極限状態になったとき人間はどうなる?心理サスペンス映画5選【ストックホルム症候群 他】
『ストックホルム・ケース』公開!極限状態の人間の心理を描いた映画を紹介
「ストックホルム症候群」という心理学用語をご存知でしょうか?誘拐・監禁された被害者が、犯人に連帯感や好意を抱いてしまう心理的な現象です。2020年11月6日から全国公開の映画『ストックホルム・ケース』は、まさにこの用語の語源となった事件を描いています。 この記事では、『ストックホルム・ケース』と同じように心理学的な描写を主題にした作品を5本紹介。どれも心理サスペンスとして傑作と名高いものばかりです。人間の心理に迫った問題作から、心理学に触れてみてはいかがでしょうか?
『ストックホルム・ケース』(2020年)
スウェーデン史上最も有名な銀行強盗事件ともいわれる「ノルマルム広場強盗事件」。心理学用語「ストックホルム症候群」の語源ともなったこの事件を基に、なぜ人質が犯人に味方したのかという命題に挑んだクライム・スリラーです。 1973年のストックホルム。自由の国に憧れる悪党のラースは、アメリカへ逃れるために銀行強盗を起こします。3人の人質を取ったラースは、まず仲間のグンナーを釈放させ、次に金と逃走車を要求。警察による封じ込め作戦によって身動きが取れなくなる中、ラースと人質たちとの間に奇妙な連帯感が芽生えていきます。 「ストックホルム症候群」とは、誘拐や監禁などで犯人と長時間過ごすことによって、被害者の生存戦略として犯人との心理的なつながりを築こうとする心理現象。犯人ラースをイーサン・ホーク、人質の女性ビアンカをノオミ・ラパスが演じ、二人の間に芽生えた不思議な共感を表現しました。
『トム・アット・ザ・ファーム』(2014年)
『わたしはロランス』(2013年)で注目された、カナダの若き監督グザヴィエ・ドランによる心理サスペンス。カナダ・ケベック州の田園地帯を舞台に、閉鎖的な家族の中で起きる「ストックホルム症候群」的な状況を描いています。 恋人ギョームが亡くなり、葬儀に出席するために彼の実家である農場を訪れたトム。しかし母は息子の恋人はサラという女性だと思っており、トムの存在を知っていたのはギョームの兄フランシス(ピエール=イブ・カルディナル)だけ。フランシスはトムに、母には友人だと嘘をつくよう強要し、トムは次第にフランシスの暴力と不寛容に服するようになっていきます。 トムが抱いていたのは、ギョームを救えなかった罪悪感。そのため農場に自らを閉じ込め、フランシスに服従していく微妙な心理が生じ、嘘をつく共犯といった奇妙な協力関係が成立していました。ストックホルム症候群に陥るトムを、監督を務めるグザビエ・ドランが演じています。
『メメント』(2001年)
『TENET テネット』(2020年)で、再び「時間と空間」をテーマに新たな傑作を生み出したクリストファー・ノーランの出世作。10分間しか記憶を保てない「前向性健忘」を患うレナードを主人公にした復讐劇で、時間軸を逆転させるアイデアが斬新な傑作サイコスリラーです。 強盗犯に襲われて頭部を強打し、妻も失ったレナード(ガイ・ピアース)。前向性健忘という記憶障害を患いながらも復讐を誓い、ポラロイド写真にその都度メモを書き、体にタトゥーを彫って記憶を補完しつつ犯人を追っていました。 記憶障害には、障害時点以降の記憶が保てない前向性健忘と、障害時点以前の記憶をなくす逆行性健忘があります。本作は前向性健忘の特性から着想を得ており、鑑賞者も記憶障害の状態を追体験するような感覚に襲われる構成になっているのが秀逸な点です。
『コンプライアンス 服従の心理』(2013年)
2004年にアメリカで起こった偽警察官による「いたずら電話詐欺事件」を題材にした心理スリラー映画。ファストフード店に警察と名乗って電話し、窃盗容疑のかかった女性店員に身体検査と称して性的行為を強要した事件で、閉鎖的な状況で権威に服従してしまう心理を利用した悪質な犯罪です。 ファストフード店にマネージャーとして勤めるサンドラ(アン・ダウド)は、ある日警察と名乗るダニエルズ(パット・ヒーリー)という人物から電話を受けます。ダニエルズによれば、店員のベッキーに(ドリーマ・ウォーカー)窃盗の容疑があるとのこと。サンドラは言われるまま、ベッキーの身体検査を始めますが……。 この不可解な事件を理解するには、アメリカの心理学者ミルグラムが1963年に行った「ミルグラム実験」が参考になります。ミルグラムは閉鎖的な状況下で権威者の指示に従ってしまう人間の心理を実験しました。この心理のもと、サンドラのようなごく平凡な市民が非人道的な行為も行なってしまうことが、一番恐ろしいことでしょう。
『es[エス]』(2002年)
ミルグラム実験のバリエーションともいえる「スタンフォード監獄実験」。1971年にアメリカのスタンフォード大学で行われた心理学実験で、監獄を舞台に「権威への服従」を看守役と囚人役に分かれて実証するものでした。この実験を主題に取り上げたのが、ドイツ映画『es[エス]』です。 記者兼タクシー運転手のタレク(モーリッツ・ブライブトロイ)は、ある心理実験の被験者の募集を知り、取材と報酬を目当てに実験に参加することに。それは、大学の地下室に設置された擬似刑務所で、看守役と囚人役に分かれて2週間演じるというもの。初めは和やかにスタートしますが、次第に看守と囚人が対立し、看守は権威を振りかざし、囚人は権威へ服従する様子を見せていきます。 ミルグラム実験はアイヒマン実験とも呼ばれ、ユダヤ人虐殺に関わったナチス高官のアイヒマンが特殊な状況下で権威者に変貌した事例に由来しています。スタンフォード監獄実験ではまさに、ごく普通の人々が権威者になる状況が作り出されたわけです。この実話がドイツで映画化されたことにも意義深いものを感じますね。
極限状態になったときの人間の心理に迫る、心理サスペンス映画
心理学も学べる奥深い心理サスペンスの作品を5本紹介しました。極限状態に陥った人間の心理とは本当に不思議で、謎に満ちていて、時に恐ろしいものですね。