映画『雨の中の欲情』は濡れ場が美しい！ラブシーンは本当にやってる？

『さがす』(2022年)の片山慎三監督が、つげ義春の同名漫画を成田凌主演で映画化した『雨の中の慾情』。荒々しくも美しいラブシーンが描かれる異色ラブストーリーです。この記事では、本作のあらすじ・キャストと濡れ場を中心に紹介します。

北町に住む漫画家の義男(成田凌)は、知り合いの小説家志望の男・伊守(森田剛)とともに、大家の尾弥次(竹中直人)に引っ越しの手伝いを頼まれます。出向いた先は離婚したばかりの福子(中村映里子)の家で、義男は魅力的な彼女に一目惚れ。しかし福子にはすでに恋人がおり、それは伊守でした。 自分の小説を載せるつもりで、南町のPR誌を真似た北町のPR誌作りを企画する伊守に誘われて、義男も広告営業を手伝うことになります。ところが営業マンが集めた金を持ち逃げし、伊守と福子は追われる身に。2人が義男の家に転がり込んできて、奇妙な共同生活が始まります。

物語冒頭からいきなり始まる激しい濡れ場！これは、映画のタイトルにもなっているつげ義春の短編漫画『雨の中の慾情』を忠実に再現したものです。雷鳴とどろく豪雨の中、トタン屋根のバス停で待っている女性の隣に義男が雨宿りに入り、「危ないから」と女性に身に付けている金属類を外すように言います。 しまいにはブラジャーのフックもトタン屋根も危ないと言い出し、トップレスで手前の田んぼの中へ。泥の中へ倒れ込み、欲情を湛えた義男は静電気も危ないと女性のパンツも引き剝がし、やにわに自身を挿入するのでした。 泥まみれになりながらも激しさを増す2人の姿は、性と生への本能に溢れていて思わず見入ってしまいます。ふと考えると喜劇のようでもあり、そのシュールさがつげ義春の世界観を表していました。

義男の部屋に福子と伊守が転がり込んで共同生活が始まりますが、このエピソードはつげ義春の短編漫画「池袋百点会」がベースになっています。映画では、貧しい北町と裕福な南町が検問所で分断されている架空の設定に。 福子と伊守が義男のベッドで夜な夜な抱き合う姿を、義男は自分の狭いアトリエから覗き見していました。肝心な部分にぼかしが入っているため、逆に本当に行為に及んでいるようにも見えます。 福子に片想いしている義男にとっては嫉妬心はもちろん、彼女の痴態を覗く背徳感と快感も。観ているこちらも覗き見しているような不思議な感覚にとらわれます。

3つ目に長いベッドシーンは、義男と福子が湖畔で抱き合っている場面。これは義男の妄想であり、最初から最後までずっと福子に想いを寄せ、求め続けている義男の願望でもあります。 願望であるせいか、これまでのベッドシーンより背景が明るく美しく撮られていて、なおかつ激しい。2人が抱き合う小さなベッドの上から、次第に広い森林に囲まれる湖畔にズームアウトしていく様子はなぜか壮大さすら感じます。 また、義男の福子への想いがあふれ出していくラスト近く、2人がダンスを踊りながら氷を口移しで頬張り合うシーンが官能的。この作品には義男の生への渇望が、福子への欲情として描かれています。

主人公の義男(よしお)は、貧しい北町にある尾弥次が経営する長屋に住んでいる売れない漫画家。伊守や尾弥次の怪しいビジネスに誘われるまま同行し、度々災難に遭ってしまいます。 演じるのは、成田凌です。2024年はドラマ『降り積もれ孤独な死よ』で主演を務め、「スマホを落としただけなのに」シリーズ最終章が公開されました。

伊守の恋人であり、義男の想い人である福子(ふくこ)。妻子がいた伊守に捨てられ、南町にある彼の豪邸まで追っていくほどの激しい気性の持ち主ですが、同時に愛情深くもあります。 演じるのは、中村映里子です。2024年は話題のドラマ「アンメット」1話にゲスト出演。2025年は出演映画『雪子 a.k.a』と『逃走』が公開されます。

小説家志望で流れ者の伊守(いもり)。義男とは福子が務める喫茶店「ランボウ」の常連客として顔なじみ。実は南町の富豪の娘に婿入りしており、福子を捨てて南町に戻ってしまいます。 演じるのは、森田剛です。2024年は、2023年に放送されたNHKドラマ『アナウンサーたちの戦争』の劇場版が主演作として公開されています。

つげ義春による4本の短編漫画をベースに、幻想的でシュールな世界観を斬新な映像で繋ぎ合わせた『雨の中の慾情』。映画オリジナルの展開と美しいラブシーンにも注目して、ぜひ劇場でご覧ください！