(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

【ネタバレ注意】『万引き家族』を徹底解説&考察!是枝裕和監督が描く家族の形とは?

2018年6月26日更新

2日間限定で行われた先行上映だけでも15.3万人を動員した注目作『万引き家族』。今までも「家族」を題材にしてきた是枝監督の最新作は、私たちにどのような影響をもたらすのでしょうか?

ネタバレ注意!何かと話題の『万引き家族』を徹底解説&考察【カンヌ受賞】

第71回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した映画『万引き家族』が、2018年6月8日に全国の映画館で公開されました。日本映画の同賞受賞は、1997年の今村昌平監督作『うなぎ』以来21年ぶりの快挙です。 以前から国内外で高い評価を受けていた是枝裕和監督作品であることや、カンヌ映画祭・審査委員長のケイト・プランシェットらが安藤サクラの演技を絶賛したこと、『誰も知らない』の柳楽優弥を彷彿とさせる子役たちの眼差しなど、公開前から話題に事欠かない本作。 他方、「万引き」という犯罪で生計を立てている一家を描いたことに対する批判など、本作に対するネガティブな意見も多く見られていますが、本作に対して多くの人々が関心を寄せていることがうかがえます。 この記事ではそんな話題作『万引き家族』をネタバレありで、徹底解説&考察していきます。家族の本当の関係や、劇中何度も出てきた「スイミー」が意味するもの、家族のその後について考えてみませんか?

『万引き家族』は是枝裕和監督が描く新たな「家族」の物語

柳楽優弥の主演男優賞受賞が話題となった2004年の『誰も知らない』では、親に見放された子供たち。2013年の『そして父になる』では、出生時の病院で子供を取り違えられ、血縁と過ごした時間との間で悩む2つの家族。2016年の『海よりもまだ深く』では離散した家族のその後の交流。 漫画原作の『海街diary』でも、親と一緒に生活することのできなかった姉妹たちが、腹違いの妹と家族になるという、今までの是枝作品に通じるストーリーがそのまま映像化されています。 このように是枝裕和監督はこれまで様々な家族を自分の作品の中で描いてきました。家族とはなんだろうという問いかけとも思えるこれらの作品たちの延長線上に、本作『万引き家族』は位置しています。

豪華キャストが静かに紡ぐ人間ドラマ

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

ケイト・プランシェットは、本作を「見えない人々(Invidsible People)」の物語であると表現しましたが、本作を形作ったのは、見えない人々とは対照的な豪華俳優陣。リリー・フランキーや樹木希林、安藤サクラや松岡茉優を始めとする、主演級の華やかな顔ぶれが揃っています。 しかし、彼らは演技合戦という表現が似合わないほど、自然な表情と言葉遣いで静かに社会の片隅で生きる人々を演じました。池松壮亮や片山萌美、山田裕貴もわずかな出演時間ながら、主役の家族たちとはまた異なる「見えない人々」としての役目を果たしています。

『万引き家族』あらすじ【ネタバレなし】

都会の片隅で生きる「見えない人々」

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

治と信代の夫婦は息子の祥太、治の母の初枝、信代の妹・亜紀と5人で暮らしています。治は日雇いの工事現場、信代はクリーニング店で働いていますが、それだけで家族が暮らすことは困難で、初枝の年金をあてにしています。それでも足りない分は万引きで補う貧困生活でしたが、彼らは幸せそうに暮らしていました。 ある冬の寒い日、いつものように万引きをした帰り道で、治と祥太は家から閉め出され、凍えている少女を見つけました。治が家に連れてきた少女に夕飯を分け与えると、信代はすぐに少女を家に帰そうとしました。しかし、少女の両親の口論を聞いた信代は来た道を引き返しました。 こうして6人での新たな生活が始まりました。

【ネタバレ解説】“万引き家族”の本当の関係とは?

