2019年9月13日更新

映画オタクがレビューで使いがちな5つの言葉【自称映画オタクが解説】

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映画鑑賞は本当に楽しい。 多くの方の映画愛を加速させているのはレビューだと思います。鑑賞後に映画の内容を自分の言葉で完結にまとめる行為は、単に備忘録という枠を超えて多くの価値を享受する。もちろんSNSなどにまとめれば他の映画好きと繋がるきっかけにもなるだろうし、なにより文字に書き起こすことで考えがまとまり新しい発見もあるかもしれません。 そんな映画レビューで、映画オタクが使いがちな言葉があります。これは映画オタクたちが気取っているわけではなくて、他に言い換える言葉がなく(少なく)、レビューする際に使いやすい言葉だからなのです。さらにこれらの言葉を知ってから映画を観ることで、映画に違った面白さを見いだすことができるはず。 この記事では映画オタクが使いがちな言葉を紹介し、その意味や使い方などを解説します。記事の最後には架空の映画『劇場版 桃太郎』を映画オタクが用いる言葉を多用し、レビューしたいと思います。

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オマージュ【映画オタクが使いがちな言葉その1】

いきなり大本命の登場です。フランス語で「敬意」という意味の言葉ですが、映画レビューではもう少し限定的な意味で使われます。 映画において使用される「オマージュ」は他映画の模倣をしているということ。模倣と言ってもパクりとは異なります。オマージュには必ず、過去の偉大な作品に対して敬意が込められています。 SF映画の金字塔『2001年宇宙の旅』は後の映画が多くのオマージュを捧げています。例えば『ゼロ・グラヴィティ』では主人公が胎児のように体を丸めるシーンが登場します。 この宇宙と胎児というイメージは、『2001年宇宙の旅』で用いられています。さらに『インターステラー』で登場するTARSというロボットのビジュアルは『2001年宇宙の旅』に登場するモノリスととてもよく似ています。

オマージュによってもたらされるものはとても大きいと言えます。被オマージュ作品を想起させることで、映画作品の解釈の幅を広げることができます。映画製作側の意図を映画を邪魔せず観客に伝えることができるのがオマージュです。 おまけにオマージュに気づくことで観客が喜ぶ、という効果も。2018年を代表するとも言えるアニメ『ポプテピピック』は高難度オマージュを大量に重ねています。

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カタルシス【映画オタクが使いがちな言葉その2】

水戸黄門

非常に使いやすい言葉です。この言葉に関しては、他に代替する言葉がないように思います。カタルシスは、簡単には「溜め込んだイライラを浄化させる」という意味です。 わかりやすい例を挙げるならば、ドラマ『水戸黄門』がぴったりです。悪代官に虐げられている人々をしっかりと映し、悪代官に対するイライラを蓄積させていきます。しっかりとイライラゲージが溜まったところで「助さん格さんやってしまいなさい」でしっかりボコボコにした挙句、印籠を出し土下座までさせ完膚なきまでに叩き潰す。 ここでお茶の間の老若男女はカタルシスを感じるのです。「最初から印籠出して悪事を止めれば……?」という意見もありますが、カタルシスを生むためにはしっかりと悪代官に悪事を働いてもらわないと困るのです。 カタルシスは鑑賞後の満足感を生む爆薬のようなものです。映画にはカタルシスを生もうとしているにも関わらず感じられなかったり、逆にあえてカタルシスを放棄している作品もあるのです。映画がどのようにカタルシスを扱っているのか、を軸に映画レビューを展開すればまた違った書き方ができるはずです。

メタファー【映画オタクが使いがちな言葉その3】

メタファーは日本語で書けば暗喩で、明確でない例えという意味です。映画に限らず評論文にも散見します。例えば主人公がすべての問題を解決した後に、劇中でずっと降り続けていた雨が止めば、天気は主人公の心情のメタファーになっていた、と言うことができます。ここで主人公が「問題の解決とともに雨も止んだ。まるで俺の心の内みたいだ」などと言うと、暗喩ではなく直喩です。 例えば劇場版「クレヨンしんちゃん」シリーズや、近年のディズニー映画(『ズートピア』や『インサイド・ヘッド』)などはメタファーに満ち溢れています。子どもにとっては理解しがたい考え方をメタファーによって物語の一部に組み込むことにより、一緒に観ている大人にメッセージを届けることができます。 子どもの頃は気づけなかったけれど、大人になって映画を見たときには新たな発見があります。これは素晴らしい映画体験です。 巧妙な暗喩に気づいてしまった映画オタクたちはつい自分のレビューで報告したくなるものです。もし見かけたら暖かい目で見守ってください。

