【リンダ リンダ リンダ4K】山下敦弘監督に聞く生涯ベスト映画ランキング!監督の演出力に長けた名作ばかり
2000年代青春映画の金字塔『リンダ リンダ リンダ』が、4Kデジタルリマスター版として2025年8月22日にリバイバル上映されます。 公開を記念し、本作を手がけた山下敦弘監督にインタビューを実施。幼少期に親しんだ映画体験や、映画監督を志すきっかけとなった出来事など、山下監督の映画観を紐解きます。 さらに特別企画として、監督に「生涯ベスト映画」3本を選出いただき、ランキング形式でその魅力を語っていただきました。 第1位の作品は、『リンダ リンダ リンダ』のある名シーンに大きな影響を与えていた? ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
『リンダ リンダ リンダ』山下敦弘監督プロフィール

生年月日 | 1976年8月29日 |
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出身 | 愛知県半田市 |
出身校 | 大阪芸術大学芸術学部映像学科 |
フィルモグラフィー (主な代表作) | ・『リアリズムの宿』(2003) ・『リンダ リンダ リンダ』(2005) ・『天然コケッコー』(2007) ・『マイ・バック・ページ』(2011) ・『もらとりあむタマ子』(2013) ・『味園ユニバース』(2015) ・『1秒先の彼』(2023) ・『カラオケ行こ!』(2024) ・『化け猫あんずちゃん』(2024) ※久野遥子との共同監督 |
『リンダ リンダ リンダ』作品概要・あらすじ
2005年に公開された本作は、山下敦弘監督の長編第4作であり、2000年代青春映画の金字塔とも称される1本。文化祭を目前に控えた高校を舞台に、急きょ結成された女子バンドがザ・ブルーハーツの楽曲を披露するまでの4日間が描かれます。 主演は韓国の女優ペ・ドゥナ。共演には前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)が名を連ね、少女たちの揺れ動く想いや友情が、みずみずしい筆致で映し出されています。
山下監督に聞く『リンダ リンダ リンダ』制作秘話はこちら
山下敦弘監督が選ぶ生涯ベスト映画ランキング

山下敦弘監督に、生涯ベスト映画を3本選出いただきました。まずは第3位からご紹介をお願いします。
第3位『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(1991年):5時間超えでも魅了され続けるエドワード・ヤンの演出手腕

第3位は『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』です。 長い映画なんですけれども、映画としてすごく無駄がないというか……演出がすごい。(自分が)脚本を書かないっていうのもあるのですが、物語ももちろん大事だし、自分も物語をよく見ているところはあるんですけど、登場人物たちの演出だったり、存在感だったり、そういう部分が映画を観るうえで、すごく重要というか、好きなんですよね。 そういう意味でエドワード・ヤン監督の演出や人物の描き方が、本当に余計なことをせずに、すごく重量感があって。5時間という長い映画なんですけれども、ずっと興奮しながら観ていられます。
第2位『お引越し』(1993年):物語とは別軸で涙が流れる相米慎二監督の名作
第2位は、相米慎二監督の『お引越し』です。 相米監督の作品がもともと大好きで。子ども時代の田畑智子さんが主演で、それがまた素晴らしいんですよね。 「なんでこんな演出ができるんだろう?」って思うぐらい力強くて。子どもをよく演出されてるというか。当時アイドルだった女優さんを起用している映画も多いんですけど、決してセリフ回しが上手なわけではないし、いわゆる「相手の芝居を見て、空気を読んで演じる」みたいなタイプの芝居ではないんですよ。 ある意味では棒読みに近い部分もあるんですけど、でも、すごく刺さってくる。 それって真似できない演出だなと思うんですよね。「なんでこんなふうにできるんだろう?」って、毎回思いながら観てるし、でも、そうやって考える以前に、純粋に感動できる。 さっきのエドワード・ヤン監督の話とも通じるんですけど、演出家としてのすごさを感じさせられる。何度観ても、物語とは別のところでなにか涙が出てくるような映画なので、そこはすごいなと思っていつも観ています。
第1位『ディア・ハンター』(1978年):『リンダ リンダ リンダ』ラストは今作のオマージュ?

