リュック・ベッソン監督に直撃インタビュー!『ヴァレリアン』は“プロパガンダフィルムへの反抗”
タップできる目次
- 『ヴァレリアン 千の惑星と救世主』バンドデシネを原作としたSF大作が遂に公開!
- あの名作から20年経った今、リュック・ベッソン監督が作りたかったもの
- VFXのテクノロジーが進んだ今でも、監督が撮るのに最も苦労したあのシーン
- 思い入れの強い仕事だからこその、プレッシャーはなかったのか?
- 「僕はリアルな人間を、大きな世界観の映画で描きたかったんだ。」
- “壁”を作る必要がない世界、プロパガンダフィルムへの反抗
- 愛すべき宇宙人たち、彼らには細かい設定があって実在する住所さえある。
- 自我を持たないバブルというキャラクターが意味するもの【ネタバレ注意】
- 片思いをしていたキャラクターを演じた、カーラ・デルヴィーニュ
- 『フィフス・エレメント』と同じ?『ヴァレリアン』ラストシーンの真相【ネタバレ注意】
- 『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は2018年3月30日公開!
『ヴァレリアン 千の惑星と救世主』バンドデシネを原作としたSF大作が遂に公開!
「一つの恋よ、叶え。一つの銀河を、救え」 『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』とは、連邦捜査官である主人公のヴァレリアンとローレリーヌが銀河を救うというSF活劇でもあり、同時に彼らとラブロマンスを描いた恋愛作品なのです。バンドシネ『ヴァレリアン』を原作とし、ついに映像化された今作を手がけたのは巨匠リュック・ベッソン。 幼少期からこの作品の大ファンであり、脚本を書く事を『ヴァレリアン』から学んだと語る彼が、今作にどんなメッセージを込めたのか。製作の裏側から、キャラクターの知られざる素顔、そしてこれを読めば今作を愛さずにはいられない熱い想いを、リュック・ベッソン本人がインタビューで語ってくれました。
あの名作から20年経った今、リュック・ベッソン監督が作りたかったもの
『ヴァレリアン』はリュック・ベッソン監督における17作目の監督作品であり、SF活劇です。アクション映画でもあり、1組の男女が恋を成熟させる、エイリアンやクリーチャーが登場する……聞き覚えがありませんか?彼が『レオン』でその名を馳せた後、当時持ち得た最新のVFX技術を駆使した最高傑作『フィフス・エレメント』もまた、それらの要素をはらんだ作品でした。 『ヴァレリアン』の原作コミックを幼少期に熟読した監督が今作を世に送り出すまでにはおおよそ7年もの年月を有したとのこと。『フィフス・エレメント』から20年が経った今、VFX技術等を含めて、彼は何を『フィフス・エレメント』から学び、『ヴァレリアン』に生かしたのでしょう。
VFXのテクノロジーが進んだ今でも、監督が撮るのに最も苦労したあのシーン
しかし、テクノロジーが進んだからといって簡単に『ヴァレリアン』が撮れたわけではありません。彼が最も苦労したシーンは惑星キリアンにある砂漠に広がるヴィジュアルマーケット。何が苦労したかって、他のクルーに壮大なヴィジュアルマーケットのイメージを伝えるのが、CG無しでは難しかったからなのです。 「まずあのシーンは15分間だけのシーンに6週間を要したんだ。撮影する前に、全ての技術者をかき集めて1時間僕はこのシーンを絵コンテを用いて説明したんだよ。1時間後、クルーはみんな「(何の話をしているんだ……?)」って顔をしてさ(笑)。誰もが僕のビジョンを理解しなかった事くらい、容易くわかったよ。」
「どうやって伝えたら良いんだろう、そう思って、僕は自分の映画学校に通う生徒をかき集めた。そして1週間、彼らに協力してもらって絵コンテを実写化させたんだ。ヴァレリアン、ローレリーヌ役がいて、エイリアン役がいて。僕は全カット撮影し、編集し、音も加えた。15分の実写版絵コンテを技術者に見せた時、彼らはようやく「ああ〜!なるほどね!」ってわかってくれたんだ(笑) だから、そもそもこのシーンは撮り始める事すら難しかったよ」
思い入れの強い仕事だからこその、プレッシャーはなかったのか?
