2018年3月3日更新

映画『ハッピーエンド』徹底ネタバレ解説!謎のシーンの真相も明らかに【ミヒャエル・ハネケ最新作】

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映画『ハッピーエンド』に隠された伏線と謎のあのシーンを徹底解説!【ネタバレ注意】

『白いリボン』、『愛、アムール』の2作を、連続でカンヌ国際映画祭で最高賞の「パルムドール」に輝かせた「名匠」ミヒャエル・ハネケ。そんな彼の最新作『ハッピーエンド』が2018年3月3日に日本公開となりました。 『愛、アムール』の主人公を演じたジャン=ルイ・トランティニャンを同役・ジョルジュ役で起用し、『愛、アムール』との関係性も気になる本作。 この記事では、『愛、アムール』との関係性はもちろん。映画を見ただけではわからない『ハッピーエンド』に託されたハネケの思いや、謎のあのシーンの真相を徹底解説します! あらすじ・キャスト記事はこちら!↓

映画『ハッピーエンド』のストーリー・前半

あらすじ(ネタバレ無し)

iPhoneの画面に映し出されるハムスター。この動画の撮影主の女性は、ハムスターに精神安定剤を飲ませ、殺します。そして、「お母さんも、こうやって静かにさせるの」と呟き......。 フランス・カレーに住む、建設業を営むブルジョワジーのロラン一家。ここに、一人の少女がやってきます。 彼女の名前はエヴ。ロラン家の長男・トマと前妻の間に生まれた子供で、前妻が薬物中毒で入院をしたことから、トマがエヴを引き取ったのです。エヴはトマの現在の妻・アナイス、そして一家の家長・ジョルジュ、トマの姉・アンヌ、アンヌの娘・ピエールと生活を共にすることになります。 家長のジョルジュは、高齢を理由に長女のアンヌに家業を継ぎ、孫のピエールにも専務として家業を託していました。そんなある時、ロラン家の建設現場で崩落事故が起こってしまいます。

事故の後処理に追われるアンヌですが、さらに彼女に問題が。それは、父であるジョルジュが部屋にいないというのです。しかし、それどころではないアンヌは、弁護士で恋人のローレンスと電話で話し込んでしまいます。 一方、家業を継がず医者になったトマは、SNSチャットツールでアナイス以外の女性と卑猥なメッセージを送りあっていました。その様子を、エヴは見てしまいます。そして、エヴも誰にも話すことのできない心の闇を、チャットツールで吐き出していました。 ネタバレありのストーリは、記事後半でご紹介します!

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解説の前に、人物相関図を再確認!

『ハッピーエンド』相関図
©ABE TOMOMI

映画『ハッピーエンド』は、フランスの中でも移民問題を抱えたカレー地区で暮らす、ロラン家の様子を描いた作品です。なので、本作の解説を行う前に、この家族のそれぞれ抱える問題と、関係を一度おさらいしたいと思います。 上の図では、クリーム色の枠がロラン一家、水色と薄いピンクは新しくロラン一家に加入する人、紫色の枠をトムと家族ではありませんが恋愛関係にある人、緑色の枠は召使い、濃いピンク色は家業を継いだ人たちを表しています。 ピンク色の線で結ばれているのは夫婦・恋愛関係にある人を、青い線は親子関係を、赤い線は殺人関係です。 これだけ複雑に線が入り組んでいるのに、互いの抱える秘密や関係を、この家族は知りません。 「同じ屋根の下で暮らしているにも関わらず、本質的な所は何も見えていない。」こんな寂しさから、家族のそれぞれが自分の「居場所」を求めて、SNS、または死という闇に取り憑かれて行きます。

映画『ハッピーエンド』と『愛、アムール』の関係性は?