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

物語終盤、祥太が行った万引き事件がきっかけで、家族は警察に連れて行かれました。そこで明らかになったのは、家族それぞれの正体と関係性でした。なぜ民生委員から逃げるのか、彼らがなぜ生活保護を受けていないのかといった疑問が全て明らかになります。 治の本名は榎勝太。前科持ちの小悪党で、初枝の息子ではありません。その妻・信代も本名は田辺由布子という名前です。夫婦は籍を入れておらず、息子の祥太も治が車上荒らしの途中で見つけた子供でした。亜紀も信代の妹ではなく、その正体は初枝の亡き夫と後妻の間に生まれた子供の娘です。 一つ屋根の下で暮らしていた「家族」たちは、誰一人として血縁もなければ、法的にも家族ではない存在の集まりだったのです。

【考察】「スイミー」が意味するもの

作中で小学校にも通えていない祥太が国語の教科書を朗読するシーンがあります。祥太が読んでいるのはレオ・レオニ作の『スイミー』。兄弟を失った黒い魚のスイミーが、兄弟そっくりの赤い魚たちと協力して、兄弟たちを食べたマグロを追い払って平和を手に入れる話です。 是枝裕和監督は、本作を「スイミーを読んでくれた女の子」に向けて作っていたと製作後に思うようになったと語っています。 しかし、ただ取材先で出会った少女へのトリビュートに留まらないと思えるほど、スイミーたちと祥太たち「家族」の姿は似ています。それぞれが力のない存在である彼らが「家族」という大きな魚に扮して、社会というマグロに立ち向かおうとしていたのではないでしょうか。

【考察】「家族」を崩壊させたものは何か【ネタバレ注意】

『万引き家族』
​(C)2018『万引き家族』 製作委員会

治たちの疑似家族は、祥太がわざと目立つように万引きをしたことが原因で瓦解しました。事件を起こしたのは、「妹」のりんを助けるためだったのでしょうか。それとも、犯罪を生業とする生活のおかしさに気付いてしまったからでしょうか。 何が答えなのかははっきりしていません。なぜなら祥太は理由を語らなったからです。祥太だけではなく、「家族」の誰もが自分の思いや世の中のことを語ろうとしません。彼らには圧倒的に言葉が足りないのです。 もし、最初から万引きが悪いことで、悪いことをしなければ、自分たちは生きられないと伝えていたら、祥太の行動は違っていたのではないでしょうか。また、初枝も亜紀の親から受け取ったお金を使わずに溜め込んでいたことを言っていれば、最後にわだかまりを残すことはなかったはずです。 彼らを崩壊させたのはりんを迎え入れたことでも、祥太がわざと捕まったことではなく、彼らの間に言葉が足りなかったことだと考えることもできます。

【考察】彼らはどうなっていくのか?

『万引き家族』
​(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

りんことじゅりに対する未成年者誘拐と初枝の死体を遺棄した罪で服役中の信代の元に、治は時々面会に行っているようです。「家族」になる前から一緒にいたこの2人は、少なくともしばらくの間は、夫婦ないし恋人関係を続けるでしょう。 他方、児童養護施設に入った祥太と、実の親の元に戻ったじゅりが、治と信代の「子供」になることはもうないでしょう。祥太はすでに治たちとの日々に別れを告げるような表情を見せました。そして、まだまだ幼いじゅりはあの家で生きていくしかないようです。 しかし、そんなじゅりの中でも疑似家族に愛された日々は残っています。幼いながらも母親の理不尽な要求に屈することなく、信代が教えた数え歌を歌います。きっと信代に愛されたことは、これからのじゅりを救うのではないでしょうか。

『万引き家族』に見る本当の家族とは?人間の「絆」とは?

血縁とはうまくいかなかったけど、色んな人と縁を結んだ。これは吉田秋生の『海街diary』でとある登場人物の人生を振り返る時に登場する表現です。 人と人との縁は決して血縁だけではありません。家族関係に恵まれなくても、友人や恋人、何かしらの同志と「絆」を結ぶことができます。その血縁ではない「絆」を「家族」と呼んでもいいのでしょうか? 結婚や出産、養子といった形を取らなければ「家族」にはなれないのでしょうか? あなたにとっての「家族」とは何ですか?