実写化不可能と言われ続けた人気漫画を映画化した『寄生獣』
染谷将太が主演を務めた映画『寄生獣』。原作は岩明均の同名漫画であり、哲学的な奥深いテーマを含ませた衝撃的なストーリーは、1988年に連載が開始されて以来多くの読者を虜にし、映画とほぼ同時にアニメ化にもなっています。
主人公は、未知の生物に寄生されてしまった普通の男子高校生です。人間を食料とする凶暴な生物と体を共有していく中で生まれた友情やお互いの成長を描き、映画は「前・後編」の構成となり、2014年と2015年に公開されました。
未知の生物のグロテスクなフォルムとその残虐な描写で実写化は不可能と言われていましたが、近年の高度な映像技術によって見事に再現された映画『寄生獣』2部作。ここでは前編となる『寄生獣』についてまとめていきます。
映画『寄生獣』のあらすじ
人間の脳を乗っ取りその人になりすまし、さらにほかの人間を襲うパラサイトが出現。ある日平凡な男子高校生・泉新一も襲われてしまいます。脳は免れたものの右手に寄生され、共に生きることを余儀なくされました。
新一の右手となった奇妙な生物は“ミギー”と名乗り、人間の言葉や文化などの情報を驚異的なスピードで習得していきます。
その頃、すでに街には多くのパラサイトが存在し、人間でもなくパラサイトでもない不完全体である新一とミギーはパラサイトたちと戦う羽目に。こうして新一は、パラサイトとの想像を絶する戦いに巻き込まれていくのでした。
映画『寄生獣』のキャスト
泉新一/染谷将太
パラサイトに寄生された主人公・泉新一は、染谷将太(そめたに・しょうた)が務めました。
映画『ヒミズ』の住田祐一役でヴェネツィア国際映画祭のマルチェロ・マストロヤンニ賞(最優秀新人賞)を獲得し、一躍名を上げた染谷。その演技力はだれもが認めるところであり、若手実力派の筆頭です。
ミギー/阿部サダヲ
新一に寄生したミギーは最新のVFXで描かれ、阿部サダヲ(あべ・サダヲ)がその声を担当しています。
劇団「大人計画」に所属し舞台活動をするほか、ドラマ『マルモのおきて』や映画『なくもんか』など、コミカルとシリアスを織り交ぜた巧みな演技で多くの映像作品でも大活躍。
『寄生獣』の実写映画化にあたっては、原作者サイドから「ユーモアを大事に」という旨の要望があり、人間とパラサイトとの会話の微妙なズレのおもしろさを表現できる役者として阿部が抜擢されたそうです。
田宮良子/深津絵里
パラサイトである教師の田宮良子を演じたのは、深津絵里(ふかつ・えり)です。
『踊る大捜査線』シリーズの刑事・恩田すみれ役で広く知られ、ドラマや映画、舞台など多くの作品に出演。その表現力には定評があり、映画『悪人』では殺人犯と逃亡劇を繰り広げる極限状態の馬込光代役を演じ、絶賛を浴びました。
村野里美/橋本愛
新一の幼馴染みの村野里美は、橋本愛(はしもと・あい)が務めました。
モデルと並行して女優活動もスタート。映画『貞子3D』の貞子役や『桐島、部活やめるってよ』での東原かすみ役で注目を浴びるほか、NHK『あまちゃん』では主人公の親友・足立ユイ役を務め強い印象を残しています。
島田秀雄/東出昌大
パラサイトのひとりで、新一が通う学校に転入する島田秀雄は、東出昌大(ひがしで・まさひろ)が演じました。
モデルとして国内外で活躍し、映画『桐島、部活やめるってよ』への出演を機に俳優へ転身。NHK『ごちそうさん』西門悠太郎役がブレイクのきっかけとなり、その後も映画『クローズEXPLODE』で主演を務めるなど、俳優として成長しています。
広川剛志/北村一輝
パラサイト側の政治家・広川剛志を演じたのは、北村・一輝(きたむら・かずき)です。
長い下積み次第を経て、ドラマ『あなたの隣に誰かいる』で不気味な連続殺人犯を務め上げ注目を集めました。以降、多くの作品で活躍中です。
非常に彫りの深い顔立ちのため、『映画 怪物くん』でサニル役を演じた際の中国ロケで現地の俳優にインド人だと思われたというエピソードがあり、映画『テルマエ・ロマエ』ではそのルックスを活かしローマ人のケイオニウス役を好演しています。