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反復と省略【映画オタクが使いがちな言葉その4】

熟語としては一般的な言葉ですが、映画オタクはレビューでこの言葉を使うことがあります。 反復は、同じ構図や同じセリフを繰り返すことです。わかりやすい例を挙げるならば童話『三匹の子豚』などです。一匹目の豚がワラの家を、二匹目の豚は木の家を建てるも吹き飛ばされて食べられてしまう。勤勉な三匹目の豚は手間暇かけてレンガの家を建て、吹き飛ばされない上に逆に狼を食べてしまう。 メッセージとしては最後の豚だけで良いはずが、三度反復させることで相違点を際立たせて、何が勤勉なのかを読み取りやすくしています。 何でもないような構図やセリフが別のシーンで反復されると、観客はその変化に焦点を当てることで映画の意図を汲み取ることができます。

省略は似たようなシーンをあえて画面に映さないことです。例えばある連続殺人犯の逃亡を描いた『復讐するは我にあり』という映画で、主人公は多くの殺人を重ねます。しかし実際に人を殺めているシーンはそれほど映されていません。 殺害に向かった主人公が、次のシーンでは死体の横に座っており、映画はその後の主人公の所作を映し続けます。人を殺めるシーンを省略することで、人を殺した後の主人公が如何に平静を保っているかに焦点を当てることができ、さらに最も重要な殺害(こちらはしっかりと映す)の印象を強くすることができます。 反復と省略が映画オタクのレビューでよく並ぶのは、映画の中で同時に発生することが多いからです。もう一度『三匹の子豚』を例にすると、二匹目の子豚が木の家を建てて満足した背後に狼の背が移り、次のシーンでは木の家の残骸とお腹の膨れた狼とが映っている……。こういうのを見かけると映画オタクは高い確率で「反復と省略!」と書いてしまいます。

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御都合主義【映画オタクが使いがちな言葉その5】

ここまでは映画の表現技法として映画オタクの目に留まりやすいものを挙げましたが、最後に紹介する御都合主義は作品の欠点を指摘する言葉です。つまり映画製作者の都合を優先させることを指し、これによって映画に違和感が生まれてしまいます。 具体的なタイトルは挙げませんが、あまりに間抜けすぎる悪役などはその代表例です。映画の都合上どうしても正義である主人公に勝たせなければならないという都合があり、誰がどう考えても気づく作戦の欠陥を見過ごし、ぽっかり空いた隙を突かれて悪役が敗北してしまうと映画としては御都合主義だと指摘せざるを得ません。観客は一気に醒めてしまいます。 ただすべての御都合主義が悪い、というわけではありません。先ほど挙げた『水戸黄門』はその典型です。最初から印籠出して悪事を止めない、という行為はご都合主義そのものですが、カタルシスは得られなくなります。さらに毎回同じように得られるカタルシスに、お茶の間は安心感を覚え良い意味でのマンネリに昇華させることができます。

架空の映画『劇場版 桃太郎』を映画オタクが全力でレビューしてみた

映画オタクの基準についてはさておき、ここまで言葉を紹介してきた筆者が、これらの言葉を駆使してレビューを作成してみました。この記事で紹介しきれなかった映画オタクレビューあるあるも織り交ぜています。レビューする映画は、誰もが知る童話『桃太郎』の架空の実写映画『劇場版 桃太郎』です。

桃太郎

老夫婦によって育てられた桃太郎が、ある日鬼退治に行くと言い出した……。 プロットは誰もが知る一般的な桃太郎と同じですが、映画としてのクオリティがとても高いと思いました。まずオープニングから素晴らしい。大きな桃を抱えて家に帰ってきたおばあさんが、おじいさんと一緒に桃を割るまで一連の長回しからのタイトルがドーン!この時点で5億点です。 桃太郎が犬猿キジと仲間にするシーンは、三度の反復と言えますが三匹の問答の違いにより、それぞれのキャラクターが際立っています。冗長になるのを防ぐためでしょうか、大胆な省略が行われており非常にテンポよく鬼退治に向かいます。ところで猿の頬に付いている傷は監督の前作『サルカニ合戦』で猿についた傷と同じだと思います。ファンを刺激する巧みなオマージュです。 きちんとしドラマでしっかりと描かれた鬼たちの蛮行はクライマックスでのカタルシスを高める上で大きな役割を果たしていると思います。村娘が連れ去られるシーンはとても胸糞が悪い。七人の鬼は七つの大罪のメタファーだと思います。 七つの大罪はキリスト教で人間を罪に導く欲望であるとされていることから、この映画における鬼は人間の成れの果てであると考えることができます。そうなると桃太郎は神からの使者……?この辺りは監督の宗教観も投影されているのではないでしょうか。 劇中では人間を超える知能を持つとされている鬼ですが、最終的には一方的にやられてしまうという御都合主義な部分はあります。ただ映画に勢いがあり、全く気になりません。

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明日から使える映画オタク用語

喜ぶ 子供

いかがでしたか? なかなかハードルの高い(?)映画オタク用語も、意味と用例を知れば案外簡単に使えます。さらには、プロが書く映画評論などを読めばもっと多彩な表現で映画を評価しており、とても勉強になるはず。映画オタク用語を駆使して素晴らしいレビューを書いてみてください。