イントロダクション
『アメリカン・スナイパー』の脚本家ジェイソン・ホールにとってこの実在の人物のストーリーを脚本にすることは計り知れないプレッシャーがありました。アメリカ史上最強のスナイパークリス・カイルを描くことが彼の役割でした。2010年ジェイソン・ホールはネイビーシールズを退役したクリス・カイルに話を聞くため、テキサスへと飛びました。
ジェイソンは完璧な脚本を書くためクリス・カイルと彼の妻タヤと数年にわたり連絡を取り続けました。彼は戦争の悲惨さ、戦争が兵士たちが帰還後及ぼす影響を必死で捉えようとしていました。
ジェイソン・ホール、クリス・カイルと初対面の瞬間!
ジェイソンが部屋に入ると、そこにはテキサスレンジャーやSWATのメンバーたちで溢れ、彼は居心地の悪さを感じていました。カイルはジェイソンと話をしようとしませんでした。しかしジェイソンはからかわれながら数日を過ごした後、ジェイソンは自ら動き出しました。彼はからかっていたひとりの男をヘッドロックをしました。そのことにより友情のようなものが生まれ、彼らの中に受け入れられることが出来たと言います。
脚本の構想が浮かんだ瞬間とは!
彼はある日、プロデューサーの一人ピーター・モーガンによってクリス・カイルのことを聞かされました。それから彼について調べ、彼はクリス・カイルが歴史上最も人を殺したスナイパーであることを知りました。そしてかつてSEAL Team Sixに所属し、現在はCIAで働く友人に話を聞きました。彼の友人はクリス・カイルは嘘にまみれた男だと語りました。その後、ジェイソンはクリス・カイルに会うことを決断し、テキサスへと向かいました。
脚本の構想は彼と会う以前から出来ていたのか?それとも会って何かを見つけようとしていたのか?
ジェイソン・ホールはこう語りました。
”彼の物語が素晴らしいことは分かっていましたが、核心を捉えられずにいました。クリスはとてもいい奴で笑いながら、握手をします。でも彼の瞳の奥には影があり、彼の一部はまだ戦争の中にいるようでした。私は彼の心を開こうとしましたが、それは難しいとも感じていました。帰る前に彼の奥さんと子供に会いたいと思っていました。そして奥さんと子供が部屋に入ってきた時でした。彼の瞳が輝きだしたんです。その時、あるアイデアが浮かびました。彼がイラクへ行く前はどんな人だったのか?彼をイラクへと駆り立てたものはなんだったのか?”彼の奥さんは彼が戦争に行っている間、どうやって子供を育てていたのか?この映画がどうあるべきかが分かりました。”
衝撃の事件!!
クリス・カイルはとてもナイスガイだったとジェイソンは語ります。クリスと彼の仲間と出かけたとき、彼らはジェイソンにいろいろな話を聞かせました。仲間とつるんでいる時のクリスと家族と共に過ごしている時の彼は別人のようにも思えたそうです。
原作の本ではクリス・カイルが任務中のエピソードが中心だったため、彼が帰還し、家に帰ってからの出来事や彼が被った戦争の代償についてはあまり触れられていませんでした。そのためクリスと実際に会い、その部分を掘り下げる必要性がありました。
ジェイソンはクリスから本には載っていない詳細を聞き出そうと毎日のように電話をかけたりやメールを送ったりしていました。クリスはすぐに連絡を返したり、時には間が空くこともありましたが、基本的には連絡を返してくれていました。
ジェイソン・ホールがクリスに脚本を提出することと"Good luck, hope you work again,"とメールで送り、クリスは"LOL"(笑)と送り返しました。ジェイソンは彼を笑わせることが出来て、誇りに思うと語りました。
しかし、残念ながらこれが二人の最後のやり取りとなることになります。
がクリス・カイルを演じるため18kgの増量を終えた頃、ジェイソン・ホールは脚本の最終段階に入った時でした。その二日後、彼の友人が電話である衝撃の事実を彼に伝えました。それはPTSDを患った海軍の男がクリス・カイルを殺害したというものでした。
クリス・カイルの死の映画への影響!
彼の死は映画にも多大な影響を与えたと言います。ジェイソンは彼の葬式に参列しました。そこには彼の友人や仲間がいて、ある人はフレンドリーに接してくれていましたが、ある軍人の男がジェイソンに近づき、彼を追い出そうとしました。しかしジェイソンはどこにも行かないと断固たる態度を取りました。するとまた他の男が近づき、”もしお前がクソみたいな映画を作ったら、殺す”と本気で脅迫をしてきました。
その後、彼はクリスの奥さんと再会し”準備ができたら電話してくれ”と伝えました。数日後、彼女は言いました。
”もしこの映画のプロジェクトを続けるなら、あなたはより正しいものにしなくてはならない。なぜなら彼の子供が、父親がどんな人物だったのかを知る重要な役割を果たすのだから”
その後もジェイソンは奥さんと連絡を取り続け脚本を仕上げました。
彼の奥さんが出来上がった作品を見終えると、泣きながら劇場を飛び出しこう言いました。
”夫と2時間だけ過ごすことが出来た”
葬式でもしクソみたいな映画を作ったら殺すと言ってきた男もその場にいて、彼もまた作品を称賛したそうです。
ジェイソン・ホールはこの作品が戦争について議論を呼ぶきっかけになることを望むと言います。この映画ではあえて戦争を大きく捉えるのではなく、1人の男の目を通した戦争を体験させ、その背景と物語を語るための作品であり、決して戦争を賛美するものではありません。
参考: