『LOST LAND/ロストランド』藤元明緒監督に聞く生涯ベスト映画3選
映画『LOST LAND/ロストランド』作品概要
| タイトル | LOST LAND/ロストランド |
|---|---|
| 公開日 | 2026年4月24日 |
| 監督・脚本・編集 | 藤元明緒 |
| 出演 | ムハマド・ショフィック・リア・フッディン , ソミーラ・リア・フッディン |
| 予告編ナレーション | 河合優実 |
| 撮影監督 | 北川喜雄 |
| 音響 | 弥栄裕樹 |
| 音楽 | エルンスト・ライジハー |
| カラリスト | ヨヴ・ムーア |
| エグゼクティブプロデューサー | 國實瑞惠 , 安川正吾 |
| プロデューサー | 渡邉一孝 |
| 公式サイト | 公式サイトはこちら |
故郷を追われた難民の幼い姉弟が、家族との再会を願い、命懸けで国境を越えていく──。 世界三大映画祭の一つ、第82回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門において、日本人監督として初めて審査員特別賞を受賞した本作は、その後も各国の映画祭で次々と栄誉に輝いている。 “世界で最も迫害されている民族の一つ”といわれるロヒンギャ難民たちが総勢200名出演する長編映画は、世界初。故郷を追われた実際の当事者である彼らの声と眼差しは、演技未経験でありながら、作品に圧倒的なリアリティと強度をもたらしている。 監督・脚本を手がけたのは、移民の物語を描いた『僕の帰る場所』(2017)、『海辺の彼女たち』(2020)で、大島渚賞、新藤兼人賞を受賞し、国内外で高い注目を集める藤元明緒。実話をもとに、息を呑むような過酷な現実と幻想的な表現が交錯する世界観のなかで、難民たちの過酷な旅路を鮮烈に映し出す。 さらに、予告編のナレーションは、本作に深く感銘を受けた俳優・河合優実が担当している。
藤元明緒監督プロフィール

| 生年月日 | 1988年3月15日 |
|---|---|
| 出身地 | 大阪府 |
| 出身校 | ビジュアルアーツ専門学校大阪 |
| フィルモグラフィー | 僕の帰る場所 (2017) 海辺の彼女たち (2021) LOST LAND/ロストランド(2026) |
「ロストランド」制作秘話はこちら
藤元明緒監督が選ぶ生涯ベスト映画
藤元明緒監督に生涯ベスト映画を3本選出いただきました。1本目から紹介をお願いいたします。
生涯ベスト映画①『動くな、死ね、甦れ!』(1989)
まず1本目として挙げたいのは、ビターリー・カネフスキー監督の『動くな、死ね、甦れ!』です。1989年に公開された旧ソ連時代のモノクロ映画で、ちょうど自分が生まれた年の作品でもあります。 監督自身がかつてストリートチルドレンとして過ごしていた経験をもとに、自分の記憶や体験を物語として再構築した作品で、自伝的でありながら、どこかファンタジックな側面も持っています。リアルと虚構が混ざり合った独特の感触のある映画ですね。 実はこの作品が、自分にとって初めてミニシアターで観た映画でもあります。主人公は少年なのですが、大人になりきれない自分と、子どもでいたい自分との間で揺れ動く心がとても繊細に描かれていて、その感覚に強く引き込まれました。 ロシアに行ったことがあるわけではないのに、まるで自分の子どもの頃の記憶を見ているような、不思議な感覚があって、本当に心を掴まれた作品です。
作品概要
1989年、ヴィターリー・カネフスキー監督によるソ連映画。戦後の荒廃した炭鉱町を舞台に、少年ワレルカと少女ガリーヤが、貧困や暴力に満ちた過酷な環境のなかで生きる姿を描く。粗削りで生々しい映像の中に、子どもたちの孤独、反抗、そしてかすかな希望がにじみ、痛切な余韻を残す。
生涯ベスト映画②『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』(2013)
2本目に挙げたいのは、2013年公開の『ハッシュパピー ~バスタブ島の少女~』です。 いわゆるハリウッドの大作というよりは、インディペンデントな体制で作られた作品で、監督が29歳のときに仲間たちと作り上げた、いわば自主映画的な成り立ちの映画です。 物語の舞台は、いずれ沈んでしまう運命にある“バスタブ島”。そこで暮らす少女と、その土地に生きる人々の姿が描かれています。ある日、嵐によって島は大きな被害を受け、さらに父親も倒れてしまう。そうした状況の中で、少女が初めて島の外へ出て、母親を探す旅に出るというストーリーです。 子どもの視点から描かれる、どこかファンタジックな語り口の作品なのですが、その一方で、気候変動のような現実世界の問題とも地続きになっている。そうした要素が物語の中に自然に織り込まれていて、とても独特な質感を持った映画だと思います。
作品概要
2012年製作、当時若干29歳だったベン・ザイトリン監督によるアメリカ映画。第85回アカデミー賞で作品賞ほか4部門にノミネートされた。湿地の小さな共同体で父と暮らす少女ハッシュパピーが、嵐や父の病に直面しながら過酷な現実を生き抜く姿を描く。自然の脅威と死の気配のなかでも失われない想像力と生命力が、詩的で力強い映像の中に刻まれている。
生涯ベスト映画③『アイアンマン』(2008)

