【草野監督に聞く】Netflix『SとX』制作秘話―中島健人がかっこよすぎでNGテイクに?
タップできる目次
- Netflix『SとX』作品概要
- 【原作の第一印象】「セックスに悩んでいない人なんていません」に感じた誠実さ
- 【実写化の核】一人ひとりの悩みに、自分自身も真摯に向き合う
- 【取材で得た発見】「セックスをすること」がゴールではない
- 【中島健人という人】外見も中身も、努力に裏打ちされた才能
- 【主人公・霜鳥の造形】プロ、ユーモア、深い悩み——三つの面を重苦しくなく
- 【市之瀬佑美役・新木優子】オンオフなく“佑美”としてそこにいた
- 【犀川優太役・三浦獠太】『彼女が好きなものは』(2021年)から続く信頼、監督直々の指名
- 【夏目真凜役・藤間爽子】現場での安心感を支えた“いつもの顔”
- 【加瀬詩音役・山口紗弥加】真っ赤なセラピールームで、どんどん膨らんだキャラクター
- 【オリジナルの挑戦】VR空間の“ファントムセンス”と、ベタベタな人情劇
- 【ユーモアの効用】どんなに重い題材でも、笑いは武器になる
- 【第5話の秘密】4分間、全編アドリブの感動的なシーン
- 【霜鳥クリニックの美術】“お金がない”からこそ滲む、アットホームな味
- 【今後の構想】まだまだ描ける悩みがある——続編への手応え
Netflix『SとX』作品概要
| 配信 | 2026年8月20日(木)よりNetflixにて世界独占配信中 |
|---|---|
| 話数 | 全7話 |
| 監督 | 草野翔吾 |
| 脚本 | 吉田智子(シリーズ構成・脚本) , 草野翔吾 , 松島瑠璃子 , ばばたくみ |
| 原作 | 多田基生『SとX ~セラピスト霜鳥壱人の告白~』(講談社「モーニング」刊) |
| 音楽 | FUKUSHIGE MARI |
| 撮影監督 | 山田康介 |
| 美術 | 安藤真人 |
| 出演 | 霜鳥壱人役/中島健人 , 市之瀬佑美役/新木優子 , 犀川優太役/三浦獠太 , 夏目真凜役/藤間爽子 , 数馬俊役/中村蒼 , 鴻野未来役/久間田琳加 , 加瀬詩音役/山口紗弥加 , 来栖大介役/ユースケ・サンタマリア , 豊原則夫役/佐野史郎 |
| 制作プロダクション | オフィス・シロウズ |
| 企画・製作 | Netflix |
精神科医でセックスセラピストの霜鳥壱人が営む「霜鳥クリニック」を舞台に、誰にも打ち明けられない性の悩みを抱えた人々と、彼らに誠実に向き合う霜鳥の姿を描くヒューマン・ラブストーリーです。中島健人が“ケンティー”の華やかなイメージを封印し、静かな説得力で新境地に挑みます。 原作は『イブニング』(講談社)で2021年に連載された全3巻の漫画『SとX ~セラピスト霜鳥壱人の告白~』で、2026年1月からは続編『SとX セラピスト霜鳥壱人の診察室』が「モーニング・ツー」で始まっています。
『SとX』あらすじ
セックスセラピスト・霜鳥壱人の「霜鳥クリニック」には、セックスレスやED、依存症、性的トラウマなど、誰にも打ち明けられない切実な性の悩みを抱えた人々が訪れます。 周囲の偏見の視線にさらされながらも、霜鳥はカウンセリングを通して一人ひとりに誠実に向き合っていきます。しかし、彼自身もまた、人知れず悩みを抱えていて——。そんな霜鳥が、中学時代の初恋の相手でTVキャスターの市之瀬佑美と運命的な再会を果たしたことで、物語は静かに動き始めます。
草野翔吾監督プロフィール
| 名前 | 草野翔吾(くさの しょうご) |
|---|---|
| 生まれ | 1984年 , 群馬県桐生市 |
| 出身 | 早稲田大学社会科学部 |
| 商業デビュー | 『からっぽ』(2012年) |
| 監督作(映画) | 『にがくてあまい』(2016年) , 『世界でいちばん長い写真』(2018年) , 『彼女が好きなものは』(2021年) , 『アイミタガイ』(2024年) , 『大きな玉ねぎの下で』(2025年) |
| 主な演出作(ドラマ) | 『レンタルなんもしない人』(2020年) , 『消えた初恋』(2021年) , 『消しゴムをくれた女子を好きになった。』(2022年) , 『こっち向いてよ向井くん』(2023年) , 『民王R』(2024年) , 『100日後に別れる僕と彼』(2026年) |
| 脚本参加 | 『九月の恋と出会うまで』(2019年 , 監督は山本透) |
