【Yuki Saito監督に聞く】『ダウンタイム』制作秘話―松岡茉優×仲里依紗と「テイク1・長回し」で追求したリアリティ、『アンメット』から受け継いだもの
松岡茉優が主演、仲里依紗が共演するNetflixシリーズ『ダウンタイム』が、2026年9月17日よりNetflixにて世界独占配信されました。 「美しくなりたい」は希望か、呪縛か——。本作は、華やかな美容整形業界を舞台に、“美”を追い求める人々の希望や葛藤、その裏側に潜む光と闇をリアルに描くオリジナルドラマです。 「医療で命を救う」という信条を持つ形成外科医・沼田文(松岡茉優)と、「美で人を救う」ことを信条とするカリスマ美容外科医・遠山凜(仲里依紗)。異なる価値観を持つふたりが激しく対立しながらも、互いの存在によって少しずつ揺さぶられていきます。 ciatr編集部では、Yuki Saito監督にインタビューを実施。オファーを受けた際の率直な印象から、半年以上にわたる取材を通して自身の価値観が揺さぶられた体験、テイク1や長回しで“素のリアクション”を捉えた演出、手術シーンと特殊メイクで追求したリアリティ、そして前作『アンメット ある脳外科医の日記』との地続きな関係まで、たっぷりと伺いました。 ※インタビューの模様を収めた動画も、YouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開しています。
タップできる目次
- Netflixシリーズ『ダウンタイム』作品概要
- 【オファーを受けた感想】ローカルを突き詰めることが世界につながる
- 【取材で変わった価値観】“誰かになりたい”のではなく、自分自身を磨きたい
- 【キャスティング】松岡茉優×仲里依紗だからこそ生まれた主人公像
- 【凜のキャラクター造形】ミステリアスなカリスマから、内面が見えてくる人物へ
- 【文のキャラクター造形】撮影中は“松岡茉優”ではなく、ずっと“沼田文”だった
- 【手術シーン】特殊造形×VFX×医療監修で“本物”に近づける
- 【整形描写のこだわり】“ビフォーアフターから逃げない”リアルな変化を追求
- 【「アンメット」からの継承】“徹底したリアリティ主義”を『ダウンタイム』へ
- 【「アンメット」との縁】信頼する俳優たちが『ダウンタイム』に集結
- 『ダウンタイム』で美容整形の先にある“ヒューマンドラマ”を届けたい
Netflixシリーズ『ダウンタイム』作品概要
| 作品名 | Netflixシリーズ『ダウンタイム』 |
|---|---|
| 配信開始日 | 2026年9月17日(木)よりNetflixにて世界独占配信 |
| 監督 | Yuki Saito |
| 脚本 | 池上純哉 |
| 出演 | 松岡茉優 , 仲里依紗 , 間宮祥太朗 , 田中みな実 , 萩原利久 , 長井短 , 渡辺大知 , 中川家礼二 , シシド・カフカ , 城田優 , 増子直純 , 武田創世 , 泉里香 , 田村健太郎 , 篠井英介 , 天野はな , 景井ひな , 研ナオコ , 野呂佳代 , 古川凛 , 安達祐実 , 風間俊介 , Kōki, , 永作博美 , 渡部篤郎 |
| エグゼクティブプロデューサー | 髙橋信一(Netflix) |
