【呉美保監督に聞く】『ふつうの子ども』制作秘話!唯士役・嶋田鉄太くんの唯一無二の魅力とは?
呉美保監督の最新作『ふつうの子ども』が、2025年9月5日より全国公開中。 前作『ぼくが生きてる、ふたつの世界』(2024年)からわずか1年――待望の新作となる本作で呉監督が挑んだのは、“令和の子どもをありのままに描く”こと。そこから誕生したのは、まさに令和を代表する新たな子ども映画の傑作です。 公開を記念し、ciatr編集部が呉美保監督にインタビューを敢行。 子どもたちのキャラクターはどのように形づくられたのか? 主演・嶋田鉄太くんが放つ唯一無二の魅力とは? そして、不完全でありながらも愛すべき大人たちを描くうえでのこだわりとは? ──そのすべてを、監督ご自身の言葉で語っていただきました。『ふつうの子ども』誕生の舞台裏をお届けします。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
タップできる目次
- 映画『ふつうの子ども』作品概要・あらすじ
- 【企画立ち上げの経緯】“これまでにない子ども映画”への挑戦
- 【脚本段階での合言葉】"今の子ども、令和の子ども”ありのままを切り取る
- 【子どもキャラの作り込みについて】子役本人のキャラクター性を反映して生まれた唯士・瑠璃!真逆の陽斗
- 【呉美保 監督前作にも出演】嶋田鉄太くんの唯一無二の魅力
- 【大人たちの描き方】不完全な子ども、そして大人たち
- 【呉美保監督が映画に込めた思い】大人が観て楽になれる作品でありたい
- 【大人たちのキャスティング】蒼井優さん・風間俊介さん・瀧内公美さんの印象について
- 【カラフルでポップな作品の質感】 色彩豊かな映像と音楽を豊かに重ね、明るさを大切にしたかった
- 【子ども演出の名手 呉美保監督】『ふつうの子ども』は子ども映画の集大成に
- 映画『ふつうの子ども』は2025年9月5日より絶賛公開中
映画『ふつうの子ども』作品概要・あらすじ
公開日 | 2025年9月5日 |
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上映時間 | 96分 |
監督 | 呉美保 |
脚本 | 高田亮 |
プロデューサー | 菅野和佳奈 , 佐藤幹也 |
キャスト | 嶋田鉄太 , 瑠璃 , 味元耀大 , 蒼井優 , 風間俊介 , 瀧内公美 |
主人公・唯士を演じるのは、注目作への出演が相次ぎ存在感を高める嶋田鉄太。唯士が恋心を抱く、環境問題に真剣に向き合う少女・心愛を瑠璃が、共に活動する陽斗を味元耀大が演じ、表情豊かな子役たちがみずみずしい感情をスクリーンに吹き込みます。 さらに、唯士の母親役には蒼井優、担任教師・浅井役には風間俊介、心愛の母役には瀧内公美と、確かな実力を誇る大人キャストが作品に奥行きを与える存在感を発揮。 監督は、9年ぶりの長編『ぼくが生きてる、ふたつの世界』で国内外から高評を博した呉美保。脚本は「子ども同士の人間ドラマを描きたい」という想いを長年抱き続けてきた高田亮が担当します。 『そこのみにて光輝く』『きみはいい子』に続く名タッグが描くのは、ありのままの令和のこどもたち。世代を超えて共感を呼ぶ、これまでになかった“子ども映画”が誕生しました。
あらすじ
上田唯士(うえだ・ゆいし)10才、小学4年生。両親と三人家族、おなかが空いたらごはんを食べる、いたってふつうの男の子。最近、同じクラスの三宅心愛(みやけ・ここあ)が気になっている。 環境問題に高い意識を持ち、大人にも臆せず声を挙げる彼女に近づこうと頑張るが、心愛はクラスのちょっぴり問題児、橋本陽斗(はしもと・はると)に惹かれている様子。そんな3人が始めた“環境活動“は、思わぬ方向に転がり出して――。
呉美保監督プロフィール
生年月日 | 1977年3月14日 |
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出身地 | 三重県 |
出身校 | 大阪芸術大学映像学科 |
フィルモグラフィー | ・『酒井家のしあわせ』 ・『オカンの嫁入り』 ・『そこのみにて光輝く』 ・『きみはいい子』 ・『ぼくが生きてる、ふたつの世界』 ・『ふつうの子ども』 |
【企画立ち上げの経緯】“これまでにない子ども映画”への挑戦

