ロシア映画、深遠なり。 入門のための名作14本を厳選して紹介
タップできる目次
- ロシア、ソビエト映画の傑作を味わおう
- 『惑星ソラリス』(1972年)
- 『フルスタリョフ、車を!』(1998年)
- 『ざくろの色』(1971年)
- 『父、帰る』(2003年)
- 『太陽に灼かれて』(1994年)
- 『不思議惑星キン・ザ・ザ』(1986年)
- 『戦艦ポチョムキン』(1967年)
- 『エルミタージュの幻想』(2002年)
- 『ストーカー』(1979年)
- 『神々のたそがれ』(2013年)
- 『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)
- 『ラブレス』(2017)
- 『動くな、死ね、甦れ!』(1989)
- 『僕の村は戦場だった』(1962)
- 旧ソ連・ロシアを描いた他国制作映画
- ソ連時代と現代のロシア、どちらにも興味が湧くロシア映画
ロシア、ソビエト映画の傑作を味わおう
「ロシア映画」と聞くと、どのようなイメージを浮かべますか?なんとなく「画面が暗い」「長い」という印象を持っている人もいるかもしれません。 ロシア映画の歴史は古く、1896年にフランスのリュミエール兄弟が、モスクワやサンクトペテルブルグで上映会をしたことが始まりと言われています。1908年にストーリー性を持った映画を制作し、1910年にはストップモーションを多用した初のアニメ映画を発表します。 ディズニー初の長編アニメ映画『白雪姫』が1937年に制作された事を考えると、ロシア映画界も先見の明があると言えるでしょう。数々の世界的巨匠や映像革命を起こしてきたロシア映画。 今回はその中から新旧合わせて評価、知名度の高い作品を中心にご紹介します。また、ロシアやソビエト連邦を舞台とした他国のおすすめ作品もみていきましょう。
『惑星ソラリス』(1972年)
『2001年宇宙の旅』と並ぶSF映画の名作
アンドレイ・タルコフスキー監督の名を一躍世界に知らしめたSF映画。この映画が制作された当時、ロシアはまだ「ソビエト連邦」という国であり、アメリカとは冷戦が続いている状態でしたが、本作はカンヌ国際映画祭でも高く評価されました。 惑星ソラリスを探索中の宇宙ステーション「プロメテウス」。しかし、地球との交信が途切れてしまったため、クリス(ドナタス・バニオニス)は調査のためにソラリスへ向かいます。そこで彼が見たものは……。 ポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの小説『ソラリス』に大胆なアレンジを加え、圧倒的な映像美を作り出しました。日本の首都高で車を走らせているシーンもあるので注目してみてください。
『フルスタリョフ、車を!』(1998年)
ソビエト崩壊後にスターリン政権時代を描いた問題作
ソビエト崩壊後の1998年にフランスとの合作として制作された作品。監督を務めたアレクセイ・ゲルマンは、2013年には大作『神々のたそがれ』を発表するロシアの巨匠です。 1935年のソ連。指導者の毒殺を計画していたと言われる「医師団陰謀事件」に巻き込まれた脳外科医のユーリー(ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリロ)は、強制収容所で拷問される羽目になりますが、彼はなぜか解放されたばかりでなく、スターリンの側近からある人物を診察するようにと命じられ……。 はっきりしないストーリー、モノクロの映像は好き嫌いが分かれる、という意見もありますが、観終わった後も観客を惹きつける魅力があります。
『ざくろの色』(1971年)
セルゲイ・パラジャーノフ監督の描くある宮廷詩人の半生
アンドレイ・タルコフスキーの盟友であり、自身もロシアを代表する監督セルゲイ・パラジャーノフ。彼が18世紀に活躍したアルメニアの宮廷詩人サヤト・ノヴァを描いた作品です。 サヤト・ノヴァの幼少期から死までを8つの章に分け、不思議な映像美で描いています。物語性はありませんが、サヤト・ノヴァの出身地アルメニアやグルジアなどの伝統舞踊や演劇の手法を取りいれた内容は、今もなお鮮やかなカラーが斬新です。
