グランド・ホテル形式の概要とその歴史
グランド・ホテル形式は映画などで用いられる表現方法の一つです。その名前は1932公開のアメリカ映画『グランド・ホテル』から由来しており、ホテルのような大きな場所に人が集まり、そこで物語が展開されていく技法で、欧米ではグランド・ホテル形式は、アンサンブル・キャストと呼ばれます。 名前の由来は1932年公開の『グランド・ホテル』とご紹介しましたが、19世紀に活躍したフランス人作家バルザックの『ゴリオ爺さん』などでこの手法はすでに小説の中では用いられており、映画で取り入れられる以前から用いられている表現技法です。
グランド・ホテルの描き方の特色とは?
グランド・ホテル形式の特徴は主人公を1人限定させないことです。つまり登場人物全員にスポットをあてて、並行してそれぞれのストーリーを展開したり、ストーリーごとにスポットをあてる人物を変えるていきます。 この手法を用いることにより、ストーリーが様々な展開にしていくため映画全体に彩りを与えるのはもちろんのこと、途中でキャストが降板したりする不測の事態がおきても、全体のストーリーにさほど影響をあたえず映画を完成させることが可能となっています。つまりグランド・ホテル形式の描き方は観客が楽しむことができるだけでなく、製作側にもメリットがあるというわけです。
名前の由来となっている映画『グランド・ホテル』
先の項目でご紹介した通り、グランド・ホテル方式の名前の由来は1932年公開のアメリカ映画『グランド・ホテル』です。スウェーデン出身のハリウッドを代表する女優、グレタ・ガルボ主演の本作はアカデミー賞作品賞を受賞しています。 本作では、グレタ・ガルボ演じる落ち目のバレリーナを始め、会社が危機に陥っている会社社長とその秘書、借金で首が回らなくなっている自称男爵、そして会社社長の元経理係であった老人らがドイツにある一流ホテルグランドホテルに集まり、そして彼らの人生をそれぞれ描かれています。さらに、ただそれぞれの人生を描くのみならず、登場人物すべてを巧みに交錯させていき、その後の映画界に大きく影響を与える映画となりました。
人気ラブコメディー『ラブ・アクチュアリー』もグランド・ホテル形式を採用
公開から10年以上経っても、クリスマスが近づくと話題になる映画『ラブ・アクチュアリー』。ヒュー・グラントやエマ・トンプソン、キーラ・ナイトレイなど人気俳優女優が一堂に会した本作は繰り返し鑑賞している人も少なくはないでしょう。 クリスマスシーズンの華やかなロンドンを舞台に、登場人物それぞれにスポットを当てながら登場人物全員のストーリーを巧みに交錯させていく本作も典型的なグランド・ホテル方式の映画です。
日本を代表する脚本家、三谷幸喜脚本の人気作『THE有頂天ホテル』
グランド・ホテル方式を取り入れているのは海外の作品に限りません。日本を代表する脚本家三谷幸喜氏が監督も務めた人気映画『THE有頂天ホテル』もグランド・ホテル形式を取り入れた作品です。 本作は、日本を代表する俳優、役所広司が副支配人を務めるホテルを舞台に、大晦日の夜10時から年明けまでの間にホテル内で繰り広げらる人間模様を描いたコメディーで、公開から8日で観客数100万人を動員する大ヒットとなりました。 なお、本作の名前の由来は、グランド・ホテル形式の由来でもある『グランド・ホテル』そして、ミュージカル映画『有頂天時代』から由来しており、作品名からもグランド・ホテル形式を取り入れていることを想像できる方もいるのではないでしょうか?
グランド・ホテル形式の進化系?原型?『シン・ゴジラ』
2016年公開の日本映画『シン・ゴジラ』。日本を代表する映画ゴジラシリーズの第29作目にあたります。 本作は典型的なグランド・ホテル形式の手法はとっていませんが、大規模災害に対して、政府が限られた条件のもと、国家に携わる人々が様々な解決策を持ち出し、それをうまく収束させていくという、グランド・ホテル形式の進化系とも言える手法、もしくは本手法はグランド・ホテル形式の原型である群像劇ということも可能かもしれません。
あの作品も、実はグランド・ホテル形式かも!
以上、グランド・ホテル形式についてご紹介しました。今までグランド・ホテル形式という言葉を聞いたことがなくても、グランド・ホテル形式を取り入れている映画を鑑賞したことがある人は多いのではないでしょうか? 様々な人物のストーリーが並行して展開されていくグランド・ホテル形式は観客を飽きさせないだけでなく、製作側もキャストが万が一途中で降板しても、映画を完成させることができるという利点があります。 映画を鑑賞する際、キャストやスタッフ、ストーリーのみに注目するのではなく、その撮影手法に注目してみるのも、映画を楽しむ一つの方法です。 ぜひこれから鑑賞する映画を選ぶ際、その映画がグランド・ホテル形式を取り入れているかどうかということにも注目してみてください。