Q:まずは本作の企画が立ち上がった経緯とオファーが来た際の感想をお聞かせください。 呉監督 元々、菅野和佳奈プロデューサーと(脚本家の)高田亮さんが企画を進めていて、プロットはあったんです。彼らがやりたいと言ってくれたのは「今までにない子どもの映画」でした。今までにない見たことのない子どもが主人公の映画を撮りたいということと、底の根っこにあるテーマとしては社会的な、誰もが観たときに身につまされるような、考えさせられるような、そういう映画にチャレンジしたいという話をしていました。

ショーン・ベイカー監督の『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』という映画をひとつインスパイア作品として挙げられていたんですが、私もすごく好きな作品で。ああいったみずみずしいし、ありのままの子どもを描けている映画って日本ではちょっと見たことないと思っていて。そこにチャレンジできると。 プロットを読んだ時に、さすが高田さんの本で、予定調和ではない、ちゃんと最後まで一気に観させてくれそうな映画になりそうだったので「ぜひ」ということでOKをしました。
【脚本段階での合言葉】"今の子ども、令和の子ども”ありのままを切り取る

Q:本作ではノスタルジーではなく、現代の子どもたちの姿をありのままに描かれている点がとても印象的でした。その表現へのこだわりについてお聞かせください。 呉監督
そうですね。もう「ありのままの子ども」。そして大人から見たフィルターを挟んだようなノスタルジーだったりとか、むやみにエモーションを描くことではない。「令和の子ども、今の子どもを切り取ろう」を合い言葉のように心がけながら脚本を作っていきました。 その材料としては(脚本家の)高田さんご自身もお子さんがいるし、私も息子がいるので、目の前にたくさんの素材やエピソードが転がっていました。 大きなストーリーの軸はあるんですが、それに対して「子どもあるある」「こういうことだよね」みたいなエッセンスをたくさん詰め込んで。 あといろんな人たちに途中段階で本を読んでもらいました。例えば教師が出てくるので、学校の先生に読んでもらったり、子どもたちにも実際に読んでもらって「あなたならどうする?」みたいなことを聞いたり。ヒアリングや取材を積み重ねて、最終的に撮影稿に持っていきました。
【子どもキャラの作り込みについて】子役本人のキャラクター性を反映して生まれた唯士・瑠璃!真逆の陽斗

Q:子どもたちのキャラクターが生き生きとしていて、本当に実在感がありました。子どもの主要キャラクターをどのように深めていったのかをお聞かせください。 呉監督 (3人の)構図としては本当によくある、例えば「ズッコケ三人組」だったり、初恋もの(作品)もそうですけれども、恋をしたらライバルが出てくるとか、既視感のある3人のトライアングルではあるんですよね。

それぞれのキャラクターを作るということもあるんですが、オーディションという名のワークショップを重ねながら、例えば主人公の(唯士)キャラクターを嶋田鉄太君に、心愛もすごい頑張り屋さんの瑠璃ちゃんのキャラクターに寄せながら、脚本だけで進むというよりは、選んだ子役の子たちと脚本をすり合わせながら演出していきました。

クラスメイトも本当にみんなオーディションで、ワークショップを重ねながら最終的に選ばせていただいたのですが。陽斗役の味元耀大君は、この映画のこの役(陽斗)を見て、味元耀大君を見ると全く真逆って感じるくらいすごく大人しくて静かな人なんです。 元々彼は陽斗役ではなく、唯士役で残ってもらっていたのですが、最終日にふと思いつきで、陽斗をやってもらいました。 「この子はもしかしたら憑依型で何でもできるかもしれない」と思って、陽斗を演じてみてもらったらサラッとできたんです。「唯士は嶋田鉄太でしかない」と私は思っていて、でも「味元耀大を選ばないというのがどうかな?」と思ったときに陽斗を演じてもらったら完璧にできたので、「あ!整った!」と思って。 何回もワークショップを重ねながらですが、瑠璃と嶋田鉄太と味元耀大のこの3人のチームが完成しました。
【呉美保 監督前作にも出演】嶋田鉄太くんの唯一無二の魅力