映画『ハッピーエンド』を観て、映画『愛、アムール』のジョルジュが、前作の設定を引き継いで登場している事に驚いた方も多いはず。果たして『ハッピーエンド』は、『愛、アムール』の続編なのでしょうか? 監督ミヒャエル・ハネケは、この疑問に対し以下のように語っています。 「目の前で衰える妻を見ていられず殺してしまう老夫。これは『愛、アムール』の話の延長です。~略~愛し続けてきた人を殺めるとはどんなものか。そこに惹かれて再びこの設定を使いました。」 実際に、『愛、アムール』ではジョルジュの娘だったイザベル・ユペール演じるエヴァも、ジョルジュの妻であったアンヌと同じ名前になっており、ジョルジュは『愛、アムール』からのキャラクターではあるものの、『ハッピーエンド』のストーリー自体は完全な『愛、アムール』の続編ではないようです。

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映画『ハッピーエンド』のストーリー・後半(ネタバレあり)

失踪したジョルジュが家へ帰ってきました。しかし彼は足を負傷しており、車椅子での生活を余儀なくされてしまします。なぜなら、自殺を図ったものの失敗してしまったからです。 一方、トマと不倫相手の女性とのやりとりを見てしまったエヴは、「父が不倫女性と一緒になり、アナイスと別れてロラン家を出て行き、自分も施設に預けられてしまうのではないか」と言う不安から自殺未遂を図ります。 しかし、それも失敗に終わり、エヴの本心が読めないトマは、父であるジョルジュにエヴの本心を聞き出してもらうよう頼むのでした。 トマに頼まれて、ジョルジュはエヴを自室に呼び出します。そこでジョルジュは、エヴに漂う死の誘惑を感じ取り、自身の過去を話し出すのです。介護の途中、最愛の妻を彼自身の手で殺めたことを。

そして、エヴも過去に同級生を殺そうとしたことを自白しますが、彼女が母親に薬を盛ったことを話すことはありませんでした。 時が経ち、アンヌはローレンスと婚約パーティーを開くことになりました。そこで一堂に会したロラン家ですが、ポールとの結婚に反対する息子のピエールが、奇行を繰り広げてパーティーを取り乱します。 この混乱の中、ジョルジュはエヴに「ここを抜け出して海へ連れて行ってくれ」とお願い。エヴはジョルジュの車椅子を押して海辺へ彼を連れて行きますが、ジョルジュはそのまま車輪を自力で押して海の中へ入っていき......。 エヴはその様子を助けるわけでも、大人を呼ぶわけでもなく、ただただiPhoneのカメラに収めていたのでした。

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ジョルジュの不可解な行動を解明

『ハッピーエンド』
©ABE TOMOMI

Q1:車椅子のジョルジュは黒人の青年に何を話しかけていた?

ジョルジュは家族が寝静まった頃に、車に乗り込み家を飛び出します。 その後、しばらくして車椅子に乗って街に出たジョルジュが映し出され、黒人の青年に懸命に話しかける姿が映画で描かれていました。 しかし、音声や字幕が無く、明確に何を話していたのかわかりませんでしたよね。 執拗に黒人の青年たちに話しかけ、最後には新たに歩いてきたおじさんに怒られてしまうジョルジュ。果たして、彼は何を話していたのでしょうか。

A1:黒人の青年に「銃」を要求していた!

あの日、ジョルジュが家を飛び出したのは、自殺をする為でした。しかし、これは失敗に終わり、木に突っ込んだ衝動でジョルジュは足を負傷。車椅子での生活を余儀なくされます。 そして、黒人の青年に執拗に話しかけていたのは、「自殺をする為の銃を買ってくれ」と頼んでいたからでした。しかし、それも取り合ってもらえず、後に馴染みの美容師にも同じ事を頼みますが、あっけなく断られてしまいます。

ピエールの奇行は、母への反発が原因だった?

『HAPPY END』
©ABE TOMOMI

Q2:なぜか突然殴られたピエール!その心は?

