2025年8月16日更新

【山下敦弘監督に聞く】『リンダ リンダ リンダ』制作秘話!主人公は元々ソンではなく留年生たかっちゃんだった?

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2000年代青春映画の金字塔『リンダ リンダ リンダ』4Kリバイバル上映が2025年8月22日より全国公開がスタートします。 今回の公開を記念して、山下敦弘監督に特別インタビューを実施。本作の制作秘話や、20年経った今も色褪せない理由について、じっくりと語っていただきました。 山下監督が考える『リンダ リンダ リンダ』の色褪せない魅力の源とは? ソンが涙するシーンで、正面のショットがない理由とは? 松山ケンイチさん演じる“マッキー”の告白シーンに隠された撮影秘話とは?

映画『リンダリンダリンダ』作品概要・あらすじ

2005年公開、山下敦弘監督による長編第4作にして、2000年代青春映画の金字塔とも称される1本。 文化祭直前の高校を舞台に、急きょ結成された女子バンドがTHE BLUE HEARTSの楽曲を披露するまでの4日間を描く。 主演は韓国の女優ペ・ドゥナ。共演には前田亜季、香椎由宇、関根史織(Base Ball Bear)が名を連ね、少女たちの揺れる想いや友情が、みずみずしいタッチで映し出される。2025年8月には、4Kレストア版の上映が決定。

山下敦弘監督プロフィール

山下敦弘監督、『リンダ リンダ リンダ』インタビュー
©ciatr
生年月日 1976年8月29日
出身地 愛知県半田市
出身校 大阪芸術大学芸術学部映像学科
フィルモグラフィー (主な代表作) ・『リアリズムの宿』(2003) ・『リンダ リンダ リンダ』(2005) ・『天然コケッコー』(2007) ・『マイ・バック・ページ』(2011) ・『もらとりあむタマ子』(2013) ・『味園ユニバース』(2015) ・『1秒先の彼』(2023) ・『カラオケ行こ!』(2024) ・『化け猫あんずちゃん』(2024) ※久野遥子との共同監督

【山下監督が考える色褪せない魅力の源】無理やり盛り上げることはしない

映画「リンダ リンダ リンダ」
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:多くの人に語り継がれる本作の色褪せない魅力は、監督ご自身どこにあるとお考えでしょうか? THE BLUE HEARTSというバンドの楽曲が持つ力はもちろんあるんですけど、客観的に見ると、作り手として「無理やり盛り上げよう」とか、「無理やり面白くさせよう」というようなことはあまりしなかったので、それがかえって映画の力になったというか。 大げさですけど普遍性じゃないですけれども、どの時代でも共感できるような、魅力に繋がったんじゃないかなと思います。物語として展開を色々と作れたのですが、そういうことをあえてしませんでした。

【キャラクターについて】ソンはペ・ドゥナとは異なる性格?

映画「リンダ リンダ リンダ」
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:作品を語る上で欠かせないのが、4人の主要キャラクターの魅力だと思います。それぞれキャラクターを作り上げる上でこだわったポイントをお聞かせください。 山下監督: この映画は企画があって、脚本を書きながら、同時にオーディションでキャスティングも並行して決めていたので、本人たちの魅力というか持ち味というか、そういうものも脚本に少しずつ反映されています。

山田響子(前田亜季):キャストの雰囲気に合わせて片思いをする設定に

映画「リンダ リンダ リンダ」、前田亜季、
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

前田亜季さんは子役からずっとやられていて、結構ベテランな存在でした。すごく普通の女の子でその可愛らしさや魅力を、その時の前田さんの雰囲気に合わせて、響子を4人の中で恋愛パートを担わせるキャラクターにしました。

