2026年4月22日更新

石井裕也監督に聞く生涯ベスト映画ランキング!『人はなぜラブレターを書くのか』公開記念インタビュー

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石井裕也監督
©ciatr

2026年4月17日(金)公開の映画『人はなぜラブレターを書くのか』。 『舟を編む』『愛にイナズマ』などで知られる石井裕也監督が手がける本作は、2000年3月8日に発生した地下鉄脱線事故で亡くなった青年の家族のもとに、20年の時を超えて届いた一通の手紙をめぐる、奇跡のような実話に着想を得たオリジナル作品です。 主演に綾瀬はるかさんを迎え、當真あみさん、細田佳央太さん、菅田将暉さん、妻夫木聡さん、佐藤浩市さんら豪華キャストが集結しました。 今回は本作の公開を記念して、石井裕也監督にインタビューを実施。映画との出会いや原体験、映画にのめり込んだきっかけ、さらに生涯ベスト映画3本まで、石井監督をかたちづくった映画体験をたっぷり伺いました。

『人はなぜラブレターを書くのか』作品・概要あらすじ

タイトル人はなぜラブレターを書くのか
公開日2026年4月17日(金)全国公開
監督・脚本・編集石井裕也
出演寺田ナズナ 役/綾瀬はるか , 17歳のナズナ 役/當真あみ , 富久信介 役/細田佳央太 , 川嶋勝重 役/菅田将暉 , 寺田良一 役/妻夫木聡 , 富久隆治 役/佐藤浩市
音楽岩代太郎
主題歌Official髭男dism「エルダーフラワー」(IRORI Records / PONY CANYON)
撮影鎌苅洋一
配給東宝
公式サイト公式サイトはこちら

あらすじ

映画「人はなぜラブレターを書くのか」
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

あなたが生きた"存在"は、消えない。 寺田ナズナ(綾瀬はるか)は、とある青年に手紙を書きはじめる。 ——24年前、17歳のナズナ(當真あみ)は、いつも同じ電車で見かける高校生・富久信介(細田佳央太)にひそかな想いを抱いていた。 一方、信介は学校帰りにボクシングに夢中な生活を送り、プロボクサーを目指していた。そんな彼らに、運命の日、2000年3月8日が訪れる。 ——2024年、ナズナからの手紙を受け取った信介の父・隆治(佐藤浩市)。 その手紙の中に亡くなった息子の生きた証を確かに感じ、知りえなかった信介の在りし日が明らかになっていく。そして、隆治はナズナに宛てた手紙を綴りはじめる。愛する者を亡くして生き続けた隆治とナズナとの邂逅により、24年前の真実とナズナが手紙を書いた理由が明らかになる。 人はなぜラブレターを書くのか——その手紙が"奇跡"を起こす。

石井裕也監督プロフィール

石井裕也監督
©ciatr
生年月日 1983年6月21日
出身地 埼玉県浦和市
出身校 大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業 日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修士課程修了
フィルモグラフィー 『剥き出しにっぽん』(2005年) 『反逆次郎の恋』(2006年) 『ガール・スパークス』(2007年) 『ばけもの模様』(2007年) 『君と歩こう』(2009年) 『川の底からこんにちは』(2009年) 『あぜ道のダンディ』(2011年) 『ハラがコレなんで』(2011年) 『舟を編む』(2013年4月13日公開) 『ぼくたちの家族』(2014年) 『バンクーバーの朝日』(2014年) 『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年) 『町田くんの世界』(2019年) 『生きちゃった』(2020年10月3日) 『茜色に焼かれる』(2021年) 『アジアの天使』(2021年) 『月』(2023年) 『愛にイナズマ』(2023年) 『本心』(2024年) 『人はなぜラブレターを書くのか』(2026年)

1983年6月21日生まれ、埼玉県出身。大阪芸術大学を卒業後、日本大学大学院芸術学研究科映像芸術専攻修士課程を修了。 2013年公開の『舟を編む』では、第37回日本アカデミー賞で最優秀作品賞、最優秀監督賞を含む6冠を受賞し、高い評価を確立しています。続く『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』は、第91回キネマ旬報ベスト・テン第1位に選ばれ、ベルリン国際映画祭にも出品されました。 近年も『アジアの天使』『月』『愛にイナズマ』『本心』など話題作を次々と発表。日常に潜む孤独や痛み、そして希望を丁寧にすくい上げるその作風は、多くの観客や批評家を魅了し続けています。

石井裕也監督 生涯ベスト映画ランキング

Q.石井監督に、生涯ベスト映画を3本選出いただきました。まずは第3位からご紹介をお願いします。

第3位『街の灯』(1931年)

そもそも、映画に順位をつけるのはすごく難しいなと思ったのですが……。どちらが上でどちらが下か、という話では本来あまりないので、映画ファンの方はそういうことも含めて楽しむのかもしれませんが、僕自身はかなり選ぶのに悩みました。 そんな前置きをしたうえで挙げるなら、まずは『街の灯』です。 「これぞ映画」と感じる作品です。面白いことをしている人を撮る。そのなかには様々な人間の心情、人生の機微が見える。そういうものこそが「映画」なのだと感じます。さらに、遠い昔の、まったく異なる国での出来事であるにもかかわらず、なぜか自分がその場に居合わせているかのような気持ちになる。そこにも、チャップリンという存在の大きさが表れているのだと思います。 最初に観たのは中学生の頃だったと思いますが、ちょうど映画にのめり込み始めた時期と重なっていたので、そういう意味でも、自分にとって特別な感情を抱いている作品です。

作品概要

チャールズ・チャップリンが監督・脚本・製作・主演を務めた映画史に残る名作。放浪紳士チャーリーが、盲目の花売り娘の幸せを願って懸命に行動する姿を軸に、ユーモアと哀愁、そして深い人間愛を描きます。 トーキー全盛期にあえてサイレント映画として発表された点でも知られ、言葉に頼らず感情を伝える映像表現は今なお高く評価されています。ラストシーンの鮮やかな余韻も含め、『街の灯』はチャップリン映画の魅力を凝縮した不朽の傑作。

第2位『ディパーテッド』(2006年)

映画 ディパーテッド
Ⓒ2006 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

第2位は『ディパーテッド』です。 3年ほど前、たまたまテレビで放送されていたのを観たのですが、とにかく圧倒的に面白かったんです。もちろんオリジナルの『インファナル・アフェア』も素晴らしい作品ですが、自分の中ではそれとはまた別物として、『ディパーテッド』が強烈に印象に残りました。 この年齢になると、どうしても感受性が鈍ってくるというか、若い頃のように簡単には驚いたり、心を大きく揺さぶられたりしなくなってくるんですよね。そんな中で、『ディパーテッド』は理屈抜きに「ものすごく面白い」と思えた、数少ない作品でした。

映画 ディパーテッド
Ⓒ2006 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

レオナルド・ディカプリオとマット・デイモン。この2人がとにかく過酷で悲惨な状況に置かれ、もがき続けていく。その構造自体がまず抜群に面白い。 さらに惹かれたのは、観ているこちらの感情が、2人それぞれの側に引っ張られていくところでした。どちらか一方に肩入れするのではなく、両方の立場に入り込んでしまう。あれは観客だけに許された視点だと思うんです。その二重構造が本当に見事で、強く引き込まれました。 観終わった瞬間には、「これは生涯ベストかもしれない」と本気で思ったほどでした。それくらい、久しぶりに味わった特別な映画体験でした。

作品概要

『ディパーテッド』(2006年)は、マーティン・スコセッシ監督が香港映画『インファナル・アフェア』(2002年)を原案に、ボストンを舞台として再構築したクライム・サスペンス。レオナルド・ディカプリオが犯罪組織に潜入する警察官ビリー、マット・デイモンが警察に潜り込んだ内通者コリンを演じ、ジャック・ニコルソンが非情なボス、フランク役で圧倒的な存在感を放ちます。 さらにマーク・ウォールバーグ、マーティン・シーンらが脇を固め、裏切りと忠誠、正義と悪が交錯する緊迫の心理戦を展開。原作の巧みな設定を生かしつつ、暴力性と人間ドラマをより濃密に描いた見応えある一本です。

第1位『カッコーの巣の上で』(1975年)

映画『カッコーの巣の上で』ジャック・ニコルソン
© Warner Bros. Entertainment Inc.

第1位は『カッコーの巣の上で』です。 “自由”というものを、言葉や概念としてではなく、圧倒的な現実として突きつけてくる映画に強く惹かれてしまいます。『カッコーの巣の上で』は、まさにそれを作品全体で体現している映画だと思います。 物語そのものが非常に力強いですし、映画を観終えたときに、“自由とは何か”を理屈ではなく感覚として受け取らせてくれる。 もともとアメリカン・ニューシネマ自体が好きなのですが、その中でもやはり『カッコーの巣の上で』は自分にとって特別な一本ですね。

作品概要

『カッコーの巣の上で』(1975年)は、ミロス・フォアマン監督、ジャック・ニコルソン主演による人間ドラマの傑作です。刑務所での労働を逃れるため精神病院に入ったマクマーフィーは、看護師ラチェッドが支配する閉鎖的な病棟で、管理と抑圧に満ちた現実に直面します。 自由奔放な彼の言動は、無気力だった患者たちの心を揺さぶり、やがて権威との鋭い対立へと発展していきます。個人の尊厳と自由の価値を鮮烈に描き、終盤からラストにかけては静かな衝撃と深い余韻を残す名作です。