映画監督に限らず、誰しもが思い入れの強い仕事をするに当たって、他のそれよりプレッシャーを感じてしまう事はあるのではないでしょうか。『ヴァレリアン』というスケールの大きなSF作品となれば、余計です。しかし、監督は自分の仕事のコツを我々にちょっぴり教えてくれました。 「全体像を目にすると、死んでしまう。あまりにも巨大な作品で、途方にくれてしまうからね。だから小さなところだけをみて、そこに着手するようにしているよ。今日はこれをやる、明日はこれをやる、という風に。これが唯一のプレッシャーを感じる生き延びる事ができた方法だ。 “ビッグピクチャー”、つまり大きな側面をみると負けてしまうので、今日できる事・やれる事だけを見つめるようにするよ。だから今作を監督するに当たってもプレッシャーは特に感じなかったさ。」
「僕はリアルな人間を、大きな世界観の映画で描きたかったんだ。」
今作では何種類もの宇宙人が登場する事が特徴的ではあるものの、彼らと共存する人間の姿も非常に印象的。監督は、今作は人間からみた宇宙人を描いた作品ではなく、宇宙人を通して描かれる人間をテーマとした作品なのです。 「主人公であるヴァレリアンとローレリーヌは警官で、カップルだ。僕らが今日するように、彼らは口喧嘩をする。男の子が「君が欲しい」と言えば、女の子は「ノー」と言う。「多分あとでね」なんて。この何の変哲もない男女のやり取りこそが、とても人間らしいんだ。 ヴァレリアンはちょっと見栄っ張りだし、馬鹿だ。彼は僕にとって、今日における男の代表選手なんだよ。僕らは少し見栄っ張りで、世界を牛耳っている気持ちでいる。しかし、本当女性が僕らをコントロールしているんだよね(笑)」
“壁”を作る必要がない世界、プロパガンダフィルムへの反抗
近年、多くのヒーロー映画がブロックバスター映画として親しまれていますね。今作もヴァレリアンというヒーローが、千の惑星を救うというプロットではありますが、監督は単なる“ヒーロー映画”として作ったわけではないと語りました。 「多くのヒーロー映画が世に出回って10年くらい経つけど、それらにおいてエイリアンはいつも悪役だ。エイリアン(Aelien)とは、外国人を意味する。「僕らは外国人から自分の身を守らなければいけない」なんて言って、“救世主”になるのは、いつも“アメリカ人”だ。世界を、僕らを守っているような顔をしてね。」
「だから基本的に、これらはプロパガンダ映画なんだよ。“外から来るものを排除する”、なんて映画は僕は要らないし作りたくない。僕は、共存する映画を作りたかったんだ。“壁”を作る必要がないと、分かるような映画を。」 インタビュー中に、現アメリカ大統領であるトランプの政権を真っ向に批判する姿勢を見せながら、ベッソン監督は今作に乗せた本当のメッセージを語りました。
あらゆる種族と共存する事は、可能であり、楽しいこと
『ヴァレリアン』の冒頭のシークエンスは完璧といっても過言ではありません。デヴィッド・ボウイの「Space Oddity」を背景に人類が宇宙に進出し、そこにいた多くの種族と共に歩んで行く事に対する決意が描かれています。そしてこれは、ベッソン監督が今作を通して最も伝えたかった重要なシークエンスでもあるのです。 「映画の冒頭で、人間とエイリアンが握手をする。彼らはどんな種族とも、握手をするんだ。例え、そのエイリアンがぐちょぐちょの手で、「おえーっ」って具合に後でこっそり拭いたとしてもね(笑)。 しかし、その手がどんな手でも、握手をする事を受け入れなきゃいけないんだ。それを受け入れるという姿勢を見せることが重要だし、未来なんだ。壁を作ることは過去であり、今日未だにそうしようとするなんて最も愚かだと思う。」
「自分と違う人間と出会う事は、自分を豊かにする事なんだ。フランス人である僕らは、寿司についても着物についても、水墨画についても、何もわからない。けど僕らはパンやカマンベールチーズ、香水やクロワッサンを知っている。互いに知り得ている者をテーブルの上におき、それを共有する時、それが人を豊かにするんだ。その事を今作『ヴァレリアン』で伝えたかった。」
愛すべき宇宙人たち、彼らには細かい設定があって実在する住所さえある。
私が、そして恐らく今作を鑑賞する多くの人が気に入るのは、何種にも渡るエイリアンのはず。今作における重要なキーの「コンバーター」と呼ばれるエイリアンは死ぬ程可愛いし、ミュールに住むパール人の美しさには見惚れてしまうはず。 今作に登場する宇宙人らについて、監督は嬉しそうにこう語ってくれました。 「この映画を何回も観ても、初めて目にする“発見”があると思うよ。例えば、マーケットのシーンには500種ものエイリアンが登場しているんだ。だから、二回目に観たときには「あんな所にもこんなエイリアンがいた!」って具合に、新種を見つけてもらえると思う。」