1984年生まれ、群馬県桐生市出身。早稲田大学の映画研究会で自主制作を始め、在学中に手がけた監督作が学生映画祭で評価を受けました。故郷・桐生を舞台にした『からっぽ』(2012年)で商業映画デビューを果たし、同作は第4回沖縄国際映画祭などに選出されています。 その後は、『にがくてあまい』(2016年)、『世界でいちばん長い写真』(2018年)などの青春映画を手がけ、『彼女が好きなものは』(2021年)では、ゲイであることを隠して生きる高校生を主人公に、セクシュアリティや周囲との関係に揺れる若者の姿を描きました。同作は第26回釜山国際映画祭、第34回東京国際映画祭にも選出されています。さらに、黒木華主演の群像劇『アイミタガイ』(2024年)、爆風スランプの楽曲に着想を得た『大きな玉ねぎの下で』(2025年)など、幅広いジャンルの作品を手がけています。 テレビドラマでも、『レンタルなんもしない人』(2020年)、『消えた初恋』(2021年)、『こっち向いてよ向井くん』(2023年)、『民王R』(2024年)などでメイン監督を担当。2026年には、『彼女が好きなものは』と同じく浅原ナオトの小説を原作とするMBSドラマ『100日後に別れる僕と彼』も手がけるなど、映画とドラマの両分野で活躍を続けています。
【原作の第一印象】「セックスに悩んでいない人なんていません」に感じた誠実さ
Q. 多田基生さんの原作『SとX』を最初に読まれたとき、どのような感想を持たれましたか。 草野監督 こういった企画があるということで原作をご紹介いただき、読ませていただいたのですが、まず冒頭で主人公・霜鳥の「セックスに悩んでいない人なんていません」というセリフがボンと提示されて、そこにすごくドキッとしました。 そこから描かれていくセックスや性にまつわる悩みも、とても信頼できるものだと感じたんです。過度にセンセーショナルに描くのではなく、きちんと現代的な視点を持ちながら、ある種の社会問題として、あるいは非常に個人的な悩みとして、一つひとつに真摯に向き合って描いている。そんな印象を受けました。
【実写化の核】一人ひとりの悩みに、自分自身も真摯に向き合う
Q. 実写として表現するうえで、大切にされたこと、核にされたことをお聞かせください。 草野監督 やはり「セックスに悩んでいない人はいない」というテーマには、僕自身もすごく共感するところがありました。一方で、「本当にそうなんだろうか?」という問いも含めて、そこが原作の一番中心にあるものだと思ったんです。 だからこそ、まずはその部分を大切にしたいと思いました。そのうえで、霜鳥をはじめ、登場人物それぞれが抱えている悩みに一つひとつ、自分自身も真摯に向き合うような気持ちで、実写ドラマを撮っていきたいと思いました。
【原作との対話】大胆な改変への戸惑いと、監督としての責任
Q. 撮影前、原作者・多田基生さんと実写化にあたりすり合わせることはあったのでしょうか? 草野監督 多田さんと直接のやり取りはなかったんです。実際に監督としてお話をいただいたときには、まず第1話のロングプロットと、全話でどういったテーマを扱っていくのかをまとめたショートプロットのようなものを渡されて、それを先に読みました。 その後に原作を読んだのですが、結構違う部分が多くて。ドラマオリジナルのテーマや題材も多かったですし、オリジナルの登場人物もいました。原作に登場する人物でも、同じ名前でありながら設定や性格が変わっていたりして、最初は少し戸惑いました。「こんなに変えて大丈夫なのかな?」という思いもありましたね。 ただ、僕が参加する前の開発段階で、多田さんとはきちんとお話をされていて、了承を得たうえで企画が進んでいると伺いました。多田さんご自身も納得されているということだったので、僕としてはそこを信じて準備を進めていきました。 そのうえで、撮影が近づくにつれて、「原作が大切にしている要素が抜け落ちていないか」という部分については、僕自身が監督として一つひとつチェックしながら進めていった、という感じです。
【取材で得た発見】「セックスをすること」がゴールではない
Q. セックスセラピストという職業について、取材を重ねるなかで気づかれたことや、印象が変わったことはありましたか? 草野監督 実際にセックスセラピストとして活動されている方や、カウンセラー、精神科医の方など、何人かにお話を伺いました。実際にどのような形でセラピーを進めていくのかを見せていただく機会もありました。 その中で、僕自身の認識が一番変わったのは、「セックスをすること自体がゴールではない」ということでした。 例えば、セックスレスやEDに悩んでいる方が相談に来られた場合、僕はどこかで「セックスができるようになることがゴールなんだ」と思い込んでいたところがあったんです。でも、必ずしもそうではない。そのことを知れたのが、僕にとっては一番大きな発見でした。