『父、帰る』(2003年)
失踪から帰還した父と息子たちの葛藤
ロシアの監督兼俳優のアンドレイ・ズビャギンツェフが2003年に公開した作品です。彼にとっては初の長編作品だった本作は国際的に高く評価され、第60回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞とルイジ・デ・ラウレンティス賞を受賞しました。 12年前に父親が失踪し、母や祖母と一緒に暮らしてきたアンドレイ(ウラジーミル・ガーリン)とイワン(イワン・ドブロヌラヴォフ)の兄弟。なんと、これまで失踪していた父が家族のもとに帰ってきます。これまでのいきさつを全く語らない父は、突然二人を旅に連れていくと言いだし、その通りに三人で旅に出ることになりましたが……。
『太陽に灼かれて』(1994年)
大粛清で混沌とするソ連を舞台にした人間ドラマ
1936年、スターリンによる大粛清で混乱するソ連を舞台に、巨匠ニキータ・ミハルコフが制作した名作です。本作は実は三部作で、ミハルコフ監督は、2010年に『戦火のナージャ』、2011年の『遥かなる勝利へ』を制作しました。 ちなみに、作中に出演しているコトフ大佐は監督が、その娘ナージャは監督の愛娘が演じています。 10年ぶりに元恋人マルーシャ(インゲボルガ・ダクネイト)の家を訪ねたドミトリ(オレグ・メンシコフ)。マルーシャはすでにコトフ大佐と結婚し、二人の間には一人娘のナージャ(ナージャ・ミハルコフ)がいました。ドミトリは、そんな彼らに自分の正体を隠して接近しますが……。
『不思議惑星キン・ザ・ザ』(1986年)
世界中でカルト的な人気を誇るSFコメディ映画
ゲオルギー・ダネリヤ監督のブラック風味のSFコメディ映画で、日本の初公開は1991年でした。1986年の公開当時、ソ連全土では観客動員数が1570万人という驚異的な数字を記録し、今も熱狂的なファンのいるカルト作品です。 モスクワに住むウラジミールとゲデバンは、冬のモスクワにも関わらず。裸足で奇妙なことを口走る男に出会います。彼は、自分が空間転移装置の事故によって異星から地球に飛ばされてきたと主張するのですが、突飛な話し過ぎて誰もそれを信じません。 しかし、二人は男の持っていた転移装置により、キン・ザ・ザ星雲にある惑星ブリュクまで飛ばされてしまいます。何とか地球に戻ろうと奮闘する二人は……。
『戦艦ポチョムキン』(1967年)
ロシア映画のみならず、世界中の映画に大きな影響を与えた名作
「第1次ロシア革命20周年」を記念し、セルゲイ・エイゼンシュテイン監督が制作した作品。「オデッサの階段」をはじめとする名シーンは、その斬新な構図から世界中の映画に多大な影響を与え、1987年のアメリカ映画『アンタッチャブル』などにも引用されました。 時代は帝政ロシアの「ポチョムキン号」と呼ばれる軍艦。食事のスープに腐った肉を使用しウジがわいていたため、数名の兵士が食事を拒否します。艦長はその拒否を許さないどころか、彼らを銃殺するよう命じました。 しかし兵士全体が反乱をおこし、ポチョムキン号を占領してしまいます。乗っ取られた船は、そのままオデッサへと入港するのですが……。
『エルミタージュの幻想』(2002年)
史上初! 90分ワンカットで撮影した美しい映画
ロシアを代表するエルミタージュ美術館。アレクサンドル・ソクーロフ監督がSONYのビデオカメラCineAltaHDW-F900を使用してエルミタージュ美術館内部を90分ワンカットで美しく撮影し、世界から絶賛されました。 物語は19世紀ロシアと現代を行き来して進みます。ソクーロフ自身と思われるある映画監督がエルミタージュ美術館に迷い込み、激動の時代に翻弄されながらも華やかな帝政ロシアと現代を行き来する、という幻想的な物語です。
『ストーカー』(1979年)
