり、小さな復讐だったと考えられます。 この曲は昭和歌謡のヒット曲であり、横浜が舞台の恋愛ソング。本作の舞台も神奈川で、恭平の若気の浮気と幼子を抱える浮気されたとし子の、その時代の「思い出の曲」として夫婦としての歩みを象徴する1曲でもあります。 本作のタイトル「歩いても 歩いても」が歌詞に入っていることからも、この曲が象徴と皮肉を示していることがわかります。これまでずっと心にしまってきた本音をなぜこのタイミングで晒したのかはわかりませんが、このことを話すとし子のトーンが異常に冷静で、彼女の秘めた狂気がよく伝わってくる場面となっていました。
【考察】ラストシーンに込められた意味とは
本作は、良多が家族と両親の墓参りをするシーンで終わっています。良多は兄と両親を亡くし、ゆかりは夫を、あつしは父を亡くすという経験をしてきた者同士。大切な家族を失う辛さを共有しているため、良多とあつしは血は繋がらないものの、あの後も寄り添って生きてきたと思わせる温かな空気を感じられました。 そこへ良多とゆかりの娘が加わり、生きていく側は「新しい家族の形」を作って「家族が続いていく」。それを示して幕を閉じたことは、是枝監督が本作で描きたかった「救い」なのかもしれません。
【名言】「いっつもこうなんだ。ちょっと間に合わないんだ。」に込められたテーマ
良多が実家から東京へ戻るバスの中で、とし子が思い出せなかった力士の名前を思い出します。しかし時すでに遅し、そんな何でもないような些細な事でも間に合わず、思わず良多は「いっつもこうなんだ。ちょっと間に合わないんだ」と呟きました。 その後のナレーションで、結局父とのサッカー観戦も母を自分が運転する車に乗せることも出来なかったことが語られますが、これらも「ちょっと間に合わなかった」こととして良多の心に残ったことだったのでしょう。 「親孝行したいときには親はなし」とよく言いますが、してあげたかったことが出来ないまま親を旅立たせてしまって後悔したという是枝監督自身の経験が、この名言に込められているようです。
【感想】映画『歩いても歩いても』は怖い?ホラーとも言われる理由とは
本作の感想の中で「怖い」という言葉がよく見つかるのは、おそらく母とし子の静かな狂気が見え隠れするシーンのことかもしれません。ホームドラマの日常に潜むホラーのように描かれており、話の端々に「毒」や「執着」が隠されています。 順平の事故死に対する家族の悲しみ方がそれぞれで温度差があり、それが癒えていないズレた15年後を描いている点も「怖い」と感じられる一面であり、しかしそれが本作の魅力でもあります。
是枝監督作の中でも割と結末が想像を促す系ではなく、未来が明確に描かれている物語で最後は温かい気持ちになる。それまでが結構心理的にホラーな描写があって怖い面もあるので、良多が最後にわだかまりを解いて心も救われている様子にも見えて良かった。
【ロケ地】撮影されたのはどこ?
本作の舞台は神奈川県で、医院と住居が一緒になっている横山家の外観以外は神奈川の各所がロケ地となっています。横山医院の外観は、東京都三鷹市の「永井医院」が使われました。 良多があつしと入って話をしたファミレスは「不二家」の三浦海岸店で、現在は閉店しています。また劇中に登場する象徴的な階段は三浦郡葉山町にあり、海を臨む横山家の墓地は横須賀市にある「久里浜霊園」です。
映画『歩いても歩いても』ネタバレ解説!「ちょっと間に合わない」人生を描く名作

是枝裕和監督の長編映画6作目『歩いても 歩いても』は、家族が抱える複雑な感情が交錯するホームドラマ。多角的に「家族」を映し出してきた是枝監督の作品を、この機会にぜひ初期のものから鑑賞してみてはいかがでしょうか?