【中島健人という人】外見も中身も、努力に裏打ちされた才能

Q. 主演・中島健人さんと実際にご一緒してみていかがでしたか。率直な印象をお聞かせください。 草野監督 印象としては、とにかくかっこいい方です。外見だけではなく、中身もすごくかっこいい。多方面に才能を持っている方ですし、しかもその才能は決して偶然のものではなく、きちんと努力に裏打ちされているものなんだろうな、という印象があります。
【現場の演出】微笑み方が“かっこよすぎて”リテイクに
Q. 中島健人さんが“かっこよすぎて”リテイクになったシーンがあったと伺いました。具体的には、どんなシーンだったのでしょうか。 草野監督 最初の頃、セラピーのシーンではそういうことがありました。霜鳥はセラピストとしてクライアントの話を聞く立場なのですが、相槌の打ち方一つとっても、「今のはかっこよかったな」と思う瞬間があって。 現場に入る前のリハーサルの段階で、話を聞いている霜鳥が、今にもクライアントを口説いてしまうんじゃないかと僕には見えた瞬間があったんです。中島さんにはそんなつもりはなかったかもしれないのですが、そのことは本人にもお伝えして、少しずつ調整していきました。 相槌や姿勢、特に難しかったのが微笑み方ですね。微笑みながら話を聞く、その表情がかっこよすぎてしまう(笑)。そのときは、はっきり「ちょっとかっこよすぎました」とお伝えしていました。すると中島さんも、「かっこよかったか、ですよね(笑)」というリアクションで。 そういったことに限らず、何か演出をお願いしたときも、本当に嫌な顔一つせず、きちんと向き合って考えたうえで、芝居をチューニングしてくださる方なんです。お芝居に向き合う姿勢がとても気持ちのいい方だなと思いました。
【主人公・霜鳥の造形】プロ、ユーモア、深い悩み——三つの面を重苦しくなく

Q. 中島健人さん演じる霜鳥壱人を実写として立ち上げるうえで、こだわったポイントをお聞かせください。 草野監督 まず、セックスセラピストという、少なくとも僕自身はこの企画を受けるまで知らなかった職業がある。そのプロフェッショナルとしての振る舞いが一つ。 もう一つは、霜鳥自身のパーソナリティです。自分が強く興味を持ったことに一直線に向き合っていく。その一方で、夢中になるあまり周りが見えなくなってしまうような、少しユーモラスな部分もある。 そして物語が進むにつれて、霜鳥自身も深い悩みや闇を抱えていることが見えてくる。この三つの異なる側面を、できるだけ重苦しくなりすぎない形で表現できればと思っていました。 中島さんにもそのあたりのお話をして、「霜鳥をこういうふうに見せていきたい」というイメージを共有しながら、相談して作っていきました。
【市之瀬佑美役・新木優子】オンオフなく“佑美”としてそこにいた

Q. ヒロイン・市之瀬佑美を演じられた新木優子さんとご一緒した印象をお聞かせください。 草野監督
新木さんが演じたのはアナウンサーという役で、話し方や立ち姿など、かなり特殊な技術が求められる職業だと思うんです。実際のアナウンサーの方々は皆さんしっかり訓練されていて、その積み重ねが、カメラの前ではない時間にも自然と表れるような気がして。 劇中の佑美も、番組に出演している時間より、そうではない時間のほうがもちろん長いわけです。だからこそ、そういった場面でも「佑美はアナウンサーなんだ」というリアリティを出したくて、撮影前に新木さんにはかなりトレーニングをしていただきました。 その甲斐もあってか、撮影中は本当にずっと佑美として見えていました。用意スタートからカットまでの間だけでなく、それ以外の時間も、役のスイッチを大きく切り替えているような印象があまりなくて。とても自然に佑美としてそこにいてくださったように感じています。
【犀川優太役・三浦獠太】『彼女が好きなものは』(2021年)から続く信頼、監督直々の指名

Q. 犀川役・三浦獠太さんは『彼女が好きなものは』でもご一緒されていますが、起用は監督のご指名だったのでしょうか? 草野監督 はい、僕から提案して、犀川役を三浦獠太くんにお願いしました。 『彼女が好きなものは』のときの三浦くんは、まだお芝居の経験がそれほど多くなくて、オーディションで選んだんです。あの作品の小野はとても大事な役でしたし、彼自身もとにかく頑張ってくれた。自分で選んだ俳優だということも含めて、僕の中ではすごく思い入れがあります。