立花恵(香椎由宇):怖そうに見えて、誰よりも優しい性格

映画「リンダ リンダ リンダ」、香椎由宇
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

香椎さんは当時まだ18歳でした。整った顔で黙っていると、やっぱり怖い雰囲気もあったし、声をかけづらいようなオーラもあったんですけれど……。 でも本人はすごく優しくて真面目で、そういったところは恵というキャラクターに反映されています。恵は短気でコミュニケーションを取るのがあまり上手いタイプではないんですけど、実は優しいみたいなキャラクターで、僕らから見て香椎さんの持ち味を生かした形になったと思います。

白河望(関根史織(Base Ball Bear)):キャストの素のリアクションが活かされた名シーン

映画「リンダ リンダ リンダ」関根 史織(Base Ball Bear)
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

関根さんは唯一ミュージシャンで、演技経験ゼロだったと思うんですけれども。そのまま彼女に合わせて全て演出したというか。 一番分かりやすいのは、最初にTHE BLUE HEARTSの楽曲を聴いて、香椎さんと前田さんはテンションが上がって踊るんですけど、関根さんだけ全然踊らなくて。 現場での「そっちの方が正直だよね」ということで、みんなで盛り上がるなか、関根さんだけは全然盛り上がらないみたいな。その素のリアクションを活かした希というキャラクターも関根さんに近いんじゃないかなと思います。

ソン(ペ・ドゥナ):恋愛・恋バナ好きの設定は作り上げたもの?

映画「リンダ リンダ リンダ」、ペ・ドゥナ
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

ソンというキャラクターは、結構作り上げたというか。韓国と日本という距離もあったので、ペ・ドゥナさんは撮影のギリギリまで日本には来られなかったので僕らでソンのイメージを膨らませてペドゥナさんに演じてもらいました。 ソンは恋愛や恋バナに興味があるキャラクターなのですが、ペドゥナさんに「日本の人たちは韓国の女性に対してそういうイメージがあるんですか?」と言われて。ソンというキャラクターは持ち味というよりかは結構ペドゥナさんが自分の中で作って対応してくれた感じがしています。

【ライブシーン・音楽シーンでのこだわり】ラストのライブで「僕の右手」を演奏しないのはなぜ?

映画「リンダ リンダ リンダ」、ペ・ドゥナ
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:ライブシーンも魅力の一つだと思いますが、ライブや音楽シーンを撮るうえでのこだわりをお聞かせください。 山下監督 映画のクライマックスだし、珍しくこの映画の中でちゃんと事前にカット割りをしたのはライブシーンぐらいかなと思うんですけれども、ちゃんと描こうとは思ってやっていました。 ライブシーンの最後「リンダリンダ」を歌って、その後「終わらない歌」を歌うんですけど、実は彼女たちは3曲練習していて。 「僕の右手」という曲をライブでは歌わないんですけど、前日の夜に練習しているシーンで「僕の右手」を演奏しているという、それがずっとワンカメで、ちょっと遠くから彼女たちを覗いているようなショットで、「僕の右手」を演奏するシーンがあるんですけど、個人的にはそのシーンがすごく好きですね。 お客さんはいないんですけれども、ただみんなで練習して音を合わせている4人だけの世界みたいな感じのシーンで。 ライブシーンも好きなんですけど、僕はその練習で演奏しているシーンがすごく好きで。それもあってラスト演奏をしないという選択をしました。あの特別な4人だけの演奏シーンみたいなのが好きですね。

【楽曲の選出について】数あるTHE BLUE HEARTSの名曲の中からなぜあの3曲に?

山下敦弘監督、『リンダ リンダ リンダ』インタビュー
©ciatr

「リンダリンダ」「終わらない歌」、あと1曲の選出が難航

Q:パーランマウムが演奏する「リンダリンダ」「終わらない歌」「僕の右手」の3曲を選ばれた経緯をお聞かせください。 山下監督 脚本の向井や私とかプロデューサー、みんなでアイデアを出し合ったのですが、それぞれみんな好きな曲がバラけていました。 脚本の向井は「街」っていう曲がすごい好きで、わたしはナビゲーターという曲が好きで入れたいと言ってていて。みんなで話し合っていく中で、「リンダリンダ」と「終わらない歌」はすぐ決まったんですけど。 「僕の右手」はみんなの入れたい気持ちが噛み合わず、一番こう「女の子に歌わせたい」みたいな理由で決まった気がします。かわいらしい曲だなと思ったというか。

