2019年7月4日更新

【ネタバレ感想】『万引き家族』を徹底解説&考察!ラストシーンが意味する本当の家族の形とは

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

作品ごとに、新たな切り口から”家族のあり方”を撮り続ける是枝裕和監督作『万引き家族』。犯罪でしか繋がれない一家を通して描かれる、本当の家族の形とは?結末・ラストシーンのその後も含め、ネタバレありで徹底解説&考察していきます。

ネタバレ注意!『万引き家族』をラスト・結末まで徹底解説&考察

第71回カンヌ映画祭で最高賞パルムドールを受賞した映画『万引き家族』。日本映画の同賞受賞は、1997年の今村昌平監督作『うなぎ』以来21年ぶりの快挙です。 「万引き」という犯罪で生計を立てている一家を描いた本作には、批判も含めて多くの声が集まりました。是枝裕和監督が本作で伝えたかった、本当のメッセージとは何なのでしょうか。 この記事では『万引き家族』をネタバレありで、感想を交えながら徹底解説&考察していきます。家族の本当の関係や、劇中何度も出てきた「スイミー」が意味するもの、ラストシーンから読み取れる彼らのその後について考えてみませんか? この記事は映画のネタバレに触れています。未鑑賞の方はご注意ください。

『万引き家族』は是枝裕和監督が描いた新たな「家族」の物語

柳楽優弥の主演男優賞受賞が話題となった2004年の『誰も知らない』では、親に見放された子供たち。2013年の『そして父になる』では、出生時の病院で子供を取り違えられ、血縁と過ごした時間との間で悩む2つの家族。2016年の『海よりもまだ深く』では離散した家族のその後の交流。 漫画原作の『海街diary』でも、親と一緒に生活することのできなかった姉妹たちが、腹違いの妹と家族になるという、今までの是枝作品に通じるストーリーがそのまま映像化されています。 このように是枝裕和監督はこれまで様々な家族を自分の作品の中で描いてきました。家族とはなんだろうという問いかけとも思えるこれらの作品たちの延長線上に、本作『万引き家族』は位置しています。

映画のあらすじ【結末ネタバレなし】

都会の片隅で生きる「見えない人々」

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

治と信代の夫婦は息子の祥太、治の母の初枝、信代の妹・亜紀と5人で暮らしています。治は日雇いの工事現場、信代はクリーニング店で働いていますが、それだけで家族が暮らすことは困難で、初枝の年金をあてにしています。それでも足りない分は万引きで補う貧困生活でしたが、彼らは幸せそうに暮らしていました。 ある冬の寒い日、いつものように万引きをした帰り道で、治と祥太は家から閉め出され、凍えている少女を見つけました。治が家に連れてきた少女に夕飯を分け与えると、信代はすぐに少女を家に帰そうとしました。しかし、少女の両親の口論を聞いた信代は来た道を引き返しました。 こうして6人での新たな生活が始まりました。

【ネタバレ解説】“万引き家族”の本当の関係とは?

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

物語終盤、祥太が行った万引き事件がきっかけで、家族は警察に連れて行かれました。そこで明らかになったのは、それぞれの正体と関係性でした。なぜ民生委員から逃げるのか、彼らがなぜ生活保護を受けていないのかといった疑問が全て明らかになります。

治の本名は榎勝太。前科持ちの小悪党で、初枝の息子ではありません。その妻・信代も本名は田辺由布子という名前です。夫婦は籍を入れておらず、息子の祥太も治が車上荒らしの途中で見つけた子供でした。亜紀も信代の妹ではなく、その正体は初枝の亡き夫と後妻の間に生まれた子供の娘です。 一つ屋根の下で暮らしていた「家族」たちは、誰一人として血縁もなければ、法的にも家族ではない存在の集まりだったのです。

