【沖田修一監督に聞く】『さとこはいつも』制作秘話―奇跡の新星・姫野花春の抜擢理由とは?
タップできる目次
- 映画『さとこはいつも』作品概要
- 【企画の出発点】「誰かの頭の中にしかない話」を原作に
- 【姫野花春のキャスティング背景】オーディションで出会った“聡子そのもの”の存在
- 【中井聡子のキャラ造形】「小説を書くこととは無縁の女の子」であること
- 【有村架純のキャスティング背景】「強さが面白い」35歳・沙都子に見た等身大の矛盾
- 【沙都子のキャラ造形】“好き”だけでは生きられない——35歳の沙都子に込めたリアル
- 【映画宣伝という職業】「言葉への気の遣い方」が印象的だった
- 【“書く”を撮る】書く音は音楽と同じ、書く動作はアクションとして
- 【石田ひかりのキャスティング背景】“何かを始める姿”が里子にぴったりだった
- 【3人をつなぐモチーフ】「起点がわからない連鎖」を想像させる仕掛け
- 【夜中に書き始めるシーン】音楽でもつないだ、3人の“書く”という行為
- 【韓国ドラマのパロディ】「生半可では作れない」沖田修一監督が語る韓国ドラマ愛
- 【聡子の家族】「文学の匂いがしない家族」にした理由
- 【音楽】折坂悠太と柴田聡子——“言葉”の映画を支えた音楽
映画『さとこはいつも』作品概要
| 公開 | 2026年9月18日(金) |
|---|---|
| 上映時間 | 139分 |
| レーティング | G |
| 監督・脚本 | 沖田修一(完全オリジナル脚本) |
| 出演 | 西田沙都子役/有村架純、飯島里子役/石田ひかり、中井聡子役/姫野花春、寺尾千穂役/吉田羊、村本健吾役/オダギリジョー、飯島重明役/筒井道隆、中井圭吾役/黒田大輔、中井美津子役/宮部純子、早瀬勇役/小川冬晴、嶋雄介役/青木柚、古舘寛治 ほか |
| 撮影 | 芦澤明子 |
| 音楽 | 柴田聡子 |
| 主題歌 | 折坂悠太「シミレ(feat.柴田聡子)」 |
| 配給 | ハピネットファントム・スタジオ |
| 製作幹事 | アミューズクリエイティブスタジオ |
| 制作プロダクション | オフィス・シロウズ |
| 製作 | ©2026「さとこはいつも」製作委員会 |
| 公式サイト | 公式サイト |
『さとこはいつも』で描かれるのは、年齢も境遇も異なる3人の“さとこ”の物語。初恋に揺れる15歳の中井聡子を演じるのは、約300人が参加したオーディションから抜擢された新鋭・姫野花春。 仕事と不倫の間で揺れる35歳の西田沙都子を有村架純、子育てを終え、新たな夢に目覚める55歳の里子を石田ひかりが演じます。それぞれが迷いや葛藤を抱えながら、自分の人生を“自分の物語”として歩み始めていく姿を、沖田監督ならではの温かなユーモアと眼差しで描いた作品です。
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【企画の出発点】「誰かの頭の中にしかない話」を原作に

Q. 企画が立ち上がった経緯と、物語の出発点となった着想をお聞かせください。 沖田 最初のきっかけは、15歳の中井聡子の物語でした。言葉にまつわる映画を作りたいという思いがあって、女の子が小説を書いてみようとする話を、自分なりにやってみたいなと考えていたんです。 そこから少しずつ物語を考えていく中で、3人の女性の話を思いつきました。それぞれ違う人なんだけど、一人の人にも見えるような存在というか。女性たちの「書きたい」という衝動が、どこへ向かっていくのかまで描けたら面白いんじゃないかと思って。 それと、僕自身も14、15歳くらいの時に物語を書いたことがあったらしくて。母から「あんた、こんな話を書いたことあったけど覚えてる?」と言われたんですけど、一切覚えてなかったんですよね。 でも、そういう経験って意外とみんなにもあるんじゃないかと思って。物語を作ってみたい、何かを書いてみたいと思ったことがある人は、結構いるんじゃないかと。 だったら、誰かが書けなかった物語や、生まれてこなかった話、誰かの頭の中にしか存在しない話を“原作”にして映画を作るという発想は面白いんじゃないかと思って。そこから今の構成を考えていきました。
【姫野花春のキャスティング背景】オーディションで出会った“聡子そのもの”の存在