| 企画プロデューサー | 工藤伸一 |
| プロデューサー | 三宅はるえ , 茂木克仁 |
| メインテーマ | 坂東祐大 |
| 音楽 | MON/KU , 青木沙也果 |
| 撮影 | 立石洋平 |
| 照明 | 小林仁 |
| 美術 | 寒河江陽子 |
| 編集 | 矢野数馬 |
| 録音 | 西山徹 |
| サウンドデザイン | 久連石由文 |
| 特殊メイク特殊造形ディレクション | Amazing JIRO |
| VFXスーパーバイザー | 野﨑宏二 |
| スケジュール | 平林克理 |
| 助監督 | 安食大輔 |
『全裸監督』『地面師たち』で、これまで知られざる世界の裏側にスポットライトを当ててきたNetflixが次に挑むのは、美容整形業界。 天才的なオペ技術を持ち、「命を救う」ことを信条としてきた形成外科医・沼田文(松岡茉優)。ある出来事をきっかけに美容外科医へ転身することになった彼女は、「美で人を救う」を掲げるカリスマ美容外科医・遠山凜(仲里依紗)と出会い、やがて激しく対立していく。 タイトルの「ダウンタイム」とは、美容整形後の腫れや痛みが落ち着くまでの休止期間のこと。サナギが蝶へと生まれ変わるまでの大切な時間になぞらえながら、多様性や反ルッキズムが叫ばれる一方で加速する美容整形ブームを背景に、“美しくなりたい”と願う人々の希望や葛藤、生きづらさを鮮烈なエンターテインメントとして描き出す。 監督を務めるのは、ドラマ『アンメット ある脳外科医の日記』のYuki Saito。脚本は、『孤狼の血』やNetflixシリーズ『極悪女王』を手がけた池上純哉が担当する。 華やかな美容整形業界の裏側で渦巻く、美と金、そして欲望。 “美しくなりたい”という願いは、希望なのか。それとも呪縛なのか――。 美容整形がもたらす光と闇を、華やかに、そして苛烈に描き出す医療ヒューマンドラマが誕生した。
Yuki Saito監督プロフィール
1979年6月21日生まれ、千葉県成田市出身。高校卒業後に渡米し、ハリウッドで約8年間にわたり映画制作を学ぶ。帰国後は映像監督として活動し、2016年に映画『古都』で商業長編映画デビュー。同作は文部科学省特別選定映画に選出された。 テレビドラマでも数多くの作品を手がけ、2018年にはテレビ朝日系『おっさんずラブ』で第97回ザテレビジョンドラマアカデミー賞監督賞を受賞。2022年公開の短編映画『もうすぐゾンビ』は、パームスプリングス国際短編映画祭に入選した。さらに2024年には、短編映画『空の港のありがとう』がショートショート フィルムフェスティバル&アジア2024「BRANDED SHORTS」で第13回観光映像大賞 観光庁長官賞を受賞している。 カンテレ・フジテレビ系『アンメット ある脳外科医の日記』では監督を務め、第120回ザテレビジョンドラマアカデミー賞で監督賞を含む6冠を達成。さらに同作は2025年日本民間放送連盟賞のテレビドラマ部門で最優秀賞を受賞した。 今後はPrime Originalドラマ『薬屋のひとりごと』の配信も控えるなど、映画とドラマの両分野で活躍を続けている。
【オファーを受けた感想】ローカルを突き詰めることが世界につながる