劇中盤、ピエールがピンク色のアパートを訪れると、突然男性が現れて彼を殴りつけるシーン。あのシーンも音声や字幕が設けられておらず、ピエールが突然殴られた事に戸惑った方も多いのではないでしょうか。 馬乗りになって殴られ続けるピエールですが、ピエールは彼に一切反逆しません。なぜ、ピエールは殴られ、それをただ受けていたのでしょうか。

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A2:被害者親族から恨みのパンチを受けていた

あのシーンで、ピエールがわざわざピンク色のアパートを訪れた理由は、ロラン家が運営している建設現場で崩落事故があり、専務の彼が被害者家族に謝罪をする為でした。 しかし、激情した被害者の家族にピエールは殴られてしまい、勿論ピエールが殴り返すわけにもいかず、ただただ殴られていたのです。その後、アンヌとアンヌの恋人・ローレンスによって示談で解決します。

『ハッピーエンド』でiPhoneのカメラやSNSアプリが登場する理由

『HAPPY END』
©ABE TOMOMI

監督ミヒャエル・ハネケは、この映画でロラン一家の一部がSNSの闇に飲み込まれていく姿を描いています。ビデオチャットアプリで自身の本音を語るエヴ、オンラインチャットアプリで不倫をするトマ、側にいる家族よりも電話の向こうの恋人に夢中なアンヌなど、使い方は様々。 ハネケは、実際にトラブルを抱える一家が家族の面々にも興味を持たず、相談もしない。なのにもかかわらず、"遠くにいる誰かには、自分自身の本音を打ち明ける"。そんな奇妙は現代の社会を、スクリーンを通して、観客に問題提起しています。 実際に、ハネケは『ハッピーエンド』を撮影するにあたり、SNSの使われ方を調べるためにfacebookのアカウントを作り取材をしたのだそう。もしかしたら、あなたのアカウントもハネケの参考になっていたのかも知れません!

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移民問題がテーマなのに、移民が全く出てこないのはなぜ?

本作『ハッピーエンド』の舞台は、フランスのカレー地区。カレー地区はフランス国内の中でも移民問題を抱えた土地であり、現地のニュース番組では移民問題に関する報道が中心です。 このことから、本作も背景に「移民問題」があることを考えられますが、劇中で移民にはあまり触れられていません。その理由として、ハネケは以下のように語っています。 「移民とともに生活をしたこともありませんし、彼らの境遇に立たされたこともありません。~略~ 私は私が知っていることに関する映画だけ作りたいのです。」 自分自身の体験で、感じたことのみを映像化するハネケのこだわりから、『ハッピーエンド』は出来上がっていたのですね。

名匠ミヒャエル・ハネケが、映画『ハッピーエンド』を通して伝えたかったこと

ハッピーエンド
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監督ミヒャエル・ハネケは、インタビューにて「人類に希望を持っているからこそ、映画を作る」と語っています。 それも、泣ける感動映画や、笑える娯楽映画でもない、彼が言う「不快な映画」を作るのは、「まだ人類に問題提起をする価値がある」という考えから来ているのだそう。 今回、『ハッピーエンド』を通してハネケが伝えたかったことは、「自己中心主義と身近な他人への無関心を加速させる、SNSの使い方への危機感」なのではないかと私は考えます。 ロラン家は同じ屋根の下で暮らしているものの、互いの本質的なところには無関心で、アナイスは夫・トマの浮気も気にとめる様子もなく。それどころか、家族全員が互いの秘密を知るどころか、知ろうとすらしません。そして、いつしかディスコミュニケーションが加速し、彼らはSNSに本音をぶちまける。そのくせに、他人に興味はない。 ハネケは、そんな歪で冷酷な人間関係と、ディスコミュニケーションによって加速する他人への無関心を、スクリーンを通して私たちに伝えているのではないのでしょうか。

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ミヒャエル・ハネケの次回作は!?

現在、ミヒャエル・ハネケの次回作に関する情報は出ていません。また、ハネケは2018年現在で76歳の為、本作が彼の作品の最後になるのではないかという悲しい噂も。 しかし、上記のインタビューにもある通り、ハネケは「まだ人類には問題を提起する価値がある」と映画を作り続けることを匂わせる発言をしています。 ミヒャエル・ハネケは、映画『ハッピーエンド』を前作『愛、アムール』の公開から5年後に公開しており、その前は、3年のスパン、1年のスパンと近年に近づくにつれ2年ずつ公開のスパンが伸びている状況です。もし、この調子で次回作が公開されるとなると、次回の作品公開は7年後!? その頃には、ミヒャエル・ハネケは83歳になっていますね!