その後も関係は続いていて、『アイミタガイ』という映画では、飲み会のワンシーンだけの役にもかかわらず三重まで来てくれたりして。そんなふうに、とてもいい関係を続けてきました。 今回、犀川役を誰にするかという話になったときも、自然と「この役は三浦獠太がいいな」と思って、僕から提案しました。 Netflixという大きな現場で、しかも犀川という重要で出演シーンも多い役を、三浦くんと一緒に作れたことには、結構感慨深いものがありましたね。すごく偉そうな言い方になってしまいますが、「頼れる俳優になったな」と思いました。実際、今回の現場では僕自身、かなり三浦くんを頼りにしていました。
【夏目真凜役・藤間爽子】現場での安心感を支えた“いつもの顔”

Q. 夏目真凜役・藤間爽子さんをキャスティングされた背景をお聞かせください。 草野監督 藤間さんとは映画『アイミタガイ』でしっかりご一緒して、その後も『こっち向いてよ向井くん』で、僕の担当回ではなかったのですがゲスト出演されていて。コンスタントに顔を合わせているような感覚がありました。 今回、真凜が藤間さんで、犀川が三浦獠太というのは、僕としてはすごく安心できる組み合わせだなと正直思っていました。中島健人さんとはもちろん初めてですし、Netflixの作品に参加するのも初めてだったので、現場に行けば藤間さんと獠太がいる、というのは僕にとってすごく心強かったですし、どこか安らげる感じがありました。 真凜という役自体は、藤間さんご本人のパーソナリティとはそれほど共通点が多くなかったのかなとも思います。ただ、藤間さんの持っている、しっかりしていて真面目なんだけれど、真面目すぎるようには見えないというか。どこか親しみを感じさせる雰囲気は、真凜という役にもすごく合っていたと思いますし、藤間さんに演じてもらえてよかったなと思いました。
【加瀬詩音役・山口紗弥加】真っ赤なセラピールームで、どんどん膨らんだキャラクター

Q. 山口紗弥加さん演じるカウンセラー・詩音役を作り込むうえで、大切にされたことをお聞かせください。 草野監督 詩音という役は、原作にも一応名前はあるのですが、ドラマではまったく違う人物になっています。僕が最初に企画書を読んだときの詩音は、もっと強烈なキャラクターで、かなり印象に残っていたんです。その最初の企画書にあった詩音の味付けが、僕はすごく面白いと思っていて。誰に演じていただくかとなったときに、山口紗弥加さんという案が浮かんで、「それはすごく面白いな」と思いました。 実際は、想像していた以上に山口さんがとにかくノリノリで(笑)。衣装合わせの段階から本当に楽しくて、山口さんからの提案もたくさんあり、そこからどんどん詩音の衣装がかっこよくなっていきました。 もちろん、もう少し普通にシュッとしたかっこいい女性というプランもあったのですが、みんなでノッていくうちに、今の詩音のようなスタイルになっていって。真っ赤なセラピールームで撮影することは決まっていたので、衣装合わせの隣の部屋にも赤い照明を用意して、毎回その光の中でどう映るかを確認していました。その時点ですでに、ものすごくかっこよかったですね。 山口さん自身も現場をすごく楽しんでくださっていて、「監督、楽しかった〜!」と言って帰られた日もあって(笑)。詩音の撮影には、ずっとハッピーな印象があります。 山口さんは、やはり撮っていて楽しい俳優さんの一人です。『彼女が好きなものは』のときもそうでしたが、必ずこちらが驚かされる瞬間がある。「この役です」とお渡しすると、それが山口さんの中でどんどん膨らんでいって、こちらの想像を超える形で返ってくる。その過程を毎回見せてくれる方だなと思っています。
【オリジナルの挑戦】VR空間の“ファントムセンス”と、ベタベタな人情劇

Q. ドラマオリジナルの、VR空間でのセックスを描いたエピソードについて、撮影の秘話や描写のこだわりをお聞かせください。 草野監督 企画の段階で、バーチャルセックスを扱うこと自体は決まっていたのですが、その具体的な内容まではあまり描かれていなかったんです。第3話は僕が脚本を書かせてもらったので、その段階でいろいろと調べながら、エピソードを膨らませていきました。 作中で描いているファントムセンス——視覚や聴覚を通して、実際にはそこにない触覚まで感じることがある、という現象もそうですし、バーチャル空間だからこそ性別にとらわれずコミュニケーションが取れる、ということも、僕にとってはすごく興味深いテーマでした。 そうやってバーチャルやVRについて勉強していく一方で、なぜか自分の中には「ものすごくベタベタな人情劇をやりたい」という欲求もあって(笑)。その両方が同居するような回になればいいなと思いながら、脚本を書きました。 映像表現についても、CGで綺麗に作り込む方法はもちろんあったと思います。ただ、今回はそうではなく、実際のVRのようにセンサーを付けて人の動きを反映させるシステムを使い、その中で映像を作りたいという思いがありました。実際にやってみるとかなり大変だったのですが、そこはこだわって作った部分ですね。
