2018年6月25日更新

子供の「違い」を、家族がどう捉えるのか。A・フォンテーヌ監督の描く救済【単独インタビュー】

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アンヌ・フォンテーヌ
©ciatr

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『マルヴィン、あるいは素晴らしい教育』アンヌ・フォンテーヌ監督

アンヌ・フォンテーヌ
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1980年から女優として、1993年に監督デビューを果たしたアンヌ・フォンテーヌ。オドレイ・トトゥが主演を務めたことで知られる『ココ・アヴァン・シャネル』で注目を浴び、近年に手がけた『夜明けの祈り』はフランス映画祭2017において「エールフランス観客賞」に選ばれるなど、今最も活躍するフランス人女性監督のうちの一人である。 そんな彼女に単独インタビュー!フランス映画祭2018でも上映された新作『マルヴィン、あるいは美しい教育』や、フランスの映画業界について話を伺った。

LGBTをテーマにしたのではなく、「違い」をテーマにした

本作は、主人公マルヴィンが同性愛者として自覚を持ちながらも周囲に受け入れられなく、虐めを受けていた少年期、そして彼がその経験を通して舞台で活躍するようになる青年期までを描いた作品だ。今まで手がけてきた作品の多くで“強い女性”を描いてきたアンヌ・フォンテーヌ監督が、今回このテーマを描こうとしたのは何故?

マルヴィン、あるいは素晴らしい教育
©2017 LES FILMS DU POISSON – CINEFRANCE – FRANCE 3 CINEMA – VERSUS PRODUCTION – NEED PRODUCTIONS

「テーマは“違い”なんです。今回はたまたま同性愛がその“違い”でしたが、例えば太っているとか、黒人であるとかの、肌の色の違いであってもよかったんです。こういった“違い”を子供が持ったときに、家族がそれをどう捉えられるのか、人との相違を皆さんに考えていただきたいと思い、色々ある“違い”の中でLGBTをテーマとして扱いました。」

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少年期と青年期の時代が行き来して描かれている意図とは?

アンヌ・フォンテーヌ
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「マルヴィンが青年になっても子供時代を基にして色々な芸術作品をつくっているので、普通に時系列で見せるより、密に絡みあった二つの時代を交互に見せることが面白いのではないかと思いました。 勿論過去の自分を今の自分は忘れることができませんし、過去の自分があったこその今の自分なので。そういった意味で、この二つの時代は凄く呼応しあっていると言えるんです。」

「自分が経験した辛いことが、演劇を通じて芸術作品になったのです」

続けて、監督は密接に絡み合う二つの時代について解き明かしていく。その言葉には、主人公マルヴィンが他人から差し伸べられた手を取って自己の救済した事が感じられた。

アンヌ・フォンテーヌ
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「マルヴィンの少年時代と青年時代が、密接に関係しあっている。というのは、大人になった彼が演劇作品を作るにあたって着想を得ているのは、子供のときの経験だからです。そういう意味で二つの時代は混在し、切り離せない関係なのです。 子供のとき、貧しくて周りに理解を得られない、そんな自分が生まれ育った環境の中で何もできなかった時、校長先生が彼に「演劇もある」という道を示してくれた事で、創作(クリエーション)の道に、マルヴィンは最終的には行く事ができた。つまり、自分が経験したことが演劇を通じて芸術作品になったのです。 タイトルの意味ですが、「教育」とつけたのは、如何に社会的に恵まれない家庭環境に育ったとしても、教育がある事でその人の運命が変わるという意味を込めました。」

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監督の撮る作品、そのテーマへのこだわり

マルヴィンは少年時代の出来事から着想得た芸術表現を行っていましたが、監督ご自身が映画を撮るうえで着想を得たり、影響を受けるものは何ですか?

