手放したくないものが実は一番乗り越えなければいけないもの。「リミスリ」二宮健監督インタビュー【単独】
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』二宮健監督に単独インタビュー
2018年7月18日に待望のDVD発売される『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』。桜井ユキと髙橋一生が絡み合う、幻想的でありながら官能的なシーンが話題を呼んだ今作の監督・原案・脚本を務め、新作『チワワちゃん』の撮影を終えたばかりの二宮健監督に、本作に関する裏話や新作との相違点を伺いました。
「夕張映画祭の授賞式のあとの飲み会で、キングレコードの山口プロデューサーに「リメイクしようよ」というお声がけを頂いたのが、今回セルフリメイクをしたきっかけです。その時、オリジナルが親子の話なのですが、それを男女のラブストーリーにして欲しいと言われました。」 そう語るのは、2015年に夕張映画祭で『眠れる美女の限界』で賞を受賞した、二宮健監督。 セルフリメイクの末に誕生した『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(以下「リミスリ」)は、29歳の無名女優オリアアキが、上京したての頃に出会ったかつての恋人カイトとの思い出に依存しながら生きながらも、未来に目を向けて行く物語。 オリジナルから、かなり改変のあったこの男女像の設定について、監督は以下のように話します。
「アキのキャラクターも、もともとから随分と変わっているんです。オリジナル版を撮影した2013年から比べて、“29歳アラサー女子”という設定がマイナスに作用している話が増えている気がして、そこにはあまり興味を持てませんでした。それよりもっと女性が、前向きになってほしい、もうそんなところで悩んでほしくないと思ったんです。この主人公アキも、29歳アラサー女子でいる事には悩んでいないんです。なんかもっと、本人の具体的な事に悩んでいるんです。 本作を時代錯誤的なものにはしてくなくて、もっと先をいく女性像を描きたかったんです。」 この物語はアキが次に進むために必要だった段階と解釈しています。葛藤を描いている、というよりかはそこを破る過程として描いているんです。
物語の冒頭で、時間は流れていないという「スポット理論」が展開され、ストーリーの大きな布石となっていますね。何故、この理論に注目したのですか?
「普遍的な物語を普遍的に描いてもしょうがないと感じていました。ある種の物の捉え方や、当たり前だと思っていることに対して凄く新鮮な解釈を与えたいと思いました。「あ、こういう風に物事を見ると、見方が変わるな」と、自分自身が新しいものを探している中で、このような時間の考え方に出会って、良いなと感じたんです。」 「あと、僕は男なので、多分男性の物や時間の捉え方の解釈で女性を描きたくなかった。女性はもっと感覚的だったり、男性とは違う体感があると思うんです。今まで日本映画において、男目線で躊躇無く女性を描いて来たものが多かった。何かそうではないものを、女性監督ではない立場からも、出していかないといけない時期なのかなと思いました」
その女性に対するリスペクトは、セックスシーンにも投影させたのでしょうか?
「男性だから、女性だから、と言うより、ひとりのキャラクターとして向き合う中で、そういったシーンには特に繊細な配慮や姿勢が大切なのかな、と思っています」
美術へのこだわり「全編を夢のように描きたかった」
本作は特に、どんなシーンでも至るところに豆電球やネオンといったライトが印象的に多用されています。そんなライティングをはじめ、美術に関して監督はこう語ります。
「全編を夢のように描きたくて、そこで光を使って、どのような演出をするかっていうのは、特に切り離せないものだと思っています。この作品には、鏡が多く出てくるんですけど、鏡って見えるものの捉え方に対して自由度が幅広いものなのです。そういった演出を重ねていくことで、ロマンティックであったり、幻想的な印象を持たせたかったんです。」
幻想的といえば、ストーリーもそう。これは現在なのか、過去なのか、それともアキの妄想なのか……混乱してしまう可能性をはらんだ本作の面白い見方を監督自身が教えてくれました。
「劇中におけるアキの髪型は、物語の時系列におけるヒントになると思います。そんな風に、この映画を謎解き感覚でも構わないし、それを放棄してアキの感情に乗って体感するような感覚で鑑賞していただいても良いのかなと思います。 DVDならコマ送りで再生してみると、面白い発見があるかもしれません。劇中の至るところにサブリミナル的な映像が仕掛けられています。映画館では絶対にできない楽しみ方になりますし、「ここにこんなカットが入っているんだ」という発見によって、作品の解釈も幅が広がる可能性がありますしね。」
監督の語るカイトの正体、手放したくないものが実は一番乗り越えなければいけないもの
「人それぞれのカイトの解釈で良いと思っています。この際カイトもまた妄想の産物だったのか、現実にいたのかという議論よりも、アキがカイトを手放したことが何よりも重要なんです。カイトが結局、アキのロマンであり、同時に弱さであり、何よりこの映画において乗り越えなければいけない壁であったことは明確ですよね。そんな、自分が必要だと思っているものほど、実は手放せなければいけないものの象徴としてカイトがいます。
「灯台下暗し」という言葉を、僕は日常的に自分にリマインドするんですけど、やはり当たり前に思っていたり、大事だと思っていたり「それは絶対手放したくない」と思っていることも、実は一番今自分が乗り越えなければならないものである事って、意外と常々あるなと感じています。そういうものを見つめ直すきっかけに、この作品がなればいいなと思います。」
—また、本作にはハムレットや、ハムレットの戯曲に登場するオーフィリアが印象的に登場しますね。
「自分は映画作りにおいて、古典の中にベースを求めていることがあります。そう考えたときに、この映画はハムレットがそれなのです。「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ」、この映画のテーマそのものが、ハムレットの有名な台詞です。 オーフィリアに関しては、物語だけをなぞると不運な目に遭って川に流されて死ぬだけなんですけど、歴史の中で、川に流れているオーフィリアの絵画とか、彼女にまつわる創作物があまりにも沢山あるんです。何故、時代を越えて、こんなにも皆オーフィリアに惹かれるんだろうと、凄く考えていた時期があって、そう考えるうちに僕も彼女にハマっていったんです。」
「リミスリ」と『チワワちゃん』は同じテーマを描いている?