【ユーモアの効用】どんなに重い題材でも、笑いは武器になる

Q. 原作に比べてコメディ描写が増えている印象を受けました。その点で意識されたことはありましたか。 草野監督 ユーモアに関しては、僕自身、自分の作品にはどうしても必要だと思ってしまうところがあります。 どんなに重い題材であっても、それを描くうえで、あるいは実際にその世界で生きている人が何かを伝えるうえで、一切のユーモアを排除するというのは、僕にとってはあまり自然なことではなくて。ユーモアは武器にもなるし、ときには自分を守るものにもなる。そういう意味で、この作品にも自然とユーモアが入っていったように思います。 もちろん、僕自身はこの作品をコメディだとはあまり思っていません。ただ、コミカルなシーンを撮るときには、そのユーモアや可笑しさが、このドラマを見るうえでの一つの楽しみになってくれたらいいな、という思いで撮っていました。
【第5話の秘密】4分間、全編アドリブの感動的なシーン
Q. 撮影中に生まれたアイデアや、キャストのアドリブを取り入れたシーン・設定があればお聞かせください。 草野監督 あまりネタバレしないほうがいい気もするのですが、第5話で霜鳥のもとを訪れる、あるクライアントとのシーンがあります。そこでは、4分ほどにわたって中島健人さん演じる霜鳥とそのクライアントが、ほぼ全編アドリブでやり取りしているんです。
もちろん、そのすべてを本編で使うことはできなかったのですが、本当に面白くて、それでいてどこか感動的でもあって。その断片は第5話の中にしっかり残っているので、ぜひ楽しみにしていただきたいです。 シーン全体がすべてアドリブというわけではないのですが、僕自身、何度見ても笑ってしまうくらい好きな場面ですし、とてもいいシーンになったなと思っています。
【霜鳥クリニックの美術】“お金がない”からこそ滲む、アットホームな味
Q. 物語の舞台となる霜鳥クリニックの外観・内観の作り込みでこだわったことをお聞かせください。 草野監督 セックスセラピストはまだ一般にはあまり知られていないため、クリニックを訪れる人も少なくて、お金がない。そういう設定を、脚本打ち合わせのかなり早い段階で僕から提案したんです。その設定が、ある種ユーモラスで自分でも気に入っていて。 「お金がないから、古い居抜きの物件を使っている」というのが、霜鳥クリニックのロケーションを決めるうえで一番大きな指針になりました。 ただ、これが言うは易しで。単に古い物件を探すだけならそこまで難しくないのですが、そこにちゃんと味があって、決してお金がありそうには見えないけれど、どこか魅力がある。そういう場所を探すのがすごく大変でした。見つかってもなかなか撮影許可が下りなかったりして。でも最終的には、とても素敵な物件を貸してくださる方が見つかって、その外観で無事に撮影することができました。 その外観との整合性が取れるようにセットプランも組んでいただいて、室内については、クライアントが訪れるスペースだけは不快に感じない程度に頑張ってリフォームしている、という設計にしました。それ以外の部分はできるだけ古いまま残していて。 ただ、古びているだけではなくて、そこがすごくアットホームで、どこか心が休まる空間になればいいなと思いながら、デザインを詰めていきました。
【今後の構想】まだまだ描ける悩みがある——続編への手応え
Q. 今後『SとX』で描いてみたいテーマや、続編・展開の構想はありますか? 草野監督そもそも企画書の段階で、「こういったテーマを扱っていきます」という項目が箇条書きでたくさん並んでいたんです。今回のドラマでは扱えなかったけれど、面白いテーマもまだまだありました。 例えば原作でいうと、お姉ちゃんのものが欲しくなってしまう妹のエピソードが僕はすごく好きなのですが、今回は描けていなくて。 そう考えると、『SとX』で描ける悩みやテーマは、まだまだたくさんあると思っています。今回だけでは描ききれていないものが本当に多いので、続編が作れるくらい、まだまだ広げていける作品だと思います。
▼取材・文:増田慎吾
