2018年5月6日更新

【快楽なくして何が人生】SM小説の第一人者、鬼才・団鬼六の過激な生涯とは?

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SM官能小説の大家、団鬼六

官能小説の第一人者であり、とりわけSM界では誰もが認める巨匠が団鬼六(だんおにろく)です。一部のマニアに限った狭い官能小説・映画界のみならず、その世界に関心のない人でも、団鬼六の名を一度ぐらいは耳にしたことがあるのではないでしょうか。 多数の作品が映画化され、自らプロダクション設立して製作に乗り出したり、写真集を手掛けたり、文学的評価の高い小説や質の高いエッセイ・コラムを発表したりと、晩年に至るまで精力的に活動を続けました。 ここではそんな団鬼六の経歴や交友関係、さらに代表的な映画化作品をご紹介し、その魅力と人生に迫りたいと思います。

団鬼六のプロフィール

団鬼六(本名:黒岩幸彦)は1931年4月16日、滋賀県彦根市に生まれます。父の仕事の関係で中学の頃から大阪で育ち、関西学院大学法学部を卒業後は教師やバーのマスターなどさまざまな職を転々としました。 1957年、オール讀物新人賞入選がきっかけになり執筆活動に入ります。黒岩松次郎や花巻京太郎の名で複数の経済小説など発表する一方、1962年にSM系のアングラ雑誌「奇譚クラブ」に投稿した官能小説『花と蛇』が大きな評判をよびます。 その後は団鬼六の名でSM官能小説を多数発表し、絶大なる人気と名声を確立していきました。多くの作品がピンク映画や日活ロマンポルノで映画化されたほか、自ら製作プロダクション「鬼プロ」を創設したり、雑誌「SMキング」を創刊したりと、文字通り巨匠として君臨しました。 一時期の休筆期間を経て、後年はより幅広い分野の執筆活動を行っていましたが、2011年5月6日に食道がんにより79歳で他界しています。

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女優・谷ナオミとの名コンビと深い親交

団鬼六はまだ本格デビュー前の女優・谷ナオミを見出し、1974年、自らが原作を手掛けた映画『花と蛇』の主演に抜擢します。その後は名コンビとして多数のSM官能映画を生み出し、谷自身も「SM女王」の名をほしいままにしました。 1979年、谷ナオミが結婚を機に引退して熊本に戻ってからも2人の親交は続きます。団鬼六は谷の半生を綴った私小説『妖花-あるポルノ女優伝』を発表しましたが、同作は2人の関係はもちろん、当時のロマンポルノや官能小説の舞台裏を知ることのできる作品として必読です。 2011年5月16日、港区の増上寺で執り行われた団鬼六の告別式では谷が弔辞を読んでいます。

団鬼六の私生活と後年の執筆活動

1989年に一時断筆宣言をしますが、1995年、将棋アマ六段の知識をもとにした小説「真剣師・小池重明」を発表して復帰します。その後は亡くなるまで、官能小説に留まらずさまざまなエッセイやコラム、文学性の高い私小説、人気ブログなど多彩な執筆活動を続けました。 1984年に結婚した妻・黒岩安紀子は歌手としても活動しています。また晩年には、妻公認で47歳も年下の愛人を持ち、不思議な三角関係を続けていました。 2003年に発表した『最後の愛人』は、その愛人のことを綴った私小説であり、彼女の自死によって突然訪れた別れと壮絶な喪失が綴られた傑作として知られています。

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団鬼六の代表的な映画化作品を紹介!

団鬼六の不動の代表作『花と蛇』【1974年】

記念すべき団鬼六のSM官能小説デビュー作が原作であり、主演女優・谷ナオミとコンビを組んだ栄えある第1作目にあたるのが『花と蛇』です。また日活ロマンポルノが取り組んだ初のSM作品としても知られています。 幼い頃のトラウマにより性的不能に陥った青年が、妖しい緊縛の世界に足を踏み入れたことで性機能を取り戻し、倒錯極まる陶酔にのめり込んでいく姿を描きます。 谷ナオミは、青年が務める会社の社長の妻であり、青年の緊縛の愛玩となる女性・静子を演じ、鮮烈な印象を残しました。ロマンポルノで数々の傑作を送り出した小沼勝が監督を務めています。