更に、監督曰く全てのエイリアンにはそれぞれ10ページから15ページに渡るプロフィールが用意されているのだとか!彼らがどこに住み、何を食べ、どのように暮らしているのか、事細かに記載されているのです。しかも、彼らの住所は全て実在する星の座標!本当にそこにそのエイリアンが住んでいるはともかく、探せば見つかるなんて、とてもロマンチックですよね。
自我を持たないバブルというキャラクターが意味するもの【ネタバレ注意】
リアーナが演じた事で話題となったバブルというキャラクター。彼女はイーサン・ホーク扮する客引きのジョリーの店でショーガールとして働いています。客が求める容姿に姿を変え、“それ”になりきる事がこのエイリアンの能力なのですが、その存在は今作により深みをもたらしているように感じます。 彼女はアイデンティティを持たず、幼少期にアルファ宇宙ステーションに連れてこられてからジョリーの店で働いている。つまり、彼女は“移民”なのです。 そして、監督自身は加えてバブルが役者のメタファーでもあると語りました。
「彼女は役者のメタファーなんだ。役者はある時ヒーローになったり、悪者になったり、色んなものになる。しかし、仕事が終わると家に帰って着替えて、ゴミを捨てたりする普通の人なんだ。 何にでもなれるバブルが、ただ唯一なれないものが自分自身だ。自分というものが何なのか、アイデンティティが確立されていないからね。多くの役者も彼女のようなもので、撮影をしていない時は惨めだったりする。まあ、皆ではないけどね。」 劇中、彼女はヴァレリアンとローレリーヌに手を貸したことで、命を落としてしまいます。その際、彼女がクレオパトラの姿になって発した最後の言葉は、シェイクスピアによる『アントニーとクレオパトラ』の一節でした。このシークエンスが、彼女が“究極の女優”として生涯を過ごし、その幕を下ろした事を意味するのです。 そして死んだ彼女は砂となり、彼女がそこにいたという証さえなくなるのでした。
片思いをしていたキャラクターを演じた、カーラ・デルヴィーニュ
実は子供の時、ローレリーヌに片思いをしていた事を明かしてくれたベッソン監督。今作で彼女を演じる女優の選出に、その思いは反映されていたようです。 「ローレリーヌの事は熟知していた。だから、女優と会ったときに彼女がローレリーヌに合うか合わないかはすぐにわかったよ。 そういった文脈で、カーラは物怖じしないし、何でもハキハキ言うし、聡明だし、オープンな性格だったから、彼女の中にローレリーヌがいる事は理解できた。ただ、彼女が演技ができるのかは知りたかったから、演技のテストをしたんだ。あれは、もしかしたら宇宙に行くテストの方が簡単だったかもしれない(笑)」 カーラ・デルヴィーニュ本人は、この監督の演技テストに関して米媒体のインタビューにて「動物のマネをしたり、いろんな事をやらされた」と話していました。
『フィフス・エレメント』と同じ?『ヴァレリアン』ラストシーンの真相【ネタバレ注意】
映画を観賞後の方はお気づきになったかもしれませんが、『ヴァレリアン』のラストは熱いキスシーンで飾られているのですが、『フィフス・エレメント』もまた、同じようにキスシーンで幕を閉じていたのです。 これは偶然なのか、それとも……?監督はこのキスシーンに、映画の大きな軸であったヴァレリアンとローレリーヌの関係性を表したようです。
「ヴァレリアンは最初「結婚しよう」なんて言うくせに、ハネムーンが結婚の後にくるものだとは知らなかった。彼はそんな文脈で馬鹿であり、愛に対して無知だったが、映画を通して(勿論、ローレリーヌとの冒険を通して)愛し合うという事を学ぶんだよ。彼女を救わなければならないし、彼女も彼の事を救わなければいけない。それに互いが気づけたときに、彼らは互いの重要さを理解し、そういう方法で愛を証明する事ができるんだ。」 そして、ようやく交わすキスシーンが最後に撮影したシーンであり、それにはわけがあった事も話してくれました。
「ヴァレリアンを演じたデイン・デハーンと、ローレリーヌ役のカーラ・デルヴィーニュは凄く仲良くなってね。お互いに妻がいたり、恋人がいる二人だけど、強い友情が撮影期間を通して芽生えていたのを感じたんだ。だから、撮影が終わればもうこんな風に毎日会う事ができなくなる、そんな寂しさをキスシーンに投影させたくて、わざと最後に撮影したんだ。」
『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は2018年3月30日公開!
最後に、監督がある今作に込めたメッセージに関連した、とあるエピソードを語ってくれました。 「僕には13歳の娘がいるんだけど、彼女が10歳の時寿司屋に連れていった事がある。そこで彼女は生身の魚なんてキモいって食わず嫌いしたんだ。そこで僕は彼女に言った「とりあえず、チャレンジしてみてよ」って。 彼女は恐る恐るそれを口にすると、「好きかも」って気に入ったんだ。今や彼女は世界で一番の寿司ファンだよ。」 大事な人・大事な事を我々に教えてくれる映画『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』は2018年3月30日より、全国上映開始となります。