藤元明緒監督 3本目は、多くの方がご存じだと思いますが、『アイアンマン』です。マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の記念すべき第1作目ですね。 いわゆるヒーロー映画ですが、何よりもロバート・ダウニー・Jr.が大好きで。好きな俳優を一人挙げるなら、間違いなく彼ですね。自分にとって“スター”という存在で、正直なところ作品の内容に関わらず、彼がスクリーンに映っているだけで目が離せなくなる。動きや佇まい、その一つひとつに強い引力があると感じています。 ここまで人を惹きつけるエネルギーや才能を持った俳優は、なかなかいないと思いますし、いつか一緒に仕事をしてみたいと強く思っている存在です。
作品概要
2008年公開、ジョン・ファヴロー監督。マーベル・シネマティック・ユニバースの第1作として製作され、ロバート・ダウニーJr.が演じる天才発明家にして巨大企業の経営者トニー・スタークが、戦地での体験を通じて自らの人生と責任を見つめ直していく姿を描く。痛快なアクションと人間的成長が重なったヒーロー映画。
【生涯ベスト映画からの影響】

Q. 今回選出いただいた3本について、監督ご自身の作品に影響を与えた部分があればお聞かせください。 藤元監督 『アイアンマン』に関しては、直接的に作品作りへ影響を受けているかというと、少し違うかもしれません。 ただ、他の2作品については共通している部分があって、いずれも“孤独”を描いている作品。孤独の中で人がどう生きていくのか、そして観客がその孤独にある人物をどう見守るのか――そうした関係性がとても印象的でした。 つまり、主人公と観客との距離感や繋がり方ですね。その関係性のあり方は、自分たちの作品にも大きく影響していると思います。
【映画の原体験】

Q. 藤元監督の映画の原体験についてお聞かせください。 藤元監督 小さい頃から映画漬けの生活を送っていたわけではなくて、ジブリ作品や『千と千尋の神隠し』のような、いわゆる多くの人が観ている映画に触れていた程度でした。いわゆる“映画小僧”というタイプではなかったですね。 転機になったのは、専門学校に入ってからです。もともとはテレビの編集など、技術的なことを学ぶために入学したのですが、カリキュラムの一環として映画を観る授業があって、そこで初めてミニシアターに足を運びました。 その体験は自分の中でとても大きくて、作品そのもの以上に、「ミニシアターとは何か」という新鮮さがありました。それまでシネコンしか行ったことがなかったので、あの独特の空気感やアンダーグラウンドな雰囲気に触れて、「映画館に行くという体験そのものがこんなに豊かなものなんだ」と感じたのをよく覚えています。
【映画監督を志したきっかけ】

Q. 映画監督を志したきっかけについてお聞かせください。 藤元監督 初めてミニシアターで映画を観たときの体験が大きかったですね。そのときはレイトショーで、お客さんも数人しかいないような、かなり空いている状況でした。 それまで自分にとって映画は、ストレス解消やエンターテインメントとして楽しむもの、という感覚が強かったのですが、そのときは少し違いました。 画面に映っているのは遠い国の出来事なのに、まるで自分もそこにいたかのような感覚があって、記憶の一部のように残る瞬間がありました。そのときに、「映画にはこういう力があるんだ」と気づきましたし、「自分もこういう映画を撮ってみたい」と思うようになりました。 もともとは技術職志向で専門学校に入っていたのですが、その体験をきっかけに方向性が大きく変わって、誰かの記憶に残るような物語や映画を作りたいと思うようになった、というのが始まりですね。
【鑑賞者としての映画との関わり】

Q. 映画を観る頻度と鑑賞する作品の傾向をお聞かせください 藤元監督 映画を作るようになってからは、そこまで頻繁に観ているわけではなくて、映画館で観るのは多くても月に1本くらいですね。ただ、自分の作品が映画祭に出品された際には、その場でいろいろな国の映画をまとめて観ることもあります。 作品を選ぶ基準としては、“何かしらの痛み”を感じる映画に惹かれることが多いです。日本に限らず、世界のさまざまな場所で起きている出来事や状況に触れられるような作品ですね。 そうした映画に触れることで、自分が世界とつながっている感覚を持てたり、現実に起きていることを受け取るきっかけになる。さらに、それをまた誰かに伝えていくことにもつながるので、自分にとってはとても意義のある体験だと感じています。
【最近鑑賞して印象に残った作品】
Q. 最近鑑賞された作品で、心に残った作品についてお聞かせください。 藤元監督 去年観たドキュメンタリー作品で、『ただ、愛を選ぶこと』(2024)はとても印象に残っています。 ノルウェーの作品で、ほとんど自給自足に近い生活を送っている家族を描いた映画です。お父さん、お母さん、そして娘たちで暮らしているのですが、ある日お母さんが亡くなってしまう。その出来事をきっかけに、それまで成り立っていた生活が崩れていく。 母親が家庭の中心として支えていた存在だったこともあって、その喪失の中で、残された家族がどうやって再び生活を立て直していくのか、再生へ向かっていくのかを見つめていく作品でした。 日本人の自分にとっても、とても普遍性のある物語だと感じましたし、誰かの家族の出来事でありながら、自分自身の喪失のような痛みを感じる瞬間がありました。そういう意味でも、とても心に残る作品でしたね。
【映画監督として幸せな瞬間】

Q. 映画監督として一番幸せを感じる瞬間についてお聞かせください。 藤元監督 映画作りには、企画、撮影、編集といったさまざまなフェーズがありますが、やはり一番強く幸せを感じるのは、完成した作品を観客の前で上映する瞬間です。自分たちが大切に積み重ねてきたものが、時間を経てスクリーンに立ち上がり、それが観客に届く。その場に立ち会えることは、とても特別な体験だと思います。 上映後に大きな拍手が起きたり、観てくれた方の心が動いた瞬間に触れたり、場合によってはその人の人生に何かしらの変化が生まれることもあるかもしれない。そうした場に居合わせることができるのは、本当に貴重なことだと感じています。 映画館という空間で、ひとつの作品を観客と共有できたと実感できる瞬間が、何よりも嬉しく、幸せだと思える時間ですね。
▼取材・文:増田慎吾