Q. 15歳の聡子を演じた姫野花春さんは、オーディションで選ばれたと伺いました。選ばれた決め手をお聞かせください。 沖田 聡子は最初の発想の原点でもあったので、自分の中に「こういう人がいい」というイメージはありました。まずは、自分の映画にあるコメディの感覚や、独特の雰囲気を自然に出せる人を探すところから始めて。

オーディションでは、屋上のシーンを演じてもらったり、姫野さん自身に書いたり読んだりもしてもらいました。そういう姿を見ながら、自分が想像していた聡子にぴったりだなと感じて、決めていきました。
【オーディション】ネブライザーを装着して芝居してもらった

Q. 印象的なネブライザーのシーンも、オーディションで演じてもらったそうですね。 沖田 オーディションでは、一人ひとりにネブライザーの器具を実際につけてもらって、その状態で芝居をしてもらいました。確か、器具を持ち帰ってもらったりもして。 そういう少し変わった状況でも、チャーミングに見える雰囲気があるといいなと思っていました。
【中井聡子のキャラ造形】「小説を書くこととは無縁の女の子」であること

Q. 15歳の聡子というキャラクターを作り上げるうえで、大切にされたことをお聞かせください。 沖田 例えばライトフライが飛んでいったりとか、そういうことを一つひとつ想像した時に、すごく愛らしくて、笑えるところもある。そういう雰囲気が素敵に見えたらいいなと思っていました。 中井聡子は、親には結構上からものを言ったりするような、ある意味どこにでもいる女の子で。小説を書こうとすることとは無縁に見える女の子だからこそ、「初めてのこと」に出会う瞬間が、より強く印象に残るんじゃないかと思ったんです。 だから、まさか自分が知らなかった自分を見つけるとは思っていないということを大事にしながら、聡子という人物を考えていました。 Q. 聡子のセリフ回しも印象的でした。「はっ? 歌舞伎わかるわけないじゃん」など、言い回しがとてもリアルで。 沖田 姫野さんは最初、「はっ?」が分からないと言っていたんですよ。 例えば「カレー温まってるけど食べる?」「はっ? 食べるに決まってるじゃん」みたいな。その「はっ?」が言いづらいって。
【劇中の文章】3人の“さとこ”が書く文章は沖田監督自身が執筆
Q. 作文やラブレター、遺書など、“さとこ”たちが書く文章は監督が考えられたものなのでしょうか。 沖田 そうですね。3人とも、基本的には僕が考えたものです。 ただ、姫野さんには自由に書いてもらった部分もあって。ノートの中でも、モノローグとして出てこないところは、姫野さん自身に好きに書いてもらいました。 映画の中で実際に言葉として表に出てくる部分は、基本的には台本に書いた言葉だったと思います。
【有村架純のキャスティング背景】「強さが面白い」35歳・沙都子に見た等身大の矛盾

Q. 35歳の沙都子を演じた有村架純さんのキャスティング背景をお聞かせください。 沖田 有村さんが出演している映画はいろいろ観ていて、もともとすごく好きな女優さんでした。強さが面白いというか、独特の存在感があるところが好きで。 沙都子という役にもすごく合うと思いましたし、韓国ドラマっぽい雰囲気でやるなら、コメディをやりすぎないというか、やっていてもそう見えすぎないというか。そのバランスがすごくいいなと思ってお願いしました。
【印象的なエピソード】タイピングひとつで伝わった、有村架純の役への向き合い方
Q. 有村架純さんとの印象的なエピソードをお聞かせください。 沖田 3人の中で、有村さん演じる沙都子だけは“書く”動作がパソコンなんです。だから、その指使いも含めて、「ハードパンチャーがいいな」と思っていて。 事前にパソコンを渡して練習してもらっていたんですけど、現場に入った時、本当にそこをしっかり練習してきてくれていて。それだけで有村さんの気持ちが伝わってくるというか。素晴らしいなと思いました。
【沙都子のキャラ造形】“好き”だけでは生きられない——35歳の沙都子に込めたリアル

Q. 映画宣伝会社で働く35歳の沙都子のキャラクター造形で、こだわられたことをお聞かせください。 沖田 15歳の中井聡子には純真無垢なイメージがあったので、沙都子はもう少し社会にもまれている人にしたいと思っていました。 大人になると、自分の「好き」だけでは生きていけないというか。仕事や人間関係の中で、いろいろな矛盾を抱えている。そういう状態を、35歳のひとりの女性として等身大に描きたいというのが、沙都子というキャラクターの狙いだったと思います。
【映画宣伝という職業】「言葉への気の遣い方」が印象的だった