Q:嶋田鉄太くん演じる唯士は言葉にならない声や困り顔だったりリアクションがすごく魅力的で、ずっと見ていたくなる存在でした。 呉監督 嶋田鉄太は嶋田鉄太でしかないというか。もちろんお芝居だから彼もちゃんと台本を読んでそのお芝居をするし、それに対してさじ加減の足し引きみたいなディレクションをするのですが。 これまで子どもが主人公の映画では、どちらかというと目鼻立ちのはっきりした子が選ばれがちだったと思うんです。でも嶋田鉄太くんはなんとも素朴な風情だなと。「これは斬新なキャスティング」になると思いました。 ポスターや予告編でも彼の思わず目で追ってしまうような雰囲気は伝わるとして、本編を観たときにずっと嶋田鉄太くんというか、唯士を見ていたいと皆さんに思っていただけるのではと思っています。 この映画1本を最後まで彼が率いて、(唯士の)アップで始まり(唯士の)アップで終わるっていうすごいことですよ。
Q:嶋田鉄太くんは監督の前作に『ぼくが生きてる、ふたつの世界』にも出演されていましたが、その時からキャスティングの構想はあったのでしょうか?

呉監督 ちょうど前作のオーディションをしていたのが2年前になるんですが。吉沢亮さん演じる主人公・大の幼少期の友人役のオーディションで嶋田鉄太くんが来てくれたときに、他の子とはちょっと違ったんですね。 みんなには台本を渡しているので、セリフを覚えてくるんです。ちゃんと訓練されているからセリフ通りに言うんです。鉄太くんは全然セリフ通りに言わないし、でもそのアレンジが上手くて。 小学生ぐらいだと緊張して周りを見たりする子が多かったりしますが、嶋田鉄太くんは緊張しているのか、していないのかわからない。彼はなにか違ったんです。 思わず話しかけてみたくなる感じだったので、主人公でもないのに(オーディション)最後にすこし残ってもらったんです。

ちょうど『ふつうの子ども』の本作りをしていた時でもあったので、頭の中にメモをしたくて。「将来何になりたいの?」って聞いたら「芸人です!!」と。「誰が好きなの?」と聞いたら「どぶろっくです!!」って(笑)。かぶせ気味に言われて「そっちか!」みたいな。 話せば話すほど面白かったので、頭の片隅に置きつつ、今回のキャスティングを始めるにあたってもちろん彼にも来てもらいました。 みんなと一緒にオーディションを受けてもらって、何度オーディションしても「主人公は嶋田鉄太だな」とプロデューサーと話していました。
【大人たちの描き方】不完全な子ども、そして大人たち

Q:時に子どもらしい振る舞いをする大人たちも印象的でした。本作で大人たちを描くうえでのこだわりについてお聞かせください。 呉監督 自分が常に痛感するんですが、子どもを産んで親になったからといって何も成長していなくて。やっぱり「みんなそうなんじゃないかな」っていう思いを込めてはいるんです。 もちろん子どもはそうなんですが、この映画に出てくる大人たちも不完全で。でもそれが人間だと思うし、「人が愛おしいと思えるような映画になればいいな」と思っています。 私の仲間たちが先に映画を観てくれたんですけど、みんな「子どもがかわいいな」なんて呑気に観始めたら、途中から「あれ、これ自分のあの頃を思い出す」みたいな、すこしヒリヒリするような自分の子ども時代の苦い思い出を思い出したりして、最後にものすごく身につまされたとか。 あとなにより、大人が出てくる後半に、親であるひとたちは、「自分が親であることのいろんな矛盾を突きつけられたような気がした」と言ってくれて。私が思っていたように受け取ってくれたのがすごく嬉しいです。
【呉美保監督が映画に込めた思い】大人が観て楽になれる作品でありたい

Q:「子どもらしさ」という言葉がありますが、子ども時代に見られるそれは、むしろ「人間らしさ」が際立っているだけなのではと本作を観て感じました。大人になってもその本質は変わらないのだと 呉監督 子どもの社会を描いているんですけれども、結局その社会って大人の社会と地続きなんですよね。人間関係も、子どもの方があからさまだけど、大人は言葉に出さない、顔には出さないことはあるけれども、結局みんな同じような心理でやっているような気がしています。 でも「こうでなきゃいけない」と思ってしまうのが大人。だからこの映画は、大人が観た時にちょっと楽になれるような映画でもありたいなと思っています。
【大人たちのキャスティング】蒼井優さん・風間俊介さん・瀧内公美さんの印象について