さて、二宮監督は新作『チワワちゃん』の撮影を終えたばかり。岡崎京子原作のマンガの実写化となる今作は、グループのマスコット的存在であるチワワちゃんがバラバラ遺体で発見された事をきっかけに、彼女との思い出をメンバーが各々思い出して行くというストーリー。 そんな新作と、「リミスリ」の共通点とは?
「描いているテーマは、共通している部分が多いかもしれません。『チワワちゃん』は今仕上げの段階なのですが、「リミスリ」の次の作品としてのひとつの流れはあると思います。原作を読むと分かるのですが、チワワちゃんの死の謎は特に明かされない。というか、別にそこに焦点を当てたものではないんです。
「リミスリ」と『チワワちゃん』の違いは、グループの皆がチワワちゃんと結構距離がある。別に彼女の事を良く知らなかった。に対して、アキも、カイトの事を結局よく知らなかったかもしれませんが、距離感はとても近かったと思います。アキはカイトの死によって、人生を狂わされるくらいのダメージを受けていて、どう頑張っても、カイトを乗り越えないと前に進めない。 しかし、チワワの死は他の誰かにとって簡単に無視できてしまうんですよ。そんな出来事に対して、それぞれがどう向き合うのかという中で、色んな生々しい感情が描かれているはずです」
「自主映画は学校の文化祭の延長戦にしかならない可能性がある」
さて、二宮監督はこれまでに40を超える作品を手がけてきました。そしてこの度「リミスリ」で商業映画デビューを果たしましたが、自主映画との違いは?
「こんな映画ができてしまう、むしろ商業映画も自由度はかなり高いです。作品によって違うかもしれませんが、監督のクリエイティブが尊重される国だと思います。プロデューサーの多くは、監督がやりたい事が好きだと思いますし、監督の熱意に対して寄り添ってくれます。 商業映画と自主映画の違いってよく話題になりますが、いわゆる自主映画ってターゲットのパイが少ない話で、正直学校の文化祭や映画祭の延長戦にしかならない可能性が高いです。なのに、それをまたカテゴライズしていくと、ガラパゴスにしかならない。監督するなら、大きなお金で新しい事をして、大きく稼ぐという意識を持っていきたいですよね」
日本の映画に対する、二宮健の想い
「リミスリ」はその映像や台詞、全ての表現において日本の映画界に一石を投じるような、革新的な作品だったと言えることができます。今後、日本映画界で二宮監督はどのような作品を作って行くのでしょうか。
「多分そろそろ映画産業が国内の市場だけでは何ともならないという時が、来ると思うし、何なら早々に来てほしいとすら思っています。じゃないと、視野が広がっていかないと思うんです。今の日本の映画の作り方は……もしかしたら20,30年後も続いていくものかもしれませんが、続けば続くだけ、どんどん世界と差をつけられていくと思うんです。早く広い視野を持って、相手にするパイを変えないと。
どうしても興味を持てないことが多くて、しばらく日本映画を観ていないんです。でも、現状のラインナップが本当にお客さんのニーズなのだとしたら、それすら変えて行く工夫をしないと映画監督たちは自分を苦しめるだけになっていくと思います。目前の事に必死になるのではない、豊かさというか良い影響を与えるような作品づくりをしなきゃと思っています。」
—日本の映画を観ていないとおっしゃいましたが、最近観て良かった海外の映画はどんなものがありますか?
「グレタ・ガーウィグ監督デビュー作の『レディ・バード』が最高でした!他にも『スリービルボード』や『アイ、トーニャ』も面白かったです。やはり海外映画は毎年面白さが更新されている気がします。大切にしているもののセンスが良いんだなと思います。
今回お話を伺った二宮健監督による『リミット・オブ・スリーピングビューティー』のDVDは7月18日よりキングレコードから発売されます。是非、映画館では堪能しきれない世界観に浸ってみては?
『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ』
Blu-ray&DVD 7月18日 発売
発売・販売元: キングレコード
Blu-ray:¥4,800 +税
DVD:¥3,800 +税