後藤/浅野忠信
広川のボディーガードを務めるパラサイト・後藤は、浅野忠信(あさの・ただのぶ)が演じました。
『バタアシ金魚』のウシ役でスクリーンデビュー。以降、主演作の『Helpless』など映画を中心に活動し、マーベルシリーズの映画『マイティー・ソー』ホーガン役でハリウッドデビューも果たしています。
草野/岩井秀人
広川に仕えるパラサイトの草野は、岩井秀人(いわい・ひでと)が務めました。
劇団「ハイバイ」を主宰し、俳優のほか劇作家や演出家としても活動。2013年に発表した『ある女』では岸田國士戯曲賞を受賞しています。
A(エー)/池内万作
警察官に寄生しているパラサイト・Aを演じたのは、池内万作(いけうち・まんさく)です。
映画監督・伊丹十三と女優・宮本信子を両親に持つ池内は、ロンドンのアクターズスタジオに通った後、映画『君を忘れない』に佐伯正義役でデビュー。
幅の広い確かな演技で、ドラマ『こちら本池上署』相馬俊彦役、映画『犬神家の一族』犬神佐智役ほか、多くの出演実績があります。
中華料理店の主人/オクイシュージ
新一とミギーが初めて戦ったパラサイト・中華料理店の主人を務めたのは、オクイシュージです。
舞台俳優からスタートし、ラジオDJとしても活躍。舞台やドラマへのゲスト出演を重ねながら、演出家として各種番組構成に携わるなど、マルチに活動しています。
泉信子/余貴美子
パラサイトに寄生されてしまう新一の母親・信子は、余貴美子(よ・きみこ)が務めました。
映画『おくりびと』上村百合子役や『ディア・ドクター』大竹朱美役などをはじめとする数多くの作品で情感溢れる圧倒的な演技を見せ、視聴者を惹きつけてやまないベテラン女優です。
平間警部補/國村隼
パラサイトたちが起こした事件に携わる刑事・平間を務めたのは、國村隼(くにむら・じゅん)です。
NHK『芋たこなんきん』徳永健次郎役、『アウトレイジ』池元組組長役など、穏やかな役柄から悪役まで幅広くこなし、“いぶし銀”という言葉がぴったりな國村。サントリーオールドや缶コーヒー「BOSS」のCMも印象的です。
辻刑事/山中崇
平間刑事の部下・辻は、山中崇(やまなか・たかし)が務めました。
舞台俳優からスタートし、NHK『ごちそうさん』室井幸斎役やJTのCMでもお馴染みの山中崇。主要キャストではないものの多くの作品に出演し、その存在感を示しています。
山岸/豊原功補
SATの中隊長・山岸は、豊原功補(とよはら・こうすけ)が演じました。
映画『亡国のイージス』杉浦丈司役や『カメレオン』木島高役などのほか多くの作品に出演し、2016年はドラマ『Chef〜三ツ星の給食〜』に奥寺健司役でレギュラー出演しています。
倉森/大森南朋
フリーライターの倉森は、大森南朋(おおもり・なお)が務めました。
映画『ヴァイブレータ』岡部希寿役では余韻の残る演技で高い評価を得、NHK『ハゲタカ』では敏腕ファンドマネージャー・鷲津政彦役を演じ注目を集めました。穏やかなルックスの中に不思議な色気も漂わせ、多くの作品で活躍中です。
映画『寄生獣』の奥深いテーマ
人間が食物連鎖のトップではなくなり、捕食される立場となった物語『寄生獣』。生き残りをかけた「人間」と「パラサイト」との戦いを描いていますが、パラサイトにもむやみに虐殺に走らない個体が存在します。その代表格の田宮良子は、人間との共存を模索する中で、パラサイトにはあるはずのない人間的な感情も持つようになりました。
「人間」と「パラサイト」との境界線。ミギーに寄生された新一は次第にパラサイト寄りの思考になり、逆にミギーは新一を単なる宿主ではない特別な存在と認識するようになっていきます。
こうした感情の変化の緻密な描写が『寄生獣』のおもしろさのひとつであり、特殊な世界観の中で人口増加や環境破壊の問題を絡めながら、「命とは?」「人間とは?」という普遍のテーマを投げかけてくるのです。
前編の『寄生獣』では、学校での島田の暴走により大勢の人々が命を落とします。新一は幼馴染の里見を助け出した後、ミギーと共に島田を倒しました。