Q:本作では、唯士の母親役を蒼井優さん、担任の浅井先生役を風間俊介さん、瑠璃の母親役として瀧内公美さんが出演されています。このキャスティングへのこだわりや経緯をお聞かせください。 呉監督
唯士の母親を演じた蒼井優

今回お引き受けくださって、蒼井優さんとは初めてご一緒させていただきました。蒼井優さんも実際にお子さんがいらして、リアリティというか実感を込めて表現できるのもあるのでしょうが、「何かいい歳の取り方をしているな」と。 「蒼井優、第2ステージ」じゃないですけど、これまでも大好きでたくさん彼女の映画を観てきましたが、また新たな人間的な魅力がたくさんあるお芝居を見せてもらえたと思っています。
唯士の担任・浅井先生を演じた風間俊介

風間さんは今回の教師役を演じるにあたって、役のことも含めて色々な話をさせていただきました。 今回やりたかったのは「絶妙にどっちなんだろう」という先生。「いい人なの?」「いや、そうでもない?どっち?」って。 最初はどんな仕事もそうだと思うのですが、キャリアを積み重ねていくと、やる気満々で就いたお仕事でもいい意味で成熟したり、現実を知って諦めが入るとか。その最初のテンションで何かをやり続けるのは中々難しいことだと思うんです。 教師というのはその究極で。子どもに希望を持って教師になっても、毎日30人以上の子どもを相手にしていたら、テンションを高くやっていると疲れてくる。 その中で今回で言うと、風間さん演じる浅井先生が"このテンション”に至ったのかっていうのがパッと見て「ん〜わかる。」って説得力を持ってできる人って風間さんしかいないと思って。見事にやってくださいました。
瑠璃の母親役を演じた瀧内公美

瀧内公美さんずっとご一緒したいなと思っていました。本当に難しい役(瑠璃の母親役は)だと思ったんです。 だから瀧内さんとたくさん話をしながら進めました。「どっち?」ということもそうですけど。瀧内さんの最初の登場自体には疑いはなくていいと思ったんですよね。 「どこまで言えるか難しいんですけれども……だから瀧内さんの新境地!」私はおこがましいですけど、そう思っています。瀧内さん、本当に素晴らしかったです。
【カラフルでポップな作品の質感】 色彩豊かな映像と音楽を豊かに重ね、明るさを大切にしたかった

Q:本作の魅力として、映像のカラフルさや作品全体のポップさがあると思いますが、その点でのこだわりをお聞かせください。 呉監督 令和の新しい子どもの映画にしたかったので、それこそ『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』、ショーン・ベイカー監督の作品を参考にしてるんですけれども。 優しい色、パステルカラーって言うんですかね。そういう色がたくさんあるっていうのが、目で見てもすごく楽しめると思います。 とにかくストーリーも含めて暗くしたくはなくて、それをちゃんと視覚的にも表現したいなと思っていました。音楽もたくさんつけていますし、色々な人の感情を含めて、色とか音とかに詰め込まれているんじゃないかなと。私の気持ち的には、もう全開放で自由に撮らせてもらえた映画です。
【子ども演出の名手 呉美保監督】『ふつうの子ども』は子ども映画の集大成に

Q:監督は、『きみはいい子はいい子』や『ぼくが生きてる、ふたつの世界』、『私の一週間』などで子どもを実在感たっぷりに描かれてきましたが、改めてこれまでを振り返って本作はどのような作品でしょうか? 呉監督 「子どもを思いきり描く」という、私がたくさん描いてきた中でも(本作は)集大成だと思っています。ものすごく楽しく撮影したと同時に、とても大変でもありましたね。 やっぱり子どもたちを撮るというのは、全てコントロールはできない中で、どのように子どもの今一瞬のいい表情を切り取っていくかということを、スタッフと常に探りながら撮影していました。だから常に緊張しながら子どものことを追っていた。 でも、その苦労や大変さを経て、楽しい映画にはなっているんじゃないかなと思っています。
映画『ふつうの子ども』は2025年9月5日より絶賛公開中
呉美保監督の最新作『ふつうの子ども』は、従来の子ども映画の枠を超え、令和の時代に新たな息吹をもたらす傑作。監督の鋭い洞察と繊細かつ力強い演出によって紡がれる本作は、子どもという存在を通して根源的な“人間らしさ”を映し出し、観る者の心に深い余韻を残します。 『ふつうの子ども』は、2025年9月5日より全国公開中。ぜひ劇場でご体感ください。 ▼インタビュー・文:増田慎吾