Q. 沙都子の職業を、映画宣伝の仕事に設定された背景をお聞かせください。 沖田 3人の同じ名前の“さとこ”が、どこか一人の女性にも見えてくるような錯覚を、最初は考えていました。 15歳の中井聡子が持っていた初期衝動のような言葉を、35歳になってもどこかで引きずりながら生きている。そういう人物にしたかったので、言葉にまつわる仕事を設定したかったんです。 ただ、ライターのように直接的な職業にすると少し違う気がして。映画宣伝の方たちが、言葉の一つひとつにすごく気を遣って仕事をしている姿が印象に残っていたので、宣伝の仕事にしました。 映画の中で、映画宣伝の仕事そのものを描くことはあまりないですし、パソコンやデザインツールを使って自分でいろいろ作れる時代になって、そういう仕事に興味を持つ人も増えている気がして。設定としても面白いと思いました。
【“書く”を撮る】書く音は音楽と同じ、書く動作はアクションとして

Q. 鉛筆やペンで書く音など、音響のこだわりをお聞かせください。 沖田 書く音については、すごくいろいろ試しましたし、書いている画そのものにもかなりこだわりました。 文字を書くところを撮る時も、撮影の芦澤明子さんと「どこまで近づいて撮るか」を話しながら、ものすごくミクロな距離で撮ったりして。“書くこと”をアクションのように捉えて撮ることも意識していました。 音についても、単なる効果音というより、音楽と同じくらい重要なものとして捉えるような感覚で作っていきました。
【石田ひかりのキャスティング背景】“何かを始める姿”が里子にぴったりだった

Q. 55歳の里子を演じた石田ひかりさんのキャスティング背景をお聞かせください。 沖田 石田ひかりさんは、ご自身でやられていたYouTubeや、作られていた本などを見ていて。最近になってそういうことに取り組まれている姿が、飯島里子の姿と少しシンクロするように感じたんです。 それで、里子にはぴったりだなと思ってお願いしました。
【印象的なトランポリンシーン】無心で飛ぶ姿ににじむ、里子の寂しさ

Q. 石田さん演じる里子が、真顔でトランポリンを飛ぶシーンが印象的でした。 沖田 不思議なんですけど、トランポリンって、ずっと飛んでいると無心になるんですよね。 この作品の準備に入る前、娘と一緒によくトランポリンに行っていて。最初は楽しいんですけど、1時間くらい飛んでいると、だんだん無心になって、表情もなくただ飛び続けるような感じになってくる。それが面白いなと思っていました。 ただ、あのシーンにはちゃんと理由もあって。里子は今、どこか満ち足りていないというか、一人の時間に寂しさを感じている人でもある。その雰囲気が、無表情で飛び続ける姿から少し見えるような気がして。あとになって、そういう意図もあったのかもしれないなと思いました。
【3人をつなぐモチーフ】「起点がわからない連鎖」を想像させる仕掛け

Q. 3人の“さとこ”をつなぐ大きな要素として「物語を書く」という設定がありますが、それ以外にも、煙やスノードームなど、3人や劇中の物語をつなぐモチーフが自然に散りばめられていると感じました。 沖田 やりたかったことの一つに、『ビフォア・ザ・レイン』という映画があって。3つの章からなる作品なんですけど、ラストシーンが冒頭につながっていくのに、辻褄は完全には合っていないんですよね。おそらく「戦争は繰り返す」というテーマを表しているんだと思います。
今回の作品は、もちろんそこまで壮大な話ではないんですけど、誰かが書いたものに誰かが影響されて、その人がまた何かを作って、それを別の誰かが読む。そういう繰り返しや連鎖みたいなものを描きたいと思っていました。どこが起点なのか、はっきり分からない感じというか。 煙やスノードームもそのためのモチーフで、「あれ?」と思わせたかったんです。「この3人って、もしかして一人の人間なんじゃないか」「聡子がそのまま成長して沙都子になったのかな」と、少し勘違いするような感覚を起こしたくて。 3人の話ではあるけれど、単なるオムニバスではない。つながっているようで、つながっていない。 そういう感覚を持たせるための仕掛けとして、煙やスノードームを使っていました。
【夜中に書き始めるシーン】音楽でもつないだ、3人の“書く”という行為