アンヌ・フォンテーヌ
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「私が映画を作る時には、直接的にでなくても良いのですが、主人公が感じることに関連性や繋がりを持てるものしか撮らないんです。 マルヴィンに関しては、彼の祖母がゲイや同性愛に対して偏見を持っていたという事ですし、『ココ・アヴァン・シャネル』に関しては、彼女自身について詳しく知っている人が身近にいました。そして『夜明けの祈り』に関しては、実際にシスターをやっている叔母がいたんです。 なので、何か自分でなくても自分の周りの人との関連性があるものであれば撮れるのですが、例えば登場人物が銃を打ち合うようなものや、推理小説的な映画はどう撮っていいかわからないです。アメリカの映画会社からは、そういった映画のご提案をいただくのですが、あまり関心をもてないですね。経験があったとしても、難しいですけどね(笑)」

少年期と青年期、それぞれのマルヴィンを演じた俳優について

アンヌ・フォンテーヌ
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「少年時代のマルヴィンは、非常に繊細だけどミステリアスで深いキャラクターです。特に冒頭の部分は、何も喋らずに表現するという難しい役どころでした。そこでどんな子役を選ぶかが重要だったのですが、今回演じた子役はこれまで一度も演劇活動をしたことのなかった子で、キャスティングではじめてきて採用された子でした。彼がマルヴィンを演じたことで、役にカリスマ性が出たなと感じています。」

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青年期を演じたフィネガン・オールドフィールドのキャスティングは?

「彼の事は、過去の出演作を観て注目していました。オーディションを他の俳優と受けてもらったのですが、彼が秀でていたのは優美さや繊細さ、カリスマ性がある点。そして身体的にも、ただ普通にかっこいい男の子というのではなく、決意を感じさせる。そういった事もあって彼を選びました。 彼なら、もっと何か先に行く事をやってくれそうだと感じたんです。結果、素晴らしいマルヴィンになったと思いますよ」

アンヌ・フォンテーヌの考える、現在のフランス映画業界の女性差別

アンヌ・フォンテーヌ
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「フランスの場合は、世界的にも、ヨーロッパの中でも女性監督が比較的に多いということで恵まれていると思います。ただ、そんなフランスの映画業界において、全く女性差別がないかというと、違います。その差別とは、待遇面ではなく、女性監督より男性監督で撮った映画の方が商業的に成功するという思い込みがある事です。 私が監督としてキャリアを始めた時は、既に先人として数々の女性監督が道を開いてくださった後だったので、比較的やりやすかった。しかし、アメリカで「女性監督として、どうですか」と聞かれることが多くて、それはまるで女性が監督をするのが普通ではないように感じるんです。 例えば例をひとつ挙げると、女性監督が撮影の際に少し構図で迷っていたりすると、周りは「本人はどう撮りたいかわかっていないんだ」と反応するのに対し、男性がそうすると「色々考えているんだね」という反応になる。 女性監督だからといって生産性が劣ることはないので、ずっとそれを訴え続ける戦いだと私は思っています。 いずれにしても、元々映画界というのは男性社会であり、男性文化でした。ただ、今言えるのはフランスの映画界が非常に良い方向に向かっているという事です。美術スタッフ、音響スタッフですとか撮影スタッフに女性の方が増えて来ているのです。なので、今後の展開に希望を持ちたいですね」

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同性愛者の息子と父の関係。二人にとって“救済”となるラスト【ネタバレ注意】

アンヌ・フォンテーヌ
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「非常に感動的なシーンでした。何故かというと、「息子は他の息子とは違うんだ」という、その“違い”を父がはじめて受け入れたシーンであると同時に、人は一つの考えしか持てなかったとしても、ある時に変わる事ができるという希望を見せてくれるシーンだと考えています。 それが象徴的に表れているのが、そのシーンで初めて「ホモ」や「異常者」と呼んでいた父親が「ゲイ」という言葉を使ったという事なんです。今まで知っていたとしても、はじめてそういう表現をした。父親役を演じたグレゴリー・ガドボワは、非常に庶民的な役でありながら、行き過ぎずに非常に良い演技をしていました。」

「日本の皆様は捉え方が繊細」アンヌ・フォンテーヌ監督からのメッセージ

アンヌ・フォンテーヌ
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「本当に毎回日本に来て、自分の作品を皆様に紹介できる事を嬉しく思っています。日本の皆様は非常にフランス映画の捉え方が繊細だと感じます。」 そう話すフォンテーヌ監督は、10日前に新作を撮り終えたばかりなのだそう。また来年来日し、この新作を紹介するのを楽しみにしている彼女であった。