田花子や萠が学園祭で演奏する楽曲が選ばれた経緯

Q:田花子が「すばらしい日々」、萌が「風来坊」を歌うシーンがありますが、これらの楽曲はどのように決まったのでしょうか? 山下監督 最初は全然違う曲だった気がするんですけど。演じてくれた湯川潮音さんとかと話していく中で、「風来坊」に決まったっていうのがあって。 「すばらしい日々」は今思い返すとわたしとか向井っぽいなと思いますね。あの歌がすごく好きで当時カラオケでの歌っていました。

【主人公が変わった経緯】元々は留年している田花子が主人公の予定だった?

山下敦弘監督、『リンダ リンダ リンダ』インタビュー
©ciatr

Q:元々は田花子が主人公だったという話を伺ったんですけど、脚本の方向性が変わった経緯を聞かせていただきたいです。 山下監督 最初は、この映画にも登場する留年した、たかっちゃん(田花子)が主人公で。同級生はみんな卒業して、学校でひとりぼっちの女の子がボーカルをやるっていう設定でした。 状況的にはソンというキャラクターと近いかもしれないですけど、要は周りに友達がいなくて、だけど誘われてライブをするという。 でも、たかっちゃんがブルーハーツを歌うと、なんかブルーハーツっぽくなるなと。ブルーハーツのメッセージがストレートに表現されちゃうんじゃないかと思って。迷っていた時に、ペ・ドゥナさんの映画を観ていたので、彼女が思い浮かびました。 韓国からの留学生の女の子が、日本語の歌詞の意味もわからないけれども、ブルーハーツに感動して歌を歌うという方が、ブルーハーツのメッセージ性とかが少し違った形に見えるんじゃないかなと。 もちろんペドゥナさんが素晴らしい女優だというのもあったので、田花子というキャラクターで進んではいたんですけれども、ペ・ドゥナさん主役で脚本を書き直しました。

【名シーンの裏側】最後の演奏シーンが美しくなることに確信があった

映画「リンダ リンダ リンダ」、ペ・ドゥナ
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:ソンさんが初めてTHE BLUE HEARTSの曲を聴いて涙するシーンがとても印象的でした。このシーンの撮影秘話をお聞かせください。 山下監督 撮影では泣いている顔を正面から撮っているんですけれども、編集の段階でない方がいいんじゃないかと思って。要はペ・ドゥナさん以外の3人のリアクションで十分伝わるので、泣いている姿を具体的に見せるんじゃなくて後ろ姿でも十分ないかなと。 逆に言うと、泣き顔を見せることで押し付けがましくなる。だからサラッといった方がいいんじゃないかなと思って。あえて正面のショットは使わなかったです。

映画「リンダ リンダ リンダ」、ペ・ドゥナ
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:ソンさんがバンドに誘われるシーンもかなりのロングショットで、ソンさんは遠くで小さく映っていましたね。 山下監督 確かにあの場所の距離を生かしたという感じでした。彼女たち4人に魅力あるので、後ろ姿でもシルエットだけでも全然魅力的だなっていうのは思うことですよね。 当時、自分でカットを細かく割って彼女たちを魅力的に見せるみたいな技術もやり方も分からなかったので。いつもグループで、グループで撮ったという感じでした。 こういう女の子たちが出ている映画は、今もずっと作られ続けているんですけど。完璧に可愛い顔ばかり見せていると、ちょっと緩んだ時の顔とかすごく気になっちゃって。映画からすこし距離ができちゃう感じがするんですけど。 映画の中の9割が普通で、でも1割ぐらいドキッとするぐらい美しかったり可愛かったり、いい瞬間が撮れれば、そういった映画がいいなと思うので。 この映画も、そういうような思いでやっていたというか。彼女たちが最後に演奏する瞬間はすごく美しいだろうなと思っていたので。綺麗に撮ったりとか、そういうことは意識しないでやっていました。 結構、即物的に撮っている感じの映画で。どこか一瞬だけキラッと光る瞬間があったら、その印象が多分見ている人に残るんだろうなと。そういう映画になっているんじゃないかなと思います。