宿主である人間の体を使い子供を身ごもる田宮良子のように人間との共存を考えるパラサイトがいる一方で、政治家・広川はパラサイトのための環境を整えるべく行動を起こします。
そして、いよいよ警察の特殊部隊が動き出し、本格的な反撃を試みる人間側。様々な思惑が交錯し、物語は後編の『寄生獣 完結編』へと繋がるのです。
映画『寄生獣』の評価
哲学的なストーリーが見どころ
HMworldtraveller
原作未読。地上波放送の録画で鑑賞しました。思っていたよりおもしろく深く哲学的な物語でした。
原作の知識がないうえに、映画館の予告で目にした時には寄生獣の姿形が趣味の悪いおもちゃのように見えたことと、そもそもグロテスクな描写が苦手なため観ようというモチベーションが全く起きなかったのですが、今回観て、一見での判断や食わず嫌いはだめだなと思いました。
鑑賞後も姿形そのものに対する印象に大した変化はないものの、寄生獣の描写を通して、emotionalでillogicalな人間ならではの性質にフィーチャーする場面がたびたびある一方で、人間以外の他に対するエゴを浮き彫りにする描写があり、人間らしさ、存在意義、環境や生態系における立ち位置を問うことが根底のテーマなのかなと思いました。理性と感情、自己肯定と他者否定、共存と排他、そういったことを、特異な世界観の中でストーリー性をもって描き問題提起しながら、エンターテイメントとしても見応えあるものになっています。
地球、環境視点で見ると人間ってかなり特殊な存在なのかもしれません。
俳優陣では何と言っても染谷将太。やっぱり上手いですね。難易度の高いこの役をふとした表情、一挙一動まで力演してたと思います。
原作ファンも楽しめる!
Hiromi_Harada
原作ファンだけど、映画としてちゃんと面白かった。原作ミギーはもっとクールなイメージだけど映画ミギーは愛らしい。それはそれで映画としてはいいと思う。染谷将太、演技力もすごいし前半の可愛いさと後半のかっこよさで、改めて好きになる。あとは深津絵里。不気味さの中にうーっすらと垣間見える人間らしさ。タミヤリョウコを見事に演じ切ってる。
前編は楽しめたけど、後編はどうまとめるんだろう。気になる!
続編にも期待
Tiba_Osamu
映像がリアルに感じられて、流石、山崎監督と思いました。ミギーの「シンイチ…『悪魔』というのを本で調べたが…一番それに近い生物は、やはり人間だと思うぞ。」といった要所で現れる寄生獣達のセリフが的を得ていて、深く心に響きました。早く完結編を観たいと思う作品です。
原作漫画の完成度があまりにも高く、実写映画化には不安の声が多く上がったといいます。尺の都合もあり、登場人物とストーリーの一部改変も避けられません。
しかし、俳優陣の巧みな演技や高度な映像技術によって作品の根底にあるテーマを充分に訴えかけ、初めて『寄生獣』に触れる視聴者だけでなく原作ファンにもおおむね納得の仕上がりとなっているようです。
リアルなミギーを生み出した山崎貴監督
監督を務めたのは、『ALWAYS 三丁目の夕日』や『永遠の0』なども手掛け、VFXに精通していることでも知られている山崎貴(やまざき・たかし)です。
『ALWAYS 三丁目の夕日』や『永遠の0』でのCGは基本的に背景であり、視聴者の目線は人物に注がれますが、『寄生獣』では注目対象の登場人物をCGで描くため、どれだけリアルに見せられるかということに一番苦労したといいます。
ゲーム業界で使われている「パフォーマンスキャプチャ」
実際の動きをデジタル的に記録する「モーションキャプチャ」という技術がありますが、山崎監督はその上を行く「パフォーマンスキャプチャ」を取り入れました。
「パフォーマンスキャプチャ」は「モーションキャプチャ」に表情の情報もプラスした最先端技術。本作では、ミギ-役の阿部サダヲの体の動きを取り込むと同時に、カメラで顔の動きも撮ったそうです。
そのため、ミギーの唇には阿部の口の動きがそのまま反映され、生き生きとしたミギーが誕生しました。映画『寄生獣』は、VFXクリエイターとしての顔も持つ山崎だからこその作品と言えるのではないでしょうか。