第1位は、マイケル・チミノ監督の『ディア・ハンター』です。もうこれは、何十年もずっと「好きな映画です」って言い続けています。 ベトナム戦争の戦地に行ったアメリカの若者たちの話なんですけど、背景やスケールはものすごく大きい。でも、描かれているのは、結局人間同士のコミュニティだったり、人間関係だったりするんです。そのダイナミックさと繊細さが本当に良いバランスがとれているアメリカ映画で。 実は『リンダ リンダ リンダ』のラストのライブシーンのあとに、4人の登場人物の映像が順番に映るんですけど、あれは『ディア・ハンター』のラストをまんま真似をしました。だから、自分はもう20年以上前から、この作品の影響を受けてるんです。
【映画の原体験】満席の劇場、立ち見で鑑賞した『E.T.』との出会い

Q:監督と映画の原体験についてお聞かせいただけますでしょうか。 山下監督 最初に観た記憶があるのは、『ブッシュマン』と『新Mr.Boo!アヒルの警備保障』という香港映画の2本立てを保育園ぐらいの時に観たのが一番最初の映画体験です。 その次に観たのが『E.T.』だったと思うんですけど。家族に連れて行ってもらって、当時満席で通路に座って鑑賞したんです。 話はさっぱりわからなかったんですけど、とにかく感動して。今思えば音楽とかにすごく感動してたんだと思います。それが最初に出会った頃の映画の原体験ですね。
【映画監督を志した原点】家庭用ビデオカメラがくれた“撮る喜び”

山下監督 Q:映画監督を志したきっかけをお聞かせください。 小学校、中学校と映画が好きで、ジャッキー・チェン、スピルバーグ、ホラー映画など当時の流行りに乗っていたんですけれど。 高校の頃、実家に家庭用のビデオカメラがあって、友達と遊び半分で撮り始めたんです。それがすごく楽しくて。 「高校卒業後の進路をどうしようか?」という時に、大阪芸術大学の映像学科を受験し、そこから監督を意識して、作品を作っていきながら映画監督になったという感じです。
【映画の鑑賞頻度・作品選び】最近ハマっているのはホラー映画

Q:どのぐらいの頻度で映画を鑑賞されるかと、どのような作品を鑑賞されるかをお聞かせいただきたいです。 山下監督 けっこう波があります。観たい時期は集中的に観たりしますし、最近はあまり観られていないんですけど……。最近はホラー映画をよく鑑賞します。『邪悪なるもの』というホラー映画を、いろんな人から「面白いよ」とすすめられて観に行きました。
【注目している映画監督】呉美保 監督の作品を観て思わず背筋が伸びた!?

Q:監督になられてから映画を鑑賞する視点に変化はありましたか 山下監督 あると思いますよ。作り手というか裏側を知ってるから、ちょっと。製作者の顔が見えてくるというか。そういう見方もする時もあります。でも本当に面白い映画というのは、そういうのも気にならずに没頭できる映画だなと思っています。
Q:現在注目されている監督はいらっしゃいますか?

山下監督 大学の同期の呉美保監督の『ぼくが生きてる、ふたつの世界』をドイツの映画祭で鑑賞してすごく感動しましたね。良い映画でした。 呉監督の演出って、ものすごくストイックなんですよね。演出とかシーンを作っていくところに、嘘がないというか。着実に嘘がなく撮っている感じがすごく説得力があって演出力のある監督だなと。 自分も含めてですけど、どこかで少し格好つけたくなったり、チャラついたりするんですが(笑)。呉美保さんの映画はそれが全然なくて、男前な映画。自分は脚本を書かないので比べるのも申し訳ないのですが、久々に呉さんの映画を観たら背筋が伸びたというか、「ちゃんとしなきゃ!」と思わされた作品でした。
『リンダリンダリンダ4K』2025年8月22日公開!色褪せない名作青春映画を劇場で
エドワード・ヤン、相米慎二、マイケル・チミノ──山下敦弘監督が生涯ベストに選んだ名作はいずれも、卓越した演出力で人間の機微を鮮やかにすくい取った作品ばかりです。そのエッセンスは、確かに山下監督のフィルモグラフィにも脈々と受け継がれています。 『リンダ リンダ リンダ』もまた、山下監督ならではの繊細で自在な演出によって、4人の少女たちの青春を瑞々しく、そして魅力的に描き出した一本です。 この夏、4Kリマスター版としてスクリーンに甦る本作を、ぜひ劇場でご体感ください。