【マッキー告白シーンの撮影秘話】松山ケンイチの人柄がそのまま活かされたキャラ設定に

 「リンダ リンダ リンダ」松山ケンイチ、マッキー
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:松山ケンイチさん演じるマッキーがソンに告白するシーンも短いながら印象的でした。このシーンの撮影秘話があればお聞かせいただきたいです。 山下監督 マツケンはあんな感じのやつですよ(笑)。ああいう役(マッキー)がすごく似合うというか。松山ケンイチという俳優としても人間としてすごく良い奴だし、魅力的な人なんです。 彼がああいうシーンをやることに確信があったというか、絶対面白くなるなと思ったので。松山君もハングルをちゃんと覚えてきてくれて。 ハングルで話しているのに、ソンは日本語で返すみたいな。あのシーンは撮影していてもみんな笑いながら見ていたんじゃないかなと思います。すごく楽しかった思い出があります。

 「リンダ リンダ リンダ」、ソンさん、マッキー
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

Q:キャストは指名されたんですか? 山下監督 オーディションでしたね。当時ほとんどのキャストが若かったので、オーディションという形で会った子もいますし、顔合わせみたいな感じで会った人もいましたね。 先生とか、そういう大人のキャスティングはもちろんオファーして、学生は基本的にみんな一度は会って決めるっていう感じでした。

【山下敦弘監督の音楽映画観】『カラオケ行こ!』や『味園ユニバース』にも通ずる純粋な衝動

カラオケ行こ! 実写映画
©2024『カラオケ行こ!』製作委員会

Q:『リンダ リンダ リンダ』の後、山下監督は『味園ユニバース』や『カラオケ行こ!』など音楽を扱った映画を撮られてきたと思いますが、本作の影響や経験が生かされたことはあったのでしょうか? 山下監督 あると思いますけどね。「ブルーハーツのコピーをやって意味あるのかな?」みたいなセリフがあって、恵が「意味なんかないよ」って言うシーンがあるんですけど。音楽自体を映画で描く上で、例えばバンドのサクセスストーリーだったり、成功する、成功しない、とかってよくあると思うんですけど、そういう映画があってもいいんですけど、そういうのが苦手というか、好きじゃない。 音楽はもっと衝動的にやる方が純度が高いんじゃないかと思っていて。それをまず描いたのがこの『リンダ リンダ リンダ』なんですけど。

その後の音楽映画も何かそういうつもりで撮ったというか、「音楽で金儲けしよう」とか、「音楽で成功しようぜ」みたいなものは描かないようにしています。 常に音楽は何か純粋に好きだからとか、歌いたいからとか、バンドしたいからとか、そういう根拠のない衝動の方が見ていて気持ちがいいみたいなものを心がけているんですけど、その何か1発目がこれ(『リンダ リンダ リンダ』)だったんだなって気がします。

『リンダ リンダ リンダ 4K』は2025年8月22日公開

映画「リンダ リンダ リンダ」ポスター
© 「リンダ リンダ リンダ」パートナーズ

公開から20年が経った今も、映画『リンダ リンダ リンダ』の魅力は色あせることがありません。 山下敦弘監督の音楽映画に対する真髄や美学に、瑞々しいキャストの魅力を最大限に引き出す演出が重なったことで、この作品は時を超えて語り継がれる名作となったのでしょう。 『リンダ リンダ リンダ 4K』は、2025年8月22日より公開。ぜひこの機会に本作を、大きなスクリーンと大音量でお楽しみください。

▼インタビュー・文:増田慎吾