Q. 『ダウンタイム』の監督オファーを受けた際、最初どのような印象を受けましたか。 Yuki Saito オファーをいただいたとき、美容整形業界についてそれほど詳しかったかと言われると、そうでもなくて。昔に比べて美容整形に対する考え方がオープンになってきたな、という感覚はあったんですけど、深くは知らなかったというのがまず一つありました。 一方で、今回はそれをオリジナル作品として描く企画だったので、そこにはすごく惹かれました。Netflixをはじめとする配信作品には、日本で作ったものが世界に届く可能性があると思っていて、以前は「世界で受けるにはどうすればいいんだろう」と、グローバルを意識して考えていた時期もあったんです。 でも割と最近は、今、日本で起きていることや街角で起きていることを突き詰める。むしろローカルを突き詰めたほうが、多くの人に届きやすいんじゃないかと思うようになっていました。 ちょうどそんなタイミングで、Netflixで今の美容整形業界を深掘りする機会をいただいて。しかもオリジナル作品として挑戦できる。その点にすごく惹かれて、「ぜひご一緒したい」と思いました。
【取材で変わった価値観】“誰かになりたい”のではなく、自分自身を磨きたい

Q. 美容整形業界を取材する中で、印象や価値観に変化はありましたか。また、この題材を描くうえで大切にされたことをお聞かせください。 Yuki Saito 今回はオリジナル作品なので、まずは美容整形に興味を持っている方や、実際に施術を受けた方、そこで働く医師の方々など、とにかく多くの人に会って取材することを脚本チームで大切にしました。 医師の方でも、最初から美容医療の道に進んだ方もいれば、形成外科を経て美容外科に進んだ方もいて、本当に様々です。 その中でも特に印象的だったのが、美容整形を何度も経験されている方への取材でした。初対面でお話を伺って、「もともとはこういう顔で、ここが気になっていたから、こういう手術を何度か受けました」と聞いていく中で、自分自身も普段は「いろんな考え方があっていい」と思って生きているつもりなのに、実は心の奥には凝り固まった価値観がある、と気づかされたんです。 取材を重ねるうちに、それまで自分が美容整形に対して持っていた印象も変わっていきました。以前は「別の自分に変身したい」という感覚なのかなと勝手に捉えていたんです。 でも、実際に出会った方の多くはそうではなくて。毎朝鏡を見て、「ここをもう少しアップデートしたい」と考えている。誰かになりたいのではなく、自分自身をもう少し磨きたい、という感覚なんですよね。 そして、理想の自分に少し近づくことで、毎日をより前向きに生きられる。それを皆さんがとてもオープンに、前向きに話されていたことが印象的でした。 そういう明るい姿を見たり、実際に話を聞いたりしていると、こちらの価値観も揺さぶられていきました。「そういう考え方もあるんだ」「そういうふうに捉える人もいるんだ」と知ることで、自分の中で凝り固まっていたものが少しずつ解けていく感覚がありました。 その感覚は、ドラマの軸にもなっています。主人公の沼田文は、ある意味では美容整形に否定的な立場から物語に入っていきます。でも、さまざまな患者の価値観や考え方、遠山凜先生の患者への向き合い方や信念に触れていく中で、少しずつ揺さぶられていく。 観てくださる方にも文と一緒に揺さぶられて、最後には「じゃあ、自分はどう思うんだろう?」と自問自答してもらえたらいいなと思っていました。そこは、取材を重ねたからこそ作品に活かせた部分だと思います。 また、オリジナル作品なので、キャラクターを一から造形していく必要もありました。その際には、脚本の池上さんやプロデューサー陣と「この取材対象者と、この方の要素を掛け合わせたような人物にしよう」と話しながらキャラクターを作っていきました。 実際にお会いした方々をモデルの一つにできたことで、キャラクターにもよりリアリティが生まれたのではないかと思っています。
【キャスティング】松岡茉優×仲里依紗だからこそ生まれた主人公像

Q. 沼田文役の松岡茉優さん、遠山凜役の仲里依紗さんのキャスティング背景をお聞かせください。 Yuki Saito 松岡茉優さんは、僕が参加した時点ですでに決まっていました。美容整形業界を描く作品で、しかも松岡茉優さんが主人公を演じるという組み合わせが、まず面白いなと感じたんです。それも、この企画に惹かれた理由の一つでした。 その時点では松岡さん以外のキャストは決まっていなかったので、そこからは僕もキャスティング会議に参加して、みんなでさまざまな意見を出し合いながら決めていきました。 仲里依紗さんについては、YouTubeなどでもご自身の考え方をすごくオープンに発信されていて、見ていると「本当に美容全般が好きなんだろうな」と感じていたんです。 遠山クリニックの院長を演じる方には、実際に美容に強い関心を持っている方に演じていただきたいと思っていました。そこに仲さん自身のカリスマ性も加わって、「遠山凜という役にぴったりなんじゃないか」とみんなで話し合い、お願いすることになりました。
【凜のキャラクター造形】ミステリアスなカリスマから、内面が見えてくる人物へ

Q. 凜のキャラクターを立ち上げるうえで大切にされたことと、仲里依紗さんの印象的なエピソードをお聞かせください。 Yuki Saito 凜は最初、“美のカリスマ”として登場するので、圧倒的なカリスマ性やビジュアルも含めて、私生活まで人から見られているような人物にしたいと思っていました。 一方で、主人公の文はかなりアンチ整形の目線から物語に入っていきます。今回、作品の中で光と闇を描きたいと考えた時に、凜は最初、少しニヒルで、何を考えているのかわからないようなミステリアスさや、ダークな部分を持った人物として現れたほうがいいと思ったんです。 そうすることで、文と凜が対立し、やがて共闘していく過程で、ふたりの価値観の違いもより鮮明になりますし、ぶつかり合いにも強さが出る。 ただ、物語が進むにつれて、次第にシスターフッドの物語になっていきます。実は凜自身にも抱えているものがあって、その内面や、自分自身が抱える問題に触れていく。そうしたギャップを描きたかった。 最初はミステリアスな存在として現れ、文との対立やぶつかり合いの中でお互いの価値観が揺さぶられ、少しずつ自分自身の内面を見つめていく。大枠では、そういうキャラクター造形を考えていました。 そんな凜を演じた仲さんは、すごく直感型で、本番で一気に爆発するタイプ。それに、監督が何をしたいのかをとても気にしてくれる方で、「監督はどうしたいの?」と何度もディスカッションしてくれました。 そこでこちらの意図をきちんと伝えると、仲さん自身の器の大きさもあって、本番ではいい意味で「どうなるかわからない」ような爆発力を見せてくれる。そこがすごく魅力的でした。
【文のキャラクター造形】撮影中は“松岡茉優”ではなく、ずっと“沼田文”だった

Q. 文のキャラクターを立ち上げるうえで大切にされたことと、松岡茉優さんの印象的なエピソードをお聞かせください。 Yuki Saito 文は、先ほどアンチ整形と言いましたけど、最初に脚本を読んだ時は、世間のすべてに対して中指を立てているような人物という印象でした。毒気もあるし、下町育ちでチャキチャキしているし、自分なりの信念をしっかり持っていて、頑固なところもある。 そこに松岡さんが入ると、本当に役によっていろんな方向に振れる方なので。明確な演技プランを持ちながら役を作っていて、撮影が進むうちに、松岡茉優さんと話しているのか、沼田文と話しているのかわからなくなるくらい、撮影期間中はずっと“文”としてそこにいた。 僕自身も、「これからの演技について松岡さんに相談する」というより、「文ちゃんに相談しに行く」という感覚に近くなっていました。 松岡さんで面白かったのが、いつも現場の最前線に近い場所にいるんです。でも、絶対にカメラには映り込まない場所を見つけるのがすごく上手くて。自分でキャンプ椅子を持ってきて、すっとその場所に座っている。 現場のすぐそばにいるのに、一瞬「松岡さん、どこにいるんだろう?」となるくらい、自分の居場所を見つけるのがすごく上手いんですよね。 そこで一人の時間もちゃんと持ちながら、話す時には自分の意見をストレートにぶつけてくれる。だからこそ、僕も曖昧にせず、こちらの考えをストレートに返さなければいけない。そのやり取りも、文というキャラクターを作っていくうえですごく大きかったと思います。
【演出スタイル】段取りの前に、1対1で話す時間をつくる

Yuki Saito 僕は俳優とのディスカッションを大切にします。段取りでは、多くのキャストやスタッフが見ている中で「このシーンをどうするか」を決めていきます。俳優にとってはそこで芝居を披露するような感覚もあって、やっぱり緊張もする。 それは僕も一緒で、「監督はどんなビジョンで撮るんだろう」とみんなから見られている感覚があります。だから松岡さんとは——これは仲さんとも一緒なんですけど——なるべく1対1で話す時間を作るようにしていました。 撮影が始まる前に「今日、松岡さんはどこにいるかな」と探して、見つけたらそこへ行って「このシーン、どう思う?」と聞く。松岡さんには必ず自分なりの考えがあるので、それを聞いて、「じゃあ、お互いの意見をすり合わせて、こうしようか」と話してから段取りに臨む。撮影が進むにつれて、そういう僕らなりのリズムができていきました。 そして、実際に演じるのは俳優です。僕自身の演出で大切にしているのは、まず俳優を信じること。そして、俳優が意見を出してくれた時には、きちんと耳を傾けることです。 台本にはセリフが書かれていますが、その言葉に感情が伴っていなければ、観ている人には届かない。逆に、演じる本人の感情がきちんと乗っていれば、その熱量は必ず伝わると信じています。 演じるのは松岡さんであり、仲さんですから、本人がしっくりきていないことを無理にやってもらうのではなくて、例えば「このシーンでこういうことを伝えたいとしたら、沼田文ならどういう言い方をするだろう、どういう行動をするだろう」と一緒に考える。俳優とディスカッションしながら、その人物にとって自然な表現を探していくことを大切にしていました。
【演出のこだわり】【演出のこだわり】テイク1のドキュメンタリックなリアクションを大切に

