【ネタバレ】『ゆれる』智恵子の死の真相は?解釈難解なヒューマンミステリー映画を解説!
『ゆれる』西川美和の監督第二作【あの橋を渡るまでは、兄弟でした】
第49回ブルーリボン賞監督賞、第30回日本アカデミー賞主演男優賞と助演男優賞など、数多くの賞を受賞した、西川美和監督作『ゆれる』。肝心な部分をハッキリと明確にしていないので、観た人や観るタイミングなどによって、解釈が分かれるヒューマンサスペンス映画です。 そこで、どのような解釈ができるか考察していきます。
『ゆれる』のあらすじをおさらい!
東京でカメラマンとして成功していた猛(オダギリジョー)は、母の死をきっかけに帰省します。そして家業であるガソリンスタンドに立ち寄るとかつての恋人、智恵子(真木よう子)が働いていました。兄の稔(香川照之)と一緒にスタンドを切り盛りする姿に嫉妬を覚え、彼女と一晩限りの関係をもちます。 翌日、稔の提案で、三人は渓谷へ出かけることに。そこで智恵子との関係を悟られたくない猛は一人で写真撮影に没頭します。それを追いかける智恵子と稔は橋の上でもみ合いになり、智恵子は落下し死亡してしまいます。 後日、稔は自白し逮捕されますが、猛はその無実を信じて懸命に訴えます。けれど次第に、自分が目撃した事実に不安を覚え、揺れ動く猛は証言台で初めて真実を話すのでした。
「自白してホッとした」兄のその本心とは?
事件のあと、警察の調書を受けていた稔は自分が殺したのだと自白し、逮捕されます。しかし稔はこのまま有罪になっても構わないと猛に漏らすのでした。女性にもモテ、東京で成功し自由に生きる猛に比べ、稔は田舎で父親の面倒を見て過ごすだけの自分の人生に辟易していて、猛と自分はどうしてこんなに違うのかと嘆いていました。 しかし猛は無実を信じて、弁護士である伯父に頼んで裁判に臨みます。そこで稔が証言した内容は、よろけた智恵子を支えようとしましたが、その手を振り払われカッとなり、突き飛ばしてしまった。そして我に返って、彼女を起こそうと手を伸ばすも彼女は後ずさりしてそのまま落下してしまった、というものだったのです。
事故なのか、事件なのか。智恵子の死の真相を解説【ネタバレ】
智恵子は事件の前日に他の男性と性交渉をしていたことにより、稔を拒否したのではないかと問い質されますが、稔はそんな人がいたことは知らなかったと証言。 しかし、猛が智恵子と過ごした夜のことを稔は全て知っていました。帰りが遅くなった訳を、酔った智恵子を送ってきたと話す猛に対し、稔はただ笑って頷くだけでたが、智恵子が下戸であることは周知の事実だったのです。 そしてその事実を知った猛はあの日、渓谷で稔が突き落としたのを目撃したと確信します。稔は自分が弟に疑われていることを自覚しており、証言を控えた猛の気持ちを揺さぶるのでした。
ラストシーン、あなたはどう捉える?【ネタバレ】
猛はたった一人の目撃者ということで、その証言は裁判の決着を左右する重要なものでした。これまで、橋にいた二人を見ていないと言ってきた猛は、証言台で初めて、あの日見たことを話します。そこで、智恵子は稔に突き落とされたのを目撃したと証言したのです。 稔を刑務所に送ってからの七年間、迷い続けた猛はもう家族と関わることを諦めていたいました。そこへ稔が出所する知らせが入ります。幼い自分たちの8ミリテープを見ながら、渓谷で稔が智恵子を助けようとした姿を思い出し、自分が稔に何をしたのか思い知り涙するのでした。 出所した稔を見つけ「一緒に帰ろう」と叫ぶ猛に、稔は静かに微笑むのでした。
自由に生きる弟への嫉妬による兄の復讐!?
猛が証言台で真実として語ったことに、稔は何故かほほ笑みながら聞いていました。出所後、猛と目が合ったときも、何故か笑みをこぼします。観ている側にはそんな稔がどのように映ったのでしょうか。 裁判中も、稔の態度は二転三転し情緒が不安定な様子を見せています。それを猛は事故のせいだと思いますが、稔の本心はどうだったのでしょう。猛のように自由で楽しい人生を羨望していた稔にとって、無罪となって実家へ戻ることは本当に望ましいことだったのでしょうか。 もしかすると稔は、全てのことから解放され、自由に生きてみたかったのかもしれません。その為には猛が自分を犯人だと証言することが必須となるので、そう仕向けるための揺さぶりだったとも捉えられます。
『ゆれる』本当の【兄弟の絆】とは?
もし稔が意図的に、自分を犯人に仕向けるようにしたのならば、猛の証言に微笑んだのも、ラストシーンでの笑みの理由も理解できます。猛に罪の意識をなすりつけ、自分がしてきた多くの我慢に対する仕返しだとすれば、稔の復讐のようにも見られます。 兄弟が互いを想う絆は本当にそこにあったのか。その本当の形とは。観る側の見解に委ねられる難解な結末を、あなたはどのように解釈しますか。