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【小野寺系】映画『ブラッド・スローン』が骨太でいい。人格を破壊する刑務所の掟とは?

2017年9月30日更新

アメリカの囚人を描いたヴァイオレンスな新作『ブラッド・スローン』は、ただの刑務所サバイバル映画ではなかった!?映画評論家「小野寺系」が刑務所という存在が一人の男とその家族を壊していくさまを追い、アメリカの暗部をのぞいていく。2017年9月30日公開。

アメリカの刑務所の実態を描く新しい犯罪映画

ブラッド・スローン
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犯罪とは無縁で順風満帆にエリートコースを歩んでいた男(ジェイコブ)が、ある日乗用車で人身事故を起こし、刑務所に入ることになるーー。 だが、大人しく刑期を務めて無事に出所しようと思っていた彼が踏み入れたのは、想像を絶する危険な世界だった。冷酷で屈強なギャングたちが抗争を繰り広げる所内には凶器が持ち込まれ、日常的に暴力事件が頻発し、殺人までが行われていたのだった。

ギャングになんかなりたくないのに……

愛する妻や息子の下に帰りたい。その想いから、ジェイコブはあえて所内のギャングの一員となり、信用を得るために監獄の中で暴力や犯罪に手を染めなくてはならなくなってしまう。そして自分の意志とは逆に、ついにはマッチョな武闘派の、本物のギャングのカリスマとなっていく。一体、どうしてこんなことになってしまったのか……。 本作『ブラッド・スローン』で描かれる、この冗談みたいな悲劇は、実はアメリカの刑務所のリアルな実態を基に作られていたというから驚かされる。ここではそんな監獄ギャング映画『ブラッド・スローン』の内容に触れながら、アメリカの刑務所や社会にはびこる問題を考えていきたい。

ナメられたら終わり!ワルじゃなければ生き残れない世界

ブラッド・スローン
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本作の主人公ジェイコブは、いきなり刑務所のおそろしさを思い知らされる。若い服役囚が、他の囚人たちに対して怯えた態度をとったことで、目を付けられ集団レイプの被害に遭ってしまうのだ。 弱みを見せたら何をされるか分からない弱肉強食の世界に飛び込んだことを悟ったジェイコブは、ありったけの虚勢を張って、一対一のケンカにも応じる頑張りを見せる。すると、「あの野郎、なかなか根性あるじゃねえか」と、逆にギャングたちから一目置かれる存在となり、次第にギャングのために働かされるようになってしまう。 敵対する黒人の囚人グループとの総力戦に参加させられたり、しまいには組織の邪魔となる囚人の殺害まで命じられる。

ギャングは塀の外にも中にもいる

ブラッド・スローン
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権力を持っているギャングは、刑務所の中にいながらにして、外のギャングに人を殺させる指示を与えることもできる。ジェイコブは塀の中にいながら、ギャング達から自分の家族の安全を守るために犯罪行為の片棒を担ぎ続けなければならず、悪行を告発することもできない立場なのだ。 エリートコースから、凶悪犯罪者へ……。一人の人生、一つの家族が、刑務所に一度入ったことで崩壊していく。

イケメン俳優が屈強なギャングの姿に……

ブラッド・スローン
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主人公ジェイコブを演じているのは、大ヒットTVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』で、通称「キング・スレイヤー(王殺し)」と呼ばれるジェイミー・ラニスターを演じて話題になった、ニコライ・コスター=ワルドーだ。 本作では、監獄に入る前のシーンまではセクシーなイケメン俳優として知られる彼のイメージが保たれているのだが、監獄に入った後のシーンでは、全身にタトゥーで覆われるなどどんどん凶悪な姿になっていき、最終的には全くの別人にしか見えなくなってしまう。 この見事な変貌ぶりによって本作が示そうとするのは、環境によって人は簡単に変わってしまうという、一つの真理である。

破綻したアメリカの社会システム

ブラッド・スローン
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アメリカの人口は世界の人口の5%ほどだが、そんなアメリカの受刑者の数が、全世界の受刑者の25%を占めると知ったら驚くだろうか。つまり、全世界の囚人の4人に1人が、アメリカの囚人なのだ。 本作『ブラッド・スローン』が描くのは、犯罪を抑制し更生させる場所として機能しなければならないはずの刑務所が、逆に犯罪の温床となっているという厳然たる事実だ。それは、刑務所自身がアメリカを囚人大国にすることを手助けしているということ。 国家や一般の国民にとって、この社会システムや秩序の破綻というのは切実な問題に違いないはずだ。だがそこでは、囚人自身もまた被害者になっているのかもしれないのである。

映画『ブラッド・スローン』は9月30日(土)より新宿シネマカリテにて公開。 執筆者:小野寺系