Q. 3人とも、夜中にふと目を覚まし、文章を書き始めます。この場面には「書くこと」への衝動や熱量が込められているのでしょうか。 沖田 そこまで意図的にやっていたわけではないんですけど、「書いてしまう」とか、「書くのが楽しい」という感覚は、3人に共通してあると思っていました。 だから、その場面では似たような音楽を使ったりして。音楽の面でも、3人に共通する一つのテーマとしてつながって見えるようにすることは、試みとしてやっていました。
【韓国ドラマのパロディ】「生半可では作れない」沖田修一監督が語る韓国ドラマ愛
Q. 劇中の韓国ドラマや、有村架純さん×オダギリジョーさんの韓国ドラマパロディシーンの演出についてお聞かせください。 沖田 かなり前から韓国ドラマを見続けていて、一時期はすごくハマっていました。 特に『私の解放日誌』がすごく面白くて、脚本家のパク・ヘヨンさんの作品にかなりハマりました。ほかにも、『二十五、二十一』のようなラブストーリーも面白くて。朝まで見続けてしまうようなこともあったんです。 そういう体験をしていたので、生半可な気持ちでは作れないと思いました。好きな人も多いですし、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』のように広く知られている作品もある。だからこそ、やるならちゃんとやらないといけないなと。 韓国ドラマは、沙都子という人物を考えるうえでも一つのモチーフになっていました。今の35歳の女性の生活を描くうえで、共感できる要素の一つになればいいなと思って取り入れています。

Q. オダギリジョーさんと有村さんが、韓流ドラマ定番の演出になるシーンに笑ってしまいました。 沖田 「キラーン」ですよね(笑)。 あれは最初から台本にありました。韓国ドラマを見ていると、ああいう演出が出てくるので、「これをやりたいな」と思っていて。 オダギリジョーさんと有村さんなら絶対に似合うと思ったんです。沙都子自身が、自分の不倫をどこか“ドラマみたいなもの”として見ているように感じられないといけないので、そういう演出意図もありました。 あれは、僕が日頃、韓国ドラマを勉強してきた成果だと思います(笑)。
【聡子の家族】「文学の匂いがしない家族」にした理由

Q. 聡子の家族には、少し変わっていながらも温かみのある、独特のやり取りがあります。家族の会話や距離感を描くうえで大切にされたことをお聞かせください。 沖田 そもそも、「文学の匂いがしない家族」というのは一つのテーマとしてありました。文化的なことに関心があるというより、家族それぞれのベクトルが別のところに向いているような一家です。 野球の設定を入れたのも、その延長ですね。野球が文学から離れているかどうかは分からないですけど、スポーツに重きを置いている家庭の方が、聡子が「書くことの楽しさ」に目覚めていく物語としては面白いと思ったんです。そういう部分は、お父さんのキャラクターにも背負わせました。 一方で、特別な家庭ではなく、どこにでもいるような一般的な中流家庭のイメージでもあって。ちゃんと幸せそうに見える家族にしたいとは思っていました。
【アドリブとアフレコ】「楽しいことがあったら私たちにも教えて」大切にした家族の一言

Q. 聡子が部屋に閉じこもっているとき、両親が押しかけて「楽しいことがあったら私たちにも教えて」「電気を消すな」と声をかけるやり取りにも、思わず笑ってしまいました。こうした台詞はアドリブだったのでしょうか。 沖田 「電気を消すな」は、最後にしつこくアフレコで入れたんですけど(笑)。それ以外は、とにかく「お父さんに部屋へ入られたくない」という状況をベースに、何テイクも重ねながら今の形になりました。なので、その場で生まれたノリも少しあったと思います。 その中でも、「楽しいことがあったら私たちにも教えて」は、すごくいい台詞だなと思って。画面では少しオフになってしまうんですけど、そこはアフレコでも入れ直して、ちゃんと何度も聞こえるようにするなど、大事にした台詞でした。
【音楽】折坂悠太と柴田聡子——“言葉”の映画を支えた音楽

Q. 折坂悠太さんと柴田聡子さんが手掛けられた、本作の劇中歌や音楽でのこだわりをお聞かせください。 沖田 主題歌の折坂さんについては、以前からプロデューサーの筒井さんと「いつか映画で主題歌を歌ってもらえたらいいね」と話していたんです。僕らも折坂さんが好きだったので、「今回がそのタイミングなんじゃないか」ということでお願いしました。 一方で、映画全体の音楽を誰にお願いするか考えていた時に、音楽プロデューサーの鷹見さんから柴田聡子さんの名前が挙がって。
柴田さんはミュージシャンで歌い手でもあるので、最初は「映画音楽をやっていただく」という発想が自分の中にはなかったんです。でも、実際にお願いできるかもしれないと聞いて、それならすごく合いそうだなと思いました。 特に、柴田さんのハミングの感じがすごく良くて。文字を書く場面や、台詞のない場面に音楽を入れることを考えた時に、そのハミングがすごく面白いんじゃないかと。言葉ともぶつからないですし、作品にも合うと思って、最初からお願いしていました。
▼取材・文:増田慎吾