谷ナオミ主演によるSM映画の最高傑作『夕顔夫人』【1976年】

原作は「花と蛇」と並ぶ団鬼六の代表作であり、谷ナオミが主演したSM映画の中でも最高傑作と誉れ高いのが『夕顔夫人』です。自らの意志に反し、SMに堕ちていく生け花の家元の姿を、藤井克彦監督が淫靡と格調を見事に織り交ぜて描きました。 美しく、優雅さで人の目を惹く生け花弦月流二代目家元の島原夢路。夢路に偏執的に憧れる青年・木崎の罠と策略により禁断のSM地獄に導かれてしまいます。 劇中に登場する「人間花器」は、日活ロマンポルノのSM映画史上、最も衝撃的な名プレイとしてファンの間で知られています。また、団鬼六自身も端役で出演しています。

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高倉美貴のSMデビュー作『美女縄地獄』【1983年】

谷ナオミ引退後の団鬼六作品に欠かせない存在となった女優の一人が高倉美貴です。団の「白昼夢」を映画化した本作『美女縄地獄』がSMデビュー作であり、初代の谷ナオミ、第二代の麻吹淳子に次ぐ「三代目クィーン」の称号が与えられました。 太平洋戦争最中の埼玉県秩父を舞台に、出征した夫を待つ美しい新妻を拉致して監禁し、美しい蝶の標本のごとくSMの愛玩物として弄ぶ郵便配達人の姿を描きます。高倉美貴は、初夜も果たせず夫を戦地に送り出す良家の令嬢・光子を初々しい魅力全開で演じました。 本作では「人間落下傘」が名プレイとして登場します。

故・大杉漣が主演した異色官能ドラマ『不貞の季節』【2000年】

自伝的な同名小説を原作に、SM官能小説家とその妻の愛憎劇を、独特のユーモアを交えて描いた異色官能ドラマです。2018年2月に急逝した大杉漣が団がモデルの主人公・黒崎を演じ、その妻・静子を星遙子(現:星ようこ)が演じました。 担当編集者の川田と女性モデルの緊縛プレイを内緒で楽しんでいた黒崎と、それを知って怒り夜の営みを断つと言い出した妻の静子。裏で静子自身が川田と密通していることを知った黒崎が、嫉妬に燃えつつ創作に昇華させていく姿を描きました。 担当編集者の立場ながらも奇妙な三角関係に陥る川田には村上淳が扮しています。

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杉本彩を迎えて新しく甦った『花と蛇』【2004年】

団鬼六の代表作「花と蛇」はさまざまなシリーズで複数回映画化されていますが、中でも2004年公開の本作は、禁断のヒロインを杉本彩が演じたこと、また『GONIN』などで知られる石井隆監督がメガホンをとったことで大きな話題をよびました。 実業家の夫を持つ美しきタンゴ・ダンサーの静子。夫の裏切りと政財界のドンによる罠にはまり、セレブの間で極秘に行われていたSMショーの生贄とされてしまうのでした。 杉本彩の体当たりの演技が評判をよんだほか、夫役で野村宏伸、政財界の黒幕を石橋蓮司、暴力団組長を遠藤憲一が演じるなど、豪華なキャストも話題になりました。

坂上香織が主演した人気の「薔薇夫人」シリーズ『紅薔薇夫人』【2006年】

谷ナオミが主演してヒットした1978年の『黒薔薇夫人』に対し、元アイドルの坂上香織を抜擢して製作されたのが同名小説を原作とした『紅薔薇夫人』です。2作の間に物語上の繋がりはありません。 太平洋戦争における日本の敗戦とともに多額の借金を背負ってしまった有閑マダムの有川美希。借金返済のため娘の由美子と共に高級娼館で働からざるを得なくなり、さらにヤクザの手により淫靡で残酷なSMの世界へと堕ちていきます。 見事な濡れ場を披露した坂上香織のほか、ヒロインを取り巻く男たちを大沢樹生や津田寛治ら実力派俳優が演じています。

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死後ますます評価が高まる団鬼六の作品

過去の映画化作品の数々がデジタル・リマスター化されて新たにリリースされるなど、いまだ絶大なる人気を誇る団鬼六。団が創り上げたSMの世界はやはり唯一無二であることを証明しています。 また晩年は円熟した創作活動を行い、エンターテインメント性のみならず、文学性の高さに対する評価が高まっています。 2011年5月に亡くなる直前には、自身のブログにおいて3月11日に発生した東日本大震災に向けた哀切にみちた追悼の文章を発表し、大きな感動をよびました。 あらためて団鬼六の遺した小説や映画化作品の数々を楽しみ、大人の官能の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。