深田晃司監督作映画『淵に立つ』の魅力とは?【第69回カンヌ受賞作品】
現代の新しい家族像を描いた衝撃作
第69回カンヌ国際映画祭にて、ある視点部門審査員賞を受賞したことで話題となった映画『淵に立つ』。小さな町工場を営む平凡な一家・鈴岡家の生活が、夫・利雄の旧友で前科持ちの男・八坂が訪ねてきたことをきっかけに次第に崩れていく様子を、独特の人物描写と不穏で含みのある音楽表現、日常風景の中に不意をついて現れる印象的な色彩感覚などを用いて描いた作品です。 カンヌ国際映画祭に初ノミネートで公式部門受賞ということもあり、世界中から大きな反響を呼びました。
独特の人物描写が冴え渡る、映画監督・深田晃司とは
祝!浅野忠信さん受賞!
— 映画「淵に立つ」公式 (@fuchinitatsu) March 22, 2017
受賞式に一緒に出席した深田監督から祝福のコメントが到着しました!
「浅野忠信さん、おめでとうございます!本当に、俳優が評価されることは監督にとって最高の栄誉です。(続く→
(c) Asian Film Awards
写真はレッドカーペットに登壇した監督 pic.twitter.com/H3WP5rpcx4
二階堂ふみ主演の2014年公開映画『ほとりの朔子』や、人間とアンドロイドがそれぞれの生と死を見つめる異色作『さようなら』など、独特の世界背景と人物描写で現代社会の歪みを浮き彫りにしてきた映画監督・深田晃司。 2002年に長編自主制作映画『椅子』で映画監督デビューし、以降作品を発表し続け2005年には平田オリザ主宰の劇団青年団へ演出部として入団、2011年2月にはこまばアゴラ劇場で初の映画祭を同劇団俳優と共に企画開催したことで話題を集めました。 2018年5月にはディーンフジオカ主演作品『海を駆ける』、2018年6月には短編映画『ジェフェソンの東』が公開されるなど、目覚ましい活躍を続けています。
多彩なキャストが勢ぞろい
謎の男・八坂を演じるのは人気俳優・浅野忠信
本日より『#淵に立つ 』深田晃司監督が関西の劇場へ
— 映画「淵に立つ」公式 (@fuchinitatsu) October 8, 2016
上映後トークイベントに伺います!
ご感想やご質問を監督へぶつけるチャンスです。ぜひ!
★10月9日(日)は名古屋へ!
伏見ミリオン座
9:30~上映終了後https://t.co/9XIhakvQMw pic.twitter.com/ZgSUMPebd4
今作のキーパーソンにして最大の謎である八坂を演じたのは、若き頃から映画界で活躍し、ハリウッド進出も果たしている人気俳優・浅野忠信。1990年に『バタアシ金魚』で映画デビューし、その後は活躍を海外にも広げ、国際派俳優としての地位も確立しています。 また映画のみならず、NHKドラマ『ロング・グッドバイ』やフジテレビ系ドラマ『刑事ゆがみ』などのテレビドラマにもコンスタントに出演し、さらには音楽家としての一面も持つなど、多岐に渡る活動を続けています。
繊細な演技が光る実力派女優・筒井真理子
もう、いよいよ本日!「#淵に立つ 」10/8初日の#渋谷シネパレス の14:15の回上映後に舞台挨拶いたします!
— 映画「淵に立つ」公式 (@fuchinitatsu) October 7, 2016
深田監督、#筒井真理子 さん、#古舘寛治 さん、#太賀 さん、#真広佳奈 さんが登壇しますよ。上映後にQ&Aのコーナーを設けます!のでぜひいろいろ質問してください。 pic.twitter.com/xFlLvVS2u8
八坂に好意を抱き翻弄されていく妻・彰江を演じたのは、早稲田大学在学中から鴻上尚史主宰の第三世界で看板役者として活躍し、繊細で変幻自在な演技が魅力の実力派女優・筒井真理子。代表作に『クワイエットルームにようこそ』や北野武監督の『アキレスと亀』、井筒和幸監督の『ヒーローショー』、園子温監督の『希望の国』などがあり、その他にも数多くのテレビドラマやCMへの出演経験があります。
名バイプレーヤー・古館寛治
旧友の八坂をある事情から自身の工場へ雇い入れる夫・利雄を演じたのは、平田オリザ主宰の劇団青年団、ならびに松井周主宰の劇団サンプルに所属し、舞台作品を主に名バイプレーヤーとして数々のドラマや映画にも出演している古舘寛治。深田晃司監督作には『東京人間喜劇』や『歓待』、『ほとりの朔子』(13)にも出演しています。
今作を縁取る独自の魅力
冷たく厳しい、家族という名の「社会」像
『#淵に立つ 』深田晃司監督が関西の劇場で上映後トークイベント!
— 映画「淵に立つ」公式 (@fuchinitatsu) October 8, 2016
★10月9日(日)は京都にも!
京都みなみ会館
20:45~上映終了後https://t.co/Cg9ncyjiPD
全国の上映劇場はこちら⇒https://t.co/XWAcguV58z pic.twitter.com/1ig2YGG3UX
これまで多くの日本映画では、家族の温かさや絆の尊さにしばしば焦点が当てられてきましたが、今作で描き出されているのは、それを根底から覆すような冷たく厳しい家族像。一定の穏やかさを保ちながら存在してきた家族の過酷な現実と、ぬぐい切れない疑念や無関心が、今作では日常的な短い会話や視線の演技などを用いて表現されています。 生身の人間関係の希薄さが叫ばれる昨今、従来の家族映画のような手本とされる希望が求められる反面、どの集合体も一個人の集まりに過ぎないという鋭い意識や、その先にある人間の絶対的な孤独および絶望を提示するものも同じように重視されるべきなのかもしれません。
オリジナル脚本が担う可能性
映画『淵に立つ』の大きな魅力のひとつとして、今作が原作のないオリジナル脚本だという点が挙げられます。予算の問題や数字絶対主義的空気の横行により、漫画や小説を原作とするいわゆる「原作モノ」の映画やテレビドラマが台頭する中、深田晃司監督はオリジナル脚本を書き続け、自ら映画製作を進めてきました。 オリジナル脚本という未知数の可能性を秘めた作品を世に送り出すことは、日本映画界全体の多様性を保持するために必要不可欠であり、似通った作風の充満の防止としても重要な役割を担っています。
2018年も新作の公開が続く深田晃司監督
オリジナル脚本にこだわりを持ち、人間の感情の機微を巧みな手法で表現し続ける深田晃司監督。2018年も新作の公開が立て続いています。そんな監督の過去作品を観て独自の世界観への理解や考察を深めれば、『海を駆ける』や『ジェフェソンの東』もより楽しめることでしょう。ぜひこの機会に映画『淵に立つ』を鑑賞してみてください。