【映画の原体験】言葉にできない感情の隙間を埋めてくれたのが、映画だった

チャールズ・チャップリン

Q. 映画の原体験について伺いたいです。どのような幼少期を過ごし、どんな映画をご覧になっていたのか。また、映画にぐっとのめり込んだきっかけがあればお聞かせください 石井監督 特に映画にハマったのは中学生の頃ですね。サッカー部や勉強をして過ごしていたのですが、それだけでは埋まらないような、何とも言えないモヤモヤがずっとありました。たぶん、そういう感覚は多くの人が持っているものだと思います。 当時そのモヤモヤを埋めてくれる何かをずっと探していたんでしょうね。たまたまBSで映画を観るようになって、あれが深夜だったのか、録画していたのかはもうはっきり覚えていないのですが、とにかく様々な作品に触れていました。 今と違って、当時は本当に幅広い映画を放送していて。いわゆる有名作だけじゃなくて、あまり知られていない作品も普通に放送していた。そういう映画を観ることで、それまでの自分が知らなかった世界に触れられた。そこが映画への入口だった気がします。

当時観て印象に残っているのは『僕を愛したふたつの国/ヨーロッパ ヨーロッパ』やチャップリンの作品。フランス映画ではパトリス・ルコントの作品も観ていましたね。それから、南仏を舞台にした作品で、正直すごく面白いというタイプの作品ではなかったのですが、妙に記憶に残っている映画もあったり。 おそらく「プロヴァンス物語」だったと思います。ウサギを解体するシーンがあったりして、そういうものって普通の生活の中ではなかなか目にしないじゃないですか。そういった意味でも、すごく印象に残っています。 家が映画館に通うような文化的な家庭だったわけでもなかったので、なおさら映画の世界に惹かれていったのだと思います。そこからは劇場にも足を運ぶようになり、中学生の頃には意識的に映画を観るようになっていましたね。 ただ、いわゆる“映画少年”みたいな感じではなくて。ひたすら映画漬け、というタイプではなくて、自分なりの距離感でのめり込んでいった感覚でした。

【鑑賞者としての映画との関わり】ふと出会った作品ほど、なぜか記憶に残っている

映画 落下の王国
© 2006 Googly Films, LLC. All Rights Reserved.

Q. 現在の映画との関わり方について伺いたいです。今はどのくらいの頻度で映画をご覧になるのか、また、どのような作品を好んで観られるのかをお聞かせください。 石井監督 最近は、実はあまり映画を観ていないんです。こう言うと少し幻滅されてしまうかもしれませんが、大学院の頃までは年間200本ほど観ていました。もちろん、観始めると続けて観ることもあるのですが、以前に比べると、最近は観る本数がかなり減っています。 その背景には、自分の意識が映画を“観ること”よりも、“作ること”へ強く向いていることがあるのだと思います。何かをインプットしようという意識はもちろんあるのですが、最近は本を読んだり、まったく違う体験をしに旅行へ出かけたりと、映画以外のものに触れることが増えました。 最近劇場で観た作品では、リバイバル上映されていた『落下の王国』が面白かったです。結局、あまり事前に調べすぎず、ふと何気なく観に行った映画のほうが面白いことも多い。そうやって偶然出会った作品のほうが、かえって強く心に残ることもある気がします。 ものすごく面白かったわけではなくても、なぜか記憶に残り続ける。振り返ってみると、自分の中にずっと残っている映画は、そういう出会い方をした作品が多いです。

【映画監督として幸せな瞬間】現場で大きな悩みに直面しているときこそ、幸福を感じる

映画「人はなぜラブレターを書くのか」
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

Q. 映画監督として一番幸せを感じる瞬間をお聞かせください 石井監督 やはり、現場でものすごく大きな悩みに直面しているときじゃないですかね。 最近は脚本を書くことも多いので、ひとりで悶々と考え続ける時間が長い。何か月もかけて準備をして、そのあいだにスタッフや俳優をはじめ、いろいろな人たちが集まってくる。そうして最後に、現場でいちばん大きな悩みにみんなでぶつかって、一緒に悩めたときは、本当に楽しいですね。 「ああ、みんなで作っているんだな」と実感できる瞬間でもあります。

映画「人はなぜラブレターを書くのか」
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

Q. 最新作『人はなぜラブレターを書くのか』でも、そういう瞬間はありましたか? 石井監督 いちばん印象に残っているのは、もちろん芝居について考える時間もそうなんですが、光の表現についてみんなで悩んでいたときです。たとえば冒頭のあるシーンで、どういう光を入れるのか、どんな質感の光にするのか、そういったことを現場で一緒に考えていた時間ですね。

映画「人はなぜラブレターを書くのか」
©2026 映画「人はなぜラブレターを書くのか」製作委員会

そうやって、みんなでひとつの表現に向き合いながら悩んでいるときが、いちばん楽しいですし、すごく多幸感に包まれる瞬間でもあります。 ▼取材・文・撮影:増田慎吾