タイトル『万引き家族』に込められた意味

樹木希林『万引き家族』
​(C​)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

タイトルの『万引き家族』は、「(亜紀を除いて)全員が”万引き”を日常的に行っている家族」という、ストレートな意味を持っています。治と祥太を筆頭に、初枝はパチンコ店で他人のドル箱を大胆にネコババしたり、信代もクリーニング店に預けられた洋服のポケットなどに入っていた物を家に持ち帰ったりしていました。 もう1つの意味としては、「万引き(誘拐)されて集まった家族」だということ。治は、りんを団地の外廊下から、治と信代は祥太をパチンコ店の駐車場から連れ帰りました。広い意味では、信代、治、亜紀も初枝に拾われたと言えるでしょう。 実は仮題は『声に出して呼んで』で、脚本も「お父さん」「お母さん」と子どもに呼ばれたい、と願う主人公の気持ちを軸に描いていたのだとか。プロデューサーら宣伝側の「内容が伝わりやすいタイトルを」との依頼により、現在の『万引き家族』に変更されました。

【考察】映画に登場する「スイミー」が意味するもの

作中で小学校にも通えていない祥太が国語の教科書を朗読するシーンがあります。祥太が読んでいるのはレオ・レオニ作の『スイミー』。兄弟を失った黒い魚のスイミーが、兄弟そっくりの赤い魚たちと協力して、兄弟たちを食べたマグロを追い払って平和を手に入れる話です。 是枝裕和監督は、本作を「スイミーを読んでくれた女の子」に向けて作っていたと製作後に思うようになったと語っています。 しかし、ただ取材先で出会った少女へのトリビュートに留まらないと思えるほど、スイミーたちと祥太たち「家族」の姿は似ています。それぞれが力のない存在である彼らが「家族」という大きな魚に扮して、社会というマグロに立ち向かおうとしていたのではないでしょうか。

【ネタバレ解説】治と信代は本当の夫婦ではない!?2人の過去とは……

『万引き家族』
(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

治と信代は籍を入れた本当の夫婦ではなく、もともと信代はホステスとして働いており、治はその店の常連客という関係でした。

信代は治と交際する前、別の男性と結婚しており、DV(家庭内暴力)を受けていました。精神的に追い詰められた信代は治と共謀して前夫を殺害し、死体を埋めて隠ぺい。裁判では治が信代を庇って罪を被り、「”正当防衛で”彼女の夫の胸に包丁が刺さった」と証言したのが認められて、執行猶予つきの実刑判決を受けていたのです。 つまり、初枝は過去に彼らが殺人を犯していたと知った上で、同居人として迎え入れました。

ただひとり”万引き”をしていない、亜紀というキーパーソン

『万引き家族』
​(C)2018『万引き家族』 製作委員会

亜紀だけは万引きする描写がなく、治や信代が給料を生活費に充てる中、初枝により収入を渡さなくても良いとされていました。 作中で初江は、前夫の月命日に後妻との間に生まれた息子夫婦が住む家を訪れ、供養ついでに慰謝料などの名目で金を無心しています。亜紀はこの家の長女ですが、息子夫婦と初枝の間で彼女は海外旅行中になっており、都内にいるとは知られていません。 亜紀が初枝の家にやって来たのは、才能あふれる妹・さやかに両親の愛情を奪われ、居場所を失ったと感じて家出をしたから……。勤務先の風俗店「JK見学クラブ」での源氏名を「さやか」にしている点でも、妹へのコンプレックスが伺えますね。 本人からではないにせよ、初枝はすでに金を受け取っていると判断したのでしょう。しかし、実際には慰謝料を貯めていたので、何らかの意図があったのかもしれません。

