岩下志麻のプロフィール
岩下志麻(いわした・しま)は、東京都出身、1941年1月3日生まれ。その家系は芸能一族であり、父は俳優の野々村潔、母は元新劇女優、いとこには兄弟で俳優をしている河原崎長一郎や建三らがいます。
身長165cmという長身でスレンダーなスタイルと輝く美貌。岩下は、特に小津安二郎監督に目をかけられ、松竹に1960年から16年に渡って籍を置き大成功を収めました。その後も多くの作品で活躍し、2004年に紫綬褒章を、2012年には旭日小綬章を受章しています。
映画『極道の妻たち』でのドスのきいた姐さんのイメージが強い岩下ですが、実はのんびりとした性格で元々はお嬢様系の女優だったそうです。ここでは、プライベートも含めた岩下志麻の魅力に迫っていきたいと思います。
女優デビューはテレビドラマ『バス通り裏』
松竹の看板女優時代はもちろん、退社してからも多くの映画に出演し華やかに銀幕を飾ってきた岩下ですが、意外にも女優デビューはテレビドラマでした。
1958年のNHK連続ドラマ『バス通り裏』。高校教師と隣の美容院の一家の日常を描いた15分間のホームドラマで、当時は生放送だったとか。十朱幸代が美容院の家の娘を演じ、岩下はその友人役だったそうです。
ちなみに、本作からは岩下をはじめ十朱幸代や田中邦衛らのスターが誕生し、NHK「連続テレビ小説」をはじめとする帯ドラマの基礎となった作品と言われています。
映画『秋刀魚の味』のヒロインに抜擢
映画でのデビューは、1960年の木下惠介監督作品『笛吹川』でした。同年、岩下は小津安二郎監督の『秋日和』にも端役で出演していますが、小津は岩下のことを「10年に1人の逸材」と言い、大切にするようにと松竹関係者に語ったそうです。
その後、1962年の小津監督作品『秋刀魚の味』のヒロインに抜擢された岩下は、笠智衆演じる平山周平の娘・路子役を朗らかに務め上げました。この作品は、初老の父と結婚適齢期の娘との関係を描いたコミカルなヒューマンドラマです。
小津は次回作にも岩下を起用する予定だったそうですが、1963年に他界したためそれは叶わず、『秋刀魚の味』が小津の遺作となりました。
まさに鬼気迫る名演技の『鬼畜』
岩下の鬼気迫る演技に圧倒されるのが、1978年の『鬼畜』です。松本清張の実話をもとにした短編小説を、野村芳太郎が監督を務めて映画化しました。
岩下が演じたのは、夫が愛人に産ませた子どもに容赦なくつらくあたる妻・お梅役。女として、そして妻としての想いが入り交じり、「鬼」と化していく様からは恐ろしさはもちろん、ある意味悲哀も感じられます。
当時、役作りのため、野村監督から撮影以外でも子役と親しくしないようにとの厳しい指導を守りきった岩下。そのことが子役の心の傷になっていないかと気にかけていたといいますが、のちにバラエティ番組で再会でき胸を撫で下ろしたそうです。
映画『極道の妻たち』の岩下志麻がかっこいい!