Yuki Saito 現場って結局、“掛け算”なので、実際にやってみないとどうなるかわからない。そこに少しドキュメンタリー的な感覚も残したかったので、俳優をバミらないということも意識していました。 カメラは基本的に三脚に固定せず、動けるスライダーを使って、Bカメラはステディカムで構える。俳優がどう動いても追える体制にして、なるべく自由に演じてもらうというアプローチです。 現場で目の前に起きている臨場感を、そのまま観ている人にも届けたいと思っていました。 松岡さんは座長として作品全体をよく見ていて、細かいところにもすごく気を配る方ですし、ご自身の中にも綿密な演技プランがある。ただ、今回は異なる価値観同士の対立を描く作品でもあるので、あらかじめ決めたものだけではなく、その場で予想を超えて生まれたものを大切に撮りたいと思っていました。 だからこそ、松岡茉優さんに仲里依紗さんを“掛け算”する。その時に生まれるものを見逃さないように、なるべくテイク1を採用して、長回しで一連の芝居を撮るようにしていました。 さらに、ふたりの素のリアクションを逃さないために2カメラで同時に撮影しています。今回、美容整形を題材にしていることもあって、演出としてクローズアップを多用することも最初から意識していました。いろいろなキャラクターの顔を近くで捉えること自体が、この作品では大事だと思っていたんです。 例えば、文側から先に撮影すると、その瞬間の凜の最初のリアクションは、現場にいる僕たちには見えていても、視聴者には届かなくなってしまう。だから、ふたりの重要なシーンでは必ず2カメラをクロスさせて同時に回し、そのテイク1を活かすという方針が、撮影を重ねる中で組としても定まっていきました。 特に文と凜のシーンでは、作り込んだ芝居として見せるというより、まるでドキュメンタリーを見ているような臨場感で、ふたりの掛け合いを届けたいと考えていました。
【手術シーン】特殊造形×VFX×医療監修で“本物”に近づける

Q. 本作では、美容整形の手術シーンが非常にリアルに描かれています。手術シーンでこだわられたポイントをお聞かせください。 Yuki Saito 例えば地上波の医療ドラマだと、手術シーンがあっても、実際に手術しているその先まではあまり描かないことが多いと思うんです。もちろん、描くこと自体が難しいという事情もあると思います。 でも今回は、美容整形そのものを題材にしている作品です。実際に顔にメスを入れる手術でもあるので、「そこでどんなことが行われているのか」も含めてリアリティだと思っていて、そこはきちんと描きたいと考えました。

とはいえ、本当に切るわけにはいかないので、Amazing JIROさんのチームと何度も特殊造形のテストを重ねました。 高須クリニックにも監修に入っていただいていたので、実際の手術写真も見せていただきながら、リアルな状態を研究していきました。正直、かなり衝撃を受けるような写真もありましたね。 例えば二重切開の手術であれば、まず麻酔を打つので、最初に麻酔液が出て、その少し後から血がにじんでくる。 そうした細かな順序まで実際の手術を参考にしながら、特殊造形でどう再現できるかを何度もテストしました。 さらにVFXも使って、特殊造形と実写の境目を自然になじませていく。観ている人が「本当に手術をしている」と信じられるくらいの説得力を持たせることを目指しました。 特殊造形、VFX、医療監修を含めて、チーム一丸となってリアリティを突き詰めた部分だと思います。
【整形描写のこだわり】“ビフォーアフターから逃げない”リアルな変化を追求

Q. 整形の「ビフォー→ダウンタイム→アフター」を表現する特殊メイクで、特にこだわった点や撮影秘話をお聞かせください。 Yuki Saito キャラクターによって、それぞれ見せ方を変えていました。 例えば第1話に登場する田中善子というキャラクターは、オーディションで出会った天野はなさんに演じていただいています。まさに“ダイヤの原石”のような方でした。 善子の場合は、ビフォーも特殊造形、アフターも特殊造形なので、実は素の天野さんの顔が映っているカットは一つもないんです。両方に特殊造形を施すことで、ビフォーとアフターのギャップをより大きく見せたいという狙いがありました。

そして今回の大きな特徴が、その間にある“ダウンタイム”です。実際に手術を受けたら目がどう腫れるのか。その人の顔であれば、どういう腫れ方になるのかまで特殊造形チームとシミュレーションしながら、何度もテストを重ねてリアリティを追求しました。

研ナオコさんが演じる坂下ゆりこの場合は、余命宣告を受けた75歳の女性です。研さんご本人はとても艶やかで肌もきれいなので、ビフォーでは皺を増やすなどして、役の年齢や境遇が伝わるように作り込んでいます。 おそらく劇中で最も大きく変身するのが、ゆりこです。フル整形という設定なので、フェイスリフトで顔を引き上げたり、研さんのチャームポイントでもある鼻を変えたりと、さまざまな部位に手を加えて、まるで別人のような姿へ変化させていきました。 でも、研さんご本人がその変化をすごく楽しんでくださっていて。メイクが進むたびに鏡を見ながら、「えー、こうなるの?」と驚いたり、感動してくださったりしていました。 そういうリアクションも含めて、整形によって人が変化していく感覚をリアルに表現できればと思っていました。 美容整形を題材にしたドラマを作る以上、ビフォーアフターは絶対に逃げてはいけない部分だと思っていたので、そこはチーム全体ですごくこだわって作りました。
【「アンメット」からの継承】“徹底したリアリティ主義”を『ダウンタイム』へ

Q. 医療や病院を舞台にしたドラマ『アンメット』でのご経験が、本作に活かされた部分があればお聞かせください。 Yuki Saito そもそも、僕がNetflixで『ダウンタイム』という作品に挑戦できている大きなきっかけの一つが、「アンメット」だったと思っています。「アンメット」を観ていただいたことが、今回声をかけていただいた理由の一つだったとも聞いています。 僕にとって「アンメット」は大きなステップアップになった作品なので、そこで得たものはたくさんあります。感覚としては、「アンメット」の延長線上に『ダウンタイム』があると思っています。 技術スタッフについても、「アンメット」で一緒に仕事をして信頼しているスタッフと再び組みながら、そこに新しく出会ったスタッフが加わって、今回の『ダウンタイム』のチームができました。 同じ医療ものという意味で、「アンメット」で最も大切にしていたのが、医療に忠実であることと、リアリティを大事にすることでした。 実際の医療現場では、どういうテンションで、どんな会話が交わされているのか。ドラマでは、どうしても少し誇張して描いてしまうこともあると思うんですけど、『アンメット』ではそうした部分をできるだけ削いで、生の医療現場をドキュメンタリーのように伝えることをテーマの一つにしていました。 その姿勢は、『ダウンタイム』でも変わっていません。舞台が美容整形業界に変わっても、手術シーンはありますし、実際に働いている先生方にもさまざまな方がいる。だからこそ、取材を重ねながら、嘘がないように徹底しました。 “徹底したリアリティ主義”というのは、「アンメット」で学んだ大きなことの一つです。今回も多くの医療監修の先生方に入っていただいて、専門的なアドバイスをいただいたら、基本的にはそこに忠実にするということを心がけました。

