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映画『30年後の同窓会』をアメリカン・ニューシネマ視点で観る【小野寺系】

2018年6月8日更新

リンクレイターの新作がやっとーー。その瑞々しい感性から、超良質な映画を作り続けて来たリチャード・リンクレイターですが、今回の映画『30年後の同窓会』は男3人のロードムービー!映画評論家小野寺系が本作の重要な要素「アメリカ」を意識しながら、鑑賞のポイントを解説します。

リチャード・リンクレイターはアメリカを代表する“自由”な映画作家

30年後の同窓会
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いつも新しい表現手法やテーマに挑戦し、世界に熱狂的なファンを持つリチャード・リンクレイター監督が、今回映画の題材に選んだのは、それぞれが心に傷を持つ3人の元兵士が30年ぶりに再会し、ともにアメリカ東部の都市を巡っていく物語を描いた文学作品だった。 寄り道をしながら、ゆっくりと目的地ポーツマスを目指す旅は、一見するとオヤジ3人の、ときに愉快で、ときにぐだぐだしたやりとりが延々と続いていくだけの内容だと感じてしまうかもしれない。 だが意外にも、本作『30年後の同窓会』は、そこからアメリカ社会全体に関わる深刻な問題を浮き彫りにしていく。ここでは、その裏にある文学的テーマを深いところまで考察していきたい。

新作『30年後の同窓会』は、文学的テーマをじっくりと描く

『バッド・チューニング』(1993年)、『ウェイキング・ライフ』(2001年)、『ビフォア・サンセット』(2014年)や、『6歳のボクが、大人になるまで』(2014年)など、実験的な要素を含んだ、質の高い明晰な映画を撮り続けてきたリチャード・リンクレイター監督。 クエンティン・タランティーノ監督やケヴィン・スミス監督らとともに、90年代アメリカのインディーズ映画ブームに火をつけた代表的存在でもある。その作品には、商業的な固定観念から解き放たれた自由な感性が漂っているのだ。

“あの作品”の「精神的続編」

30年後の同窓会
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今回リンクレイター監督が手がけたのは、 作家のダリル・ポニックサンによる小説、「Last Flag Flying」の映画化作品だ。脚本家でもあるポニックサンは、リンクレイター監督とともに、本作の脚本も手がけている。 この小説は、『さらば冬のかもめ』 として1973年に映画化された、ポニックサンの原作小説の精神的続編といわれている。ジャック・ニコルソンが主演した『さらば冬のかもめ』 は、若く気の弱い新兵と彼を護送する海軍下士官2人の交流を描き、兵士3人がアメリカ国内を移動するロード・ムーヴィーだった。

豪華な実力派俳優が集結

30年後の同窓会
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本作『30年後の同窓会』もまた、男たちがアメリカ東岸の都市を渡り歩く物語が描かれる。そして、いずれも実力派として知られる、スティーヴ・カレル(『40歳の童貞男』)、ブライアン・クランストン(『ブレイキング・バッド』)、ローレンス・フィッシュバーン(「マトリックス」シリーズ)が、年齢を重ねた3人の姿を思い起こさせる役をそれぞれ演じている。 この3人が集まったというだけでも、ちょっとした事件だ。

アメリカ東岸のロード・ムーヴィー

『30年後の同窓会』のあらすじ

30年後の同窓会
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舞台は2003年のアメリカ。軍の刑務所に収監された後に除隊していたドク(スティーヴ・カレル)は、海軍の懐かしい仲間である、サル(ブライアン・クランストン)とリチャード(ローレンス・フィッシュバーン)を訪ねる。ドクは二人に、自分の息子がイラク戦争で命を落としたこと、そしてこれから遺体を引き取りに行かねばならないことを明かし、2人に付き添って欲しいと頼み込む。 基地に到着し、ドクは安置されていた息子の遺体に面会しようとするが、軍は「ひどい状態なので遺体を見ない方がいい」、「軍が責任をもって墓地まで移送する」などと告げ、死んだときの状況すら極力隠そうとする。 追求していくと、ドクの息子はイメージしていたような戦闘中の英雄的な死を迎えていたわけではなかったことが明らかになる。3人は徹底した軍の秘密主義に不信感を抱き、軍の制止を振り切り、自分たちで用意した大型車に遺体を積み込んだ。故郷のニューハンプシャー州ポーツマスへと北上するために。 ときに寄り道し、旧交をあたため、はめを外しながら旅をする3人。ケンカ腰で女好きのサル、いまでは聖職につきながらも悪ガキの本性が復活していくリチャード。そんな2人に勇気づけられるドク。ニューヨークでは3人がおそろいの携帯電話を買って、互いが無料で通話できるプランを契約する。 「これでいつでも話せるぜ!」と並んで歩く姿がほほえましい。

根底にあるのは社会への怒り

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『さらば冬のかもめ』は、アメリカン・ニューシネマの代表的作品だった。アメリカン・ニューシネマとは、ベトナム戦争を背景にした保守的な政治状況への反動から、「体制に反抗する精神」を描いた作品群である。 ここで描かれた、軍での経験から精神を病み、あるいは喪失感を味わった兵士たちの旅は、彼らのような多くの兵士に肉体的かつ精神的犠牲を強制しながらも、本質的にはその責任をとることがない、軍や政府に対する怒りがにじんでいる。 同様に本作は、イラク戦争の根拠になっていた「大量破壊兵器」の存在が確認できず、戦争の意味自体が揺らぐなかで、その犠牲となった兵士を英雄的な“美しい物語”のなかに閉じ込めようとする国の態度が描かれている。犠牲すらも軍や政府への批判の矛先を鈍らせる方向に利用しようとする、国民を裏切る狡猾さを批判しているのだ。 そんな無責任な国の態度は、ドクたちの世代が体験したベトナム戦争の時代から何も変わっていない。ベトナム戦争とイラク戦争。この二つの類似を通し、本作はアメリカの問題の本質を深く抉(えぐ)っていく。

アメリカの喪失は癒されるのか

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注目したいのは、本作のさらなる文学的な奥行きである。イラク戦争で息子を亡くしたドクの心の痛みは、戦争の犠牲となったアメリカ国民の痛みの象徴だ。 ドクの心に決着がつくかどうか、平穏な日々が戻って来るかどうかという物語上の展開は、アメリカが経験した喪失をどう乗り越えていくのかという、壮大なスケールのテーマに還元される。 本作は、そこにハッキリとした処方箋を与える映画ではない。しかし、旅のなかでサルとリチャードがドクの気持ちを思いやり、ドクも息子の気持ちを考えていたように、何が傷ついた人々の助けや救いになるかを考え抜くことで、喪失を癒し乗り越えていくしかないことを、この物語は示している。 また、その裏には多くの人々がこの問題に思いを馳せ、何度でも思い返すことで新たに戦争の犠牲が繰り返されるのを回避しなければならないという、切実な想いが託されているのだ。

『30年後の同窓会』は2018年6月8日公開。