アーティスティックな顔をもつ俳優・永瀬正敏
永瀬正敏は1966年7月15日生まれ、宮崎県出身の俳優です。
『自殺サークル』『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』などジャンルを問わずさまざまな映画に出演している実力派俳優です。デビューは高校生のころということなので、キャリアは30年以上になるようです。
現在も、規模の大きな商業映画からミニシアター系の映画まで幅広く出演している永瀬正敏。
今回はそんな彼の俳優としての注目ポイントと、そして俳優業以外の知られざる魅力をご紹介します!
1:映画『ションベン・ライダー』でデビュー、後に『ミステリー・トレイン』で注目を浴びる
永瀬正敏は16歳の時に相米慎二監督の『ションベン・ライダー』でスクリーンデビューし、その後23歳の時にジム・ジャームッシュ監督作品の『ミステリートレイン』に日本人の若手俳優として参加し一躍注目を集めました。
映画『ミステリートレイン』は1989年のカンヌ国際映画祭最優秀芸術貢献賞を受賞し、後に共演した浅野忠信は「強烈にあこがれていた。日本の俳優でも、こんなカッコイイ海外作品に出れるんだと思った」とコメントし、海外映画に出演した先駆者として、永瀬を強烈にリスペクトしていた事を明かしました。
20代前半、当時中々映画の仕事が来なかった永瀬は、ヒルビリーバンドを組んでいた「ヒルビリー・バップス」の仲間と共にロカビリーファッションに憧れており、映画『ミステリートレイン』のオーディションにラバーソウルを履いて行った事でジャームッシュ監督の目に留まります。
撮影はアメリカテネシー州のメンフィスで行われ、その場所は当時永瀬が一番仲の良かったバンドのボーカル、宮城宗典と夢を語り合った憧れの場所でした。
宮城は映画がカンヌで絶賛された前年、1988年に23歳の若さでこの世を去りました。
2:『息子』では東京でフリーターを続ける息子役を演じ多数の賞を受賞
1991年に出演した山田洋次監督の映画『息子』では、日本アカデミー賞・ブルーリボン賞・キネマ旬報・日刊スポーツ映画大賞で助演男優賞を受賞、毎日映画コンクール・報知映画賞等では主演男優賞を受賞しました。
当時永瀬はまだ若く、怖いもの知らずでこの作品の撮影に挑みましたが、ラッシュを見て共演した三國連太郎の背中の芝居に圧倒され、芝居を勉強し直す良い機会になった事を語っています。
3:小泉今日子との結婚、そして離婚
1995年2月、女優で歌手の小泉今日子と入籍しましたが、2004年に離婚。二人の間に子供はいませんでしたが、その後映画『さくらん』で再び共演し、映画『毎日かあさん』では実際の元夫婦が、劇中で元夫婦役を演じた事が話題を呼びました。
当初、二人の間には不倫説、不妊説等様々な憶測が飛び交いましたが、実際はお互いがお互いを夫婦であるより、俳優としての良きライバルだった事を意識し始めた事が離婚の原因でした。
29歳でアイドルから次のステップに差し掛かっていた小泉今日子にとっては、永瀬正敏との結婚が自身のキャリアを更に飛躍させるキッカケとなり、永瀬の映画人としての友好関係やその芝居に取り組む姿勢が、小泉の現在の幅の広い演技へと繋がっていった様です。
4:歌手、写真家としての一面も
永瀬正敏は1996年に「コニーアイランド・ジェリーフィッシュ」を発表し音楽家としてもデビューを果たします。コンポーザーには忌野清志郎、鈴木慶一、森山達也、上田現(レピッシュ)等が協力、コーラスにはCHARAも参加しています。
写真家としては、2001年行定勲監督の映画『贅沢な骨』のポスター撮影を担当した事から始まり、近年では女優の満島ひかりをモデルにしたアート風の作品や、ピアニストのフジ子・ヘミングのCDジャケット等も担当しています。
永瀬正敏の写真家としてのキャリアは20年以上に及び、"日本中を撮ってまわる"「Jの記憶」というコンセプトの基、2012年には青森市の県立美術館で開催された写真展で「Aの記憶」、デビュー30周年だった2015年には自身の故郷でもある宮崎県をテーマとした「Mの記憶」を発表し、その精力的な活動には終わりがありません。
2015年迄に20回以上の写真展、6冊の写真集を出版している永瀬のその繊細で力強い作風には広く世界のセレブにも影響を与えており、ヴィヴィアン・ウエストウッドやジョー・ストラマー、イギー・ポップ等多数の海外アーティストも参加しいます。
現在2016年には、自身が南フランスで撮影したモノクロ写真を展示した個展「fragment 〜断片」を東京銀座で開催しており更なる注目が集まりそうですね。
5:武士の末裔だった
永瀬正敏の曽祖父・岩登(いわと)は、当時薩摩藩の一部だった都城市(都城郷)の武士であったことが2012年10月1日初回放送のNHK総合テレビ『ファミリーヒストリー』にて語られています。91歳で大往生した際には、「最後の薩摩武士逝く」と地元紙でも大きく報道されました。
岩登は“最後のサムライ”と呼ばれた元薩摩藩士で、日本の歴史でも大きな事件である戊辰戦争・西南戦争などにも参加しています。戦火の中、鉄砲の弾があたり九死に一生を得たこともあるそうです。
また、岩登が出陣の前に撮影した2枚の写真が、写真師である永瀬の祖父・宗則にも大きな影響を与えました。武士の曾祖父、そして写真師の祖父の存在は、俳優業の傍ら写真家としても活動する永瀬のルーツにもなっています。