岩下志麻と言えば、やはり1986年の『極道の妻たち』。男性中心が当たり前のヤクザ社会を女性目線で描き、空前の大ヒットとなりました。その人気を受け、劇場シリーズは合計10作品つくられています。
背中に刺青を施し、懐にはピストルを忍ばせ、ドスのきいたタンカを切り男どもをひれ伏させる姐さん役は、本来の岩下の性格とは真逆であり、役柄としてもこうしたタイプの女性は初めてだったそうです。
葛藤や躊躇を感じつつも、より良い役作りために、着物や着付け、仕草なども徹底的にこだわったのだとか。
「粋さが出る縦縞の着物が多かったですね。着付けもこだわりました。ピストルを撃つならば格好よくなくちゃいけないと、襟元をスーッと開けて。胸元にはプチネックレスをつけてみたり、ピアスを合わせることで、異質な世界を演出しました。帯も下めにつけ、ちょっと斜めに大きく締めることでやはり粋さを出してね。外股で歩いたり、顎を上げて低い声で話すことで、私が思う極妻像に近づけていったんです」
こうして、伝説的な初代極妻が誕生しました。シリーズ化された『極道の妻たち』では複数の女優が極妻(姐さん)を務めていますが、岩下の凄みは特に際立ち絶品です。
映画公開当時に新幹線の中などで“本物の人”から挨拶されることが頻繁にあったというエピソードが都市伝説的に語られていますが、これは本当の話だとか。
メナード化粧品のCMでもお馴染み
★【CM】メナード化粧品 岩下志麻(1988年)
岩下といえば、メナード化粧品も欠かせません。テレビCMに長年出演していたことで知られ、その光り輝く美しさに見とれてしまった視聴者も多いのではないでしょうか。2000年の時点で企業との専属契約28年という記録を持ち、一時はギネス登録もされたといいます。
単に広告塔として出演するだけでなく、実際に長年メナード商品を愛用しているそうで、CMを受ける以上は常に美しくあるべきと心がけていることなどからも、岩下の誠実さ、真面目さが伺えます。
岩下志麻は職場結婚?
芸能界きってのおしどり夫婦と言われ、2017年には結婚50年を迎える岩下。夫は松竹出身の映画監督・篠田正浩で、ふたりの出会いは篠田が手掛けた『暗殺』でした。幕末の志士・清河八郎の半生を描いた物語であり、岩下は清河の妻・お蓮を熱演しています。
篠田との驚きの馴れ初めを、岩下は以下のように語りました。
「篠田とお付き合いするようになったのは、彼が監督をした『暗殺』がきっかけでした。映画の打ち上げが東京・赤坂のナイトクラブであって、篠田と当時はやっていたマンボを踊ったんです。そのときふと『ああ、私はこの人と結婚するな』というひらめきがあったので『私、監督と結婚するような気がします』と言ったら、彼はあぜんとして踊りをやめてしまいました」引用:jisin.jp
「僕は女優・岩下志麻を奥さんにもらったのだから、君は家事・育児を一切やらなくていい」
その後、本当に結婚することになりますが、篠田は女優である岩下を気遣い、一切の家事を家政婦に任せ仕事に専念させたそうです。妻の立場として戸惑いつつも、結局は夫の想いを受け入れたのだとか。
妻の仕事ぶりを現場で見て心底理解している篠田だからこその提案であり、全力で岩下を守り支えようとする深い愛情が感じられます。
岩下志麻には娘がいる?
常に艶やかな女優としての顔を保ち、生活感を全く感じさせない岩下。結婚は想像できても、子どもの存在は全くイメージできない方が多いかもしれませんが、実は32歳の時に長女を出産しています。
「欲を言えば、もう一人子供がほしかったですけど、仕事で忙しかったり、高齢出産はどうかと躊躇しているうちに40(歳)になってしまって……。娘のためにも、もう1人産んでおけばよかったかしらと、いまでも思いますね」引用:jisin.jp
2人目の子どもには恵まれませんでしたが、2016年現在は2人の小学生の孫がいるそうです。孫たちからの岩下の呼び名は「志麻ちゃん」。時々、時代劇を気取って「しまのすけ」と言うこともあるのだとか。
岩下志麻の現在は?
『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』
近年の岩下の女優としての活動ですが、2014年に『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』へゲスト出演し、日本看護師連合会の会長役として貫禄の演技を見せています。
2016年は、NHK BS『鴨川食堂』にレギュラー出演。 客の思い出の食を探し再現してくれるという「鴨川食堂」に度々訪れ、忽那汐里演じる主人公の良き相談相手となる来栖妙役を務めました。
そのほかに目立った活動は確認できず、女優業はだいぶ控えめなようです。元来おっとりとした性格の志麻ですから、可愛い孫らに囲まれたプライベート重視になり、ほのぼのとしたおばあちゃんぶりを発揮しているのかもしれません。