『惑星ソラリス』のアンドレイ・タルコフスキー監督によるもう一つの名作SF映画
アンドレイ・タルコフスキー監督が『惑星ソラリス』について発表したSF映画です。この映画の「ストーカー」は歪んだ執着心から人につきまとって危害を加えるものではなく、「案内人」という意味で使用されています。 解明不能な出来事が発生したため、住民が犠牲になってしまい、閉鎖されてしまったある地区。政府が「ゾーン」と呼び立ち入り禁止にしているこの場所は、いつしか「願いが叶う部屋が存在する」と噂がたち、希望者は「ストーカー」と呼ばれるものによって案内されていました。 ある日、「ストーカー」の基へ二人の男性が訪ね、「ゾーン」へ連れて行って欲しいと言うのですが……。
『神々のたそがれ』(2013年)
177分に及ぶアレクセイ・ゲルマン監督の超大作
1968年に脚本の第一稿が書かれていましたが、チェコ事件が勃発したため制作が頓挫し、それから長い長い年月をかけて完成した作品です。2013年にはローマ国際映画祭で上映され、ゲルマン監督は生涯功労賞を受賞しましたが、同年に74歳で逝去しました。日本国内で初上映されたのは2015年。 地球ではなく、ここから遠く離れた惑星での出来事。惑星の王国アルカナルでは書物が焼かれて知識人が処刑される日々が続いていました。ドン・ルマータ(レオニード・ヤルモルニク)は知識人たちを迫害から守ろうとしますが……。
『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)
ロシアで観客動員800万人!ドイツ軍捕虜のソ連兵4人が戦車1台で大脱走
『太陽に灼かれて』(1994)でアカデミー賞外国語映画賞を受賞したニキータ・ミハルコフ製作のロシア映画。第二次世界大戦時、ナチスの捕虜となった4人のソ連兵が戦車1台で脱走を計画する戦争アクションです。 第二次世界大戦中、ドイツ軍捕虜となったソ連の士官イヴシュキン。イヴシュキンを捕えた因縁の相手であるナチスのパンター車長イェーガーは、収容所で行われる戦車戦演習のためにイヴシュキンにソ連軍の戦車T-34の操縦を命じます。 本作で使用されているT-34はなんと本物!実際に俳優たちが操縦する戦車内も映し出されます。また、圧倒的迫力のVFXで超ド級の戦車戦が拝めます。ロシア語に堪能な声優の上坂すみれがナビゲートする予告映像も見応えありです。
『ラブレス』(2017)
カンヌ国際映画祭で審査員賞受賞!離婚前に失踪した息子の行方は
『父、帰る』(2003)でベネチア国際映画祭金獅子賞を獲得したアンドレイ・ズビャギンツェフによるロシア映画。離婚を決めた両親が失踪した息子の行方を追うサスペンスドラマで、第70回カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞しています。 離婚協議中であるボリスとイニヤにはすでにそれぞれのパートナーがおり、一刻も早く新生活を始めようとしていました。二人とも12歳の息子アレクセイを必要とせず、押し付け合う日々。それを知ったアレクセイは翌朝、行方不明になってしまいます。 前半は“愛なき”両親に失望するアレクセイを映し出し、後半は彼を捜索する両親の姿を追います。ロシアの凍てつく大地が彼らの“ラブレスな”世界を写し、現代のロシア人の生活や社会、その苦悩を苦々しくも美しい映像で描いた秀作です。
『動くな、死ね、甦れ!』(1989)
カンヌ国際映画祭で新人監督賞受賞!カネフスキー監督の少年時代の記憶
ストリートチルドレン出身で投獄の経験を持つ54歳の新人監督ヴィターリー・カネフスキーの自伝的作品。自身の出身地である炭鉱町スーチャンを舞台に、第二次世界大戦後の混乱期に生きる少年少女たちを描いています。 収容所地帯となって荒廃した第二次世界大戦後の炭鉱町スーチャン。この町で暮らす12歳の少年ワレルカは母への反抗心を抑えられずにいました。悪戯ばかりして事件を起こす彼を少女ガリーヤはいつも助けてくれますが、ついに度を越した悪戯を起こしたワレルカは一人で町を飛び出してしまいます。 主人公のワレルカに自身と同じストリートチルドレンのパーヴェル・ナザーロフを抜擢したヴィターリー・カネフスキー監督。純粋無垢な悪童ワレルカに自身を投影し、その時代の記憶を甦らせました。