それから、作品づくりに向き合う姿勢そのものも「アンメット」からつながっています。「アンメット」の時に、杉咲花さんや若葉竜也くんと、「「アンメット」を一つのスタンダードにして、これから作る作品も、そこで得たものを土台にものづくりをしていこう」と話したんです。 そういう意味でも、僕にとって『ダウンタイム』は、やはり「アンメット」の延長線上にある作品だと思っています。
【「アンメット」との縁】信頼する俳優たちが『ダウンタイム』に集結

Q. 『アンメット』キャストのカメオ出演の経緯をお聞かせください。 Yuki Saito 最初、若葉竜也くんにはとある役でオファーしたんですけど、ちょうどその時に若葉君が別の作品が入っていたっていうのもあったんですけど。それでも「この作品に出たい」と言ってくれたので、スケジュール的にもどこか1日でもいいので、終わるところで、できれば面白いところで出てもらいたいなというので、若葉君に出てもらえる流れがあって。

あと、「アンメット」に出演していた風間俊介さんだったり、野呂佳代さんだったり、赤間麻里子さんだったり、中村映里子さんとか、大友律君とか。実は「アンメット」で一緒に仕事をしてお互い信頼している俳優を、ゲストに多く呼んでいて。 一回「アンメット」のメンバーでご飯を食べているときに、杉咲花さんもいて。「え、なんかずるい」みたいな。みんな「Yukiさんの新作に行って」みたいな感じで「出たい」というから、「じゃあカメオとかしちゃう?」みたいに言いました。 その時、僕は杉咲さんも別のドラマをやっていたし、さすがに難しいだろうと思ってたんですけど。どうも本当に出たいと思ってくれているっていうのを聞いて。「じゃあ本当に意外性のあるところで」と。

ただ、一応僕としても、せっかく杉咲さんに出てもらうんだったら。整形依存症で整形を積み重ねた安達祐実さんのキャラクターと、何食わぬところで対峙するといった時に、僕の中で杉咲さんは“自然体の象徴”みたいな。そのツーショットを撮りたいなっていう、ある種願望みたいのがあって。 「例えばこういう役で」って言ったら、本人も「いいですよ」と言ってくれたので。カメオ出演が重なって、安達祐実さんが一番びっくりしてました。「嘘でしょ、この役で杉咲花さんがいるとは思わないじゃないですか」と。 意外にもふたりは初共演で。ふたりとも子供の頃から、子役から才能を発揮して今に至る、ちょっと世代が違うふたりがツーショットに収められたのは、僕の中でもとても幸運だったなと。そういう経緯で、多くの「アンメット」の俳優たちに出てもらいました。
『ダウンタイム』で美容整形の先にある“ヒューマンドラマ”を届けたい

Q. 最後に、視聴者に向けてのメッセージをお願いします。 Yuki Saito 『ダウンタイム』は、美容整形業界の光と闇を描く作品だと謳っていますし、もちろんそこはしっかり追求しています。 ただ、そう聞くと「ちょっと怖そうだな」とか、「自分にはあまり関係のない世界かもしれない」と感じる方もいると思うんです。でも、最終的に描きたかったのは、やっぱりヒューマンドラマなんです。 美容整形というと、どうしても見た目、つまり“外側”の話だと思われるかもしれません。でも本作で描いているのは、その人が内面で何を感じているのかという部分です。 もし自分の中に凝り固まった価値観があったとしても、さまざまな考え方に触れることで揺さぶられて、最後には「自分はどう思うんだろう」と自問自答していく。そういう意味で、とても人間らしいドラマになっていると思います。 演出としては、それをきちんとエンターテインメントとして届けることも大切にしました。あまり身構えずに、まずはこの世界を覗いてみてほしいです。 文や遠山凜と一緒に葛藤して、共感して、最後には彼女たちを応援してもらえる。見終わった時に、「美容整形のドラマを観た」というより、「一つのヒューマンドラマを観た」と感じてもらえたら嬉しいですね。 尺としてはしっかりありますが、「気づいたら一気に観ていた」と思ってもらえるよう、テンポも含めて意識して作りました。 ぜひ、まずは第1話から『ダウンタイム』の世界に入ってみてください。
▼取材・文:増田慎吾