6:ヒットした『私立探偵 濱マイク』シリーズでは主演を務める
テレビドラマにあまり出演しない永瀬正敏が、主演として最も意欲的に取り組んだ作品が『私立探偵 濱マイク』です。この作品は、まず三部作として映画版を林海象監督が3本手がけ、その独特の古き良き日本映画のオマージュ的撮影技法から話題を呼びました。その後映画版の人気を受け、2002年7月から日本テレビ系列で連続ドラマ化し、マイク以外のキャラクターを一新したパラレルワールドとして描かれています。
同作品は現在有名となった数々の映画監督が演出を手掛けていることでも話題となり、その中には行定勲、青山真治、利重剛、中島哲也等の錚々たる監督が一話のみのゲスト監督として参加しています。
更にこのドラマは、現在ドラマ界の主流とされるビデオ撮影ではなく、テレビドラマとしては異例の全編フィルム撮影(時代劇や単発などの一部を除く)を用いており、作中の小道具やタイトルロゴのデザイン等にも随所映画人としての永瀬正敏のこだわりが散りばめられています。
この作品はDVD化された現在でも根強いファンを持っており、今でも色褪せないノスタリズムを感じさせてくれる独特の探偵ドラマです。
7:台湾でも人気がある?『KANO 1931海の向こうの甲子園』に出演
2015年、久々に参加した海外映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』で永瀬正敏は、実在した台湾の高校野球監督近藤兵太郎を演じ、同じ日本から参加した大沢たかお、坂井真紀らと共に高い評価を得ています。
撮影は5ヶ月にも及ぶ長丁場で、戦後間もない時期の日本人鬼監督を忠実に演じる為、不器用でぬくもりのある近藤のキャラクターを大事に表現したと永瀬はインタビューで語っています。
個性派俳優に分類されやすい彼にとっては、珍しく王道な古き良き時代の熱血漢の日本男児を見事に演じきったようですね。
この台湾映画『KANO 1931海の向こうの甲子園』は、公開から10日足らずで興行収入1億2000万台湾ドル(約4億1000万円)を突破し、この時点で台湾における歴代台湾映画興行収入トップ10に入る快挙を見せ、永瀬のその独特な存在感はアジアにも通じる事を改めて証明しました。
8:映画『あん』ではどら焼き屋の店長に
『あん』はドリアン助川の同小説を原作にして2015年5月30日に公開された映画です。
主演に樹木希林を迎え、市原悦子や浅田美代子、水野美紀他豪華キャストが脇を固めています。樹木希林の孫娘・内田伽羅も主要な役柄を演じており注目が集まりました。
線路沿いから一本路地を抜けたところにある小さなどら焼屋・どら春。どら春のワケあり雇われ店長・千太郎(永瀬正敏)と常連客の女子中学生・ワカナ(内田伽羅)を軸にして、徳江(樹木希林)という一人の老女を通して人の生きる意味を考えさせる魂の物語です。
非常に難しいテーマを取り扱っていますが、重苦しくなく優しささえ感じさせる作品です。日々自らの手であんとどら焼きを作る練習をしたという永瀬の素晴らしい演技は必見です。
9:永瀬正敏が若い才能たちと新たな挑戦へ
デビュー30年目となる2013年にスポーツ報知のインタビューを受けた永瀬正敏は
「20代、30代はまず俺が走ろう、攻めて攻めてと思っていた。そういう頃がすっかり過ぎて、いろんな人とスクラムを組んでやっていきたい、と思っています。志が一緒の役者やスタッフと一緒に。もうひとつは諦めちゃいけないな、ということですね。いま、それを掘り起こしてもいいんじゃないかな。やりかたによって、仲間を募ればできるんじゃないか。」2013年3月23日スポーツ報知「我が人生 あの人この人こう言う録」
と語っています。
その言葉通り、永瀬は2013年には林海象監督が京都造形芸術大学の映画学科90名と撮った作品『彌勒 MIROKU』に参加し、ナイーヴで哲学的なテーマを若い魂達と共に演じきりました。
更に当時23歳の酒井麻衣監督の短編自主映画『神隠しのキャラメル』にもノーギャラで参加し、作品の大小を問わず未来の映画界の貴重な人材育成にも精力的に貢献してくれています。
相米慎二からジム・ジャームッシュ、学生映画からカンヌ映画祭作品まで、映画や写真の枠にとらわれず、いつまでもその『想い』は、私たちに新たな感動を見せ続けて行ってくれることでしょう。
永瀬正敏の今後
映画『密のあはれ』に出演
2016年4月に公開される映画『蜜のあはれ』。大杉漣演じる作家が、金魚から人間の姿に生まれ変わったという二階堂ふみ演じる少女と恋に落ちていくという一風変わった妖艶なラブストーリー。永瀬正敏は金魚売りの辰夫を演じています。
映画『64 -ロクヨン-』ではキーパーソンに
時効間近の少女誘拐殺人事件、通称〝ロクヨン”をめぐる出来事や人間模様を描いた物語。豪華俳優陣の共演が話題となっていますが、永瀬正敏は14年前に娘を誘拐され、殺されてしまった父親・雨宮芳男を演じています。
映画『後妻業の女』に出演
高齢者をターゲットに悪事をはたらく人々を描いた小説「後妻業(こうさいぎょう)』を映画化したこの作品。永瀬正敏は探偵役での出演が決定しています。映画『後妻業の女』は2016年8月27日公開です。