『僕の村は戦場だった』(1962)
アンドレイ・タルコフスキー監督の長編映画1作目!独ソ戦下の少年偵察兵の生き様
伝説的SF映画『惑星ソラリス』(1972)で著名なアンドレイ・タルコフスキー監督の長編映画第1作のソ連映画。ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した作品で、ウラジミール・ボゴモーロフの短編小説「イワン」を脚色した戦争映画です。 第二次世界大戦の独ソ戦下のソ連で、ドイツ軍に両親と妹を殺された12歳の少年イワンは、ソビエト赤軍の偵察兵として協力していました。グリズヤノフ中佐は彼に危険な任務から離れ幼年学校へ行くよう命じますが、ドイツへの復讐を誓うイワンは頑として受け入れず、協力を続けるのでした。 原題は「イワンの少年時代」であり、彼が戦場にいるシーンと夢見る回想シーンが交錯していきます。戦争の過酷な現実と美しい少年時代の思い出が見事な対比を生み出し、今も観る者の心をとらえて離しません。
旧ソ連・ロシアを描いた他国制作映画
ここからは、第二次世界大戦下や冷戦時代のソビエト連邦を描いた他国制作の映画を紹介していきます。スパイアクションや戦争映画など、新旧の名作をおすすめします。
『スターリングラード』(2001)
ジャン=ジャック・アノー監督、ジュード・ロウ主演、アメリカ・ドイツ・イギリス・アイルランド合作の戦争映画。スターリングラード攻防戦で活躍したソ連狙撃兵ヴァシリ・ザイツェフを主人公にしています。 第二次世界大戦の独ソ戦で繰り広げられたスターリングラード攻防戦をフィクションを交え、天才スナイパーだったザイツェフがソ連軍に英雄として祭り上げられる様を描いています。ドイツ軍狙撃手ケーニッヒ少佐との対決が見どころです。
『レッド・オクトーバーを追え!』(1990)
CIA情報分析官ジャック・ライアンを主人公としたトム・クランシーのスパイ小説シリーズ1作目を映画化。ジャック・ライアンをアレック・ボールドウィン 、ソ連の原子力潜水艦「レッド・オクトーバー」艦長をショーン・コネリーが演じました。 チェルネンコ書記長政権下の冷戦時代のソ連で、レッド・オクトーバー艦長のマルコ・ラミウス大佐が同艦を手土産にアメリカへ亡命しようとします。彼の本意を探るべく、ジャック・ライアンが活躍するポリティカル・アクション大作です。
『戦争のはらわた』(1977)
『わらの犬』(1971)や『ゲッタウェイ』(1972)などで知られるサム・ペキンパー監督によるイギリス・西ドイツ合作の戦争映画。原題はドイツ軍の鉄十字勲章を示す『Cross of Iron』で、ドイツ軍視点の独ソ戦を描いています。 ソ連軍の猛攻で追い詰められるドイツ軍歩兵小隊の戦いを追い、小隊がソ連軍の戦車T-34と奮戦する様子など戦場のリアルを追求。サム・ペキンパー監督独特のバイオレンス描写とスローモーション映像に衝撃を受ける作品です。
ソ連時代と現代のロシア、どちらにも興味が湧くロシア映画
古くは『戦艦ポチョムキン』から始まり、現代のロシア社会を描く『ラブレス』や最新技術を駆使した戦争映画『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』など、ソビエト連邦からロシア連邦まで様々な時代を映してきたロシア映画。果たしてその奥深さは伝わったでしょうか? 世界の中でもいち早く映画という文化に着手し、磨きをかけてきたロシア映画には、今観ても驚くような斬新さがあります。さらにソ連と現代ロシアの二つの時代を生き抜いてきた人々の息遣いも感じられる貴重な資料ともいえます。ぜひこの機会に、深遠なるロシア映画の面白さに触れてみてください。