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【小野寺系】の第30回東京国際映画祭、密着レポート!【今年は異色作揃い?】

2017年11月9日更新

「第30回東京国際映画祭」が先日閉幕した。六本木ヒルズをメイン会場として10日の間開催された、国内外200本前後の映画作品が上映される、アジア最大規模の映画のイベントに小野寺系が記者として潜入。今回は連日の取材を通してのレポートや、感じたことなどを伝えていきます。

東京国際映画祭が今年も開催

東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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「世界に通用する国際映画祭を作ろう」という狙いから、1985年にスタートした 東京国際映画祭。この映画祭は、国内外の映画人をはじめ、映画ファン同士の交流や、魅力的な作品との出会い、新しい才能を見つけ映画界全体を盛り上げていくという多目的なミッションを掲げている。 2009年以降は、渋谷より国際的な土地柄の六本木へとメイン会場を完全移行し、現在のかたちへと定着。 日本には他にも映画祭があるが、東京国際映画祭はとりわけ規模の大きさと豊富なラインナップから、好みが多様化している映画ファンの心をつかむ一大イベントであり続けている。 今回は映画祭で上映された新作映画の模様を中心にレポート。

映画祭の花形「コンペティション部門」で、今回グランプリに輝いた作品は?

東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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もっとも注目が集まるのは、やはり「東京グランプリ(最高賞)」を競い合う「コンペティション(競争)部門」だろう。 今回はハリウッドのベテラン俳優で、日本のお茶の間でも缶コーヒーのCMで親しみ深いトミー・リー・ジョーンズが審査員長を務めた。

トルコの奇妙なSF映画『グレイン』がグランプリ受賞

『グレイン』東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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今回東京グランプリを獲得したのは、未来の食糧難の世界を描くトルコ映画『グレイン』。 本作はSF作品としての派手な見せ場は少なく、中年の男たちが岩場などをウロウロする(トルコの有名な火山大地「カッパドキア」などで撮影)、地味なシーンが続く異色な怪作となっていた。 『惑星ソラリス』を撮った巨匠アンドレイ・タルコフスキー監督の作風とも共鳴する部分の多いこの作品は、宇宙と人間の関係を、内的な世界とのつながりとして描いていく。 『グレイン』はここまでエンターテインメントとしての価値から離れられるのか!、と感じさせる驚きのSF作品だったが、そういう見方自体、自分が最近のハリウッドの娯楽大作に慣れきってしまっているのだと気づかされ、受け身になっていた感性をガーンと殴られるような気持ちがした。 本作のような作品は、自分が能動的に考え、気づいていくことで楽しむものなのだ。

『グレイン』記者会見 東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
東京国際映画祭 (c)2017 TIFF

普段はなかな出会うことのできない映画に触れることができるというのは、映画祭の醍醐味である。そしてそんな作品がグランプリを受賞した事実は、東京国際映画祭の現在の価値を象徴していると言える。 ちなみに主演は、日本でもヒットした『グラン・ブルー』で主人公のジャック・マイヨールを演じていた、ジャン=マルク・バール(写真中央)だ。

世界の「いま」を知ること

『アケラット-ロヒンギャの祈り』 Aqérat  (c)Pocket Music, Greenlight Pictures

世界各国のクリエイターが描く、その国の実情は興味深い。 最優秀監督賞を受賞した『アケラット ロヒンギャの祈り』は、マレーシアを舞台に、迫害されミャンマーから逃げてくる難民たちの深刻な実情を告発する。 さらに、審査員特別賞に輝いた『ナポリ、輝きの陰で』は、ナポリ近郊の治安の悪い地域でぬいぐるみの露天商をしている実在の父娘を俳優として使い、そのままの設定で脚本を創作した映画だった。彼らの日常の光景がそのまま写され、貧困からなかなか抜け出せない現実を描いている。

世界と対峙するための映画

コンペティション作品には、多様性、移民、経済格差など、現在の深刻な社会問題を描写する作品が比較的多い傾向がある。世界の姿とじっくり向かい合い、その世界を擬似的に体験するのに、映画という表現は非常に有効なのだ。 ダルデンヌ兄弟の『ロゼッタ』がカンヌ映画祭最高賞(パルムドール)に輝いて以降、虐げられる人物の現状を観客に体験させるため、個人的な狭い世界を現出させる際、手持ちのカメラで主演俳優に迫り、遠景がぼけて見えないほど接近する演出(テクニック)がトレンドとなっいている。今回の映画祭を取材し、さらにこの手法が隆盛を極めているように感じた。

映画監督や俳優を身近に感じられるのも映画祭の魅力

『迫り来る嵐』ドアン・イーホン 東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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最優秀芸術貢献賞、最優秀主演男優賞のダブル受賞を果たした、降り続く土砂降りの雨の描写が印象的な中国のノワール映画『迫り来る嵐』の上映では、人気俳優ドアン・イーホンが来場した。 この作品は世界最速上映(ワールド・プレミア)ということで、中国からの女性ファンが大勢会場につめかけていた。一般の観客が監督や俳優などに質問できるQ&Aコーナーでは、ファンからイーホン氏に激しく質問が集中し、熱気に押され何も聞ける状況ではなかった……。

『ペット安楽死請負人』 ファンとの交流風景  東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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会場の外でもタイミングが合えば、監督や俳優が、サインや記念写真の撮影に応じてくれる場合もある。 たまたまフィンランド映画『ペット安楽死請負人』(最優秀脚本賞を受賞)の監督・主演コンビと遭遇したが、現在のハリウッド作品ではなかなかお目にかかれない過激なシーン満載の、全編から狂気を感じた凄絶過ぎる映画だっただけに、彼らが快く記念撮影に応じている姿に安堵してしまった。

カンヌ国際映画祭総代表が登場

東京国際映画祭 (c)2017 TIFF
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カンヌ映画祭で作品選定などを行う総代表、ティエリー・フレモー氏が、「映画の父」リュミエール兄弟の作品を集めた映画『リュミエール!』を引っさげ、監督として来場。会見場はものものしい空気に包まれていた。 「フランスの誇る至宝リュミエール兄弟を、できるだけ多くの人に知ってもらい、作品を観てもらいたい!」という熱い想いを感じる会見だった。筆者は映画研究が専門だけに、『リュミエール!』にナレーションとして添えられていたフレモー氏のコメントは、幅広い映画的知識に支えられた的確なもので勉強になった。 他にも、元アメリカ副大統領のゴア氏など、続々と豪華なゲストが連日六本木ヒルズに来場しているが、いっぱいいるので紹介しきれない。

魅力的な作品は他にも…

『怪怪怪怪物!』
(c)Star Ritz International Entertainment Co., Ltd.

ワールド・フォーカス部門で上映された台湾の異色ホラー『怪怪怪怪物!』や、コンペティション部門を盛り上げた、マルガレーテ・フォン・トロッタ(『ハンナ・アーレント』の監督)の初のコメディー、そして招待作品のなかで最もぶっ飛んでいただろう、大林宣彦監督の執念の作品『花筐/HANAGATAMI』など、公開が待たれる傑作が多数上映されていた。 こういう優れた作品と出会えるのが映画祭の醍醐味だ。全国の劇場でも大々的に公開して、多くの人に観てほしいと思う。

Tower Light Cinema SHIN.YAMAGUCHI (c)2017 TIFF

また、敷地内のアリーナや東京タワーのお膝元の港区立芝公園では、連日無料の野外上映会が開催されていた。映画ファンの裾野を広げるこういった試みも応援していきたい。 執筆者:小野寺系