映画『食べる女』は豪華キャストが繰り広げる「美味しい」映画!【感想・評価】
舞台となるのはあらゆる感情が集う街、東京。それぞれの孤独と事情を抱えた女たちが、食を通して恋愛を見つめ、時には穏やかに時には激しく日々を生き抜いていく姿を描いた映画『食べる女』が、ついに9月21日より公開スタート。主演の小泉京子をはじめとする、今を代表する女優陣が集結したことでも話題を集めました。 そこで本記事では、鑑賞後に抱いた感想と本作に込められたメッセージや食と恋と生きることの関連性などを、筆者の主観を交えながら考察していきます。食と愛をテーマに切り取られる女たちの人生はどんなふうに展開していくのか、果たしてそれぞれの幸せはいかに……。
計50品以上の料理が登場
本作の軸となるのは、人物像やシーンを言葉無しに語りつくす多彩な料理。その数は全部で50品以上です。太刀魚のムニエルなどの手の込んだメインの一品から、素材の良さを引き出すようにじっくり焼き上げた鳥の手羽先、最後のシーンで登場する丸く綺麗な色の卵かけご飯まで、バリエーションはさまざま。 そのシーンに合った食べ物を登場させることで、生活において美味しい料理は最高のスパイスであり、美味しい食べ物で身体を作り上げていくことは幸福そのものなのだということを、120分間の物語を通して体現しているのです。
『食べる女』が描く最高の幸福像
この作品で最も印象的だったのは、我慢や理想の押し固めのない新たな幸福像。映画『食べる女』はどの登場人物も自分の現状や葛藤に正面から向き合い、本音を包み隠そうとはしません。そして豪快に、多くの女性たちが気にしてきたようなダイエットという字面を微塵も感じさせないほど幸福そうに、その時々に見合った料理を作り、食していきます。 それは性欲に対しても共通しており、それぞれの性事情にとても前向きで無理に取り繕うとはしません。自分よりもかなり年下の相手との関係や、一夜限りの仲、不思議な偶然で出会った人との関係など、すべての恋を深い愛を湛えて肯定しています。 そんな真っすぐで愛おしい登場人物たちの姿からは優しさが溢れており、また本作はあらゆる日々とその生き方の背中を力強く押してくれる作品であると感じました。 すべてに正解はなく、不正解もない。小手先の知識や常識に振り回されず毎日を丁寧に抱きしめ、自由を心から謳歌することこそが自分らしさへの正解であるということを、無垢な登場人物たちは語ります。
食と性の関連性って?【ネタバレ含む】
人間の三大欲求とも言われてる内のふたつ、食欲と性欲にとことん忠実に、時には戸惑いや寂しさ、空虚感などを抱きながらもとにかく今日を生きていく女たちの姿を描いた本作。過去にも数々の作品や文献の中で、食欲と性欲はイコール関係にあるということや、食と性の強い関連について語られてきましたが、本作もその例外ではありません。 たとえばシャーロット・ケイト・フォックス演じるマチと夫のセックスは、ほとんど温度が無くただ欲を満たすだけのもの。それに呼応するかのように、その後の朝にふたりが食べた冷凍食品のピザは見た目からも冷え切っており、美味しさに欠けるものでした。 広瀬アリス演じるあかりの場合は、彼女が振舞う手軽なひき肉料理のように、都合のいい女としての立ち位置にいつも収まっていました。しかしそのことに対して疑問とわだかまりを感じるように。そして、最終的に恋をした真面目で爽やかなビジネスマン友太とプラトニックで心から満ち足りた関係を築き、ふたりで車の中で食べるアイスキャンディーがキラキラと光るのでした。 このように作中で登場する食事と性には強い結びつきがあり、さらに食欲と性欲の先には生への飽くなき願望が存在しています。私たちのあらゆる欲望は生きることへの欲求に繋がっていることを示しているのです。
映画『食べる女』は、食と愛をテーマに女たちの人生風景を描く
リアルな性と恋愛観を、食を通して見事に描きだした映画『食べる女』。個々がそれぞれの恋愛や考え、そこへの葛藤を抱えながらも、孤独と自由と愛と向き合いながらたくましく生きていく姿は、女性のみならずすべての心に大きな勇気と共感を誘います。 新しく繰り返される日々の中にあるものだからこそ手は抜かず丁寧に、だけれど自分らしく歩いていく。そんな毎日へのすばらしさを食と女たちの生き様から描いた本作は、9月21日より現在絶賛公開中。最高の食事から始まる新しい人生讃歌の物語に、ぜひ身も心もお腹も委ねてみてはいかがでしょうか。