2018年1月12日更新

加速し、暴走する思春期の性!イエジー・スコリモフスキ『早春』が4Kリマスターで蘇る

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早春

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『早春』、イエジー・スコリモフスキの幻の傑作が日本劇場公開へ

イエジー・スコリモフスキ監督を知る全ての日本人が熱望していた『早春』の劇場公開がいよいよ2018年1月13日より始まります。(2018年5月現在は公開終了) これまでイエジー・スコリモフスキ監督作品を鑑賞したことがない方も、映画ファンたちのザワつきが気になっているはずです。この記事では簡単なあらすじと、スコリモフスキの略歴から『早春』の位置を確認し、今作の見所を紹介します。

暴走する思春期の性、『早春』のあらすじを紹介

早春

主人公の少年マイクはロンドン市内のプールで働き始め、8歳年上の同僚スーザンと出会う。婚約者も愛人もいる勝手気ままなスーザンに惹かれていくマイクだが、それを察知したスーザンはマイクを思うままに弄ぶ。マイクの初な恋心は悪女スーザンによって捻じ曲げられ、どんどん拗れていく。その先にあるのはあまりに残酷なリビドーの終着点だった。 かっこいいことを理由に若い男は恋愛に勝利していきますが、年を重ねるごとにより恋愛は複雑になっていきます。『早春』で大人の恋愛に初対面した少年が身を捩る様は面白くもありますが、同時に多くの人が忘れかけていた初恋の痛々しさを引き出します。トラウマになること間違いなし。

本作はいつ製作された?イエジー・スコリモフスキの略歴

【『早春』以前】鳴かず、飛ばず、軌道に乗らない映画人生

イエジー・スコリモフスキは1938年ポーランドに生まれました。生まれた直後に第二次世界大戦が勃発し、彼の映画人生も時代の動乱に飲まれていくのです。 監督を務めたドキュメンタリー映画『ボクシング』(60)が評価され、いくつかの短編を撮った後、自身が監督兼出演する『身分証明書』(64)『不戦勝』(65)を製作します。その後ベルギーで製作した『出発』(67)がベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、同年のアカデミー外国語映画賞にもノミネートされます。 しかし映画人生は軌道に乗りません。『手を挙げろ!』(67)でスターリンを批判したとされ上映禁止になり、祖国ポーランドを追われることになるのです。 食べるのに必死だったと言われる当時のスコリモフスキは『勇将ジェラールの冒険』(69)でハリウッド商業映画にも手を出しますが、製作スタイルの違いに苦しみます。同じく商業映画である『キング、クイーン、そしてジャック』(72)は自己ワーストと本人が認める駄作となり、大きなダメージを負ったスコリモフスキは6年もの間沈黙します。 そんな報酬面で仕方なく請け負った商業映画の合間に撮られたのが『早春』(71)です。高い評価を獲得しますが、興行成績はいまいちだったそうです。

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【『早春』以後】『ザ・シャウト』(78)でキャリアに一筋の光が

破産寸前となったイエジー・スコリモフスキは『ザ・シャウト』(78)でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞します。ロンドンに移り住んだスコリモフスキは、ポーランドの政治動乱を反映した社会派映画『不法労働』(別題『ムーンライティング』)を製作し、脚本賞を受賞します。 しかしスコリモフスキの映画人生はその後も順風満帆とはいきません。 『ライトシップ』『フェルディドゥルケ(原題)』を監督した後、17年間も作品を残していないのです。様々な企画を検討しますが、その全てが頓挫していました。『アンナと過ごした4日間』(08)、『エッセンシャル・キリング』(10)、『イレブン・ミニッツ』(15)という三本の傑作は、スコリモフスキの映画人生が安定した晩年になってから生まれたと言えます。

鮮やかな色彩【『早春』の見所1】

早春

カラー作品である『早春』の特徴として、とても色彩豊かであることが挙げられます。 スコリモフスキがポーランドで活動していた時代はまだモノクロ映画だったことを考えると、『早春』で色彩表現の制限に対するフラストレーションが爆発したようにも思えます。血の赤色やレインコートの黄色など様々に登場する原色はまるで白紙のキャンバスに絵の具を落としたかのように鮮烈な印象で目に焼き付くのです。 イエジー・スコリモフスキがその後の作品でも色彩へ同じようなこだわりを見せているか、と言われればそうではありません。『ザ・シャウト』で音響への異様な執着を見せたかと思えば、最新作『イレブン・ミニッツ』ではポーランド時代を想起させる凄まじい映像の工夫で観客に訴えかけます。 しかし『早春』をポーランド時代のヌーヴェルヴァーグから影響を受けた前衛的作品群(ヌーヴェルバーグの中でもかなり異質な)に混ぜるのは違和感があります。作品ごとに特徴が大きく異なるのは、スコリモフスキが映画ファンの心を掴んで離さない理由です。

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スコリモフスキ作品のアイコン【『早春』の見所2】

早春

スコリモフスキの映画のアイコンとして登場するのが車です。 それは列車や自動車、自転車と形こそ変わりますが、展開の鍵として印象的に配置されています。『早春』に似たテーマである『出発』は「男と女と車」の映画ですし、雪山で男(ヴィンセント・ギャロ)が逃げ回るだけの快作『エッセンシャル・キリング』でも雪道など気にせず登場しました。 『早春』でも車が登場します。車がスコリモフスキにとって重要なアイテムであること知っているだけで、『早春』をより深く考察することができるはずです。

映画『早春』はスコリモフ好き(*)も、そうでない人も必見!

早春

『早春』は日本において権利上の問題でなかなか劇場公開に至らなかった映画です。不遇な映画監督による、不遇な少年を描いた、不遇の映画と言えます。スコリモフ好きもそうでない人も、劇場公開という絶好の機会で鑑賞し、不遇の連鎖を食い止めましょう。 *スコリモフ好き:私がたった今適当に名付けたイエジー・スコリモフスキファンの総称