2017年7月6日更新

平凡な家庭が淫らに崩壊していく……官能サスペンスでありながらヒューマンでもある衝撃映画『乃梨子の場合』

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乃梨子の場合

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これは破滅に堕ちていく男女の物語

【あらすじ】 『乃梨子の場合』は父はアル中、母は男と出ていき、自分は万引きで補導されたけれども、今は普通の主婦をやっている乃梨子(西山茉希)が主人公です。 可愛い娘と警察官の夫、波風はなく、退屈と言えなくもない。それでも平和で満足な生活を送っていた乃梨子でしたが夫が一年前に仕事を辞めていて、貯金もあと僅かと判明したことで家庭が静かに崩れていきます。パート先の知人にデートに誘われた彼女は、そこで援助交際を申し込みます。男と女、それぞれの哀れさと悲しさを描いた物語です。

監督はピンク映画の大御所、坂本礼

坂本礼は日活芸術学院在学中にピンク映画の撮影、助監督として参加したのが始まりです。1999年に『セックス・フレンド 濡れざかり』を監督し、デビューしました。今作、『乃梨子の場合』はピンク映画とは言えませんが、画面にむんと漂う気怠い空気は90年代の安アパートの一室めいたものがあります。 R15の二時間サスペンスを目指したというこの映画はそれに違わぬ疾走感のある物語となっています。クライマックスには目を瞠り、息を呑むことでしょう。

淡々と、それでいて深い狂気を孕んだキャラクター達

ありふれた一組の夫婦とどんどん深みにはまっていく妻の援助交際相手。3人の登場人物たちの歪んだ本性が徐々に表れていき、平凡な日常が狂っていきます。 ですが、本作が単なるピンクめいた映画と圧倒的に異なる点は、キャラクターの狂気や歪みを掘り下げるのではなく、あくまでそこにあるものとして描写しているということです。正気の裏にある狂気を取り上げるのではなく、淡々と映すことでこの映画はサスペンスと人間ドラマを両立することに成功しています。さらりと提示される事実にいぶし銀を感じ、要所要所でほのかなエロスを感じる。官能映画のお手本ともいえるかもしれません。