松岡茉優と亜紀の共通点とは

【考察】「家族」を崩壊させたものは何か【ネタバレ注意】

『万引き家族』
​(C)2018『万引き家族』 製作委員会

治たちの疑似家族は、祥太がわざと目立つように万引きをしたことが原因で瓦解しました。事件を起こしたのは、「妹」のりんを助けるためだったのでしょうか。それとも、犯罪を生業とする生活のおかしさに気付いてしまったからでしょうか。 何が答えなのかははっきりしていません。なぜなら祥太は理由を語らなったからです。祥太だけではなく、「家族」の誰もが自分の思いや世の中のことを語ろうとしません。彼らには圧倒的に言葉が足りないのです。 もし、最初から万引きが悪いことで、悪いことをしなければ、自分たちは生きられないと伝えていたら、祥太の行動は違っていたのではないでしょうか。また、初枝も亜紀の親から受け取ったお金を使わずに溜め込んでいたことを言っていれば、最後にわだかまりを残すことはなかったはずです。 彼らを崩壊させたのはりんを迎え入れたことでも、祥太がわざと捕まったことではなく、彼らの間に言葉が足りなかったことだと考えることもできます。

“万引き家族"はその後どうなったのか?ラストシーンを考察

『万引き家族』
​(C) 2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

映画のラストでは、亜紀が警察で全てを話し、りん(=北条じゅり)の未成年者誘拐、初枝の死体遺棄など一家が犯してきた罪状は信代がひとりで引き受けました。その後、信代は刑務所に入り、祥太は児童保護施設に入居し、治は一人暮らしを始めます。 治は信代の元へ面会に行っているようですし、今後も関係を続けていくのでしょう。亜紀に関する描写はありませんが、実家へ戻ったか、一人暮らしの可能性も。特に祥太は小学校で優秀な成績を残し、趣味にも精を出すなど最も新しい生活を謳歌しているようで、治たちとの日々に別れを告げるような表情さえ見せました。 一方、親元に戻ったりんは、母親からのネグレクトなど児童虐待が復活し、治と出会った時と同じ団地の外廊下で一人きりでした。そしてラストは、台に乗って外を見ようとするりんの寂しげな表情を映し出し、『万引き家族』は幕を閉じるのです。 あえて最後で、血の繋がった家族と生活するりんの悲惨さを描いたところに、是枝監督からの問題提起があるのかもしれません。血の否定ではなく、家族を家族たらしめるものとは?それは絆でも、他の何かでもいいのではないかという、多様性の提案にも感じました。

豪華キャストが静かに紡いだ人間ドラマ

『万引き家族』、リリー・フランキー 安藤サクラ 松岡茉優 城桧吏 佐々木みゆ 樹木希林
©2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

カンヌ映画祭の審査委員長を務めたケイト・ブランシェットは、本作を「見えない人々(Invidsible People)」の物語であると表現しました。そんな本作を形作ったのは、見えない人々とは対照的な豪華俳優陣。リリー・フランキーや樹木希林、安藤サクラや松岡茉優を始めとする、主演級の華やかな顔ぶれが揃っています。 しかし、彼らは演技合戦という表現が似合わないほど、自然な表情と言葉遣いで静かに社会の片隅で生きる人々を演じました。池松壮亮や片山萌美、山田裕貴もわずかな出演時間ながら、主役の家族たちとはまた異なる「見えない人々」としての役目を果たしています。 彼らの名演技によって、映画『万引き家族』は多くの人の心に刺さる作品になったと言っても過言ではありません。

映画『万引き家族』のラストに何を思う?人間の「絆」とは

「血縁とはうまくいかなかったけど、色んな人と縁を結んだ。」これは吉田秋生の『海街diary』で、とある登場人物の人生を振り返る時に登場する表現です。 人と人との縁は決して血縁だけではありません。家庭環境に恵まれなくても、友人や恋人、何かしらの同志と「絆」を結ぶことができます。その血縁ではない「絆」を「家族」と呼んでもいいのでしょうか?結婚や出産、養子といった形を取らなければいけないのでしょうか? 『万引き家族』の結末・ラストシーンは、是枝監督から私たちに向けられた「家族」に関する問題提起だったように思います。あなたにとっての「家族」とは何ですか?